金市場ニュース

ニュースレター(2026年6月5日)強い米雇用統計で利上げ観測再燃、金価格は年初来上昇分をほぼ失う

週間市場ウォッチ

今週金曜日の弊社チャート上のLBMA価格が決まる時間の価格と前週のLBMA価格比較した一週間の変動率は以下の通りです。

一週間の貴金属価格の変動率 出典元 ブリオンボールト

*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。

**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。

  • :ドル建て価格は週間の下落で、金曜日価格で12日以来の低値。
  • 4週連続の週間の下落で、金曜日価格で42日以来低値。
  • プラチナ4週連続の週間の下落で、金曜日価格で327日以来の低値。
  • パラジウム:週間の下落で、金曜日価格では昨年103日以来の低値。

貴金属市場の動向(週間)

貴金属価格は今週も、中東情勢を背景とした原油価格の変動に伴い、主要中央銀行の政策金利見通しが上下する中で、その動きに敏感に反応していました。

週前半は米国とイランの和平協議の行方が不透明であったものの、低値での買い支えもあり大きな値動きは見られませんでした。しかし週半ば以降は、米国の雇用関連指標を含む経済データへの注目が高まりました。原油高によるインフレ圧力が続く中でも米国経済の底堅さを示す内容が相次いだことで、米連邦準備制度理事会(FRB)のケビン・ウォーシュ新議長が利上げに動くとの観測が広がり、貴金属価格は押し下げられていました。

そして本日発表された米非農業部門雇用者数が市場予想を大幅に上回ったことで、その観測はさらに強まりました。ドルと米長期金利が上昇する中、金価格は年初来の上昇分をほぼ失う水準まで下落しています。

下記のチャートでは、本日の堅調な雇用統計を受けてFRBの年末時点の政策金利予想(青色)が大きく上昇し、それに伴いドル建て金価格(濃緑)が押し下げられていることが確認できます。

市場の年末のFRBの政策金利予想(青)とドル建て金価格(深緑)チャート 出典元 ブリオンボールト

今週の貴金属相場の動き(日次)

 

月曜日

金相場は、前週後半に広がった米国とイランの和平協議進展への楽観的な見方から一転、中東情勢の不透明感を背景に原油価格が3営業日ぶりに上昇したことに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ観測が再燃したことで、一時トロイオンスあたり4,448ドルまで下落した後、4,484ドルまで戻してロンドン時間を終えていました。

背景には、週末に米国が「自衛目的」としてイランのレーダー施設やドローン管制施設を攻撃し、それに対してイランが米軍使用の中東基地を攻撃したことがありました。

そのような中、同日は日本と韓国の株価指数が史上最高値を更新し、前週には米株価指数も最高値を更新しており、AI主導による株式市場の堅調さが続いていました。

 

火曜日

金相場は同日ロンドン午前中にトロイオンスあたり4,540ドルと前週終値の水準まで上昇した後、その上げ幅をほぼ失い、4,474ドルへと下落していました。銀相場は77.01ドルまで上昇した後、75.77ドルへ下落したものの、前週末および前日終値を上回る水準で推移していました。

上昇の背景には、前日イランがイスラエルによるレバノン攻撃の激化を受けて和平交渉の停止を示唆したことで市場が不安定となる中、トランプ大統領が交渉は継続しているとの見方を示したことがありました。

しかし、同日発表された米雇用関連データで、米求人件数が約2年ぶりの高水準へ増加したことを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げ観測が広がり、ドルと長期金利が再び上昇に転じたことで、貴金属価格は押し下げられることとなりました。

また、同日ブルームバーグが、インド中銀が通貨防衛のために金準備を売却した可能性があると報じたことも、市場センチメントを悪化させていました。

そのような中、同日FTECBのデータを基に、金が米国債を抜いて世界最大の準備資産となったことを伝えていました。

 

水曜日

金・銀相場は、米国とイランの和平協議が進展しない中、米国による自衛目的の攻撃に対し、イランがクウェートの空港など民間施設を攻撃したことが伝えられ、原油価格が3営業日連続で上昇する中、下落することとなりました。金はトロイオンスあたり4,426ドル、銀は72.48ドルまで一時下落した後、やや値を戻していました。

