ニュースレター(2022年8月12日)米消費者物価指数が予想を下回り、金は4週連続の上昇でひと月ぶりの高さへ
週間市場ウォッチ
今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1794ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.2%高と、4週連続の週間の上昇で週終値ベースで7月1日以来の高さへ上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.1%高のトロイオンスあたり20.28ドルと6月末以来の高さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3%高のトロイオンスあたり958ドルと4週連続の上昇で2ヶ月ぶりの高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は8.6%高のトロイオンスあたり2275ドルとやはり4週連続の上昇でほぼ3ヶ月ぶりの高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は、注目の米消費者物価指数が予想を下回り、インフレピークアウトの観測からもFRBの9月の利上げ幅観測が0.75%から0.5%へと転換する中で、ドルインデックスと米長期金利が直近の高値の7月半ばと6月半ばからそれぞれ2%、15%下げたことで、週間で上昇し、金と銀は一月を超える期間の高値、プラチナは2ヶ月ぶり、パラジウムは3ヶ月ぶりの高さへと上昇することになりました。
ちなみに、今週プラチナ及びパラジウムの大幅な上げは、中国汽車工業協会が昨日発表した7月の国内自動車販売が前年比約30%増と好調であったことが明らかとなり、排ガス処理装置で使われるこれらの貴金属の需要増加観測が背景となっているようです。
そこで、今月のチャートとしては、プラチナとパラジウムの過去3ヶ月の価格の動きをお届けしましょう。
ここでも触れてきていますが、プラチナはディーゼル車の排ガス浄化装置の触媒として使われていますが、パラジウム価格の高騰で、パラジウムが使われるガソリン車の排ガス浄化装置の触媒の代替が進んでいるとのことです。また、水素を動力源とする「燃料電池」でも使用され、需要の高まり観測も広がっています。
それに対し、パラジウムの需要の8割ほどがガソリン車の排ガス浄化装置で使われますが、最大生産国がロシアで4割であることからも、ウクライナ戦争によるロシアへの経済制裁でパラジウム供給懸念で3月7日に史上最高値の3444ドルをつけたことは記憶に新しく、長期化する戦争は価格の下値を支えている模様です。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は前週の週間の上昇分を更に上乗せする上げトロイオンスあたり1789ドルで終えていました。
この要因と一つとして、2019年の4月以来の高い水準のネットショートのショートカバーが入っていると分析されていました。
また、前週金曜日に良好な米雇用統計で上昇に転じていた米国ドルと長期金利が調整もあり下げていたことも金を押し上げていました。
ちなみに、前週の米雇用統計以降、9月のFOMCでの0.75%の利上げ観測が再び広がっていましたが、世界株価は良好な米雇用統計で速いペースのFRBによる利上げにも米経済は持ちこたえられるとの楽観論で上昇していました。
火曜日金相場は翌日の米消費者物価指数の7月データの発表を待つ中、トロイオンスあたり1794ドルと前日終値から上昇してひと月ぶりの高さで終えていました。
この背景は、ショートカバーもあったようですが、同日発表された第2四半期非農業部門の労働生産性が予想を下回っている中で、同四半期の労働コストが予想を上回って上昇していること、そして半導体大手の業績予想下方修正が相次ぎ、リセッションへの懸念もあり米株価が下げていたことが背景となっていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が予想を下回ったことで、米国ドルと米国債利回りが下げて反応し、金相場は一時トロイオンオンスあたり1807ドルを超えて、7月5日以来の高さをつけていました。その後、ドルと利回りが多少戻し1791ドルで終えていました。
市場注目の米消費者物価指数は、前年同月比8.5%と予想の8.7%、前回の9.1%から下げ、コアも5.9%と前回同様で予想の6.1%を下回っていました。
ちなみに同日の指標で9月のFRBによる0.75%の利上げ観測は急激に後退し、前日の68%の確率から39%へと下げ、0.5%の利上げ確率が同日62%と前日の32%から増加してほぼ切り替わっていました。
木曜日金相場は前日終値とほぼ同水準でトロイオンスあたり1789ドルで終えていました。
同日は米卸売物価指数が発表され、前日の消費者物価指数同様に予想を下回りパンデミック以来初めて前月比マイナスとなっていたこと、そして米新規失業保険申請件数は2週連続の増加となって昨年11月以来の高さとなっていたことで、FRBのより速いペースの利上げ観測が後退し、金は1800ドルの手前まで上昇したものの、FRB高官は引き続きタカ派的コメントを発表していたことからも、上値も抑えられることとなりました。
本日金曜日金相場は、前日同様トロイオンスあたり1800ドルをトライしながらも超えることなく、1794ドル前後を推移しています。
米株価は本日の7月の米輸入物価指数が前月比1.4%低下と、1.0%低下の市場予想以上に下がっていたことで今週の他の経済指標などもあり、インフレがピークアウトし、FRBの利上げペースも緩むという観測で上昇し、主要株価指数は昨年11月以来の長期間の週間の上げを記録するペースとなっています。
そして、本日発表されたミシガン大学消費者態度指数は2ヶ月ぶりの高さで、先のリスクオン基調の中、米長期金利は若干下げて入るものの高止まりで、ドルインデックスは上昇していることは、金の上値を重くしている模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週2日火曜日にペロシ米下院議長が台湾を訪問し米中緊張が高まり、FRB高官のタカ派的コメントが伝えられる中で、全ての貴金属で弱気ポジションが減少していたこと。 -
