ニュースレター(2024年11月22日)地政学リスクの高まりからも、ドル高の中で金価格は上昇し英ポンドとユーロ建てで史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から4.8%高でトロイオンスあたり2696ドルと、2週ぶりの週間の上げで、今年3月一週以来の大幅な上げ幅で前週の3年半ぶりの大幅な下げ幅を取り戻してさらに上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から1.9%高のトロイオンスあたり31.24ドルと3週ぶりの週間の上昇で、やはり前週の下げ幅をおh簿取り戻しています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から2.3%高のトロイオンスあたり966ドルと3週ぶりの週間の上昇で、前週の9月半ば以来の低さから上昇しています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から7.6%高でトロイオンスあたり1023ドルと3週ぶりの週間の上昇で、前週の下げ幅を取り戻してさらに上昇しています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、地政学リスクの高まりからも、ドルが2年ぶりの水準へと強含む中で、前週の記録的な下げ幅をほぼ全ての貴金属で取り戻す上昇となっています。
そして、ドルが安全資産として買われる中で、ウクライナ戦争においては最も戦場により近い欧州や英国の通貨が弱含み、ユーロ建てと英国ポンド建てでは本日史上最高値をつけています。日本円においては、対ドル弱含んだことで、10月の月末LBMA価格ベース(午後3時価格)の史上最高値を本日上回りgあたり13417円と上回ったものの、取引時間内での10月31日の史上最高値のgあたり13770円を超えるには至っていません。
そこで、本日のチャートはこの主要4通貨建ての金価格のチャートをお届けしましょう。本日までの昨年末からの価格の上げ幅は、ドル建てが23.5%、英国ポンド建てが24.7%、ユーロ建てが35.7%、日本円建てが29.7%となっています。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、前週の3年ぶりの大幅な下げから上昇に転じ、前週終値比でトロイオンスあたり100ドル高の2613ドルで終えていました。
これは、ドルが2年ぶりの高値水準ながらも若干下げ、米国がウクライナに長距離兵器の使用許可をしたことによる地政学リスクの高まり、また低値での買いが入ったことが背景となっていました。また、金ETFの最大銘柄が前週金曜日に2週以上ぶりに増加したことやインドの消費者の需要の高まりも伝えられており、金へのセンチメントが改善していました。
火曜日金相場は、前日の上げ基調を受け継ぎ、トロイオンスあたり2637ドルまで上昇して終えていました。
この背景は前日同様ウクライナとロシアの戦闘を巡る地政学リスクの高まりで、ウクライナが同日米国製長距離地対地ミサイルでロシア西部の軍事施設を攻撃し、ロシアが核兵器による反撃の可能性を示唆していたことでした。
そこで、この紛争に近い欧州株価は全般下げ、米株価は前日大きく下げたことからも多少反発していたものの頭は重い状況であったこと、ドルと長期金利は若干ながら、2年ぶりと4か月ぶりの高さから下げていたこと等も金をサポートしていた模様です。
水曜日金相場は、地政学リスクの高まりからも、ドルと長期金利が若干上昇する中で、トロイオンスあたり2658ドルへと上昇して終えていました。
同日は前日ウクライナが米国製長距離兵器をロシアの攻撃に初めて使用したように、ウクライナが英国製兵器を使ってロシア国内を初めて攻撃したことが伝えられていました。
そこで、欧州株価指数は4営業日連続で下げ、米株価指数も全般頭の重い状況となっていたことも、安全資産の需要が金価格を押し上げていました。
木曜日金相場は、ドルが2年ぶりの高さ、長期金利はほぼ5か月ぶりの高さを維持する中で、トロイオンスあたり2673ドルへと上昇して終えていました。
これは、今週ウクライナが米及び英製の長距離ミサイルでロシア領内を初めて攻撃したのに続き、ロシアが大陸弾道ミサイルでウクライナ領を攻撃したことが伝えられ、地政学リスクの高まりによる安全資産としての金購入が背景となっていました。
本日金曜日金相場は、地政学リスクの高まりでドルが2年ぶりの高さへ上昇する中で、米長期金利は若干下げており、トロイオンスあたり2707ドルと前週の下げ幅を取り戻してさらに上昇し、LBMA価格ベースで4.8%高と今年3月一週以来の大幅な上げ幅をつけています。
この間、ポンド建て金価格は週間で5.8%高と2016年11月にトランプ氏が大統領選で勝利した際以来の上げ幅で、ユーロ建てでは6.1%と今年の4月以来の上げ幅で共に史上最高値をつけています。
