金市場ニュース

ニュースレター(2025年2月14日)米インフレ高止まりの中、トランプ政権への懸念からも、金価格は3週連続で史上最高値を記録

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、1.56%高でトロイオンスあたり2919ドルと7週連続の週間の上昇で、パンデミック最中の2020年6月から7月以来の長期の週間の上昇で、史上最高値を3金曜日連続で更新しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、2.56%高のトロイオンスあたり33.10ドルと4週連続の週間の上昇で、昨年11月初旬以来の高さへと上昇しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.40%高でトロイオンスあたり997ドルと4週連続で週間の上昇で、11月初旬以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から2.42%高でトロイオンスあたり992ドルと週間の上げとなっています。

今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、米消費者物価指数と卸売物価指数が共に予想を上回り、パウエルFRB議長も議会証言で利下げを急がない姿勢を示したにもかかわらず、トランプ政権の関税を含む高インフレを招く政策からも、金価格は史上最高値の更新を続け、他の貴金属もまた週間の上昇を記録する傾向となっています。

トランプ大統領は、前週末に鉄鋼とアルミニウムに関税を一律25%課すとし、そして昨日は高関税の貿易相手国に同水準の関税を課す相互関税について発表する等、引き続き貿易戦争による懸念は高まっています。

そこで、貿易戦争による世界経済の低迷、関税が引き起こすであろう高インフレへの懸念は、安全資産としての金の需要を高めている模様です。

また、米国の関税が貴金属に課された場合が想定されて、ニューヨークの金の先物とロンドンの金の現物価格の差は引き続きトロイオンスあたり30ドルと、昨年トランプ氏が大統領選で勝利した11月平均の5ドル未満からは広げた水準であり、金現物がロンドンからニューヨークへ動くことで、ロンドンのひと月のリースレートも4%を超えて、ロンドン市場の現物不足を示唆する引き続き高い水準をとなっています。

そこで、本日は昨年11月からのニューヨークの金先物価格(水色)、ロンドンの金現物午後3時ベンチマーク価格(緑)とロンドンのひと月の金現物リース価格(赤)のチャートをお届けしましょう。

ここで、昨年12月から先物金価格と現物金価格の差が広がり始め、リースレートがそれに伴って上昇していることが分かります。

金先物と金現物価格とロンドンのひと月のリースレート 出典元 ブリオンボールト

ちなみに、このリースレートは、銀とプラチナとパラジウムも通常よりかなり高い水準で推移しており、貴金属のロンドンにおける現物不足の状態が示されています。

今週の金相場について

週明け月曜日は、前日のトランプ大統領の鉄鋼とアルミへ一律25%の関税が課されるというニュースの後、ドルと長期金利が再び上昇する中で、金価格は全ての主要通貨建てで史上最高値をつけ、ドル建てではトロイオンスあたり2922ドルの史上最高値をつけて終えていました。

未だ貴金属に関税が課されるかは明確ではありませんでしたが、関税が課されることによる経済への悪影響等への懸念からも、金の安全資産としての需要が高まることとなりました。

この間、関税への懸念で金の先物と現物価格の差が広がっていましたが、同日は27ドルほどと若干幅を広げていたものの、ひと月間のリースレートに関しては、前週の5%を超える水準から4%を下回るまで下げて推移しています。

そして、中国の金価格は最高値を更新しているにもかかわらず、同日前週のロンドン価格へのディスカウントからプレミアムへと転換し、米中貿易戦争の中で中国の需要も回復しつつあることも示唆されていました。

火曜日金相場は、ロンドン時間早朝にトロイオンスあたり2942ドルをつけ、主要通貨建てでもほぼ全て史上最高値を更新し、その後2892ドルまで下げて終えていました。

早朝の高値は、前日からのトランプ政権の関税とそれによる米中貿易摩擦への懸念で、買いが買いを呼んでいたようですが、その後ロンドン時間に市場注目のパウエルFRB議長の議会証言がタカ派的であったことで、ドルと長期金利が上昇して、上げ幅を失うこととなりました。

パウエル議長は、「政策スタンスは現在、以前よりも大幅に制限的でなくなっており、経済も好調を維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と述べて、市場の政策金利引き下げ観測が後退することとなりました。

