ニュースレター(2025年1月24日)トランプ大統領就任後の政策への懸念からも金価格は史上最高値へと迫る
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、2.42%高でトロイオンスあたり2781ドルと週間の上昇で、昨年10月末の史上最高値2790ドル以来の高さへ上昇しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、0.82%高のトロイオンスあたり30.88ドルと週間の上昇となっています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.01%高でトロイオンスあたり950ドルと週間で上昇しています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から5.33%高でトロイオンスあたり1002ドルと昨年11月後半以来の高さへと週間の上げとなっています。
先週と今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週はトランプ氏の大統領就任が月曜日に行われ、その後立て続けに出される政策に貴金属は反応をすることとなりました。
貴金属市場の関心事項は、トランプ大統領が全ての輸入品に就任即座に関税を課すると事前に述べていたことからも、貴金属にも関税が課されるのかということでした。もし、10%の関税が貴金属に課された場合、ロンドンの現物市場とニューヨークの先物市場の裁定取引がスムーズに行かない懸念で現物地金が関税が課される前にとニューヨークに集まりショートポジションが急激に解消されていることからも、先物価格に引き上げられて金の現物価格も上昇していました。
その後、今週発表されたのは、カナダとメキシコへ25%、中国へ10%の関税を2月1日から課されるという発表が月曜日と火曜日にあり、その後昨日は中国へはできれば関税を課したくないというトランプ氏のコメントも伝えられ、それに加えて中銀に利下げを求めるというコメントも出されたことで金価格をさらに史上最高値へ向けて押し上げることとなりました。
今週はそこで、ドル建てでは昨年の10月31日の史上最高値にはトロイオンスあたり12ドルほど届きませんでしたが、英国ポンド、ユーロ―、豪ドル、加ドル、スイスフラン、日本円、人民元と主要通貨建てでは最高値を更新していました。
今週のチャートは、米ドル、英国ポンド、ユーロ、日本円建ての本日の最高値を使った金価格を指数化したチャートをお届けしましょう。1月の本日までの上げ幅は英国ポンドが8%近く、ドルが6%台で日本円を若干上回り、英国ポンドの6%弱の上げ幅となっていますが、2022年からの上げ幅は、引き続き日本円安もあり、他の通貨よりも大きいことを見ることができます。
その他の貴金属の銀とプラチナは金に劣るものの上昇をし、パラジウムは、トランプ大統領がロシアへのさらなる政策に触れ、ロシアが全体の4割のパラジウムを供給していることからも供給不足懸念、また国家エネルギー非常事態宣言を発表し、脱炭素に反する政策からも、内燃機関の排ガス処理装置での需要が8割のこの貴金属のセンチメントが好転して2か月ぶりにトロイオンスあたり1000ドルを超えていました。
先週と今週の金相場について
週明け月曜日は、金融市場がトランプ氏の大統領就任式後の政策発表に注目する中で、金価格は取引開始時の下げからトロイオンスあたり20ドルほど上昇し、2705ドルで終えていました。
この間、トランプ氏が課す関税が貴金属にも及ぶことへの懸念から、NYの先物市場へ在庫が急増し、現物のリースレートが急騰し、コメックスのショートポジションがコロナ危機以来の低さへ減少し、金の先物と現物価格差が同日トロイオンスあたり40ドルへと拡大しいました。
火曜日金相場は、米ドルと長期金利が若干下げる中で、トロイオンスあたり2748ドルと11月6日以来の高さに上昇していました。
市場注目のトランプ新政権の動向としては、貴金属市場注目の関税については新たな発表は無いものの、メキシコとカナダへの25%関税が2月1日から行われるというニュースを受けて、同国の通貨は大きく下げて、カナダドル建て金価格は取引時間内にトロイオンスあたり3947加ドルと史上最高値をつけ、英国ポンド建てもまたトロイオンスあたり2231ポンドと史上最高値をつけていました。
水曜日金相場は、ドルが前日の下げから反発し、長期金利も2営業日ぶりに上昇する中で、トロイオンスあたり2763ドルへと一時上昇し、昨年10月30日の史上最高値の2790ドル以来の高さへ上昇していました。
木曜日金相場は、前日の上昇からも利益確定もあり一時トロイオンスあたり2736ドルまで下げたものの、その下げ幅を取り戻して2759ドルで終えていました。
この間、取引時間内で他の主要通貨ではそれぞれトロイオンスあたり2241ポンド、2649ユーロ、4403豪ドル、3969加ドル、2504スイスフラン、gあたり13,891円と、全てで史上最高値をつけていました。また、人民元建てでも本日の上海黄金交易所での午後のベンチマーク価格がgあたり643人民元と最高値をつけていました。
この背景は、トランプ新政権の新たな政策への懸念ですが、前日のカナダとメキシコへの25%の関税を2月1日から発動することに加え、中国のすべての輸入品に10%の追加関税を2月1日から課することが発表されていたことも要因であったようです。
この間、米株価指数は、トランプ大統領の米国におけるAI開発の巨額投資計画などからも、3営業日連続で上昇していました。
本日金曜日金相場は、ドルがひと月ぶりの低さへ下げる中で、ドル建てで昨年10月末の史上最高値のトロイオンスあたり2790ドルへ12ドルと迫り、ポンド、ユーロ、日本円、人民元建てを含む主要通貨建てでは、史上最高値を更新していました。
これは、前日トランプ大統領がスイスのダボスで行われている世界経済フォーラムで利下げを求めたこと、そして、その後のFoxニュースのインタビューで中国への関税はしたくはないと軟化した態度を示したことからでした。
