金市場ニュース

ニュースレター(2025年2月7日)金現物がロンドンからニューヨークに集まる中で、金価格は史上最高値を更新

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、2.27%高でトロイオンスあたり2876ドルと6週連続の週間の上昇で、前週の史上最高値を更新しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、2.10%高のトロイオンスあたり32.27ドルと3週連続の週間の上昇で、昨年11月初旬以来の高さへと上昇しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.52%高でトロイオンスあたり989ドルと3週連続で週間の上昇で、11月初旬以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から2.06%安でトロイオンスあたり973ドルと週間の下げとなっています。

今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、金がトランプ大統領の関税懸念で全ての通貨建てで史上最高値の更新を続ける中で、銀とプラチナも11月以来の高値をつけていました。パラジウムに関しては、市場の将来的な需給観測が他の貴金属とは異なることからも、前週金曜日の急騰分をほぼ失って推移しています。

今週の金、銀、プラチナ価格の上昇は、トランプ政権によって貴金属の輸入にも関税が課される懸念で、ニューヨーク先物市場ではショートポジションを持つリスクからもショートポジションが記録的に低くなっていること、また、裁定取引がスムーズに行かない可能性からもニューヨークの先物価格とロンドン受け渡しの現物価格の差が一時よりも狭まっているものの未だにトロイオンスあたり20ドルを超える幅で、この裁定取引を目的として、また関税が課される前に最悪の事態に備えるために貴金属がロンドンからニューヨークへ大量に動いており、その結果短期の貴金属のリースレートが急騰していること等が背景とされています。

ちなみに、本日の米雇用統計では非農業部門雇用者数は予想を下回ったものの、失業率は予想を下回り、平均時給も予想を上回る、雇用市場の堅固さを示しており、インフレ高止まりの懸念からもFRBの利下げペースが遅延する観測が広がり、年末の政策金利は4%を超えて、トランプ大統領就任直前の1月月中旬に同様な懸念が広がっていた頃以来の高さとなる、本来頭を押さえられる状況下で、貴金属価格が上昇をしています。

そこでこのトランプ政権の関税懸念がもたらしている状況を見ていただくために、今週は市場(青)とFOMCメンバー(赤)の年末の政策金利予想とドル建て金価格(深緑)のチャートをお届けしましょう。

2025年末の米政策金利の市場とfRBメンバーの予想とドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

このチャートでは、トランプ氏が大統領に再選した1月に政策金利予想が上昇し、本来通り金価格が下落したこと、その後1月にトランプ氏が大統領に就任する日程が近づくことで政策金利予想の動きには関係なく多少調整をしながらも上昇を続けていることが分かります。

今週の金相場について

今週金相場は、前週末のトランプ政権のカナダとメキシコへ25%、中国へ10%の関税を課すとの発表で、ドルが3週ぶりの高さへ上昇し、株価が下げる中で、金価格は全ての主要通貨で史上最高値を更新し、ドル建てではトロイオンスあたり2830ドル、日本円建てではgあたり14,070円をつけていました。

その後、ロンドン夕方にメキシコへの関税はひと月延期されたことが伝えられて、米株価指数は当初の下げ幅を削り、金相場は最高値のトロイオンスあたり2830ドルから13ドルほど下げて終えていました。

火曜日金相場は、ドルが0.9%と1月末の低さへ下げる中で、トロイオンスあたり2845ドル、日本円建てでもgあたり14170円と再び史上最高値をつけていました。

ドルが下げていたのは、トランプ大統領の中国への追加関税は発動され、中国は同日に報復措置を打ち出したものの、カナダとメキシコへの関税はひと月延長したこと、また、同日発表された雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想と前回を下回ったことが背景となっていました。

水曜日金相場は、ロンドン昼過ぎにトロイオンスあたり2882ドルと再び史上最高値をつけた後に2869ドルまで下げて終えていました。

この背景はドルと長期金利が弱含んだことからでしたが、同日は決算結果が予想を下回ったアルファベットやアドバンス・マイクロ・デバイスが急落してテクノロジー株が下げいたことから、安全資産として米国債や金が購入されることとなりました。

