金市場ニュース

ニュースレター(2022年8月19日)FOMC議事録発表後のFEB高官によるタカ派的コメントで金は3週ぶりの低値へ

週間市場ウォッチ

今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1752ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から2.2%安と、4週ぶりの週間の下落で7月28日以来の低さへ下げています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から5.11%安のトロイオンスあたり19.23ドルと7月27日以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.3%安のトロイオンスあたり906ドルと4週ぶり下げで8月3日ぶりの低さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.7%安のトロイオンスあたり2132ドルとやはり4週ぶりの下げで、今週火曜日に既に達した8月8日以来の低い水準となっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属市場は水曜日の7月FOMC議事録を待つ中緩やかに下げていましたが、議事録内容は比較的ハト派的とも捉えられる内容であったものの、その後FRB高官が続けてタカ派的発言を発したことで、FOMC議事録後の利上げペースが緩やかになり来年には利下げもあるという楽観的見方が一気に後退して大幅な利上げペースでより長い継続の観測が戻ってきており、貴金属は軒並み大きく下げることとなりました。

そこで、本日のチャートとしては、将来のFRBによる市場の利上げ予想が数値で見ることができるCMEのFedWatchツールで一月前、一週間前、昨日、本日の予想の変化を比較をお届けします。ここで、9月のFOMCにおける0.75%以上の利上げが予想(目標値3.00%~3.25%)が一月前にほぼ70%、一週間前に45%、昨日41%まで下げた後に本日再び45.5%へと増加しているのに対し、0.50%利上げが、一月前に30%、一週間前に55%、昨日59%まで上げた後に、本日54.5%と減少していることがご覧いただけます。

CMEのFEDWachツールによるFRBの金利予想

なお、この間工業用途の高い銀、プラチナ、パラジウムは、今週中国の経済指標が悪化していたこと、また主要中央銀行の早い利上げペースによる世界的景気後退の懸念もあり、金よりも大きい下げ幅となっています。

日々の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金相場は、前週の予想を下回る米消費者物価指数後の上げ幅をほぼ失いトロイオンスあたり1778ドルへと下げることとなりました。

これは、前週後半にFRB高官が継続的なインフレの改善が見られない限り今後も利上げが必要とタカ派的コメントを発していたこと、そして中国の経済データ悪化して、中国人民銀行が予想外の金利引き下げを行うなど、中国経済悪化への懸念が下げの背景となりました。

しかし、同日ロンドン昼過ぎ発表のNY連銀製造業景気指数が大きく予想を下回ったことで景気後退への懸念が広がったこと、またFRBによる大幅な利上げによる景気後退懸念は金利の逆イールドで見られており、金の安全資産の側面からもサポートとなっていました。

火曜日金相場は前日の終値前後を狭いレンジで推移して、トロイオンスあたり1775ドルへ若干下げて終えていました。

この間米長短期金利は上昇しており、前日の下げ基調もある中で、金の堅固さも感じられる動きとなっていました。

同日のニュースとしては、米住宅着工件数が予想を下回って年率換算件数が減少していた中で、米鉱工業生産は2ヶ月ぶりに増加に転じており、まちまちな内容となっていました。

しかし、前日のNY連銀製造業景気指数のデータ統計開始以来2番めの下げ幅による景気後退懸念は根強いものがあり、同日はハイテク株の下げていたことからも、金の安全資産としての需要もでていたようです。

水曜日金相場は、同日夕方にFOMC議事要旨が発表される前に米長期金利とドルインデックスが上昇する中で、トロイオンスあたり1760ドルと2週間ぶりの低さで直近のサポートラインを試しながら、FOMC議事録発表後も1965ドルで終えていました。

同日は中国政府が経済を支えるためのさらなる政策を発動する期待からアジア株は上昇したものの、英国の7月の消費者物価指数が10.1と予想を上回る40年ぶりの高さであったことから、FOMC議事録要旨発表を前に主要中央銀行によるより速いペースの利上げ観測が広がり、株価が下げて長期金利とドルが上昇していました。

また、同日発表された小売大手のターゲットの決算で大幅減益となったこともセンチメントを悪化させていました。

FOMCの議事要旨では、継続的な利上げの必要性が話される中、ある一定の段階でペースを緩めることにも触れていたことで、ほぼ中立的からハト派的内容との解釈で9月のFOMCでの金利引き上げ予想は0.75%から0.50%へ下げて株価は上昇していましたが、金への影響は長期金利が下げたもののドルが高止まりしていたことで限定的となっていました。

木曜日金相場は、ロンドン昼過ぎまでには多少前日終値上昇してトロイオンスあたり1772ドルまで上昇していました。その後金は押し下げられて、直近のサポートラインのトロイオンスあたり1760ドルを割って1758ドルで終えていました。

午前中の動きは前日のFOMCのハト派的と解釈された内容によるもののようでしたが、ロンドン昼過ぎに発表された経済指標の米新規失業保険申請件数が2週ぶりに下げたこと、フィラデルフィア連銀製造業景気指数がマイナス予想からプラスに2ヶ月ぶりに転換していたこと、そしてFRB高官数名が同日もタカ派的コメントを発したことがドルをひと月ぶりの高さへ押し上げたことが金を下げる要因となりました。

