【金投資家インデックス】金価格が記録的な高値を付けても「ゴールドラッシュ」は起きていない
金投資は、金地金、金のETF、金貨で相対的に減少しています。
コロナ危機、ロシアのウクライナ侵攻、米国銀行のミニ危機、そしてイスラエルとハマスの紛争のニュースを経て、金が危機時に価格が高騰することは確かであるようです。
しかし、多くのメディアの見出しで伝えられているゴールドラッシュとは裏腹に、金の現物市場では利益確定売りが続いており、コメックス先物・オプション市場での投機的な賭けが、目先の価格の方向性を決定する傾向が高まっています。
それは、ハマスのイスラエルへのテロ攻撃とそれに続くイスラエルのガザへの砲撃と侵攻の中、前月価格が多くの主要通貨建てで史上最高値を記録し、人々が過去4年間で最も速いペースで利益確定の売却を行い、金現物への投資はネットでマイナスとなっているためです。
10月のドル建て金価格は月末価格で、トロイオンスあたり1997ドルと6.8%上昇し、過去最高を記録しました。
英国のポンド建て金価格は7.4%高の1645ポンド、ユーロ建て金価格は6.5%高の1883ユーロ、日本円建てで8.3%高でgあたり9727円と、中国元を含む他の主要通貨建てにおいても、月末価格で史上最高値を記録していました。
金投資家の反応を見ると、先月ブリオンボールトで金地金の購入を選択した人の数は、9月の4年ぶりの低水準から16.4%増加しましたが、売却者数は69.3%急増していました。
これは、シリコンバレーバンクの破綻がきっかけで起きた米国地方銀行の危機が金価格を史上最高値へと急騰させた3月以来の高い数値でもありました。そこで、世界でも有数のオンラインの貴金属現物市場を提供するブリオンボールトにおける、個人投資家の実際の取引行動を基に算出された独自の指標である金投資家インデックスを1.4ポイント下げて51.8とし、1月の3年半ぶりの低水準であった50.6以来の低水準となっていました。
50.0という数値は、その月に金の保有を開始または追加した人の数と、保有を縮小またはすべてを売却した人の数が完全に一致したことを意味します。金投資家インデックスは、コロナ危機が始まった2020年3月に65.9の10年来のピークを記録し、50を下回ったのは2019年6月の49.1が最後となっています。
金地金とは対照的に、世界の株式市場は10月にかけてドル建てで3.0%下落し、MSCIワールド指数では3ヶ月連続の下落となっていました。また、欧米の主要国債価格も下落し、米国債の長期価格は月間で5.8%下落していました。
つまり、再び危機が発生し、他の資産クラスが下落する中で金価格が急騰し、金融システムの保険としての貴金属の位置づけが再度認識されたのでした。しかし、個人投資家は、急いで金を購入するのではなく、この直近の記録的な高値を利用して利益を上げ、全体のポジションを調整しています。
ブリオンボールトの顧客全体では、先月1日平均で購入量よりも67.2%多い金地金を売却しており、10月の購入量を差し引いた売却量は合計470キログラムとなり、2019年6月(775キログラム)以来の1ヶ月の保有量減少となっていました。
その結果、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、トロント、チューリッヒの中から顧客が選択した、専門保管場所で安全に保険が掛けられて保管されている金地金の総量は、1.0%減少し、2022年5月以来最も少ない47.4トンとなり、8月末の過去最高を1.5%下回ることとなりました。
しかしながら、これらの金地金の保有額は、ドル建てで5.7%増の30億ドル(ポンド建てで6.4%増の25億ポンド、ユーロ建てで5.5%増の28億ユーロ、日本円建てで7.2%増の4610億円)と過去最高を更新し、金地金の12ヶ月平均価格は、史上初めてトロイオンスあたり1900ドルを超え、4年連続で年間平均記録を更新する勢いとなっています。
その他の現物地金の流れはどうなっていたでしょうか?
金価格に連動する上場商品は、現在5ヶ月連続で残高を減少させており、世界最大規模の金ETFであるSPDRゴールドシェアと第2規模のiShareゴールドの残高は、2020年初めのコロナ危機が以前の規模へと縮小しています。
欧州と北米のコインショップは、顧客がこの史上最高値で売るため、中古品で溢れているととのこと。過去10年来の最も高い金利を銀行が預金に対して提供しているために、新規の購入者は急落しているとのことです。
たしかに、世界最大の金消費国の中国の家庭の金需要は堅調に推移していますが、金消費が多く行われるディワリ祭を控えた世界第2の消費国であるインドにおいては、この価格での金需要は控えめであるのとことです。そして、中央銀行が(中国人民銀行を筆頭に)記録的に金準備を積み上げて金価格を支え続けている一方で、10月のトロイオンスあたり2000ドルを超える上昇の真の原動力は、コメックスの金派生商品取引における大きなポジションの転換が背景となっていました。
ヘッジファンドやその他の投機筋は、10月7日のハマスのイスラエルへのテロ攻撃直前と直後も空売りを続けていました。そこで、ヘッジファンドやその他の投機筋は、その後急激にショートカバーをせざるを得なくなり、先物・オプションのネットの強気ポジションを記録的なペースで増やしていました。
過去5年間の銀投資家指数と月末銀価格の比較(米ドル建て)。出典 ブリオンボールト
金とは対照的に、銀投資家インデックスは10月に上昇し、0.9ポイント上昇して51.6と4ヶ月ぶりの高水準となっていました。
投資家の購入量を売却量から差し引くと、ブリオンボールトの顧客は全体で3.0トンの銀地金を追加保有し、過去12ヶ月で5ヶ月目の銀地金の流入となりました。その結果、ロンドン、シンガポール、トロント、チューリッヒから選択した顧客の銀地金の保管量は、合計で1,243.7トンとなり、15ヶ月ぶりの低水準であった9月から0.2%増加していました。
10月のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃とそれに続くイスラエルのガザ侵攻は、ブリオンボールトにおける新規顧客数を9月の数値から26.8%増加させていました。
しかし、それでもなお、10月の新規顧客数は、ユーロ圏で16.7%減、英国で39.2%減、米国で61.8%減となり、12ヶ月間の平均と比較すると30.6%下回っていました。
結論は、金利上昇と記録的な金価格の高騰が重なり、既存の投資ポジションがリバランスのために縮小される中、貴金属への新規投資が制限されていることとなります。そして、多くのメディアの見出しが伝えることに反して、中東から悲惨なニュースは、まだ、投資地金市場の足かせを外していないのです。