金市場ニュース

ニュースレター(2024年10月4日)金価格は良好な米雇用統計で下げたものの中東紛争激化懸念はサポートとなる

週間市場ウォッチ

金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から0.4%安でトロイオンスあたり2652ドルと週間で2週ぶりに下げて前週金曜日に2週連続のLBMA金価格での史上最高値から下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から0.5%高のトロイオンスあたり32.06ドルと週間で3週連続で上昇しLBMA価格では2012年11月以来の高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.9%高のトロイオンスあたり994ドルと週間の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から2.6%安でトロイオンスあたり1004ドルと2週連続の週間の下げとなっています。

週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週金相場は、前週史上最高値の更新を続けていたことからも調整の動きが入り、またパウエルFRB議長が9月のFOMC以降進んでいた大幅な利下げ観測を訂正するコメントをしたことからも押し下げられて始まっていました。

しかし、イランによるイスラエルへの攻撃の可能性が火曜日に伝えられ、実際に攻撃が行われた後は、イスラエルのイランへの報復、それが石油関連施設の可能性となることも伝えられ、原油が昨日今年一番の一日の上げ幅をつけると共に金は週の下げ幅を取り戻して上昇していました。

しかし、この間本日の米雇用統計の先行指標のADP全国雇用者数、そして本日の雇用統計は共に予想を上回り、米国の経済懸念は後退して、FRBの大幅な利下げ観測が後退して長期金利が上昇すると共に金は押し下げられることとなりました。

ちなみに、先の結果ドルは主要通貨建てで強含んでおり、それに加え今週石破新首相が日本銀行の利上げに関して慎重な姿勢を見せたことで日本円が対ドル弱含んでいたことからも、本日日本円で金価格はgあたり12688円と取引時間に史上最高値をつけています。また、イングランド銀行のベイリー総裁はより大きな利下げに触れたことで、英国ポンドがひと月強ぶりの低値へ下げたことで、英国ポンド建ての金価格はLBMA価格ベースで史上最高値を今週4営業日連続で本日もトロイオンスあたり2021ポンドとつけいます。また、ユーロ建て金相場も欧州中央銀行の高官がユーロ圏の雇用の弱さに言及したことでユーロが弱含むことで上昇して最高値を火曜日にトロイオンスあたり2408ユーロとつけています。

本日のチャートとしては、本日の良好な米雇用統計で、市場の年末のFRBの金利観測(青色)が一気に4.28%とFRBの予想の4.40%(赤色)へと近づき上昇していますので、このチャートをお届けしましょう。

市場とFRBの年末のFRBによる政策金利の予想とドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

なお、銀価格は今週12年来の高さをトライしていますが、金の動きや中国の経済刺激策等のサポートもあり週間で上昇をしています。プラチナとパラジウムは、工業用途以外に安全資産の需要等はないために、中国の景気回復はサポートですが、上げ幅は限られています。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、前週金曜日に史上最高値の5営業日更新が止まった後、ドル建てでは木曜日の最高値から一時トロイオンスあたり50ドル強下げた後に、2635ドルで終えていました。

前週までのコメックスの金先物・オプションの資金運用業者のネットロングが評価額としては史上最高等と、買われすぎの傾向が出ていたことからも、調整の売りが進んでいた模様です。

また、パウエルFRB議長が同日の講演で今後の利下げペースについて「急ぐ必要はない」と述べたことも、金を押し下げていました。しかし、高まる中東の地政学リスクからも底値はサポートされていました。

火曜日金相場は、イランがイスラエルに弾道ミサイルを発射する可能性があるというニュースでロンドン午後に上昇して一時トロイオンスあたり2672ドルとつけた後、実際に発射されたというニュースが入ったロンドン時間午後5時から多少下げて2660ドルで終えていました。

同日の動きはほぼ中東情勢によるものでしたが、同日発表された米指標はまちまちなもので、市場注目の米雇用動態調査(JOLTS)求人件数は予想を上回る3か月ぶりの高さでしたが、ISM製造業景況指数は2023年5月以来の低い水準となっていました。

