ニュースレター(2025年2月21日)トランプ政権の関税とウクライナ戦争をめぐる対応への懸念からも金価格は史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、0.33%高でトロイオンスあたり2930ドルと8週連続の週間の上昇で、前週の金曜日の史上最高値を3金曜日連続で更新しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、0.62%安のトロイオンスあたり32.90ドルと4週ぶりの週間の下落で、前週の昨年11月初旬以来の高さから下げています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.99%安でトロイオンスあたり978ドルと4週ぶりに週間の下落となっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から1.31%高でトロイオンスあたり978ドルと週間の下落となっています。
今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週もドル建て金価格は、最高値の更新を続ける等、強い動きをすることとなりました。この背景は、トランプ政権の関税、そしてウクライナ戦争終結をめぐる、ウクライナ及び欧州との亀裂等も要因となっている模様です。
そこで、昨年はFRBの政策金利の引き下げペースが大きく貴金属価格に影響を与えていましたが、トランプ政権発足以来、新政権の政策がより金相場に影響を与える傾向が続いており、今週のFOMC議事録発表の内容は、予想通りタカ派的であったものの、想定内ということもあり、市場への影響は限定的となっていました。
しかし、金及び貴金属に関税が課される懸念から、ニューヨークの金先物とロンドンの金現物価格の裁定取引がスムーズに行われなくなる懸念で乖離していた先物と現物価格の差の拡大、そしてロンドンの金の短期のリースレートの上昇は、今週後半に大分落ち着きを見せ始めています。そこで、多くのアナリストは、貴金属に関税が課されないことが明らかにならない限りは、そして、例えそうなったとしても、これらが正常化するにはしばらく時間はかかると分析していることからも、これらは金の上値を支えるものとはなっているようです。
今週のチャートは、前週に続き、金先物(水色)と金現物価格(緑)とロンドンの現物リースレート(赤)のチャートをお届けしましょう。
ここで、金先物と現物価格の差も一時のトロイオンスあたり50ドル近い大幅な差からも下げて14ドルほどとなっていることが分かります。また、ロンドンの短期の金現物リース料もトランプ大統領が就任する以前の1.4%へと本日は下げていること等から落ち着きを取り戻しつつあることも見られています。
しかし、ニューヨークのコメックスの金の保管量は今週水曜日まででほぼ27トンと続いており、年初からは510トンとなり、ニューヨークへの輸送が困難となっていたパンデミック最中の2021年3月以来の高さとなっています。
今週他の貴金属である、銀とプラチナとパラジウムは週間では下げを記録しています。これは、工業用需要の多いこれらの貴金属は、今週高まった地政学リスクによる金の安全資産の需要が欠けていることが背景と思われます。
今週の金相場について
週明け月曜日、米国が大統領の日で祝日で薄商いである中、金価格は前営業日の1.7%近い下げ幅を半減させ、トロイオンスあたり2899ドルで終えていました。
この背景はトランプ大統領が金曜日にも輸入車への関税を課することを発表する等、関税への懸念によるニューヨークとロンドンの金価格差が広がっていたこと、それによる金現物のニューヨークへの集中、経済全般への懸念、それがゆえにコメックスの金のネットロングポジションも5年平均と比較すると高い水準で推移し、上海黄金交易所のプレミアムが歴史的な平均値に回復して、取引量が急増する等と需要の回復が見られていました。
火曜日本日金相場は、米国が祝日明けで市場参加者が戻る中で、前週金曜日に行われたポジション整理による下落を取り戻し、トロイオンスあたり2936ドルまで一時上昇して2929ドルで終えていました。
この間、翌日に前回FOMCの議事録要旨が発表され、米消費者物価指数が高止まりしていることからも、タカ派的内容への懸念もあり、ドルと長期金利は若干上昇していました。
しかし、トランプ政権の関税への懸念は続いており、政権の政策全般が高インフレを生むもの、また市場へ混乱をもたらすという懸念からも、安全資産の需要は継続していました。
そこで、UBSは2025年の金平均価格予想を2800ドルから2900ドルへ引き上げ、高値として3200ドルもあるとしており、ゴールドマンサックスは、年末価格を3100ドルと100ドル引き上げていました。
水曜日金相場は、市場注目のFOMC議事録を待つ中、ドル建てLBMAの午後の価格で今年11度目の史上最高値のトロイオンスあたり2936ドルをつけ、取引時間内の史上最高値の2946ドルもつけていました。
前日トランプ大統領は、4月公表予定の輸入自動車への追加関税は25%ぐらいになると述べ、半導体や医薬品へも追加関税を検討していると述べたことからも、それによる高インフレ懸念による安全資産の需要が背景となっていました。