同日発表された米国の経済指標は総じて堅調な内容となりました。ADP全米雇用報告の雇用者数は前月比122,000人増と、市場予想と前回結果を上回りました。また、ISM非製造業景況指数も市場予想と前回結果を上回り、2カ月ぶりの高水準となりました。さらに、同指数に含まれる価格指数が約4年ぶりの高水準となったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による年内利上げ観測が強まりました。これを受けてドルと米長期金利が上昇し、金相場は下げ幅を拡大することとなりました。

 

木曜日

金・銀相場は、心理的節目であるトロイオンスあたり4,500ドルと75ドルを一時上回ったものの、その後押し戻されていました。

上昇の背景には、イスラエルとレバノンの条件付き停戦合意を受けて、米国とイランの和平合意への道筋が開かれるとの期待が高まり、原油価格が下落したことがありました。しかし、停戦後も散発的な衝突が続いていることから、ドルと長期金利の下落幅が縮小し、金・銀相場の重しとなっていました。

一方で、このような状況下でも株式市場ではダウ工業株30種平均などが高値を更新しており、投資資金の一部が貴金属市場から株式市場へシフトしている可能性も指摘されていました。実際に、CMEの金・銀先物・オプションの取引量は今週、それぞれ202412月以来、20251月以来の低水準となっていました。

また、中国における金需要の後退も見られていました。上海黄金交易所におけるロンドン価格に対する金のプレミアムは、トロイオンスあたり約4ドルと過去平均の半分程度に低下するなど、中国市場の需要鈍化を示唆していました。

 

金曜日

本日、金・銀相場は、予想を上回る米雇用統計を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利引き上げ観測が急速に広がり、ドルと長期金利が上昇したことで、トロイオンスあたり4,339ドル、68.48ドルと3月末以来の低水準へと下落しています。

米非農業部門雇用者数は5月に前月比172,000人増と、市場予想の8万人増を大きく上回りました。また、3月と4月の数値も上方修正され、失業率は4.3%と予想通りの結果となっていました。

これを受けて、市場の年末時点におけるFRBの政策金利予想は前日から一時約10ベーシスポイント上昇しました。また、米長期金利は約7ベーシスポイント上昇して2週間ぶりの高水準となり、ドルインデックスも約2カ月ぶりの高水準へ上昇したことで、貴金属価格を押し下げることとなりました。

また、高値更新を続けていた米株価も本日は大きく下落しており、その影響で貴金属市場でも利益確定や現金化の動きが広がっている模様です。

 

一週間のドル建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト一週間のドル建て銀価格チャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

 

  • コメックス(COMEX)のデータによれば、米国とイランの和平合意への希望的観測が広り、金と銀の価格が一週間ぶりの高さへ上昇していた526日までの週に、金を除く全ての貴金属のネットロングが減少していたこと。

  • 金のネットロングは前週比2.7%増の301.49トンへ増加していたこと。2025年のネットロングの平均は465.8トンで、2024年は555.8トン。

  • 銀の先物・オプションは12.9%減の1,593トンと、2週連続で減少して2週ぶりの低さへ下げていたこと。2025年の平均は、5,132.4トン、2024年は4,231.0トン。

  • プラチナはネットロングが5.0%減で20.1トンと2週連続で減少し、2週ぶりの低さへ下げていたこと。2025年平均は、16.2トン、2024年は9.4トン。

  • パラジウムは、23日の週以来のネットロングから317日の週にネットショートへ転換し、36.1%増の11.7トンのネットショートと、昨年107日の週以来の高さへ増加。2025年の平均は19.3トンのネットショート、2024年は32.6トンのネットショート。

  • ETFの最大銘柄であるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに4.00トン(0.39%)減で1,025.144トンと昨年1015日以来の低さで、3週連続で減少する傾向。年間ベースでは2025年は、198.04トン(20.81%)増と4年ぶりの年間の増加。2024年は6.59トン(0.75%)減少。202338.53トン(4.4%)減、202257.2トン(5.9%)減、2021195トン(6.8%)減。

  • ETFの第2規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに、0.95トン(0.20%)減で477.52トンと41日以来の低さで、5週連続の週間の減少傾向。年間ベースでは、2025年は101.09トン(23.35%)増と4年ぶりの年間増。2024年は5.91トン(1.29%)減、2023年は50トン(11.6%)減、202242トン(8.9%)減、202136トン(7.0%)減。

