ニュースレター(2025年8月22日)ハト派的パウエル議長の講演で金(ゴールド)急騰
週間市場ウォッチ
今週金曜日の弊社チャート上の貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較して以下の通りです。
*金は午後3時の弊社チャート価格、銀は午後12時、プラチナとパラジウムは午後2時の価格。
**日本円価格はLBMA価格として発表されないために、弊社チャート上の金曜日午後3時の価格。
金価格(ドル建て)は、LBMA金曜日価格で前週金曜日から上昇して週間の上昇。銀価格も週間で上昇。プラチナも週間で上昇し、3週連続の上げ。パラジウムは3週連続の下げで前週金曜日の7月10日以来の低値の水準。
貴金属市場の動向(週間)
今週の貴金属相場は、ジャクソンホール経済会議でのパウエルFRB議長の講演を控え、狭いレンジでの推移が続いていました。しかし、ロンドン時間午後3時から行われた講演後には大きく上昇し、全ての貴金属が週間で大幅な上げを記録しています。
パウエル議長の講演(詳細は金曜日の項を参照)は、9月の利下げを示唆する予想以上にハト派的な内容と受け止められ、来月のFOMCでの利下げ観測は発表直後に90%以上へ上昇(前日は75%)。その結果、ドルと米長期金利が下落し、貴金属価格を押し上げました。
特にリスク資産の株価上昇や、工業需要の高さが支援要因となり、銀とプラチナの上昇幅は前日のLBMA価格比でそれぞれ3.7%、3.5%と顕著でした(金は1.2%高、パラジウムは2.1%高)。
今週のチャートでは、本日の急騰を確認できる金(黄色)、銀(水色)、ナスダック総合指数(青)、S&P500種(オレンジ)の動きをご覧ください。テクノロジー株は5営業日連続で調整売りが続いていたことから、ナスダック総合指数は本日の上昇にもかかわらず週間では下落の見込みです。
今週の貴金属相場の動き(日次)
月曜日
週明けの金相場は米長期金利の低下を受けて一時トロイオンスあたり3358ドルまで上昇。しかし金利が再び上昇に転じると上げ幅を縮小し、ロンドン時間の引けは3331ドルでした。
同日、ワシントンでゼレンスキー・ウクライナ大統領とトランプ米大統領、さらに欧州首脳による会談が開催。これは先週金曜日にアラスカで行われた米大統領とプーチン大統領の会談を受けたものです。
市場はこの会談の行方に注目しつつ、週末のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演に注目が集まり、9月のFOMCでの利下げ観測と相まって敏感な動きとなっていました。
火曜日
主要経済指標の発表が乏しい中、米株価指数が一時的に史上最高値を更新し、ドルが上昇。金相場はトロイオンスあたり3316ドル(8月1日以来の安値)で終了。ただし依然として3350ドル前後のレンジ(±2%以内)に収まっていました。
前日の米・ウクライナ・欧州の会談では①米国によるウクライナ安全保障への関与②ロシア・ウクライナ首脳会談の調整が表明されましたが、市場に織り込み済みの内容で影響は限定的でした。
水曜日
金相場は3341ドルまで上昇し前日の下げを取り戻しました。米株価指数は全般に下落、特にハイテク株の売りが目立ちました。
市場はFOMC議事要旨(ロンドン時間午後6時発表)やジャクソンホール会議でのパウエル議長発言(金曜日)を控え、FRBによる早期大幅利下げ観測で株価が高値を続けていたことへの警戒感が強まっていました。
木曜日
米経済指標がまちまちの結果となり、FRBの利下げ観測がやや後退。ドルが強含み、金は一時3325ドルまで下げた後、3338ドルで引けました。
・製造業PMI:53.3と予想を大きく上回り堅調
・フィラデルフィア連銀景況指数:悪化。ただし支払価格の上昇でインフレ懸念を強める結果
・FOMC議事録:「物価リスクが雇用悪化より懸念」との声が多数
・連銀総裁発言:見解が割れ、利下げに慎重な見方が相場の重石
結果として9月利下げ観測は80%から70%へ低下。年末政策金利見通しも7月末以来の水準まで上昇しました。
ただしS&P500が5日続落したことで金の安全資産需要が高まり、下値を支えました。
金曜日(本日)
市場注目のジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演が予想以上にハト派的と受け止められ、利下げ観測が急速に強まりました。これを受けドルは弱含み、米長期金利は低下。金相場は一時3377ドルまで急騰しました。
パウエル議長は雇用情勢の下振れリスクを指摘し、利下げを「慎重に進める」と言及。一方で「金融政策は規定路線にはない」とし、今後もデータ次第で判断する姿勢を示しました。
これにより株価も急騰し、ナスダック総合とダウ平均はともに2%以上上昇。4月以来の一日の上げ幅を記録する見通しです。
その他の市場のニュ―ス
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コメックス(COMEX)の貴金属先物・オプションにおける資金運用業者のポジションは、8月12日までの週に発表されたデータ上では、同日発表の米消費者物価指数(CPI)がほぼ予想通りでFRBの利下げ観測が進み金価格は前日比上昇したものの、前週比下げる中で、プラチナを除く全ての貴金属でネットロングが減少していたこと。
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コメックス金の先物・オプションにおける資金運用業者のネットロングポジションは、4.7%減で479.70トンと減少していたこと。価格は前週比1.0%安のトロイオンスあたり3343.30ドルと下落し、建玉は1.1%減と共に2週ぶりの低さとなっていたこと。
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銀のネットロングポジションは7.7%減の4,394トンと3週連続の減少で、4月22日の週以来の低さ。価格は前週比0.9%高の37.69ドルで、2週ぶりの上昇。建玉は2.5%減少し、5月27日の週以来の低さ。
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プラチナのネットポジションは、5月20日からネットロングへ転じ、4.1%増の19.7トンと、前週の5月20日の週以来の低さから増加。価格は前週比1.7%高で1335ドルと、前週の6月24日までの週以来の低さから上昇。建玉は3週ぶりに増加して、前週の5月20日の週以来の低さから増加。
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パラジウムは2022年10月半ばからネットショートが継続。86.8%増で14.9トンと、前週の7月8日の週以来の低さから増加。価格は前週比3.3%安の1142ドルで、7月8日の週以来の低さ。建玉は2週ぶりに増加し、前週の6月24日の週以来の低さから増加。