この間ドルインデックスと米長期金利は、同日夜にFOMCの議事録が発表されることからも、タカ派的内容への警戒感から若干ながら上昇していました。
木曜日金相場は、5営業日連続でLBMA価格で史上最高値をつける水準を推移し、日中の最高値はトロイオンスあたり2954ドルと史上最高値を更新して、その後上げ幅を削って2940ドルで終えていました。
この上昇基調は、ウクライナ戦争をめぐる、米国とウクライナ及び欧州の溝が深まっていることによる安全資産の需要の高まりと、関税政策においては、輸入自動車への追加関税について来月、もしくはそれより早く発表する意向を示したこと、そして半導体や衣料品のほかに木材にも追加関税を検討しているということへの懸念も背景となっていたようです。
この間ドルインデックスと米長期金利は若干下げ、米株価も前日と前々日の最高値から下げて推移していましたが、金価格は高値を試しながら、調整の動きも入っていた模様です。
ちなみに前夜発表のFOMC議事録要旨は、予想通りインフレが高止まりしていることからも、政策金利引き上げには慎重な姿勢でしたが想定内で、市場への影響は限定的となっていました。
本日金曜日金価格は、前日の取引時間内の最高値から下げたものの、再び上昇に転じて、トロイオンスあたり2940前後へと上昇して推移しています。
この間本日発表された米国の製造業PMIは前回と予想を若干上回ったものの、サービス部門PMIは経済の拡張と縮小の境目の50を下回り、ミシガン大学消費者態度指数も前回と予想を下回っていました。
そこで、米株価指数は全般下げており、金相場は昨日まで高値の更新を続けていましたので、週末を前にポジション整理も入っている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に2月11日までのデータが発表されて、パウエルFRB議長のタカ派的議会証言を受けて、金価格が史上最高値から下げていた際に、金と銀とパラジウムは強気ポジションを減少させ、プラチナはこのポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6.4%減で670トンと3週連続で減少していたものの、5年平均と比較すると8割以上上回っていたこと。価格は1.8%高でトロイオンスあたり2895ドルと火曜日のLBMA価格においては新高値を付け、建玉は3.6%高と11月12日の週以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、59.5%減で2353トンと昨年2月末以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比0.4%高で、トロイオンスあたり31.73ドルと上昇して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、69.8%増で33.0トンと11月5日の週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比0.6%安でトロイオンスあたり987ドルへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに17.9%増で24.8トンと増加していたこと。価格は1.6%安でトロイオンスあたり983ドルと11月26日の週以来の高さから下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに20.7トン(2.4%)増加して883.72トンとロシアがウクライナに侵攻した直後の2022年3月初旬以来の週間の大規模な増加量で増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに4.64トン(1.18%)増で398.40トンと週間では昨年11月半ば以来の大規模な増加量で、4週連続の増加傾向で、1月2日以来の高さとなっていたこと。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに133.06トン(0.98%)減で13,521.18トンと2月7日以来の低さで週間の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週89台前半で始まり、本日は88台後半に下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1913ドルで始まり、木曜日に1973ドルと1990年に記録が始まって以来の高さへ再び上昇し、本日は1956ドルへと若干下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週9ドルのプレミアムで始まり、昨日16ドルと今年1月半ば以来の高さへ上昇後に、本日6ドルまで下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、今週の平均は人民元金価格が史上最高値を更新する中で、プレミアムを維持して5.02ドルと1月半ば以来の高さへと上昇し、前週の1.18ドルから上昇していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は2.9%減で前週の1月最終週以来の高さから下げ、銀は11