これは、ドルが2年ぶりの高さへ強含んだことで他の通貨が大きく下げたこと、また、今週米・英国製の兵器をウクライナが使用してロシア国内を攻撃したことで、昨日プーチン大統領が米・英のようにウクライナに武器を提供している国々をロシアは攻撃する権利があると述べたことも背景となっている模様です。
また、本日発表された主要国の製造業PMIとサービス部門PMIでは、米国は製造業の減少幅が7月以来の小ささで、サービス部門に至っては、2022年3月以来最も急速に拡大していたこと、それに対し、英国の製造業は昨年の10月以来のペースで急速に下げており、サービス部門は1月以来の急落となっていたことも、この流れを強めている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週も中央銀行が10月に金準備を増加していたニュースが続き、トルコ中銀が17トン増と今年最大の金購入をしていたこと、フィリピン中銀は1トン増、キルギス中銀が2トン増、カザフスタンが4トン増としていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に11月12日までのデータが発表されて、トランプ氏の勝利が確定した一週間後に、全ての貴金属でネットロングポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、11%減で614トンと3週連続で減少していたこと。価格は5.0%安でトロイオンスあたり2606ドルと下げていたこと。建玉は6%減と3週連続で9月初旬以来の低さへと減少していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、27%減で3742トンと3週連続で減少して3月初旬以来の低さへ下げていたこと。価格は前週比7%安で、トロイオンスあたり30.41ドルと前々週の12年ぶりの高さから3週連続で下げて9月初旬以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、9月17日からネットロングで、48%減18トンと2週連続で9月半ばの低さへ2020年2月末以来の高さから下げていたこと。価格は前週比4%安でトロイオンスあたり957ドルと2週連続で9月初旬以来の低さへと5月末以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週までに153%増で21トンと2週連続で増加して2022年12月末以来の低さから10月半ば以来の大きさへ増加していたこと。価格は12%安でトロイオンスあたり967ドルと9月初旬以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で8.0トン(0.9%)増で877.97トンと11月初旬以来の高さへ増加し、3週ぶりに週間の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.8トン(0.5%)増で391.62トンと今年2月初旬以来の高さで、2週連続で週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに124.76トン(0.9%)増で14,800.31トンと2週ぶりに週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週84台前半で始まって徐々に上げて、本日金曜日に86台前半で終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1634ドルで始まり、本日1726ドルと9月初旬以来高さへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、月曜日15ドルで始まり、本日74ドルと11月初旬以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格とのディスカウントは11.46ドルと前週の12.50ドルから幅を狭め、10月下旬以来の低さへ下げていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウント。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は20%減で11月初旬以来の低さ、銀は18%減で10月半ば以来の低さ、プラチナは19%減で1月末以来の低さ、パラジウムは26%増で8月末以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月13日から負の相関関係で-0.73と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も11月11日から負の関係へ転換し、-0.81と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は11月5日から負の関係で、前週から-0.70とほぼ同じ水準の相関関係であったこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週金相場は、主要経済指標が比較的少ない中で、米国がウクライナが米国製長射程兵器によるロシア領の攻撃を容認したことによる地政学リスクが市場を動かすこととなりました。