同日の中東のニュースを受けて、ドルと米国債が買われて、ドルインデックスは上げ、債券価格が上昇することで、利回りは下げるという、安全資産需要が高まる状況となっていました。

水曜日金相場は、前日の中東情勢緊迫化で上昇した上げ幅を失ってトロイオンスあたり2641ドルまで一時下げたものの、その後下げ幅を取り戻して2660ドルで終えていました。

同日の下げは、発表された米ADP全国雇用者数が前月比14.3万人増と前回修正値の10.3万人と予想の12.0万人を上回り、FRBによる大幅な利下げ観測が若干後退して、ドル強含み、前日安全資産需要で買われた米国債価格も下げ、利回りが上昇していたことが背景となりました。

中東情勢は、イスラエルが前日のイランのミサイル発射の報復を唱えていることからも警戒感があるものの、昨日下げていた米株価指数は全般上昇していることからも、前日からは緊張は緩んでいました。

木曜日金相場は、中東紛争激化懸念で、ドルと長期金利が安全資産需要で上昇する中でも、トロイオンスあたり2655ドルへと前週末の価格水準まで戻して終えていました。

これは、同日バイデン大統領が、イスラエルがイランの石油施設を攻撃することを支持するかどうか「議論している」と記者団に語ったことが背景となりました。そこで、原油も供給に問題が起こる懸念からも同日5%上昇して年初来の一日の大幅な上げ幅を記録していました。

なお、同日発表された経済指標は、米サービス部門PMIが予想を上回り2023年2月以来のペースで拡大し、ISM非製造業景況指数も予想と前回を上回っていましたが、新規失業保険申請件数は予想を若干上回っていました。

金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が発表され、予想を上回る強いものであったことから、一時トロイオンスあたり30ドルほど下げた後に、トロイオンスあたり2652ドルまで下げ幅を削って推移しています。

米雇用統計は、非農業部門雇用者数は 25.4万人と予想の14万人と前回の14.2万人を上回り、失業率も4.1%と前回と予想の4.2%を下回り、平均時給は前月比0.4%と予想の0.3%を上回り、前回の0.5%を下回っていましたが、前年同月比は4%と予想の3.8%と前回の4.9%を上回っていました。

そこで、FRBの大幅な利下げペースの観測が後退し、11月の利下げ幅は0.25%が9割を超え、前日のほぼ7割から一気に増加し、長期金利が上昇することで金は押し下げられていました。

しかし、中東の紛争激化による安全資産の需要はサポートとなっており、下値では買いが入っている模様です。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週も中央銀行の金購入のニュースが多く入っており、イラクが6月に3トン、7月に1トン購入し、ハンガリーが15.5トン、ポーランドが22トンとワールドゴールドカウンシルが伝えています。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に9月24日までの一週間データが発表され、中国が経済刺激策を発表し、中東の緊張が高まり、すでに3営業日連続で金価格が最高値を更新していた際に、全ての貴金属でロングポジションが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1%増で792トンと引き続き2020年3月初旬以来の水準となっていたこと。価格は2.4%高でトロイオンスあたり2635ドルと史上最高値を記録していたこと。建玉は10.2%増で3週連続で増加して2020年9月29日の週以来の高さとなっていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、8.9%増で7167トンと2022年3月半ば以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比0.7%高で、トロイオンスあたり30.88ドルと7月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、2週連続でネットロングで、44%増で23.7トンと7月初旬以来の高さとなっていたこと。価格は前週比0.6%高でトロイオンスあたり976ドルと3週連続の上昇で7月半ば以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートであったものの、7.8%減で18.6トンと7週連続で減少して昨年12月下旬以来の低さへ下げていたこと。価格は2.4%安でトロイオンスあたり1060ドルと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で5.5トン(0.6%)増で877.40トンと1月初旬以来の高さで前週13週ぶりに週間の減少を記録後に週間の増加傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.69トン増(0.19%)増で372.05トンと8月6日以来の高さであり、7週連続の週間の増加傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに148.96トン(1.02%)減で14,487.30トンと週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週85台半ばで始まり、本日ほぼ83と9月26日以来の低い水準で終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1661ドルと記録が残っている1990年3月以来最大で始まり水曜日に1668まで上昇後、本日1653ドルまで多少下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、23のディスカウントで始まり、本日は4ドルと9月9日以来の低さまで下げて終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)は今週火曜日から来週月曜日までゴールデンウィークの休暇で閉鎖されています。そこで、休暇に入る前日月曜日のロンドン価格とのディスカウント21ドルが今週の平均で2020年12月半ば以来の大きさとなります。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウントで、2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は26%減で6月末以来の低さ、銀は27%減で7月半ば以来の低さ、プラチナは48%減で8月下旬以来の低さ、パラジウムは20%増であったものの、これは前週4月初旬以来の低さとなっていたことから。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月27日から負の相関関係で-0.28と週間では負の関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は6月10日から負の関係へ転換し、-0.20と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、前週から0.92と関係を強めていいたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、本日の米雇用統計を待つ中で、イスラエルとイランの紛争激化懸念も貴金属価格を動かし、本日の良好な雇用統計もまた動かすこととなりました。

