金市場ニュース

ニュースレター(2024年10月11日)金価格はFRBによる大幅利下げ観測が後退する中でも堅固に推移

週間市場ウォッチ

金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格とほぼ同水準の0.02%高でトロイオンスあたり2651ドルと週間で若干上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.8%安のトロイオンスあたり31.16ドルと週間で3週ぶりに下げで前週のLBMA価格では2012年11月以来の高さからも下げています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.6%安のトロイオンスあたり976ドルと2週連続の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から6.5%高でトロイオンスあたり1073ドルと9月末以来の高さへ上昇しています。

週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属市場は、米連邦準備理事会(FRB)による利下げペースが落ちる観測と地政学リスクの高まり(もしくは後退)等の要因で動くこととなりました。

FRBの利下げペースは前週の米雇用統計が良好であったことで、一気に大幅なものから小幅なものへと観測が変化しましたが、その後昨日の米消費者物価指数が予想を上回り、本日の米生産者物価指数も前年同月比では若干上回っており、大幅な利下げ観測は後退しています。

しかし、木曜日の新規失業保険申請件数が1年以上ぶりの高さであったことや、同日FRBの高官がインフレについての懸念を示さず利下げ継続を示唆したこと、利下げペースが小幅なものでも継続する観測を広げ、また2600ドルを割らなかったことで、センチメントは改善されたことからも週半ばの下げ幅を削っている模様です。

また、中東情勢は引き続き紛争拡大の懸念もあり、金の安全資産の需要はサポートとなっている模様です。

今週のチャートは、ドル建てにおいては今週調整の動きが出ていますが、これはFRBの大幅な利下げ観測が後退することでドルが強含んだことが背景となっていますので、対ドルで弱含んでいる日本円建てを含む英国ポンドやユーロ等の主要通貨建てにおいては引き続き史上最高値圏内にありますので、主要通貨建ての金価格の推移をお届けしましょう。

年初来の上げ幅は本日までに、ドル建てで27.5%(深緑)、英国ポンド建て24.3%(ピンク)、ユーロ建て30.2%(青)、日本円建て34.6%(赤)となっています。

主要通貨建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

銀価格は前週12年ぶりの高さへ上昇後維持できなかったことからも、下げ幅を広げることとなりました。プラチナは引き続き中国の需要減少の懸念がある模様ですが、パラジウムについては市場規模が他の貴金属よりも小さいことからも、投機的な動きボラティリティが高まることとなります。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金価格は前週金曜日の良好な米雇用統計で下げた基調を受け継いだものの、昨年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃から一年を経て、イスラエルのイランへの報復等の地政学リスクが高まっていたことからも、金価格はその狭間での動きとなり、トロイオンスあたり2659ドルを一時つけた後に上げ幅を失って2643ドルで終えていました。

この間原油価格は直近では中国経済停滞による需要減懸念が、地政学リスクの高まりを上回っていたものの、中東の紛争激化による供給への悪影響を背景に前週10%近くへ上昇した基調を同日も受け継いで、バレルあたり80ドルを超えて終えていました。

火曜日金相場は、市場の年内のFRBの利下げ観測が大幅なものから小幅へと変わる中で、米長期金利が8月上旬以来の高さへ上昇し、一時トロイオンスあたり2605ドルと9月20日以来の低値へ一時下げて、2622ドルまで戻して終えていました。

同日は主要経済指標等も無かったことから、前週の米雇用統計等の良好な米経済指標によって、それまでの市場のFRBの年内0.75%以上という大幅な利下げ観測が調整され、FRBの予想の0.50%へと近づいたことで、金価格が下げることとなりました。

なお、同日中国は一週間のゴールデンウィークの休暇を終え市場に戻ったものの、追加の緩和策は発表されず、中東関連ではレバノンの武装組織ヒズボラが休戦の準備があると述べたことが伝えられていたことからも、中国の需要停滞観測と地政学リスクが後退したことも、金にとってはネガティブ要因とはなっていたようです。

