金市場ニュース

ニュースレター(2025年8月1日)米雇用統計悪化で利下げ観測強まり金上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。

週間の貴金属価格の変動率 出典元 ブリオンボールト

金価格(ドル建て)は、LBMA金曜日価格で前週金曜日をわずかに上回りました。銀価格は4週ぶりに下落し、4週ぶりの安値を記録。プラチナも2週連続で下落し、2週ぶりの安値となりました。パラジウムは小幅ながら週間で上昇しました。

月間ベースでは、今週にかけて一部上げ幅を削ったものの、全体としては以下の通りです。ドル建ての金価格は、今月のドル高により上昇幅を縮小しましたが、他の主要通貨建てでは上昇を維持していました。

7月月間の貴金属価格と主要資産の変動率 出典元 ブリオンボールト

貴金属市場の動向(週間)

今週の貴金属市場は、本日の米雇用統計の悪化、トランプ政権による関税政策、対ロシアの地政学的リスクの高まりなどを背景に、安全資産としての需要から金が急騰しました。それに対し、工業用途での需要が高い銀、プラチナ、パラジウムは上昇が限定的でした。

また、工業用貴金属は、4月2日に発表されたトランプ政権の関税政策において、金地金には関税が課されないとされた一方で、金以外の貴金属が対象となるかどうか不透明な中、7月8日に銅に対して50%の関税が発表されたことから、同様の懸念が広がり価格が一時上昇していました。しかし今週水曜日、銅への関税の一部除外が発表されると、その懸念も後退し、上昇分を失いました。

本日の予想を下回る米雇用統計(詳細は後述)を受け、関税の悪影響が雇用にも表れ始めているとの見方から、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による9月の利下げ観測が急速に高まりました。前日には4割弱だった利下げ確率が9割弱へと上昇し、年内に2回の利下げを見込む見方が強まりました。

下記の図は、FOMCメンバー(赤)および市場(青)の年末の政策金利予想に加え、ドル建て金価格(深緑)の推移を示しています。本日、市場で利下げ観測が急激に高まったことを背景に、金価格が上昇していることが分かります。

市場とFOMCメンバーの年末の米政策金利予想とドル建て金価格 出典元 ブリオンボールト

今週の貴金属相場の動き(日次)

月曜日

週末に伝えられた欧州連合(EU)と米国の関税協定を受け、中国と米国の関係改善への期待感が広がる中、ドルが強含み、米長期金利も上昇。これにより金価格は7月9日以来の安値となるトロイオンスあたり3301ドルまで一時下落し、その後3312ドルまで戻してロンドン時間を終えました。

一方、ユーロ建て金価格は、米欧の関税合意後も経済への悪影響が懸念されたことでユーロが対ドルで下落し、それを受けて金価格は一時3886ユーロまで上昇し、終値は2856ユーロでした。

今週は、水曜日のFOMC(米連邦公開市場委員会)、木曜日の日銀の政策金利発表、FRBが注目するPCEコアデフレーター(インフレ指標)、および金曜日の米雇用統計など、重要な経済指標の発表が控えていたため、市場全体として様子見ムードが広がり、金価格の大きな変動は抑えられていました。


火曜日

翌日のFOMC発表を控えて様子見ムードが広がる中、米中関税協議が進展しているとの報道もある一方、米株価指数は全般的に下落。これを背景に金価格はやや上昇し、トロイオンスあたり3327ドルで取引を終えました。

スコット・ベッセント財務長官は本日、8月1日の関税交渉デッドラインの延長可否について、トランプ大統領の判断に委ねられると述べたほか、90日後に再び米中協議が行われる可能性にも言及しました。

米欧間の関税合意が成立したものの、その内容については必ずしも経済にとって好ましいとは言えないとの見方も広がっており、ユーロは対ドルで軟調に推移。米株価指数も過去最高値を更新し続ける中で、過熱感への懸念も出ていました。

この日発表された米雇用動態調査(JOLTS)は予想を下回ったものの、内容自体は良好な労働環境を示すものと受け止められました。また、米消費者信頼感指数は予想を上回るなど、総じて米経済の堅調さが示されました。


水曜日

今晩のFOMCの発表を控え、金価格は軟調に推移しました。そして、発表された米経済指標が予想を上回る好調な内容だったことから、FRBによる利下げ観測が後退。これを受けてドルが強含み、長期金利も上昇。FOMCおよびパウエル議長の記者会見を経て、金価格は一時3268ドルまで下落し(6月30日以来の安値)、その後3285ドルまで戻して取引を終えました。

