ニュースレター(2024年1月26日)金は週間で下げ、工業用途需要の多い貴金属は上昇
週間市場ウォッチ
本日金曜日の午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2018ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.5%下げて、2週連続の下落となっていました。この間本日の弊社チャート上の午後12時の銀価格は、前週のLBMA価格(午後12時)から0.5%高のトロイオンスあたり22.92ドルと週間の上昇となっています。本日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から0.04%高のトロイオンスあたり908ドルと3週ぶりの週間の上昇となっています。本日金曜日の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から0.7%高のトロイオンスあたり949ドルと4週ぶりの上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、安全資産の需要などからも他の工業用途の需要が多い貴金属より下げ幅を抑えていた金は引き続き若干下げ、下げ幅を広げていた銀、プラチナ、パラジウムは週間で上昇して終える傾向となっています。
FRBの利下げ観測が若干後退したことからで、これは堅固な米経済やまちまちなインフレ指標が背景となっていますが、今週も史上最高値を更新している米株価指数にも見られるように、リスクオン基調もまた金の頭を抑えているようです。
それに対し、工業用途需要が多い銀、プラチナ、パラジウムに関しては、月曜日に2022年4月以来の大幅な下げの2.7%急落していた中国株に見られるように、中国経済停滞懸念を背景に下げていましたが、火曜日には中国政府の株価支援策への期待もあり同日落ち着きを取り戻していました。
そして、水曜日には同日中国中銀が預金準備率を0.5%と2021年以来の大幅な引き下げを行い、中国経済への好影響期待を背景に銀、プラチナ、パラジウムが前日から上昇して、週間でもこれらの貴金属は上昇で終える傾向となっています。
そこで、今週金銀比価が月曜日の10か月ぶりの高さの91から金曜日には88へと銀の割安を解消していますので、今週のチャートとして下記に添付いたします。
なお、銀が今週前半までかなり売り込まれて価格を2か月ぶりの低さへ下げていたために、今週銀のETFの最大銘柄は5週ぶりに週間の増加を見せる傾向で、この増加量は一年ぶりの大きさとなっています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、今週日本および欧州の中央銀行が政策金利を発表し、米国のGDPおよびFRBが注目するインフレデータ発表と注目イベントおよび経済指標を前に、前週終値から下げてトロイオンスあたり2022ドルで終えていました。
これは、前週の米国の堅調な経済データからもFRBによる利下げ観測が後退していることが背景となっていました。
火曜日金相場は、ロンドン時間早朝にドルと長期金利が下げたことで、ドル建てでトロイオンスあたり2037ドルまで上昇しましたが、上げ幅を削って前日終値を上回る2027ドルで終えていました。
同日は日銀の金融政策決定会合後の発表が行われ、市場予想通り大規模な金融緩和策が維持されていましたが、この前後多少ドル円や長期金利が神経質な動きをしていたのが早朝の動きの背景であったようです。
水曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに発表された米製造業及びサービス部門PMIが予想を上回り7か月ぶりの速いペースの拡大でもあり、FRBによる利下げ観測の後退からも長期金利が上昇し、トロイオンスあたり2015ドルへと下げて終えていました。
また、本日は決算が好調だったネットフリックやマイクロソフト等の米株価が上昇しており、史上最高値を更新し続ける米株価指数等リスクオン基調も金の頭を押さえていた模様です。
木曜日金相場はトロイオンスあたり2021ドルと前日終値から上昇して終えていました。
同日は欧州中央銀行が政策金利を据え置いたものの、近い将来の利下げ観測が広がり、ユーロが下げてドルが上昇していました。
しかし、同日発表された米GDPが予想の2%を上回り3.3%であったものの、第4四半期コアPCEが前回と予想と同水準2%と、インフレの鈍化からもFRBによる利下げ観測が多少広がり、米長期金利が若干下げていることに金は反応することとなりました。
しかし、米株価指数は、堅固な米経済とインフレの鈍化を好感して最高値を更新していたことからも、金の頭を抑えるものではあったようです。
本日金相場は、FRBがインフレ指標として注目する米個人消費支出コア・デフレーターがまちまちであったことで、神経質な動きの後に、FRBによる利下げ観測が後退し、長期金利が多少ながら上昇したことで、トロイオンスあたり2017ドルへと下げて推移しています。
12月の米個人消費支出(PCEデフレーター)では前年同月比2.6%と前回と予想の同水準となっていました。食品とエネルギーを除くコア指数においては2.9%と前回の3.2%と予想の3.0%を下回っていたものの、前月比では前回の0.1%を上回る予想と同じ0.2%となっていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に1月16のデータが発表され、ウォーラーFRB理事の早期の利下げ観測を後退させるコメントからも金価格が下げる中で、全ての貴金属において強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5.3%減で313ンと11月半ば以来の低さとなっていたこと。価格は0.16%高でトロイオンスあたり2038.15ドルと2週ぶりに若干上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、23.5%減と3週連続で減少して938トンと11月初旬以来の低さへ減少。価格も0.35%安のトロイオンスあたり23.05ドルと12月半ば以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、96%減の1.1トンと12月半ば以来の低さ。価格は3.83%安でトロイオンスあたり904ドルと11月半ばの低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで32%増の33.5トンと10月半ば以来の高さ。