水曜日金相場は米消費者物価指数が予想を上回り、ドルと長期金利が上昇したことで、トロイオンスあたり2864ドルと20ドルほど急落後に下げ幅を削って2906ドルまで戻して終えていました。

米消費者物価指数は、前月比で0.5%と前回の0.4%と予想の0.3%を上回り、前年同月比で3.0%と予想と前回の2.9%を上回っていました。

そこでFEDWatchツールでは年末の政策金利予想は4.11%と現在の水準から一回のみの利下げとなり、全く利下げ無しが3割と、一週間前の1割、前日の2割から増加していました。

なお、同日トランプ大統領はSNSで政策金利を下げるべきと述べていましたが、その後行われたパウエルFRB議長は議会証言で利下げを急がないという昨日示した姿勢を改めて繰り返していました。

同日の金の動きはドルが強含んだことからでもあり、日本円は対ドル下げて、その結果日本円建て金相場は、gあたり14447円と史上最高値を更新していました。

木曜日金相場は、米卸売物価指数は前日の消費者物価指数同様に、予想を上回ったものの、その内容はFRBが注目するインフレ指標の個人消費支出PCEコア・デフレーターを引き上げるものではないという判断で、ドルと長期金利が下げたことからも、トロイオンスあたり2931ドルへと上昇して終えていました。。

そこで、FRBの政策金利引き下げペースは今年1回という観測が固まりつつありますが、前日利下げ無しの予想がCMEのFEDWatchツールでは3割へ上昇していたものが、同日2割強まで下げていました。

本日金曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり2940ドルと再び史上最高値の2942ドルを狙いましたが超えることなく、下げ幅を広げて2902ドル前後を推移しています。

なお、この間発表された米小売売上高は2年間で最大の下げ幅で予想を下回り、FRBの金利引き下げ遅延の観測が若干後退し、ドルと長期金利は下げて、米株価は全般上昇しています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 昨年の金の需給レポートが先週ワールドゴールドカウンシルから発表され、第4四半期の金総需要(店頭投資を含む)は前年同期比1%増で四半期ベースで過去最高を記録し、年間総需要は4,974トンとなり、過去最高を記録。
  • 中央銀行の金購入量は2024年に3年連続で1,000トンを超えて、1,050トンで、第4四半期には333トンと急加速した。年間投資量は4年ぶりの高水準となる1,180トン(25%増)に達した。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に2月4日までのデータが発表されて、トランプ大統領がメキシコとカナダへの関税をひと月遅らせたことで、ドルが下げる中金価格が4営業日連続で新高値を付けていた際に、金は強気ポジションを減少させ、銀とプラチナとパラジウムはこのポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、0.2%減で716トンと前々週の10月末以来の高さから2週連続で減少していたこと。価格は3.3%高でトロイオンスあたり2843ドルと4営業日連続で新高値を付け、建玉は4.0%高と前週の下げ幅をほぼ取り戻して前々週の11月19日の週以来の高さ水準へ戻していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、42.0%増で5812トンと10月29日の週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比4.8%高で、トロイオンスあたり31.60ドルと上昇して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、421.2%増で19.4トンと11月5日の週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比5.8%高でトロイオンスあたり993ドルへ上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに20.5%減で21.0トンと11月5日の週以来の低さとなっていたこと。価格は4.7%高でトロイオンスあたり999ドルと11月26日の週以来の高さへ上げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに4.3トン(0.5%)減少して864.20トンと2週ぶりに週間の減少傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.03トン(0.26%)増で393.76トンと週間で3週連続で増加で、1月21日以来の高さとなっていたこと。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに264.78トン(1.98%)増で13,654.26トンと3週ぶりの週間の増加傾向で、週間の増加量としては昨年9月27日までの週以来の大さで、2月3日以来オン高さ。
  • 金銀比価は、今週89台後半で始まり、火曜日に91台後半と2022年9月以来の高さまで上昇後に、本日は88台前半に下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1909ドルと1990年に記録が始まって以来の高さで始まり、本日も1930ドルと再び更新して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週9ドルのプレミアムで始まり、昨日16ドルと今年1月半ば以来の高さへ上昇後に、本日6ドルまで下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、今週の平均は人民元金価格が史上最高値を更新する中で、1.18ドルのプレミアムと、前週の11.6ドルのディスカウントから転換していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は14.1%増で1月最終週以来の高さ、銀は1.1%増で12月半ば以来の高さ、プラチナは15.3%減で1月下旬以来の低さ、パラジウムは7.4%増で11月最終週以来の高さとなっていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日-0.75と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の関係で、本日-0.19と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.56と前週から関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週市場は火曜日と水曜日のパウエル議長の議会証言と、水曜日の米消費者物価指数、木曜日の卸売物価指数に注目し、動くこととなりました。また、引き続きトランプ大統領の関税、及び地政学リスクに関わる政策にも注目していました。