しかし、米ADP全国雇用者数は18.3万人と前回修正値の17.6万人と予想の15.0万人を上回り、金曜日に雇用統計が発表されることからも、利益確定の売却も多少入っていました。

木曜日金価格は一時トロイオンスあたり2834ドルへと下げた後に2858ドルへ戻して終えていました。

金相場は世界指標のLBMA価格ベースで前週木曜日から5営業日連続で史上最高値を更新していたことからも、翌日の米雇用統計を前に利益確定の売却等の調整が入っていた模様です。

また、同日イングランド銀行は予想通り0.25%の政策金利利下げをしていますが、2025年の経済成長の予想を半減させるなどかなりハト派的内容であったことで、ポンドが対ドル下げたことでドルが相対的に強含んだことへ反応することとなりました。

先のポンド安からも同日ポンド建て金相場はトロイオンスあたり2320ポンド、そして経済停滞傾向であるユーロ建てにおいても2770ユーロと史上最高値を更新していました。

なお、同日の米新規失業保険申請件数は、21.9万件と予想の21.3万件と前回修正値の20.8万件を上回っていましたが、引き続き低水準ではあるために、影響は限定的となっていました。

本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計がまちまちな結果であったことで、発表後多少下げた後にトロイオンスたり2885ドルへと再び史上最高値を更新して推移しています。

雇用統計は、非農業部門雇用者数は14.3万人と前回修正値の30.7万人と予想の17.0万人を下回っていました。しかし、失業率は4.0%と前回と予想の4.1%を下回り、平均時給は前月比と前年同月比共に予想と前回を上回り、それぞれ0.5%と4.1%となっていました。

そして、その後発表されたミシガン大学消費者態度指数も予想を下回り7か月ぶりの低さとなる中で、将来のインフレ観測が高まっていたことも明らかとなっており、株価が下げる中で、インフレヘッジや安全資産への需要が入っている模様です。この間、FRBによる利下げペース予想は、本日先のデータ発表後年末に4.0%を超え、トランプ大統領就任前に高インフレを引き起こす政策懸念から政策金利予想が高止まりする観測が広がっていた1月半ば以来の高さとなっています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 中国の中央銀行の人民銀行が1月も5トンの金準備を増加させて総量を2285トンとし、11月から3ヶ月連続の金準備増加となっていたことが本日発表された人民銀行のレポートで明らかとなっていたこと。ちなみに、11月は5トン、12月は10トン増。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に1月28日までのデータが発表されて、DeepSeekの安価なAIモデルの発表でテクノロジー株が急落して株価が全般下げていた際に、金と銀は強気ポジションを減少させ、プラチナとパラジウムはこのポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.6%減で717トンと3週ぶりに減少して前週の10月29日の週以来の高さから下げていたこと。価格は0.5%安でトロイオンスあたり2751.90ドルと10月末以来の高さへ上昇し、建玉は4.7%減と3週ぶりに減少して前週の11月19日の週以来の高さから下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、10.9%減で4093トンと3週ぶりに減少して前週の12月10日の週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比1.1%安で、トロイオンスあたり30.15ドルと下落していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、16.2%増で3.7トンと前週の12月17日の週以来の低さから増加していたこと。価格は前週比0.8%安でトロイオンスあたり939ドルへ下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに21.3%減で26.5トンと12月10日の週以来の低さとなっていたこと。価格は1.6%高でトロイオンスあたり959ドルと12月10日以来の高さへ上げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに0.6トン(0.1%)減少して864.19トンと週間の減少傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.8トン(0.2%)増で392.73トンと週間で2週連続で増加で、1月21日以来の高さとなっていたこと。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに549.63トン(3.96%)減で13,332.84トンと3週連続で週間の減少傾向で、週間の減少量としては2023年3月の米国の地銀破綻時以来の大さで、6月11日以来の低さ。
  • 金銀比価は、今週89台半ばで始まり、本日は88台後半に下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1893ドルを水曜日につけて、1990年に記録が始まって以来の高さを今週も更新し、本日1870ドルへ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は、今週44ドルのディスカウントで始まったものの雄、昨日プレミアムに転換して本日は13ドルのプレミアムで終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、水曜日から春節の休暇から戻り、今週の平均は人民元金価格が史上最高値を更新する中で、11.6ドルのディスカウントと前週の休暇前の5.90ドルのプレミアムから大きく転換していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は24.2%減で1月一週目以来の低さ、銀は7.3%増で12月半ば以来の高さ、プラチナは5.8%増で12月最終週以来の高さ、パラジウムは29.5%増で11月最終週以来の高さとなっていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日0.92と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の関係で、本日0.60と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.69と前週から関係を若干弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週金相場は、引き続きトランプ大統領の関税及び他の政策を中心に、そして米雇用データ等でも市場は動くこととなりました。