水曜日金相場は、翌日の米消費者物価指数と同日夜のFOMCの議事録発表を待つ中で、前日一時つけた3週ぶりの低さのトロイオンスあたり2605ドルをつけて2608ドルで終えていました。

FOMCの議事録は数名が0.25%の利下げを支持していたものの、大多数が0.50%の利下げを支持し、全ての参加者が利下げを支持していたことが明らかとなり、想定よりもタカ派的ととらえられた模様で、長期金利は8月以来の高さへ上昇していました。

なお、同日はS&P 500種は終値で今年44回目の史上最高値をつけていました。ちなみに金価格はドル建てLBMA価格(世界指標)ベースで31回史上最高値をつけており、この米株価指数との相関関係が非常に近くなっています。

木曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数と新規失業保険申請件数の発表後に神経質な動きをした後に上昇に転じてトロイオンスあたり2633ドルで終えていました。

米消費者物価指数は、コアにおいて前月比0.3%と前回と予想の0.2%を上回り、前年同月比は3.3%とやはり前回と予想の3.2%を上回っていました。そして、同時に発表された新規失業保険申請件数は25.8万人と2023年8月以来の高さとなっていたことに、金は当初反応したものの、しつこいインフレはFRBの利下げペースを遅らせる観測からも、ドルと長期金利が上昇し、上げ幅を削りましたが、その後は緩やかに上昇をすることとなりました。

同日は、FRB高官(ウィリアム・ニューヨーク連銀総裁、グールズビー・シカゴ連銀総裁、バーキン・リッチモンド連銀総裁)は、インフレは引き続きFRBの目標に向かっているために、利下げを続けるというもコメントをしていましたが、ボスティック・アトランタ連銀総裁は、金利据え置きの可能性に触れていました。

ちなみに、年末のFRBの政策金利予想は0.4%と若干ながら残り2回のFOMCで利下げが行われないという観測も同日から出ていました。

本日金曜日金相場は、米卸売物価指数が発表されてまちまちな内容であったことから、ドルは若干下げて長期金利は上昇する中で、トロイオンスあたり2647ドルへと上昇して推移しています。

この指標では、前年比は0.0%と予想の0.1%と前回の0.2%を下回ったものの、前年同月比では1.8%と前回修正値の1.9%からは下げたものの予想の1.6%を上回っていました。そして、コアは前月比0.2%と前回から下げ、前年同月比は2.8%と前回修正値と予想も上回っていました。

グールズビーシカゴ連銀総裁、ローガン・ダラス連銀総裁、ボウマンFRB理事が本日スピーチをする予定となっています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

 

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に10月1日までの一週間データが発表され、イランがイスラエルへの攻撃を計画しているというニュースで金価格が上昇し、実際にミサイルが発射されて価格が上げ幅を削った際に、プラチナを除く全ての貴金属でロングポジションが減少していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、2.3%減で774トンと3週ぶりに減少して2020年3月初旬以来の高水準から下げていたこと。価格は1.2%高でトロイオンスあたり2667ドルと史上最高値を記録していたこと。建玉は7.9%減で3週ぶりに減少して2020年9月29日の週以来の高さから下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、16.7%減で5969トンと2022年3月半ば以来の高さから減少していたこと。価格は前週比1.6%高で、トロイオンスあたり31.36ドルと5月末以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、3週連続でネットロングで、25.1%増で29.7トンと5月末以来の高さとなっていたこと。価格は前週比1.4%高でトロイオンスあたり990ドルと4週連続の上昇で7月上旬以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、29.1%増で24.0トンと7週ぶりに増加して昨年12月下旬以来の低さから増加していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で全く変化がなく876.26トンであること。前週は金曜日に1月初旬以来の高さから0.1%減少したものの、週間の増加。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で2.49トン増(0.67%)増で375.78トンと8月6日以来の高さであり、8週連続の週間の増加傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに126.24トン(0.87%)増で14,634.81トンと週間の増加傾向。
  • 金銀比価は、今週83台前半で始まり、木曜日に9月後半以来の高さの85台前半まで上昇して、本日ほぼ84半ばへ戻して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週火曜日に1675ドルと記録が残っている1990年3月以来最大で始まり、本日は1662ドルまで下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、35のディスカウントで始まり、本日は100ドルと9月24日以来の高さまで上げて終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)は今週火曜日からゴールデンウィークの休暇を終えて市場が再開し、週間のロンドン価格とのディスカウントは、ほぼ27ドルと2020年11月末以来の大きさであったこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウントで、2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は2%増で前週の6月末以来の低さから若干増加し、銀は6%減で7月半ば以来の低さ、プラチナは10%増で前週の8月下旬以来の低さから増加し、パラジウムは1%増であったものの、引き続き前々週の4月初旬以来の低い水準。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は10月7日から正の相関関係で0.30と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も10月7日から正の関係へ転換し、0.30と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、前週から0.69と関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、前週の良好な雇用統計でFRBによる年内の大幅な利下げペースの観測が後退し、また中東情勢ではレバノンの武装組織ヒズボラが休戦の準備があると述べたこともあり、安全資産の需要も後退する中、米消費者物価指数と卸売物価指数で市場は動くこととなりました。

