ニュースレター(2022年5月6日)長期金利とドルが急騰し金は押し下げられる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1881ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.6%安と2週連続の下げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.2%安でトロイオンスあたり22.46ドルと3週連続の下げで2月5日以来の低さとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.3%高のトロイオンスあたり963ドルへと上昇しています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は9.3%安のトロイオンスあたり2098ドルと2週連続で下げています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場を含む金融市場は水曜日に行われた米中央銀行の金融政策発表に注目する中、速いペースの利上げを価格に折り込みながら推移していました。
そこで、その内容は予想通りであったものの、パウエル議長が0.75%の利上げは考えにないと述べたことでよりハト派との解釈で、株価、債券価格、貴金属価格は上昇して反応していましたが、その後高インフレ対応の速いペースの利上げは続くとの解釈で再びリスクオフによる株価の下落、債券利回りは3年5ヶ月ぶりの上昇、20年来のドル高となり、貴金属価格は全般押し下げられることとなりました。
しかし、ドル高は他の通貨安も意味し、LBMA価格が決まる本日午後3時の価格比で、週間ではポンド建てでは0.2%高と上昇し、円建てでは0.3%安と下げ幅は狭いものとなっています。
ちなみに、今週世界株価は全般下げており、ダウ平均株価でロンドン時間午後までで2.64%安、日経平均株価は2.82%下げています。
そのような中、年初から本日までの貴金属価格(金においては他の通貨建ても含む)の価格の動きを表すチャートを今週は下記に添付しましょう。
貴金属 | 年初からの価格の変化 |
金(ドル建て) | 3.4% |
金(ポンド建て) | 13.3% |
金(ユーロ建て) | 10.8% |
金(日本円建て) | 16.6% |
銀(ドル建て) | -2.7% |
プラチナ(ドル建て) | 0% |
パラジウム(ドル建て) | 8.8% |
一般的にボラティリティが大きい銀が下げ基調の中で大きく下げて年初からのプラス幅を失い、プラチナがほぼ横ばいである以外は、金は主要通貨建てで、そしてウクライナ情勢の影響を受けているパラジウムは年初からの上げ幅を維持しており、特にドルが強含んだことによるドル建て以外の通貨での上げ幅が大きいことが分かります。
なお、日経平均株価は年初から6.2%安、ダウ平均株価は9.2%安、S&P500種は13.1%安、ナスダック総合においては21.7安となっています。
日々の金相場の動きと背景について
英国祝日明け火曜日金相場は、前日の下げ幅を削りながら、ロンドン夕方にトロイオンスあたり1877ドルまで上昇した後、1868ドルで終えていました。
前日月曜日は今週行われるFOMCでの0.5%の利上げと、今後この水準での利上げが繰り返される観測が一層広がる中で、米長期金利が3年5ヶ月ぶり高さの3%へ上昇したことで、金相場は2月半ばの1850ドルまで一時下げていました。
同日は翌日のFOMCの発表を前に長期金利が高止まりであるものの3%を割っていたことで、ドルも多少ながら弱含んでいたことで、自律的反発が起きていましたが、頭の重たい動きとなっていました。
水曜日金融市場は同日ロンドン時間夕方のFOMCの結果を待っていましたが、結果は予想通り0.5%の利上げと量的緩和縮小も6月に開始というものでしたが、その後の記者会見でパウエル議長がパウエル議長が0.75%の大幅利上げに消極的な姿勢を示し、急激な金融引き締めの観測が後退したことで、金相場はトロイオンスあたり1990ドル近くまで一時上昇するなど、上昇で反応していました。
これは、今週3年5ヶ月ぶりに上昇した米長期金利が発表後下げ、ドルインデクスも下げたことから、金のネガティブ要因が軽減されたことが金を押し上げていました。
木曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1910ドルまで上昇した後に、前日のFOMC後の上げ幅を株価及び債券が急激に戻す中で、長期金利が再び3年半ぶりの3%を超え、ドルが2020年12月以来の高さへ強含んだことからも、じわじわと押し下げられて1874ドルと、前日終値比0.9%安へと下げることとなりました。
これは、前日パウエル議長が0.75%の引き上げは否定したものの、0.5%の利上げ数回を示唆し、高インフレからも金融引締が続くとの観測が再燃し、同日発表の米国第1四半期非農業部門労働生産性が予想を下回り1947年以来の低さの-7.5%となり、労働市場の逼迫を示し、労働コスト上昇、つまりインフレ上昇の観測が高まったことが背景となりました。
高インフレは本来金にとってポジティブ要因ですが、ネガティブ要因の長期金利とドルの数年来の高さに押し戻され、株の急落でその下げをカバーする金の現金化も進んでいた模様です。
本日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに発表された米雇用統計を待つ中で、トロイオンスあたり1890ドルまで上昇しましたが、発表前にその上げ幅を失い、ロンドン時間午後に1875ドル前後を推移しています。
発表された雇用統計は、非農業部門雇用者数は42.8万人と、予想の39.1万人を上回り、前回修正値の42.8万人と同水準。失業率は3.6%と予想の3.5%には至りませんでしたが、前回同様。平均時給は前月比0.3%と予想の0.4%と前回修正値の0.5%を下回っていました。
発表後金相場は若干上昇で反応していましたが、午後の動きは1875ドルから1889ドルの間と狭く、ほぼ長期金利の動きに反応して推移しているようです。
ちなみに、先の発表後米長期金利は3%を超えて再び3年5ヶ月ぶりの高値を一時付け、ドルインデクスはロンドン午前中に2002年12月以来の高値へ一時上昇し、高止まりながら共にその上げ幅を多少失って前日終値比下げて推移しています。
その他の市場のニュ―ス
- ワールドゴールドカウンシルが発表した今年第1四半期の金需給レポートによると、金需要は、ロシアのウクライナ侵攻で金ETFの需要増から34%増で1234トンと、2018年第4四半期以来の高さで、5年間の平均を19%上回っていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週26日火曜日に、中国政府が新型コロナウィルス感染を抑えるために北京も上海に次いで移動制限を行うことが伝えられ、中国の景気停滞懸念が広がっていた際に、全ての貴金属が強気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、20%減の309トンと減少していたこと。この間金価格は前々週比3%安。建玉においては、前週比3%減。
- コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週から8.3%価格が下げる中で、38%減と4,126トンと減少していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションは、前週ネットロングへ転換後に再びネットショートへ転換し、19.7トンと昨年9月21日の週以来の規模となっていたこと。この間プラチナ価格は9.5%安。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは5週連続でネットショートで、4%増で1.8トンと増加していたこと。この間価格はほぼ2%安と下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で9.6トン(0.9%)減で1,085トンと3月22日以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向となっていること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週で0.54トン(0.1%)増で521トンと4週連続の増加で、2021年2月24日以来の高さ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに25トン(0.14%)増の17,915トンと前週6週ぶりの週間の減少後に増加傾向。
- 金銀比価は、週初めに82台前半で始まり本日は83台後半と上昇傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消)
- プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週水曜日に900を割ったものの927で終える傾向。これは引き続き2020年11月以来の高い水準。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週1300ドル台から木曜日に1200ドルを割り、3月30日以来の低さ。過去の動きはウクライナ危機で3月初旬に2000ドルを超えた水準から下げていたものの、今年1月には1000ドルを割っていたこと。
- 上海黄金交易所(SGE)は水曜日まで祝日で、木曜日にディスカウントで始まり、本日はプレミアムに転換しているものの、週平均は0.45ドルのディスカウントで前週の1.74ドルのプレミアムから下げていること。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。
- コメックスの先物・オプションの取引量は、木曜日までの週平均で前週比金が22%増に対し、銀は17%減、プラチナで17%減、パラジウムで30%減と、金が3週ぶりの高さに対し、銀は3週ぶりの低さとなっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週はFRB及びイングランド銀行の金融政策発表、また本日米雇用統計の発表と重要イベントが続き、市場は動きましたが、来週も主要中央銀行の金融政策にかかわるイベントや指標に市場は注目することとなります。
そこで、水曜日の米国の消費者物価指数が重要イベントとなり、同日の中国及びドイツの消費者物価指数なども注目されることとなります。
その他、主要経済指標の詳細は主要経済指標(2022年5月9日~13日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2022年5月2日~6日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2022年5月9日~13日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2022年4月25日)中国とウクライナ情勢が株式とコモディティ市場を揺さぶり、金価格は1900ドルを割る
- 【金投資家インデックス】金投資需要が10ヶ月ぶりの高さへ急増
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国ではウクライナ情勢とエネルギー価格高騰が引き続きトップニュースで伝えられていますが、昨日が統一地方選挙であったことから、その結果が本日は大きく伝えられています。
そこで、本日開票が始まった北アイルランドとウェールズの結果は未だ十分に出揃っていませんが、現段階での状況を簡単にまとめてお伝えしましょう。
統一地方選挙は総選挙の間に行われる中間選挙とも見られており、通常政権を握る与党は苦戦する傾向があります。
英国の次回総選挙は2024年に予定されており、2019年からの現政権の審判の場とも言えるでしょう。
時を悪くし、ジョンソン政権はパンデミックの対応はワクチン接種プログラムの成功で当初後手後手に及んでいた新型コロナウィルス対応は、許される状況であったように思えますが、ここでもお伝えしているパンデミック中に首相官邸や官庁で行われたパーティ問題で与党の支持率は大きく下げていたところでした。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻に対するジョンソン首相のロシアへの強い姿勢で先の問題は多少棚上げされていたところでした。
現段階では、与党保守党はイングランドで299議席を失い、その議席を野党第一党の労働党が46議席、自由民主党が175議席、緑の党が56議席、その他無所属の議員などが22議席獲得しています。
この中でも、保守党はロンドン市内で3つの保守党地盤を失っており、ロンドンでの弱さが目立っています。
スコットランドにおいても、保守党は61議席失い、スコットランド独立を目指すスコットランド国民党がそのうちの23議席を得て、450議席と最大政党、そして労働党が第一野党となっています。
ウェールズにおいては、未だ開票は半数程ですが、与党保守党がやはり34議席すでに失い、野党第一党の労働党が37議席追加して最大政党で、ウェールズの地域政党であるプライド・カムリ党の野党第一党として保守党票を奪い取っているようです。
北アイルランドは現段階で開票は90の地方議会のうちの15議会分のみですが、南北アイルランド統一を目指すシン・フェイン党が史上初めて最多議席を獲得して議会第一党となる見通しとのことで、注目されています。
つまりは、英国で立法権が委譲されているスコットランド、ウェールズ、北アイルランドの中で、ウェールズを除く2つの地域で英国からの独立を掲げる政党が議会の最大政党となる可能性があるということになります。
英国の主権を取り戻すためにEUからの独立を先導し達成したジョンソン政権が、スコットランドに次いで北アイルランドもシン・フェイン党に最多議席を取られることで、英国分裂の流れを進めることとなったとしたら皮肉なめぐり合わせと言わざるをえないかもしれません。