来週もトランプ政権の政策は市場を動かす可能性がありますが、その他米消費者物価指数が水曜日、卸売物価指数が木曜日に発表され、市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2025年2月10日~14日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

トランプ大統領が米国の主要貿易国へ関税を課すことへの懸念から金先物と金現物価格の差が広がっていることをまとめた日経新聞の記事「金と銅が大量渡米 トランプ関税警戒が生む一物二価」で、弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが引用されました。

先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では、トランプ大統領による関税を含む新政策、ネタニヤフ・イスラエル首相の訪米、トランプ大統領のガザ地区に関する発言が注目を集めています。また、国内の話題としては、2017年の火災で70名の犠牲者を出したグレンフェル・タワー(高層公営住宅)の取り壊しが大きく報じられています。

本日は、なぜグレンフェル・タワーの解体がニュースとして取り上げられているのかについてお伝えします。

この建物は、ロンドン西部ノース・ケンジントン地区にあり、ロンドンでも最も裕福な地域の一つであるケンジントン・アンド・チェルシー区に位置しています。

グレンフェル・タワーは1974年に建設された24階建ての高層公営住宅で、2015年から2016年にかけて改修されました。しかし、改修時に使用された外壁材が2017年の火災の際に延焼を急激に進める原因となったと指摘されています。

火災当時、この建物には約600人が居住していました。延焼の速さに加え、火災発生時に「自宅待機」の指示が出されていたことが問題視されました。この指示が避難の遅れにつながった可能性があると言われています。英国の集合住宅では、火災発生時に不用意な避難が避難経路を塞ぐリスクを高めるため、また高層住宅が延焼を防ぐ構造になっていることから、「自宅待機」の勧告が標準的とされています。

今週のニュースでは、英国政府が8年を経てこの建物を解体することを決定したこと、そしてそれに対する犠牲者の家族からの反対意見が取り上げられています。

政府は、火災以来利用できず閉鎖されたままの建物が危険な状態になっているため、解体せざるを得ないと説明しています。一方で遺族の間では、「刑事訴追の結果を待つべき」「この悲惨な火災と犠牲者を忘れないために何らかの形で建物を残すべき」といった声が上がっています。

私の自宅からもそれほど遠くない場所で発生したこの火災は、当時の映像が今でも記憶に焼き付いています。

発生から8年が経過した今も刑事訴追が行われておらず、遺族の間では、この火災そのものが忘れ去られてしまうことへの懸念が強まっています。特に、低所得者向け住宅に住んでいた犠牲者の家族の間では、当時の保守党政権が外壁を改修した企業や保守党系の地方政府を守るために、低所得者層への配慮を欠いたのではないかという不信感が根強く残っています。

現在、英国では労働党政権が発足しており、これが一つの転機となる可能性があります。政府と遺族の和解が進む中、危険と認識されているグレンフェル・タワーの撤去が早急に行われることが期待されています。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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