価格は4.16%安で944ドルと2018年8月以来の低さへ下げたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに2トン(0.23%)減で858.93トンと昨年10月半ば以来の低さで4週連続の週間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.47トン(0.37%)増の395.52ンと4週ぶりの週間の増加の傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで441.27トン(3.28%)増と13,893.33トンと5週ぶりの週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週91台と10か月ぶりの高さで始まったものの本日88台へ下げて終える傾向。2023年年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1117ドルと1127ドルの間を推移していること。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは26ドルと12月4日以来の低さで始まり、37ドルへ上昇して終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週平均は50ドルと前週の49ドルから上昇し、昨年11月半ば以来の高さ。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は1%減、銀は30%増で12月初旬の高さ、プラチナは39%減で昨年8月半ば以来の低さ、パラジウムは20%減。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、本日-0.75と前週から強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して、本日-0.70と3営業日連続で下げていたこと。S&P500種と金の相関関係は負の相関関係に1月19日に転換し、昨日までに5営業日連続で-0.37へと関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は日本、欧州中央銀行の政策金利が発表され、昨日の米第4四半期GDPや個人消費支出、そして本日の個人消費支出コアデフレーター等の重要指標と共に市場は注目することとなりました。
来週は、FRBの金融政策決定会合が水曜日、イングランド銀行が木曜日、そして金曜日には米雇用統計と引き続き重要イベント及び指標の発表が続く中、火曜日の米雇用統計(JOLT)求人件数や、木曜日の主要国製造業PMIやユーロ圏の消費者物価指数、米ISM製造業景況指数等の市場を動かす可能性がある指標が多く発表されることとなります。
詳細は主要経済指標(2024年1月29日~2月2日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年1月22日~26日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年1月29日~2月2日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年1月22日)中央銀行の政策金利発表を控える中、コメックスの先物・オプションの資金運用業者は強気ポジションを減少させ、金・銀価格は反落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、イスラエルとハマスの紛争について、そして本日の国際司法裁判所がイスラエルに対し、パレスチナ自治区ガザの民族大量虐殺を防止するためのあらゆる措置を講じることを命じたことがトップニュースで伝えられていますが、それに加え、英国の郵便局の会計システムをめぐる騒動が大きく伝えられています。
そこで、日本でも昨今伝えられているこのニュースについて簡単にまとめてみましょう。
この英国郵便局での問題は1999年から2015年までに900人以上の郵便局長が横領や不正経理の無実の罪で起訴されていたものの、実際には当時導入されていた富士通が納入したホライゾンという会計システムの不具合が原因だったというものでした。
そして、冤罪(えんざい)により、地域の郵便局の窓口業務を担っていた人々が、不足額を埋め合わせるために借金したり、横領罪で収監されたりしていました。そして、被害者の中には自殺をしたり精神的に疾患している人々もいるとのことです。
英国では政府が100%所有する郵便局が、イングランドとウェールズでの郵便局長に対する訴訟で検察の役割を担い、同社が任命した法律家らが証拠を提出していました。
しかし、郵便局や富士通は2010年以前にホライゾンシステムに問題があることを知っていたとのこと。
この問題が昨年末からメディアや政府が大きく取り上げることになった背景は、ITVという英国のテレビ局がこの問題を基にドラマを作成したことで、一般の人々の関心が高まったことからでした。
ちなみに、このスキャンダルに関する公式調査は2020年に開始され、補償プログラムからすでに1億4800万ポンド(270億円以上)が被害者に分配されているとのことです。しかし、700件の有罪判決のうち、これまでに覆されたのはわずか93件にすぎないとのことです。
そこで、スナク首相は今月初めに、先のITVのドラマ後に沸き起こった人々の強いリアクションもあり、独立調査機関の公聴会を設置し、把握している全被害者を無罪とし、保証を行うための新しい法律を制定することを約束していますが、すでに事件が発覚して25年を経て、未だ遅々とした対応に関係者は怒りは高まっています。
そして、その怒りがホライゾンシステムを開発した富士通へも向かっており、公聴会では富士通の英国法人のポール・パターソン最高経営責任者も呼ばれて証言し、富士通本社の時田隆仁社長もBBC放送の取材に答えて「郵便局長らとその家族の人生に壊滅的な影響を与えたことをお詫びする」と述べていたことが伝えられています。
そして、政治家たちは英国政府と未だ何十億ポンドという契約を結んでいる富士通から被害者補償費用の一部を回収することを、税金を使った補償よりも有権者受けもよいということもあるようで望んでいるようです。
そのような中、警察はこのテレビドラマが発表された後に管理者に使用を強制していたITシステムに欠陥があったと認めることを何年も拒んできた英国郵便局の幹部らが法的責任を問われるべきか調査すると発表しています。
このように、未だ公式調査や公聴会は進行中で詳細がさらにこれから明らかとなると思われますが、一つのテレビドラマによって25年を経て政府や関係会社がやっと重い腰を上げて動き出したことを驚くとともに、今後は被害者の方々の汚名返上と補償が一日も早く行われることを祈るばかりです。