注目された米経済指標は、第2四半期のGDPとADP全国雇用者数で、いずれも堅調な米経済を示す内容となり、関税による景気減速への懸念を和らげました。

FOMCでは、トランプ大統領が任命したボウマン金融監督担当副議長とウォラー理事が利下げを主張したものの、5会合連続でフェデラルファンドレートの誘導目標は4.25~4.5%に据え置かれました。パウエル議長の記者会見ではインフレ懸念などに触れたことから、市場では比較的タカ派的な内容と受け止められ、年末の金利予想は4.0%まで上昇しました。


木曜日

金相場は、FOMC後の急落によって約1カ月ぶりの安値をつけた後、やや反発し、トロイオンスあたり3288ドルで取引を終えました。

この日は、FRBが重視するインフレ指標であるPCEコアデフレーターが予想を上回ったこと、前日のFOMC記者会見でのタカ派的発言も重なり、利下げ観測がさらに後退。これを受けてドルは5月22日以来の高値を記録しました。

一方、日銀は4会合連続で政策金利を0.5%に据え置き、植田和男総裁の記者会見では金融引き締めに前向きな「タカ派」姿勢が示されましたが、相対的に円は売られ、ドルはさらに強含む展開となりました。

その結果、円建て金価格は一時グラムあたり15,961円まで上昇し、前週金曜日以来の高値を記録しました。

その他の貴金属市場では、トランプ前大統領が8月1日から銅の半製品に一律50%の関税を課すと発表した一方で、精錬銅は当面対象外とされたことから、銅の先物価格は急落(過去5営業日で24.45%下落)。この影響で、銀やプラチナなど他の貴金属も関税懸念による上昇分を失い、下落基調で推移しました。


金曜日(本日)

金相場は、本日発表された米雇用統計が予想を大きく下回ったことから急騰。その後も地政学的リスクの高まりを背景に、トロイオンスあたり3363ドルと今週の下げ幅を取り戻し、前週金曜日以来の高値圏で推移しています。

7月の非農業部門雇用者数は7万3,000人の増加にとどまり、前月・前々月分も合計で26万人下方修正されました。失業率は4.1%から4.2%に上昇。これにより、CMEのFedWatchツールによる9月の利下げ確率は、前日の4割弱から9割弱へと急上昇しました。ドルと長期金利が共に下落し、金価格を押し上げた形です。これを受け、米株価指数は急落し、安全資産への需要が高まりました。

さらに、トランプ大統領が4月に発表した関税表に続く修正案を発表し、関税協定に至っていない多くの国に対し、高い関税率が課されることが明らかとなり、米雇用統計が示した経済への悪影響への懸念が広がっています。

加えて、トランプ大統領は、ロシアのメドベージェフ前大統領による「挑発的な発言」を受け、米国が原子力潜水艦2隻を移動させると発表。これも金の安全資産としての需要をさらに高める要因となっています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、7月22日までの週に発表されたデータで、8月1日の関税協議デットラインが近づいていること、トランプ大統領のFRB非難からも、独立性への懸念の高まりで、貴金属価格が上昇した際に、すべての貴金属でネットロングが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは18.9%増加し、531.46トンとなり、2週連続の増加で4月1日までの週以来の高水準となっていたこと。価格は前週比1.9%高のトロイオンスあたり3409.85ドルで、4月22日までの週(過去最高値)以来の高値。建玉は11.8%増加し、5月20日までの週以来の高水準へ。
  • 銀のネットロングポジションは3.0%増の7039トンで、2週連続の増加で7月1日までの週以来の高さ。価格は前週比1.5%高の38.84ドルで、2011年9月20日までの週以来の高値。建玉も2.8%増加し、6月17日までの週以来の高さ。
  • プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、20.6%増の26.7トンと、6月24日までの週以来の高さ。価格は前週比4.3%高で1448ドルと、2014年8月12日以来の高値。建玉は減少して2週ぶりの低さへ。
  • パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。10.1%減で7.54トンと、2週連続で減少して、2024年10月29日までの週以来の低さ。価格は前週比4.3%高の1271ドルで、2023年8月22日の週以来の高値。建玉は増加して、2024年8月27日の週以来の高さ。
  • 最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに2.6トン(0.3%)減の954.51トンと7月21日以来の低さで、週間ベースで減少。
  • 第2の規模の金ETF、iShares Gold Trustの残高は0.44トン(0.1%)増の450.04トンで、7月23日以来の高さ。9週連続の週間増加。
  • 銀ETFの最大銘柄、iShares Silver Trustの残高は168.11トン(1.1%)減の15,062.32トンと、7月21日以来の低さで、週間の減少。
  • 金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週87台前半で始まり、昨日には7月初旬以来の高さの91台前半をつけて、本日は90台前半で終える見込み。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
  • 金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週1930ドルで始まり、本日2020ドルへと6月下旬以来の大きさへと拡大して終了する傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は164ドルのプレミアムで始まり、本日は85ドルと6月上旬以来幅へ縮小して終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週プレミアムに戻し、週平均は12.48ドルと7月初旬以来の高さへ戻し、前週の1.33ドルのディスカウントから大きく転換。これは2月初旬以来のディスカウント幅で、前週の7.42ドルのプレミアムから大きく転換。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週の貴金属相場は、FOMCの政策金利発表、米国の雇用関連データ、そしてFRBがインフレ指標として重要視する個人消費支出(PCE)コアデフレーターなどに注目して動いていました。また、水曜日にトランプ大統領が、8月1日から銅の半製品に一律50%の関税を課すと発表した一方で、精錬銅は当面関税の対象外となったことから、銅先物価格が急落し、貴金属価格にも影響が及びました。