来週もトランプ大統領の政策への注目は継続し、経済指標では水曜日の米FOMC議事録要旨発表、金曜日の主要国の製造業及びサービス部門のPMI、米ミシガン大学消費者態度指数等が重要となります。

詳細は主要経済指標(2025年2月17日~21日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週、英国では、トランプ前大統領が提案する新たな関税措置、イスラエルとガザ地区の武装組織ハマスとの停戦交渉、ウクライナ戦争終結に向けたロシアのプーチン大統領との和平交渉、フランスで開催されたAIサミット、そして本日からミュンヘンで開幕する安全保障会議が大きく報じられています。

現在も状況は刻々と変化していますが、本レポートでは、ウクライナ戦争終結に向けたトランプ大統領の動き、それに対する英国および欧州の反応について簡単にまとめます。

今週12日(水)、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と電話協議を行い、戦争終結に向けた交渉を即座に開始することで合意したと発表しました。

これに対し、ウクライナ、英国、および欧州諸国は、この電話協議について事前に知らされておらず、ウクライナ政府は欧州抜きでの交渉に対して強い反発を示していました。

同日、ヘグネス米国防長官は「ウクライナが2014年以前の国境に戻るのは現実的ではない」と述べ、さらに「米政権はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟がロシアの侵攻政策の一部になるとは考えていない」と発言しました。これにより、米国はウクライナのNATO加盟について消極的な姿勢を示したことになります。

13日(木)、トランプ大統領は、ロシアのプーチン大統領と合意したウクライナ侵攻の停戦交渉にウクライナも参加すると発表しました。また、本日開幕したミュンヘン安全保障会議に、ロシア、ウクライナ、米国の高官が参加するとも述べました。

しかし本日14日(金)、ロシア側はトランプ前大統領が言及した「ミュンヘンでの米国・ロシア・ウクライナによる三者会談」は実施されないと発表しました。ウクライナのゼレンスキー大統領も「まず米国と欧州が共通の立場を固めた上で、ロシアと協議すべきだ」と述べ、米露による直接交渉をけん制していました。

本日、バンス米副大統領とゼレンスキー大統領の会談が予定されています。これを前に、ゼレンスキー大統領は「ウクライナがNATOに加盟できないのであれば、それに代わる安全保障の枠組みを示すべきだ」と発言しています。一方、バンス米副大統領は「欧州諸国は米国に頼らず、自ら防衛を担うことが重要だ」と述べています。

NATOの年間予算は約38億ユーロ(42億ドル)で、主要な拠出国は米国とドイツがそれぞれ16%、英国が11%を負担しています。かつて米国は22%以上を拠出していましたが、トランプ大統領の第1期政権下で欧州諸国に負担を求めた結果、バランスが改善されてきているようです。

欧州の安全保障を長年米国に依存してきた欧州諸国は、トランプ前大統領の予測不可能な動きに驚きと困惑を隠せない状況にあります。今後、トランプ前大統領が欧州の意見にどの程度耳を傾けるのか、引き続き注目されます。

BBCの安全保障特派員であるFrank Gardner氏のウクライナ戦争終結協議の現在の状況について比喩した言葉が的を得ているように思いましたので、ここで紹介して終えることにしましょう。

「ウクライナ戦争の和平交渉を電車に例えるならば、米国とロシアはすでに電車に乗っているが、ウクライナはプラットフォームを走りながら乗り込もうとしている。そして、欧州諸国はまだ改札に取り残されているようなものだ。」

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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