そこで、来週も地政学リスクは注目されますが、米国が感謝祭の休暇に入る前の火曜日にはFOMCの議事録、水曜日には米耐久財受注、米FRBがインフレ指標として注視する個人消費支出PCEコアデフレーターが発表され、金曜日のユーロ圏の消費者物価指数等と共に地重要となります。
詳細は詳細は主要経済指標(2024年11月25日~29日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年11月18日~22日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年11月25日~29日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年11月18日)金価格はコメックスの米選挙後の低迷の中で70ドル回復する
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ウクライナが米・英国製兵器でロシアを攻撃し、それに対するロシアの反応、国際刑事裁判所がイスラエルのネタニヤフ首相とギャラント国防相、ハマスの軍事部門の司令官のデイフ(イスラエルによると死亡したと伝えられている)に対して逮捕状を発行したこと、元労働党副首相のジョン・プレスコット氏が亡くなったこと、本日ロンドンのガトウィック空港が不審物が見つかりターミナルが数時間封鎖されたこと等が大きく伝えられています。
そこで、本日は金市場にも影響を与えているウクライナが米英製兵器を使用したことについて簡単にまとめてみましょう。
先週日曜日に、メディアがバイデン大統領がウクライナがアメリカ製長距離ミサイルでロシア領土を攻撃することを許可したと、匿名の関係者からの情報として伝えていました。
それに対し、ロシアは自国領土への米製ミサイルによる攻撃は、「アメリカとその衛星国がロシアへの敵対行為に直接関与することを意味する」と警告をし、プーチン大統領は核兵器使用に関する同国の政策指針の改定を承認し、核を持たない国が、核保有国の支援を受けている状態で、通常兵器やドローンや航空機を用いてロシアに大規模攻撃を加えた場合、ロシアは核兵器の使用を検討する可能性があると警告していました。
そのような中、ウクライナは19日にロシアをアメリカ製長距離ミサイルで初めてロシア領を攻撃し、20日には英国製長距離巡航ミサイルの「ストームシャドー」で初めてロシア領を攻撃していました。
奇しくも11月19日はロシアによるウクライナ全面侵攻開始から1000日目となっていました。
その後、ロシアは新型の中距離弾道ミサイルでウクライナを攻撃し、プーチン大統領が米・英のようにウクライナに武器を提供している国々をロシアは攻撃する権利があるとも述べています。
専門家の分析によると、今回米英がこの決断に至ったのは、北朝鮮がロシアへの派兵を行ったこと、そして新年に大統領に就任するトランプ氏は早期の和平協議を示唆していることからも、それを前にできる限り有利な立場へ持ち込もうという思惑とされています。
ウクライナ防衛相幹部はBBCのインタビューに答えて、先の米英の決定は喜ぶべきことだが、これまであらゆる米英の協力は要請後に、常に当初は「ノー」と言われながらも、要請を繰り返すことで得てきた。ウクライナは自国を守るロシアとの戦いを続けるが、欧米が欧州や世界をロシアの脅威から守りたいと思うのであれば、ウクライナへの協力は不可欠であることを十分に認識してほしいと、苦渋に満ちた表情で答えていました。
ウクライナへの総援助(軍事、財政、人道援助の合計)において、欧州連合とその諸国がウクライナに最も多くを提供しているのに対し、軍事援助面は米国の支援が突出して多くなっているとのこと。ちなみに、米議会で承認されたウクライナ支援総額は2022年2月から今年4月までに1750億ドル(約270兆円)で、そのうちの698億ドル(約107兆円)は軍事援助であるとのこと。そして、英国においてはウクライナ戦争勃発以来今年10月までに128億ポンド(約2兆5000億円)が総額で軍事面の支援は78億ポンド(約1兆5200万円)。
欧米は経済面と軍事面で多額をウクライナをサポートをしていることは確かですが、ウクライナは常に戦闘上で何らかの制限を欧米からかけられながら戦いを続けている状況ではあったようです。
トランプ氏が就任するまでにウクライナ戦争が何らかの決着を迎える可能性は低いでしょうが、米選挙結果がきっかけに動きが出たことは確かのようです。