また、日銀が本日2008年以来の最高水準へ金利を利上げたことで日本円が対ドル強含んだことも相対的にドルを弱含める背景となっていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に1月14日までのデータが発表されて、その際米卸売物価指数が予想より鈍化していたことで金価格が上昇していた際に、全ての貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、9.3%増で661トンと2週連続で増加して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。価格は0.6%高でトロイオンスあたり2667ドルと11月初旬以来の高さへ上昇し、建玉は9.6増と2週連続で増加して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、12.5%増で4479トンと2週連続で増加して12月10日の週以来の高さとなっていたこと。価格は前週比1.7%安で、トロイオンスあたり29.74ドルと下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、18.9%増で11.0トンと11月19日の週以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比0.5%安でトロイオンスあたり948ドルへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに7.1%減で36.4トンと前週の9月上旬以来の高さから減少していたこと。価格は1.5%高でトロイオンスあたり942ドルと12月末以来の高さへ上げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに14.9トン(1.5%)減少して864.19トンと、12月19日以来の低さでで2週連続の週間の減少傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに2.35トン(0.60%)減で391.84トンと11月中旬以来の低さで、週間の減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに184.12トン(1.28)減で14,226.60トンと週間の減少傾向で、週間の減少量としては12月半ばの週以来の大きさで、7月後半以来の低さであること。
- 金銀比価は、今週89台半ばで始まり、本日90台を超えて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1768ドルで始まり、本日1830ドルへ上昇して史上最大の幅で終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は、今週月曜日からほぼ日々ディスカウントへと転換し、本日52ドルと昨年11月後半以来の高さへ上昇して終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格は今週水曜日1月22日からディスカウントに転換し、週間では0.8ドルと前週の11.8ドルのプレミアムから大きく下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までに週間で、金は19.6%増で11月末以来の高さ、銀は17.5%増で12月半ば以来の高さ、プラチナは8.4%減で11月初旬以来の低さ、パラジウムは48.2%増で11月後半以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は1月21日から負の相関関係で本日0.49と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は本日1月24日から負の関係で、本日0.16と前週木曜日から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は1月21日から正の関係で、木曜日までで0.49と前週から関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週市場はトランプ新政権の新たな政策、特に関税に関わるものに注視して動き、日銀の政策金利発表も重要となっていました。
来週は水曜日のFOMC後の政策金利を含む声明とパウエルFRB議長の記者会見が最重要イベントで
すが、火曜日の米耐久財受注、木曜日の欧州中央銀行の政策金発表、そして米第4四半期GDP、金曜日のFRBがインフレ指標として注目する、個人消費支出PCEコアデフレーターも市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2025年1月27日~31日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年1月20日~24日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年1月27日~31日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年1月20日)トランプ氏の「関税」懸念で、コメックスの金在庫が急増し、リースレートが急騰
- 金価格ディリーレポート(2025年1月24日)トランプ大統領が関税と金利引き下げについてコメントし、ドル建て金価格は史上最高値へ迫る
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、トランプ氏の大統領就任と民主党と近い関係であった英国労働党政府の対応、イスラエルとハマスの停戦について、そして本日英国北部を襲っているストーム・エオウィンの被害状況について、そして英国北西部のサウスポートで起きた幼い女の子3人が刺殺された裁判の結果とその地元の反応について等が大きく伝えられています。
そこで、本日は民主党に政策的に近く、大統領選ではハリス大統領候補をサポートしていた労働党政権の気まずさについてお伝えしましょう。
昨年11月の大統領選の前月10月には、米共和党の大統領候補であったトランプ氏の選挙陣営は、イギリス与党の労働党が米選挙への「露骨な外国による干渉」を行ったとして、米連邦選挙委員会に苦情を申し立てていました。これは、労働党が当時の大統領候補者のハリス副大統領や副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事を支援したということからでした。
そして、現英国外相のデビット・ラミー氏は2017年にトランプ氏を「人種差別主義者でKKK/ネオナチのシンパ」と呼び、その1年後は『タイム』誌に、トランプ氏の初の英国公式訪問を指して、当時の政府の「このハチマキをした暴君への屈服」に抗議すると書いていたことが、改めて大きく伝えられていました。
そして、スターマー首相もまた、2021年に自らを「反トランプだが親米派」と述べていたことも伝えられています。
更に、ストリーティング保健相は2017年にXへの投稿でトランプを「悪趣味で悲しい小男」と呼び、同年クーパー内相はトランプの政治へのアプローチは「憎しみを常態化」させていると述べる等と、他の労働党の主要閣僚も何らかのトランプ批判を過去にしていることも伝えられています。
野党保守党は、元ボリス・ジョンソン首相がトランプ大統領と近い関係であったことからも、また古くから共和党に近いこともあり、バーデノック現党首は、過去の労働党議員のトランプ氏に関する発言について、国会での党首議論の場で取り上げる等、大統領選後からは厳しい攻撃を続けていました。
良かれ悪かれ、トランプ氏が大統領となったことからも、英国政府はより良い関係を築く努力を前民主政権の際以上にしなければならない状況であるようです。