  • ETFの最大銘柄であるiShareシルバーの残高は、今週82.54トン(0.54%)減で15,036.15トンと3週連続の週間の減少で、54日以来の低さ。年間ベースでは2025年は2120.59トン(14.45%)増と2年連続で増加。2024年は720.44トン(5.3%)増。2023年は936.56トン(6.4%)減、2022年は1937トン(12.2%)減、2021年は867トン(4.2%)減。

  • 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週59台前半で始まり、本日61台前半へ上昇して終える傾向。2025年の平均は87.852024年平均は84.752023年は83.275年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。

  • 上海黄金交易所(SGE)とロンドン金価格の差は227日の週からプレミアムへ転換し、今週の週平均は、14.74ドルから下げて11.45ドルと、417日の週以来の低さへ下げていたこと。2025年の平均は、2.85ドルのプレミアム。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。

来週の主要イベント及び主要経済指標

 

今週も、米国とイランの和平協議の進展や、イスラエルとレバノンにおけるイラン支援の武装組織ヒズボラとの停戦状況を受けて原油価格が変動し、それに伴う政策金利上昇観測に反応して貴金属市場も動くこととなりました。また、本日発表された米雇用統計も市場の重要な注目材料となりました。

 

来週も市場は中東情勢に注目することになりますが、水曜日に発表される米消費者物価指数(CPI)、木曜日の米生産者物価指数(PPI)は、原油高が米国のインフレにどのような影響を及ぼしているかを見極めるうえで重要となります。また、木曜日の欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表では0.25%の利上げが予想されていますが、その後の声明や記者会見も、今後の金融政策の方向性を占ううえで重要な手掛かりとなるでしょう。

 

その他、主要経済指標の発表スケジュールの詳細は、主要経済指標(202668日~12日)をご覧ください。

 

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。

ロンドン便り

今週も英国では、米国とイランの和平協議、イスラエルとイラン支援の武装組織ヒズボラとの停戦状況、ウクライナ戦争について大きく伝えられています。それに加え、昨年暮に殺害された英国人ティーンエイジャーのHenry Nowak氏の事件を巡り、瀕死の被害者を警察が加害者と誤認して拘束したことが、警官がつけるボディカメラの映像が公開されたことで明らかとなり、改めて注目を集めています。

Henry Nowak氏は、エセックス州出身の18歳の大学生で、202512月に進学したばかりのUniversity of Southampton 1年生でした。2025123日未明、サウサンプトン市内で友人との外出後に帰宅途中、23歳のVickrum Digwaに大型の刃物で複数回刺され死亡しました。裁判では、Digwa被告が人種差別的な暴行を受けたと虚偽の主張をしていたことが認定され、陪審員はこれを退けました。被告は20266月に殺人罪で終身刑を言い渡されています。 

この事件が英国全土で大きな論争となった最大の理由は、現場に到着した警察の対応でした。被告の虚偽説明を信じた警察官らは、胸を刺され「刺された」「息ができない」と訴えていたNowak氏を加害者とみなし、手錠をかけて拘束しました。後に公開されたボディカメラ映像は国民に強い衝撃を与え、警察が瀕死の被害者を適切に救護しなかったのではないかとの批判が噴出しました。現在、警察監察機関であるIndependent Office for Police ConductIOPC)が捜査を行っており、関与した警察官の一人は既に辞職しています。

英国メディアはこの事件を、単なる殺人事件ではなく「警察対応」「人種問題」「社会の分断」を巡る象徴的な事件として報じています。ReutersやBBCは、事件後に「二層的(two-tier)な警察活動」があったのではないかとの議論が広がったことを伝えています。一方で、Sky NewsやThe Telegraphなどは、極右団体や一部の政治家、さらにはイーロン・マスク氏らによる発信を通じて、この事件が政治的・人種的対立の象徴として利用されていることを報じています。Nowak氏の家族は警察の責任追及を求める一方で、息子の死を人種対立や暴力の扇動に利用しないよう訴えています。

警察官のボディカメラ映像は、子どもを持つ親にとって非常に胸が痛む内容でした。スターマー首相と最大野党である保守党のベードノック党首も、ともに親として心を痛めたと述べ、このような悲劇を繰り返さないためには党派を超えた改革が必要であると訴えています。Henry Nowak氏の死が、英国社会における警察と市民の関係を見つめ直し、必要な変革を進める契機となることを願わずにはいられません。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者であると共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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