そこで、来週も引き続き中東情勢に市場は注目しますが、米FRBの金利引き下げ観測に関わる指標やFRB高官のコメントも引き続き重要となります。そこで、水曜日のFOMC議事録要旨、木曜日の米消費者物価指数、金曜日の卸売物価指数へも市場は注目することとなります。

詳細は主要掲載指標(2024年10月7日~11日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

 

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では引き続きイスラエルとガザ地区のイスラム組織ハマス、レバノンの武装組織ヒズボラ、イエメンの反政府組織フ―シ派、そしてイランとの紛争が大きく伝えられていますが、それに加え野党保守党の党大会とそこで時期党首を狙う候補者のスピーチ、そして昨日はインド洋の英国領チャゴス諸島をモーリシャスに引き渡すことが合意されたことが伝えられていました。

そこで、今週は私も存在すら知らなかったこのチャゴス諸島についてお伝えしましょう。

昨日英国首相とモーリシャス首相が共同声明で発表した合意に至るまで、この交渉は数十年行われてきたとのこと。

今回モーリシャスに引き渡されるチャゴス諸島は、モーリシャス政府によると、1968年にモーリシャスが英国から独立する見返しとしてチャゴス諸島を不法に譲渡させられたとのこと。その背景はチャゴス諸島には現在も英米の軍事基地があるディエゴ・ガルシア島も含まれており、当時これを米国に軍事基地として貸与することを密約していたことが背景とのこと。

英国は1968年以降島民1000人以上を強制移住させたことから、近年英国政府は謝罪をしていたようです。

今回チャゴス諸島をモーリシャスに引き渡すものの、ディエゴ・ガルシア島に関しては、英国は99年間は軍事基地の運営が補償されるとのこと。

今回合意に至ったのは、英国が2016年にEUを離脱して以降、欧州が国際的な場で英国をサポートすることに消極的になったこと。そのような中で、アフリカ諸島が脱植民地化の問題として声を上げたこと等が背景のようです。

また、ウクライナ戦争で多くの国々がウクライナをサポートすることを英国が望む中で、アフリカ諸国を少なくとも敵に回すことは避けたいということなのでしょう。

英国は未だ植民地であったフォークランド諸島、バミューダ、ジブラルタル等の海外領土を多く持っています。特に1982年にアルゼンチンと領有権をかけて戦い英国が勝利した、アルゼンチン沖のフォークランド諸島に関しては、アルゼンチンは未だ領有権を奪回するという姿勢を崩しておらず、今回の合意の影響がどのようなものになるのかが議論されています。

フォークランド諸島は住民が英国に帰属することを望んでおり、英国も簡単にはこの領有権を引き渡すことは無いようですが、歴史を繰り返すような動きとならないことを希望するばかりです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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