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【金投資家インデックス】金投資家は史上最高値で利益確定の売却を進める

金と銀の直近の価格高騰は、世界有数のオンラインで貴金属現物市場を提供するブリオンボールトの個人投資家による利益確定売却に拍車をかけていました。
 
しかし、銀投資家のセンチメントが5月以来初めてマイナスに転じた一方で、金投資家のセンチメントはプラスを維持しており、投資家の金と銀の保有評価額は、米国と英国からの新規顧客数の増加によってドル建てで史上最高を記録しています。
 
実際には金価格が最高値の更新を続けているにもかかわらず、ブリオンボールトにおける月間で金を売却量よりも多く購入したネット購入者数は、ネット売却者数を6ヶ月連続で上回っていました。
 
しかし、「安全資産としての需要」が金相場を過去最高値に押し上げたという考え方は、金現物需要ではなく、金先物やオプションの投機家が貴金属価格を押し上げているという事実を見逃すものでしょう。
 
なぜなら、世界の株式市場が上昇を続け、米国の景気後退が回避されないまでも延期される中、古くから金地金を所有している金投資家は、この記録的な価格で投資利益を確定することに大満足しているからです。
 
金投資家インデックスと月末金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
アナリストや専門家は金価格は通常9月に下落することを指摘していました。
 
しかし、先月金はそのパターンを破り、2012年以来最も急騰した9月となり、ドル建てで4.6%、スターリング建てで2.7%、ユーロ建てで3.8%,、日本円建てで3.2%上昇し、世界の基準価格であるロンドンの貴金属市場協会(LBMA)価格で、米国建てとユーロ建てで9回、英国ポンド建てで7回、新高値を更新しました。
 
これを受けて、ブリオンボールトでは、世界の顧客の9割が北米と西ヨーロッパにいることから、金投資家インデックスは0.8ポイント下がり、52.0と5ヶ月ぶりの低水準となっていました。
 
このブリオンボールト独自の顧客が実際に行ったデータをベースに算出される市場センチメントを表す指標は、その月のネット購入者数とネット売却者数が完全に一致すれば50.0となります。金投資家インデックスは、コロナ危機が起きた2020年3月に65.9という10年来の高値を記録し、今年3月に史上最高値の更新し始めた際に過去最低の47.5を記録し、2019年6月以来初めてネット売却者数がネット購入者数を上回ったことを示していました。
 
金の急激な上昇トレンドの下支えとなっているのは、米国の利下げ開始であり、地政学的リスクを高めているウクライナ戦争や中東の紛争が拡大するリスクからのサポートも加わっています。既存の金投資家が、ポートフォリオのリバランスのために、利益の一部を銀行に預ける一方で、売りのペースは、金が史上最高値を更新しているにもかかわらず、依然として緩やかであり、新規の買い手が市場に参入し続けていることも見られています。
 
重量ベースでは、ブリオンボールトを利用している投資家は、先月合計で353キログラムの金地金を売却し、4月の記録的な992キログラムの減少量以来の規模となり、総量では50ヶ月ぶりの低水準となる44.5トンを下回っています。
 
しかし、評価額ベースでは、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒでそれぞれの顧客が選択した専門保管場所で安全に保険が掛けられて貯蔵されている保有資産は、3.8%増の37億ドルを超え、新記録を達成していました。。(ポンド建てで2.0%増の28億ポンド、ユーロ建てで3.0%増の33億ユーロ、日本円建てで5300億円と新記録。)
 
9月のブリオンボールトの新規顧客数は、8月の4ヶ月ぶりの高水準から6.5%減少したものの、前年同月を118.4%上回り、12ヶ月平均からは29.0%増加していました。
 
その中で、米国と英国における新規顧客数は、4月以来の高水準となり、それぞれ8月の数値から20.0%と5.5%増加し、前年同月比75.6%と44.6%増加していました。
 
これとは対照的に、ユーロ圏の新規顧客数は前月比25.6%減となり、フランスが36.0%減、イタリアが45.5%減となっていました。
 
そのため、今春のイタリアとフランスの短期的な増加と同様に、米国と英国の初回地金購入者の急増は、短期的な国内の不確実性に特化しているように見えます。今月末に予定されている英国の予算案は、労働党新政権の税制と歳出計画に対する消費者、企業、投資家の不安を高めていることは確かのようです。
 
銀投資家インデックスと月末銀価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
銀価格も通常9月に下落する傾向があり、2023年までの10年間のうち8年間で下落していました。
 
しかし、金と同様に、より工業的に使用される貴金属である銀は、先月価格が急騰し、ドル建てでは8.3%上昇し、2012年のクリスマス以来の高値を記録した一方で、英国ポンド建てでは6.5%、ユーロ建てでは7.4%上昇していました。
 
これを受けて、銀投資家インデックスは4.2ポイント下落の48.9と4ヶ月ぶりの低水準となり、5月以来初めてネット売却者数がネット購入者数を上回っていました。これは、銀相場が先月11年以上ぶりにトロイオンスあたり32ドルを超えたものの、その水準を維持できないまま下げたことが背景となっていました。
 
銀相場は、9月に12年ぶりの高値を付けたため、投資家は銀を12.0トン売り越していました。これは、5月以来の大規模な減少となり、顧客の総保有量は1,167トンに減少していました。
 
しかし、評価額においてはドル建てでは8月より4.3%増の11億ドルとなり、ブリオンボールトの銀地金総保有量の新記録をつけていましたが、ポンド建てでは2.4%増の8億6,500万ポンド、ユーロ建てでは3.3%増の10億ユーロ、日本円建てで1580億円でしたが、いずれも5月のピークを下回っていました。
 
しかし、投資家の売却ペースを上回る価格の上昇により、ブリオンボールトの顧客の保有総評価額は、9月に米国ドル、英国ポンド、ユーロ、日本円建てにおいて新記録となる50億ドル(37億ポンド、44億ユーロ、7160億円)に達していました。
 
それでは、今後もこの傾向は続くのでしょうか。先月金の最高値がトロイオンスあたり2680ドル(2000ポンドと2400ユーロ)を超えたことが、1980年の新年や2011年の夏、あるいは2020年の夏のような長期的に続くとは考えずらいでしょう。
 
それは、「安全な逃避先としての需要」という話とは裏腹に、欧米の投資家は貴金属を買うのではなく、未だ貴金属投資に緊急性を見出していないからです。
 
欧米の投資家が再び貴金属投資を始めたらどうなるかを想像してみてください。次の総評価額50億ドルは、今回の50億ドルよりもずっと早く達するかもしれません。
 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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