来週は、主要国のサービス部門PMIと米ISM非製造業景況指数が火曜日に、イングランド銀行の政策金利発表が木曜日に予定されており、市場の注目が集まる見込みです。

詳細は、主要経済指標(2025年8月4日~8日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週、私は月曜日に日本貴金属マーケット協会(JBMA)がワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル(WPIC)と提携してお届けする「プラチナフォーカス」に出演しました。

今回は、欧米の投資家による貴金属投資の最新動向についてお話ししています。ご興味のある方は下記のイメージをクリックしてご覧ください。

プラチナフォーカスのYouTube番組へのリンクとそのイメージ 出典元 JBM

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。

ロンドン便り

今週の英国では、前週末にスコットランドの自身の所有するゴルフ場を訪れていたトランプ前大統領に関する報道をはじめ、そこで行われた米EU首脳会談、その後の米英首脳会談、さらに英国が条件付きでパレスチナ国家を承認したことや、ガザ地区で進行するパレスチナの飢餓問題などが大きく取り上げられました。

そのような緊張感のある国際情勢の中で、先週日曜日にスイスで行われたサッカー女子欧州選手権決勝戦では、イングランド代表がスペイン代表を1対1からのPK戦で破り、大会2連覇を達成。火曜日にはロンドン市内で祝勝パレードが行われ、英国全体が喜びに包まれました。今回はその様子をお伝えします。

イングランド女子代表は、2022年に自国開催で初の欧州制覇を果たしており、今回の優勝はそれに続く快挙となりました。さらに、イングランドのシニア代表チームとしては、国外で初めて主要国際大会を制した歴史的な勝利でもあります。

サッカーが盛んな英国では、性別を問わず、子どもの頃からサッカーが人気のあるスポーツです。しかし、女子サッカーが完全にプロ化されたのは2018年からと比較的最近のことです。今回の優勝チームの選手たちの多くは、プロの女性選手が身近に存在しなかった時代にサッカーに打ち込んできた世代であり、彼女たちの努力は今の若い世代に大きな道を開くものとなりました。

全ての選手の活躍が優勝を導いたものの、なかでも注目されたのが、最優秀若手選手に選ばれた19歳のミシェル・アジェマン選手です。彼女は準々決勝で逆転ゴールを決め、準決勝では後半アディショナルタイムに同点ゴールを決めてチームを救い、一躍英国のヒーローとなりました。幼い頃、地元には女子チームがなかったため、男子チームに混ざってプレーしていたという背景も、多くの人々の共感を呼んでいます。

このほかにも、決勝のPK戦で決勝ゴールを決めたクロエ・ケリー選手、足に疲労骨折を抱えながらも欧州選手権通算16試合に出場したルーシー・ブロンズ選手、PK戦で2本のセーブを見せたハナ・ハンプトン選手など、連覇を支えた選手たちの精神的強さと献身的なプレーに、人々は深く感動しました。

そして、この偉業を成し遂げた指揮官であるオランダ出身のサリナ・ウィーグマン監督は、2017年に母国オランダを優勝に導いた実績もあり、今回で女子欧州選手権優勝は3度目。男女を通じても史上初となる快挙を達成しました。

火曜日にロンドンで行われた凱旋パレードには約65,000人が集まり、若者たちへの影響力や女子スポーツの文化的インパクトの大きさが改めて示されました。この成功により、既存のファン層に加え、新たに男性ファンも取り込みつつあり、女子サッカーは今後さらに社会的な存在感を高めていくことが期待されています。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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