そこで、来週も引き続き中東情勢や米FRBの利下げ観測に影響を与える経済指標やイベントへ市場は注目することとなりますが、木曜日に欧州中央銀行の政策金利が発表され、その直前には消費者物価指数等も発表され、これらも重要となります。

詳細は主要経済指標(2024年10月14日~18日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

 

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続き中東の紛争についてがトップニュースで伝えられていますが、ウクライナのゼレンスキー大統領が英国及び欧州主要国を訪問していたこと、野党保守党の党首選で最終の2名の候補に絞られたこと、そして米国のフロリダ州に上陸した大型ハリケーンのミルトンについても大きく伝えられていました。

そのような中、テニスの4大大会のウィンブルドン選手権の主催者オールイングランド・クラブが、147年の歴史の中で初めて、来年の大会から予選を含む全試合で電子機器による自動オンライン判定(Electroic Line Calling:ELC)を導入すると発表していましたので、ご紹介しましょう。

ご存じのようにウィンブルドンは英国の夏の風物詩で、毎年6月の最終月曜日から2週間の日程で開催され、6月第3週のイギリス王室が主催するロイヤルアスコット競馬レース、そして、7月末の大英オープン選手権(ゴルフ)と共に、長年続いている伝統のスポーツイベントです。

すでに、全豪オープンと全米オープンでは、自動オンライン判定(ELC)が採用されていて、男子プロテニス協会では来年からすべてのツアー大会で導入する方針とのこと。

オールイングランド・クラブでは、今年の選手権でテストを行った結果とのことですが、この決定は長い期間検討と協議がされたとのことです。

すでに2007年に導入されたホークアイ・テクノロジーは、プレーヤーが線審の判断に「チャレンジ」をした際に見直す機会を与えていました。

そして、自動オンライン判定(ELC)は、2020年のパンデミック以降、社会的距離を取る必要性もあり普及が進んだとのこと。

線審はウィンブルドン選手権の伝統の一つでもあることから、オールイングランド・クラブのボルトン最高責任者は、「伝統と革新のバランスを取る責任を重く受け止めている」とのコメントを発表していました。

個人的には、現在は解説者として活躍している米テニスプレイヤーのジョン・マッケンロー氏がラインコールの判断に「You cannot be serious!」と挑戦したこと等を思い出し、一つの時代が終わることになると寂しさも感じますが、正確さや効率性等を考えれば仕方がないことなのでしょう。

今週はスペインのテニスプレーヤーのラファエル・ナダル選手が引退することが伝えられていますが、英国のアンディー・マリー選手の引退と共に、テニス界は新たな時代へと移行する時期なのかもしれません。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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