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最大の金ETFであるSPDRゴールド・シェアの残高は、今週木曜日までに8.6トン(0.9%)減の956.77トンと、2週ぶりの週間の減少傾向。
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第2の規模の金ETF、iShares Gold Trustの残高は0.15トン(0.03%)減の453.14トンで、8月13日の週依頼の低さで、11週ぶりの週間減少傾向。
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銀ETFの最大銘柄、iShares Silver Trustの残高は206.21トン(1.37%)増の15,277.52トンと、2週連続の週間の増加傾向。
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金銀比価(LBMA価格ベース)は、今週87台後半ばで始まり、水曜日には89代後半まで上昇後、本日87台半ばへ戻して8月前半以来の低さで終える傾向。2024年平均は84.75、2023年は83.27、5年平均は82.44。値が高いと銀が割安、低いと割安感が薄れていることを示します。
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金価格との差であるプラチナディスカウントは、今週2012ドルで始まり、本日1979ドルへと7月末以来の低さへ下げて終える傾向。2024年平均は1431ドル、2023年は975ドル、5年平均は968ドル。
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プラチナとパラジウムの価格差は、2月6日以降パラジウムがプラチナを上回る「プレミアム」が継続。今週は217ドルのプレミアムで始まり、本日は234ドルと7月10日以来の高値水準で終える傾向。2024年平均は28ドルのディスカウント。2023年は371ドル、2022年は戦争影響で1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
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上海黄金交易所(SGE)とロンドン価格の差は、今週プレミアムに転換し、週平均は前週の1.29ドルのディスカウントと7月25日までの週以来の大きなディスカウントから、7.31ドルのプレミアムと8月初旬以来の高さとなっていたこと。2024年平均は15.15ドルのプレミアム、2023年は29ドル、2022年は11ドル。需要増に加え、中国中銀の輸入許可制限も背景にあります。過去5年平均は6.9ドルのプレミアム。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の貴金属市場は、月曜日のトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領、欧州首脳との会談、そして木曜日から開催中のジャクソンホール会議での本日予定されていたパウエルFRB議長のスピーチに注目して推移しました。
来週は、木曜日に発表される米第2四半期GDP、そして金曜日の米個人消費支出(PCE)コア・デフレーターが重要指標となります。さらに、トランプ大統領の関税関連発言や、ウクライナ・中東情勢に関する地政学リスクのニュースにも注目が集まる見通しです。
詳細は、主要経済指標(2025年8月25日~29日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2025年8月11日~15日)今週のの結果をまとめています。
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主要経済指標(2025年8月25日~29日)来週の予定をまとめています。
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金価格ディリーレポート(2025年8月18日)ウクライナの和平交渉とパウエルのジャクソンホール講演を前に、金は堅調に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でも配信中です。ぜひご視聴、ご登録ください。
ロンドン便り
今週、英国では以下のニュースが注目されました。
- 月曜日にワシントンで行われたトランプ米大統領とウクライナのゼリンスキー大統領、欧州首脳との会談の動向や、ウクライナ戦争の進展。
- イスラエルがパレスチナ自治区ガザ市全域を支配する計画を表明したこと。
- 本日、複数の国連機関などで構成される専門家団体が、ガザ市で「飢饉が発生している」と宣言したこと。
こうした中、英国国内では、エッピング(Epping)の難民収容施設として利用されているホテル「ベル・ホテル(The Bell Hotel)」に関する裁判が注目されています。エッピング地方区議会は、ホテルの長期使用に対し、英国高等裁判所に一時差止命令を請求し、認められました。
主要メディアの報道によれば、今年6月時点でホテルに滞在する難民は32,000人に達し、前年から8%増加しています。政府は民間賃貸住宅や元空軍基地などへの移転を模索していますが、違法入国者が難民申請手続き中にホテルに滞在する現状が地方政府の負担となり、地域住民からの反発も出ています。
高裁は、判断に際して「滞在期間の長さ」「地域住民への影響」「計画手続きの欠如」などを考慮し、ベル・ホテルでの難民収容を9月12日までに停止するよう一時差止命令を下しました。この命令は法的拘束力はありませんが、他自治体にも同様の訴訟が広がる可能性があり、政府の難民政策に大きな影響を与えると見られています。
英国政府は控訴を表明し、「秩序だった移転」に努めつつ、代替宿泊先の準備や政策見直しを進めていると説明しました。野党保守党は判決を支持し、他自治体への波及を促しています。また、移民・難民に強硬な姿勢を取るReform UK党は、判決を歓迎し、全面的な運動の契機と位置づけています。
エッピングの裁判は、地域住民の不安や不満を象徴する出来事であり、難民受け入れ政策の課題を浮き彫りにしています。国民の間では「難民が優遇されている」との不公平感が高まり、社会的分断を助長しかねません。政府はホテル依存からの脱却を進めつつ、違法入国者に対してより現実的で効果的な対応策を模索し、秩序ある移転と制度的に持続可能な受け入れ体制の再構築が急務となっています。