金市場ニュース

ニュースレター(2022年3月11日)ウクライナ情勢懸念で急騰した金価格は、リスク資産が反発する中で上げ幅を削る

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1979ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.7%高と2週連続の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から2.11%高でトロイオンスあたり25.68ドルと6週連続の上昇となっています。そして本日午後には25.70ドルと昨年8月以来の高さも一時つけていました。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から3.0%安のトロイオンスあたり1059ドルへと下げています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は6.7%安のトロイオンスあたり2767ドルと5週ぶりに下げています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、引き続きウクライナ情勢とそれに反応する株価などのリスク資産の動きに応じて動くこととなりました。

週明けは、バイデン大統領が週末発表したロシアの原油輸入禁止協議でコモディティー価格が急騰する懸念からも、リスクオフ基調となり、金はドル建てで2020年8月以来の高値、ユーロと日本円とスイスフランではそれぞれ史上最高値の更新をしていました。

また、先週28%高と急騰していたパラジウムは、今週も史上最高値の3444ドルを付けていました。

その後、ウクライナ大統領のゼレンスキー氏がNATO加盟断念は安全が保証されるのであればあり得ると述べたことが好感され、また売られすぎと見られていたリスク資産に買いも入り、そして本日はプーチン大統領がウクライナとの協議に前進があったと述べたことが伝えられ、貴金属価格は押し下げられることとなりました。

ウクライナ情勢への懸念が多少なりとも後退することで、来週控えているFOMC、イングランド銀行、日銀の金融政策発表へも注意は向くこととなり、今週発表された米消費者物価指数が再び40年来の高さを付けていたことからも、インフレ対応で速いペースの利上げとなる観測が生まれることとなり、今週後半米長期金利がほぼ一月ぶりに2%を超えて上昇していることも、金利を産まない貴金属の頭を重くしている模様です。

ちなみに、高インフレはインフレヘッジとしての金需要を高めますが、利上げペース加速はその需要を下げる事となり、単純にインフレと金の推移を語ることはできませんが、過去の市場が予想するインフレ率と金の動きを示すチャートを今週のチャートとして下記に添付します。

チャートでは世界金融危機後欧州債務危機に向かう2009年から2012年までインフレ予想が上昇した際に金価格が上昇していることが見られますが、2020年のパンデミックの際はインフレ予想が下げる中で金は上昇しており、他の要因も強く関連していることも分かります。

金価格と予想インフレ率の比較 出典元 LBMAと米財務省のデータからブリオンボールとが作成

日々の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は週末の米国のロシアの原油輸入禁止協議のコメントで原油、エネルギー、コモディティが市場明け共に急騰し、株価が急落したことで、スタグフレーションの懸念も高まり、金価格は一時トロイオンスあたり2000ドルを超えて、円建て、ユーロ建て、スイスフランでは史上最高値を更新していました。

しかし、その後ジョンソン英国首相を含む欧州首脳が原油輸入禁止に関して協議中ではあるものの、近い将来ではないことを示唆するコメントを出したことで、株価が下げ幅を削り、コモディティ価格全般も上げ幅を削ったことで、金相場は下げてロンドン時間夕方に1992ドルで終えていました。

なお、同日世界産出量の4割をロシアが占めるパラジウムもまた史上最高値のトロイオンスあたり3000ドルを超えていました。

火曜日金相場は、ロンドン昼過ぎにバイデン米大統領がロシア産原油、天然ガス、石炭の輸入を全面的に禁止することを発表し、安全資産への需要からもトロイオンスあたり2069ドルと2020年8月の最高値以来の高さへ一時上昇していました。

しかし、同日英国はロシア産の原油輸入を段階的に下げて年末には停止することを発表したものの、欧州はロシア産に代わる輸入先が無いことから追随しておらず、先のニュースはすでに価格に織り込み済みということで、米長期金利が上昇する中で、その上げ幅を戻して、2038ドルまで下げて終えていました。

なお、前日史上最高値を更新していたユーロ建てと円建て金相場は、同日もそれぞれトロイオンスあたり1902ユーロとgあたり7698円と最高値を更新していました。

水曜日金相場は世界株価が5営業日ぶりに反発する中で、トロイオンスあたり1983ドルと前日終値比2.7%下げて終えていました。しかし、年初からは9%高と引き続き高い水準となっていました。

リスク資産の上げは、短期的な戻りを見込んだ買いとされていますが、この数日急騰していた原油も10%を超えて下げていることで急激なインフレ懸念を後退させ、同日ドルと米長期国債も4営業日ぶり売られていることから、安全資産が全般下げていた模様です。

なお、ロシアが危機感を感じていたとされるウクライナの北大西洋機構(NATO)への加盟は、水曜日ウクライナ大統領のゼレンスキー氏がNATO加盟断念は安全が保証されるのであればあり得ると述べたことも、急激なリスクオフ基調を緩和しているとも分析されていました。

木曜日金相場は、ECB金利政策、米消費者物価指数発表と重要イベントを経て、ロンドン夕方にトロイオンスあたり1992ドルで終えていました。

同日注目のECBの金融政策では金利は据え置かれたものの、高インフレ対応のために量的緩和縮小を加速し、早ければ7月から9月に終了と発表され、米消費者物価指数は予想と前回を上回る前年同月比7.9%と40年ぶりの高さとなっていました。

そこで、ECBの発表は想定内であったものの、米消費者物価指数は予想を更に上回り、米長期金利がほぼ2週間ぶりに2%を超え、金相場は頭を抑えられこととなりました。

しかし、同日行われたウクライナとロシアの外相会談は進展がなく、前日5日ぶりに反発していた欧米株価は、高インフレ懸念もあり全般下げていることで安全資産の需要は金を支えていました。

