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【金投資家インデックス】危機の無い価格の急騰で個人投資家は購入を抑えて利益確定の売却を進める

金取引の買い手と売り手の比率が43ヶ月ぶりの低水準になっていました。
 
先月、金地金価格を上昇させた金地金を購入した人々は、ブリオンボールトでは取引をしていなかったようです。
 
また、金・銀地金に裏付けされた上場信託(ETF)やコインや小型地金の需要も増加していませんでした。
 
この間、金価格が新型コロナウィルスの感染の第一波後に史上最高値をつけて以来の速いペースでの価格の上昇からも、個人投資家は利益確定の売却を進めていました。そして、この金価格の高騰からも、新たに金を購入することを躊躇させ、先月は、ブリオンボールトの新規顧客数は過去13年間で最も低い月となっていました。
 
そこで、ドル建て金地金価格が月間平均で5.7%上昇する中、顧客の購入分を差し引いた売却量は先月1/3トンと、過去3ヶ月間の増加分をほぼ失っていました。ちなみに、この上げ幅は、2020年8月に金価格がトロイオンスあたり2075ドルと史上最高値に達して以来最も大幅な上げ幅でした。
 
英国の投資家にとっては、1月の月間平均金価格は英国ポンド建てで5.5%上昇し、過去最高値を更新し、ユーロ建てでは3.8%上昇と過去10ヶ月で最も早いペースの上昇となっていました。
 
この背景は何なのでしょうか。
 
2023年年初の金の高騰は、投資家に現物地金を購入させるような新たなショックや危機がない中のことでした。これは、2020年のコロナ危機や昨冬のロシアのウクライナ侵攻とは対照的で、中央銀行間の謎の買い手の話や米国FRBが近い将来に利上げから利下げに金融政策を転じるという期待から、金の派生商品市場における投機的取引が増加していたことが背景にあるようです。
 
金投資家インデックスと月間平均金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
金現物投資においては、先物市場の動きとは対照的となっていました。
 
現在175カ国の10万人以上のユーザーが39億ドル(32億ポンド、36億ユーロ、5210億円)相当の貴金属を保管しているブリオンボールトで、先月金の売却を選択した人の数は、12月の数値から81.4%急増し、2020年1月のコロナ危機前に価格が急騰して以来の最も急激な上昇となっていました。これは、ロシアのウクライナ侵攻によりドル建て金価格が2020年夏の史上最高値から1.0%に迫る上昇を見せた2022年3月以来の金の売り手数の増加率となっていました。
 
一方、買い手の数は4ヶ月連続で減少して4.7%減と、米国の景気後退への懸念から連邦準備制度理事会が当時11年ぶりの高水準であった2.50%から利下げに転じた2019年7月以来の少なさとなっていました。
 
そのために、金投資家インデックスは2.7ポイント下げて50.6と、2019年6月以来の低い数値となっていました。
 
この指数は、2020年3月に新型コロナウィルスの感染が世界的に広がった際に10年ぶりの高値となる65.9を記録していました。この数値が50.0を下回ると、月間で売り手よりも買い手が多いことを示すことになります。
 
現物を投資する人々にとってより緊急性の高い要因がないため、金の現在の下げは、新規の資金流入を誘うために、ここからもう少し下げ幅を広げる必要があるかもしれません。ブリオンボールトで利益確定の売却が進んだように、金貨と小型の地金への需要はこの価格では急激に下げて、金ETFにおいては資金の流出が続いています。
 
ブリオンボールトの顧客は、1月に全体で購入した金地金よりも0.3トン多く売却したため、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒで保管されている金の総量は、12月の史上最高値から0.7%減少し、29億ドル(24億ポンド、27ユーロ、3890億円)相当の47.8トンへと減少していました。
 
一方、鉱山業界のワールド・ゴールド・カウンシルがまとめたデータによると、株式市場に上場している金ETFの残高は1月にさらに0.5%減少し、9ヶ月連続で資金流出が記録されて、全体の保有量はほぼ3年ぶりの低水準となっていました。
 
コインと小型の地金を販売する業界からのデータはあまり自由に入手することはできませんが、米国造幣局の報告によれば、先月は2022年1月と比較して、アメリカンイーグル・コインの形態で、金が10%、銀が21%減少し、欧州と北米のいくつかの小売業者は通常人気のある製品を「安売り」にしていたとのことです。
 
銀投資家インデックスと月間平均銀価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
銀価格は、米ドル建てでは2.2%上昇しましたが、ユーロ建てでは9ヶ月ぶりの高値ながらも0.4%の上昇にとどまりました。
 
このように、銀価格は金価格と比較すると上げ幅は限られていたことから、ブリオンボールトの銀購入者数は、12月の43ヶ月ぶりの低水準から42.8%増加し、売却者数は12月の9ヶ月ぶりの高水準から28.1%減となっていました。
 
その結果、銀投資家インデックスは、51.0となり、前月の新安値から3.5ポイント上昇していました。
 
しかし、ブリオンボールトの顧客は、全体で3ヶ月連続で銀の売り手となり、保有量の0.8%を減少させて、その保有量は、過去最高だった10月から2.0%減少し、918億ドル(745億ポンド、8470万ユーロ、1210億円)相当の1242.4トンとなっていました。
 
先をまとめると、金と銀は、消費者がこの高値に慣れ、米国のデータがFRBの金融政策転換への期待を裏付ける、あるいは否定する中で、上昇と下降を繰り返し、トレーダー向けの市場にとどまることに変わりはないでしょう。
 
 

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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