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2023は、金、銀、プラチナ価格にとって大きな年となるのか

新年早々、2023年の予想が大きく外れています。
 
貴金属価格は、1月に上昇する傾向があります。
 
2023年までの過去20年間に14回、金と銀の価格はドル建てで新年に上昇しています。プラチナは、18回もドル建て価格が上昇しました。
 
2023年の新年もまた、この傾向を周到しながらも劇的に変化しています。12月の急騰に続き、1月第一週の動きは非常に力強く、昨年末に行った2023年を予想するアンケートでブリオンボールトが予想した通年の上昇の半分を、金はすでに達成していました。
 
銀は、2023年も利上げを続けるという米連邦準備制度理事会の公約を裏付ける強い米雇用統計にも逆らい、個人投資家によるこのアンケートの2023年平均価格予想の3分の2を1月に既に達成してさらに上昇していました。
 
一方、プラチナはブリオンボールトの調査による2023年の平均価格予想の上値を推移し、パラジウムは対照的に、未だ上げ渋っています。
 
ブリオンボールトの顧客による2023年貴金属価格予想 出典元 ブリオンボールト
 
2023年に金、銀、プラチナがすでにここまで動いていたことから、プロのアナリストの予想もまた同様に破られていることでしょう。
 
しかし、銀価格が昨年全体で少し下落した一方で、金価格は再び目覚ましい12ヶ月を背景に2023年を迎えました。
 
昨年金価格はドル建てで年間平均で3年連続で上昇しました。一方、銀価格は3年連続の上昇の後、3.4%下落しました。
 
一方、ユーロ建ての金価格は、ロシアのウクライナ侵攻を受け、3月にトロイオンスあたり1900ユーロを超える史上最高値を記録し、2022年に4年連続で年末の最高値を更新しました。
 
また、円建て金価格も、日本の通貨が為替市場で下落したことにより、これまでの最高値を更新しました。そして、英国建て金価格は2020年8月の新型コロナウィルス感染第一波の際の史上最高値の1580ポンドを2度更新していました。
 
そこで、2021年を11.5%上回る£1458と、年間平均の新記録を打ち立てていました。
 
ドル建て、£建て、ユーロ建て年間平均金価格の推移 出典元 LBMAのデータからブリオンボールトが作成
 
さて、金の年間平均ドル価格は、その前の12ヶ月の新高値からわずか1.60ドル上昇しただけで、2023年になりました。
 
しかし、史上初めてトロイオンスあたり1800ドルを超えた金利を生み出さない金は、1980年以来の米国政策金利の急騰(ポール・ボルカー率いるFRBが「システムからインフレを引きずり出し」、金価格は当時の史上最高値から下落)にも、長期債利回りの急騰にもめげない強さを見せました。
 
ある金地金専門トレーダーによれば、この回復力は2023年の「 最も強気なシグナル」であることは間違いないとのことです。
 
では、次に何が来るのでしょうか。
 
昨年末に行われたブリオンボールトの顧客投票に回答した1,800人以上の回答者の予想によると、2023年の金と他の貴金属の主要な価格要因として、金融政策が27.7%と最も高く、インフレ(17.8%)、政府財政赤字の規模(16.8%)と続き、次に地政学的な要因が続くとされていました。
 
地政学を第1位に挙げた回答者は14.4%で、3年ぶりの高水準となった7月調査の18.1%を下回り、過去8年間の長期平均の21.2%を大きく下回っています。
 
このように、2023年の地金市場の動向は、2022年の現実を反映しています。
 
戦争、インフレ、株式市場の急落は、貴金属にとって完璧な嵐のように聞こえるかもしれません。
 
しかし、現物の地金は金利収入を伴わないため、先に述べた金利の上昇は、これらの要因を相殺するように働きました。
 
金と銀は先のようなことから上値は抑えられながらも、エネルギーセクター以外の流通資産の中で唯一、生活費高騰に対応、もしくはそれ以上のパフォーマンスを見せて、実質的な価値を保持する資産として理解されています。
 
インフレ率は公式データでは低下していますが、数十年にわたる高水準からはまだ後退していません。そのため、世界的な大不況の脅威は明らかであるにもかかわらず、債券市場価格はともかく、中央銀行の金利は、もちろん米国FRBが主導して、もう少し上昇し続ける可能性が高いと言えるでしょう。
 
この2023年のスタグフレーションのコンセンサスを考えると、なぜ貴金属を貯蓄や投資の一部として利用するのでしょうか。
 
ブリオンボールトの顧客調査によると、貴金属投資家は、平均して自己投資資産のほぼ5分の4を他の資産で保有しています。そのため、2023年の経済的な懸念事項の第一位は、半数(48.9%)がインフレである一方、現物金銀地金に投資する理由の第一位は、リスク分散とポートフォリオの多様化(37.6%)であり、生活費高騰を抑えるため(34.8%)に次いで多いことがわかります。
 
ここでも、貴金属が投資家のリスク分散とインフレによる打撃の軽減に貢献したため、2022年はこれらの目的のために明確なモデルを設定しました。
 
実際、「標準的な」英国の投資ポートフォリオを株式で60%、債券で40%に分割した場合、過去半世紀の間、年間わずか0.6%のリターンにしかなりませんでした。
 
これは、少なくとも1970年以降で最悪の5年間のパフォーマンスとなります。
 
しかし、そのポートフォリオのわずか5%を金に替えるだけで、平均年間リターンは1.1%に上昇するのです。
 
そして、株式と債券を60:40で保有していた場合、2022年の1年間の損失は8.3%と大きなものですが、インフレーションが高騰する前に10分の1を金、もう10分の1を銀で保有していれば、3.9%に半減していたのです。
 
そのために、ロンドンのMail on Sunday紙のジェフ・プレストリッジ氏は、 ブリオンボールトの英国ポートフォリオ分析を引用し、「分散投資は有益である」と述べているのです。
 
現状では、金融市場全体が恐怖と疑念に満ちているため、金と銀は2023年の典型的な新年を迎え、弱い成長、強いインフレ、地政学の悪化の見通しを持つトレーダーからの投機資金が流入していました。
 
しかし、この価格高騰は、欧米の投資家の現物への新規流入を引き寄せてはいないのです。
 
金ETFの残高は、2年連続で縮小した後、2023年までほとんど変化していません。そして、ブリオンボールトの顧客は、金と銀地金において利益確定を進めています。
 
そして、2022年末の記録的な高値から、顧客の金及び銀地金の保有量を減少させています。
 
高値で利益確定を行うのは理にかなっています。しかし、もしこの価格が、先物・オプション市場の投機的資金と1月22日の旧正月を控えた中国の強い輸入需要がある中で下げることがなければ、分散投資を取り戻すには、より高い水準の価格で買い戻さなければならないことになるのです。
 
プロのアナリストがどのように考えているかは別としても、ブリオンボールトを利用する顧客は、2023年の金、銀、その他の貴金属の先行きを先のように予想しているのです。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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