コメックス金の先物・オプションのネットポジションは2週連続のネットショートからネットロングに転換し、86.8トンと一週間で100トン近い買いと見られる動きがでていたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比3.5%高。建玉においては、前週比1.4%減。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、5週連続でネットショートで52%減の1,306トンと、2019年6月4日の週以来の大きさから減少していたこと。この間LBMA銀価格は8.2%高と2020年7月以来の低さから上昇していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、8週連続のネットショートで、そのポジションは25%減の18.8トン。LBMA PMプラチナ価格は2.9%高で5週ぶりの高さへ上昇していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3月29日の週以来ネットショートで、37%減の4.5トンであったこと。この間LBMA PM価格は10.8%高。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに1.7トン(0.17%)減で997トンと1月20日以来の低さで、2週連続の週間の減少の傾向であること。週間の増加は6月17日の週以来無し。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.5トン(0.3%)減で497トンと、2月17日の以来の低さで、11週連続の残高減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに20トン(0.1%)減の15,807トンと、前週12週ぶりに増加以降再び週間の減少傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週火曜日に87を切る水準へ下げた以外は87台で推移。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週850ドルで始まり830ドルと2ヶ月ぶりの低さまで下げて終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1217ドルで始まり昨日1304ドルと3ヶ月ぶりの高さへ増加し1300ドルを超えて終える傾向。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。 -
上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の8.69ドルから多少上昇して8.99ドル。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。 -
コメックスの先物・オプションの取引量は、今週は米国消費者物価指数の発表後増加したものの、週間の平均取引量は前週から金は20%減少して今年最低で、銀は18%増で5週ぶりの高さ、プラチナは12%減、パラジウムは10%増で12週ぶりの高さと、夏枯れ市場である金とは異なり、工業用途需要の高い貴金属は中国の自動車販売数の良好なニュースもありまちまちとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は本日の米消費者物価指数が重要指標で市場を動かしていますが、来週も主要中央銀行の金融政策に影響を与える指標やイベントへ市場は注目することとなります。
そこで、重要指標は水曜日のFOMC議事要旨となりますが、その他、同日の英国消費者物価指数、木曜日のユーロ圏消費者物価指数、金曜日の日本の消費者物価指数等となります。
詳細は主要経済指標(2022年8月15日~19日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で行われている「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年8月8日~12日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年8月15日~19日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年8月8日)金ETFの残高が更に減少する中、コメックスの金先物・オプションのショートカバーが進み、金と銀の価格が上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週ここでもお伝えした前々週から月曜日まで行われていたコモンウェルスゲームズについて、今週再び英国を襲っている熱波と本日英国のロンドンを含む8つの地域が干ばつであることが宣言された水不足について、そしてエネルギー価格高騰による今後の光熱費高騰とそれに対する政府及び次期首相候補の政策について大きくメディアで伝えられています。
そこで、本日は英国のエネルギー高騰と、それを巡る関連ニュースについてお伝えしましょう。
今週メディアが大きく伝え始めたきっかけは、英調査会社が一般家庭の光熱費が来年初めに年4266ポンド(約70万円)と前年比3倍に達するとの予測を発表していた事からでした。
そこで、現政権と次期首相候補へ早期の対応を求める声が、メディア、元首相のゴードン・ブラウン氏、野党労働党、様々な業界団体などから上がっており、日々伝えられています。
英国では光熱費は消費者保護の目的で、年に二回4月と10月に見直されて上限が設定されます。既に上限の平均額は現在の年1971ポンド(約32万円)から10月に3582ポンド(58万円)へ押し上げられると見られており、今回の予測は、規制当局が価格の動きの激しさからも、年2回の見直しを年4回の見直しにする可能性があり、そのために1月に価格の上限が先のように引き上げられる可能性があるとのこと。
英国政府は既に前月末に、秋以降の光熱費の高騰からも、一世帯400ポンド(6万5000円)を今年10月から来年3月の光熱費から先の額を月割で自動的に減額することで援助することを発表していました。しかし、このさらなる上げ幅予測でこの援助額では低所得者層は十分ではないとして、さらなる対策の必要性が野党からも求められています。
ジョンソン首相は、9月初旬には次期首相に政権を委ねることからも、現段階で新たな対策を行うことを否定しています。
そこで、注目は次期首相候補の対策となり、日々この内容がメディアで取り上げられています。
次期首相候補のリシ・スナック前財務大臣は100億ポンド(1兆6000億円)の追加予算で、低所得者層をターゲットに援助を行うと昨日発表し、もう一人の首相候補リズ・トラス外務大臣は詳細の政策に触れることは避け、基本は税率を引き下げることで人々が自由に使える収入を増加させると述べています。
現在の光熱費の高騰は、パンデミック後の需給バランスの崩れ等と様々な要因がある中で、ロシアのウクライナ侵攻への経済制裁、そしてそれに対して制裁を与える国がロシアからのエネルギー輸入を削減する中で、ロシアが欧州や制裁を加えている国々へのエネルギー輸出を制限していることが大きな要因となっています。
この現状が近い将来に改善されないとした場合、光熱費への対策が次期首相選択の重要点ともなりつつある英国のエネルギー危機は、未だ始まったばかりと言うことなのかもしれません。