本日金相場は、ドルが前日の水準から更に上昇して週間で2%と2021年6月以来の速いペースの上昇で、長期金利も一月ぶりの高さへ上げる中で、トロイオンスあたり1749ドルと8月末の低さまで押し下げられています。

これは、前日の複数のFRB高官による高インフレ対応の利上げの大幅な必要性等のコメントが要因となっているようですが、株価が速いペースの利上げによる景気後退懸念で4週ぶりに週間の下げ基調であることで現金化も進むことでドルが買われているようです。

ブリオンボールトのリアルタイムドル建て金価格

その他の市場のニュ―ス


  • ロシアで産出された新たな貴金属が、ロシアのウクライナ侵攻の制裁で欧米で輸入や取引が禁止される中で、ロシアが独自の貴金属の国際基準を作ることを発表したこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週11日火曜日に翌日の米消費者物価指数の発表を待つ中でひと月ぶりの高さへ上昇した際に、全ての貴金属で弱気ポジションが減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは前週に引き続き2週連続でネットロングで、89%増の164トンと前週の100トン近い買いから更に80トン近い買いと見られる取引で、規模としては6週ぶりの大きさとなっていたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比0.9%高。建玉においては、前週比0.2%減。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、6週連続でネットショートで26%減の969トンと、2週連続で減少して5週ぶりの低さとなっていたこと。この間LBMA銀価格は2.7%高と2週連続で上昇していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、9週連続のネットショートで、そのポジションは48%減の9.7トンと6週ぶりの低さ。LBMA PMプラチナ価格は2.7%高で7週ぶりの高さへ上昇していたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3月29日の週以来ネットショートで、57%減の1.9トンと4月26日の週以来の低さであったこと。この間LBMA PM価格は1.9%高。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに10.1トン(1%)減で986トンと1月20日以来の低さで、3週連続の週間の減少の傾向であること。週間の増加は6月17日の週以来無し。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.68トン(0.14%)減で496トンと、2月16日の以来の低さで、12週連続の残高減少傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに43トン(0.29%)減の15,044トンと、2週連続の減少傾向となっていること。

  • 金銀比価は、今週87台で始まり、本日は91台と7月27日以来の銀の割安水準。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週838ドルで始まり846ドルと8月10日以来の高さまで下げて終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。

  • プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1253ドルで始まり1203まで下げたものの本日1243と増加して終える傾向。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。

  • 上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の8.99ドルから多少下げて8.71ドル。これは、今週人民元が対ドル2020年9月以来の低さへ下げている中で堅固な動き。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。

  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は4%減少して今年最低で、銀は19%減で4週ぶりの低さ、プラチナは8%増、パラジウムは24%減で3週ぶりの低さと、ほぼ全般夏枯れ市場となっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週はFOMCの議事録とFRB高官のコメントで相場が動いていましたが、来週は25日からジャクソンホールでの経済シンポジウムが行われ、金曜日のパウエル議長のスピーチが注目されることとなります。

その他、火曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、米新築住宅販売件数、水曜日の米耐久財受注、金曜日のFRBがインフレ指標として重視する米個人消費支出PCEコアデフレーターなどが重要となります。

詳細は主要経済指標(2022年8月22日~26日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で行われている「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。

http://bl.uk/events/gold

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、引き続き干ばつや節水のための規制、発表された40年ぶりの高い7月のインフレ率について、また今週行われたロンドン市内の地下鉄やイギリス全域の電車のストライキ、そして今週発表された大学入学のための一斉試験の結果等について大きく伝えられています。

そこで、今週は英国の高いインフレ率について簡単にお伝えしましょう。

今週発表された7月のインフレ率は前年同月比10.1%と1982年前半以来の高さで前月の9.4%と予想の9.8%を上回るものとなりました。

しかし、ここで先週お伝えしていたエネルギー費の上限は4月から抑えられており、10月に更に8割以上引き上げられることが予想されており、暖房などでエネルギー使用量が増加する冬のインフレ率はイングランド銀行も13%を超えることを予想しています。

今回のインフレ率をお仕上げたのは食料品で、その伸び率は12.6%と二桁上昇で、ガソリン等の燃料代は43.7%と前月よりも拡大していたとのこと。

米国の消費者物価指数は、ガソリン代の値下げで7月に8.5%と前月から0.6ポイント下げていましたが、欧州はロシアにエネルギー供給をかなり依存していたことからも、エネルギー費用の下げはしばらく見込めないようです。

そこで、野党を含み経済団体や低所得者層をサポートするチャリティー団体などが、エネルギー費の上限を10月に上げないことや低所得者層へより一層のサポートをすることを含み、何らかの措置が必要と政府へ訴えています。

イングランド銀行が次回の金融政策決定会合で0.5%の利上げをすることはほぼ間違いないとされていますが、それによるローンの支払いの増加など、景気後退への道のりは確実に作られつつあると市場は見ているようで、景気後退を示唆するとされる長短金利の逆転幅が前回の金融危機時の2008年以来のものへと拡大しています。

高インフレを抑え込むための政策金利の早いペースの引き上げや金融緩和縮小は必要と思われますが、それによる景気後退を主要中央銀行と政府がどのような技で防ぐことを試みるのかを興味深く見ていきたいと思います。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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