.6%減で前週の12月半ば以来の高さから下げ、プラチナは2.4%増で1月下旬以来の低さから増加し、パラジウムは5.9%増で11月最終週以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日-0.69と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の関係で、本日-0.50と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.41と前週から関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週市場はトランプ政権のウクライナ戦争のロシアとの和平交渉、また関税関連の動きに注目し、また米FRBの将来の政策金利予想に関わる指標として、FOMC議事録や主要国の製造業やサービス部門のPMIに注目しました。
来週もトランプ政権の先の動きは重要となりますが、経済指標では、木曜日に米第4四半期GDPとFRBがインフレ指標として注目する個人消費支出(PCE)コア・デフレーターなどへ市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2025年2月24日~28日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年2月17日~21日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年2月24日~28日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年2月17日)ロンドン金現物価格はコメックスとの価格差が縮小する中で反発し、中国の金価格はプレミアムに転換
- 2025年の貴金属価格予想:金、銀、プラチナ、パラジウム価格予想
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、トランプ大統領によるウクライナ戦争終結に向けた動きと、それに対する英国および欧州の反応が大きく報じられています。特に、トランプ氏のゼレンスキー・ウクライナ大統領への批判、ならびにイスラエルとガザ地区の武装組織ハマスとの停戦交渉が注目を集めています。また、カトリック教会のフランシスコ教皇の健康状態についても報道されています。
本日は、英国メディアによるトランプ氏のウクライナ戦争およびゼレンスキー大統領に関する発言への反応を取り上げてみましょう。
BBCを含む英国の主要メディアは、ファクトチェックのセクションなどを通じて、トランプ氏の発言をデータとともに検証し、次のように報じています。
ゼレンスキー大統領は選挙を実施せず、独裁的であるとの主張
トランプ氏は、ゼレンスキー大統領が2019年以降選挙を実施していないことを指摘し、独裁的であると批判しました。しかし、ウクライナは2022年のロシア全面侵攻以来、戒厳令を敷いており、これにより選挙が一時停止されています。そのため、ゼレンスキー大統領が独裁者であるという主張は当てはまらないとしています。
ゼレンスキー大統領の支持率が4%に低下しているとの主張
トランプ氏は、ゼレンスキー大統領の支持率が4%まで落ち込んでいると述べました。しかし、戦時中の世論調査は困難であるものの、ウクライナのキエフ国際社会学研究所が今月実施した電話調査によると、57%の国民がゼレンスキー大統領を信頼していると回答しています。これは、2023年末の77%、2022年5月の90%と比較すると低下していますが、トランプ氏の主張とは異なる結果となっています。
ウクライナ戦争を始めるべきではなかったとの主張
トランプ氏は、ウクライナが過去3年間で戦争を終結すべきだったと主張し、さらにはウクライナが戦争を始めたとも発言しました。しかし、英国メディアは、ロシアが2014年にクリミアを併合し、2022年2月にウクライナへの全面侵攻を開始したことを強調し、トランプ氏の主張を否定しています。
スターマー英首相はフランスやドイツの首脳とともに、ウクライナおよびゼレンスキー大統領を全面的に支持する姿勢を示しています。一方で、米国との対話の重要性も認識しており、来週には米国でトランプ氏との会談が予定されています。
ファイナンシャル・タイムズは昨日、「Goodbye to the good guy(良い人にサヨナラ)」という、トランプ氏の親ロシア的な姿勢やNATOを否定する態度に対する欧州諸国の動揺を一喝する記事を発信しており、とても興味深いものでしたのでご紹介しましょう。
同記事では、まず欧州が最悪の事態に備えず、「侵略者が報われる」という世界観を想定していなかったと指摘しています。
さらに、この記事では、西洋社会が「悪は滅び、人々は賢くなり、科学が生活を向上させる」という進歩の信念を持ってきたことに触れ、それがキリスト教道徳や啓蒙思想に基づいて強化されてきたと分析しています。しかし、近年、この進歩の信念は揺らぎ、トランプ氏のような「力こそすべて」と考える歴史的悲観主義者の影響力が増していると述べています。
記事はこの考え方が正しいと断言しているわけではありません。しかし、こうした潮流が台頭している現実を直視し、それに備える必要があることを示唆するものと言えるでしょう。