本日金曜日金相場はロンドン夕方に前週終値比においては上げていますが、トロイオンスあたり1989ドルまで下げています。

これは、ロンドン時間午前中にプーチン大統領がウクライナとの協議に前進があったと述べたことが伝えられ、欧米株価が反発する中で、ロシアが世界供給の4割であるパラジウムが強く反応し、トロイオンスあたり100ドルほど急落し、他の貴金属も下げることとなった模様です。ブリオンボールト・リアルタイム・金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • 世界の地金市場を取りまとめているロンドン貴金属市場協会(LBMA)が本日、ロシアへの経済制裁の一環として、ロシアの精錬所をグッドデリバリーバーリストから削除し、7日付でこれらの精錬所で新たに製造された地金は専門市場で取引ができなくなると発表しています。なお、プラチナとパラジウムの業界をまとめるロンドン・プラチナ・パラジウム市場(LPPM)は、引き続きロシア産の地金の流通を現段階では認めています。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週1日火曜日にウクライナ情勢の緊張が高まり、FRBによる3月の0.5%利上げ観測が後退する中で、プラチナ以外の貴金属で強気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4.4%増の523トンと4週連続で増加し、史上最高値をつけた2020年8月4日の週以来の大きさへと増加していたこと。この間金価格は前々週比1.2%高。建玉においては、前週比0.9%増と4週連続で増加していたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週から2.6%価格が上昇する中で、64%増で6,644トンと昨年6月15日の週以来のの高さとなっていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、前週プラチナ価格が2.1%前々週比下げていた際に、6週連続でネットロングであるものの2.8%減の23.6トンと、11月16日以来の高さから下げていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは24週ぶりにネットロングとなり、0.079トンと昨年9月7日の週以来の高さであったこと。この間価格はは2.1%安。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で4.9トン(0.5%)増で1,062トンと昨年3月初旬以来の高い水準で、5週連続の週間の増加傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週で3.84トン(0.76%)増で507トンと2週連続の週間の上昇傾向。その規模は、昨年3月末以来の高さであること。なお、2月4日以来残高減少は無し。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに92トン(0.54%)減の16,886トンと、3週連続の週間の減少傾向であること。

  • 金銀比価は、76後半から77台の間で安定して推移していること。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消)

  • プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週850で始まり、徐々に上昇して917と2020年11月後半以来の高さで終える傾向。2021年平均は708.82で5年平均は564.76。

  • プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、2190ドルとLBMA価格が発表され始めた1990年4月以来の高さで始まり、本日は1882まで下げていること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週人民元価格が202年9月以来の高さへ上昇したことで水曜日にディスカウントとなり、週間の平均は2.97と前週の3.67から下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。

  • コメックスの先物・オプションの取引量は、今週ウクライナ情勢悪化で価格のボラティリティが高まる中で、週間平均が前週比が金で92%、銀40%、プラチナ66%、パラジウム11%へと増加し、金が2年ぶり、銀が3週間ぶり、プラチナが少なくとも弊社が記録を始めた1年半ぶり、パラジウムが3週ぶりの高さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週は、米国、英国、日本の中央銀行による政策金利発表が、それぞれ水曜日、木曜日、金曜日に行われ、市場は注目することとなります。それに加え、引き続きウクライナ情勢は金融市場を動かすことになりますので、重要となります。

その他火曜日に中国の小売売上高、鉱工業生産、米国の卸売物価指数、木曜日にユーロ圏の消費者物価指数が発表され、これらも中央銀行の金融政策に影響を与えるものとして注目されます。

詳細は主要経済指標(2022年3月14日~18日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週もウクライナ情勢で貴金属相場が動く中で、金の投資への興味が高まっているという英主要紙のテレグラフの記事で、弊社のデータとリサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。

ここで、弊社における新規顧客数の増加がコロナ危機以来の早いペースであることが紹介され、エィドリアンの「金価格はすでに金を保有している人々が利益を確定する売却で頭を抑えられている。そこで顧客の傾向は二極化しており、危機への懸念によるパニック的な購入と既存顧客の利益確定売りとなっている。」というコメントを引用しています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では引き続きウクライナ情勢が伝えられ、ウクライナからの難民受け入れの門戸を広げることが日々議論されていること、水曜日にはウクライナ大統領が外国首脳としては初めて下院でオンラインで演説を行ったこと、また本日はプレミアリーグのチェルシーのオーナーであるロマン・アブラモビッチ氏はロシア人実業家であることから経済制裁の対象となり、経営を直撃していることが伝えられているのでご紹介しましょう。

アブラモビッチ氏は、ロシアのプーチン大統領に近く、新興財閥(オリガルヒ)の代表的な人物で、ロシアの鉄鋼大手エブラズ、パラジウムの生産最大手の非鉄金属大手ノリリスク・ニッケルの大株主でもあります。

そこで、英国政府がロシアのウクライナ侵攻を受けて今週アブラモビッチ氏を含む7人を経済制裁対象とし、英国内の資産が凍結されたことから、英国政府はチェルシーに特別ライセンス(許可証)を発行して、ホーム試合開催や従業員給与支払い、チケット購入済みのファンらの観戦は認めていますが、新たなチケット販売は禁止され、観戦は年間チケット購入者らに限られることになったとのことです。

また、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、すでにアブラモビッチ氏が表明していたたクラブ売却も凍結された模様で、チェルシーファンにとっては先行きが全く見えない状況のようです。

しかし、アブラモビッチ氏が売却で金銭を一切得られないなどの条件を受け入れれば、認めることを検討中とのことですが、チェルシーはプレミアリーグでも人気の高いロンドンのチームであり、選手との新契約ができない、遠征費用も1試合あたり2万ポンド(約300万円)までとのことで、欧州チャンピオンズリーグの遠征ができないことがすでに懸念されています。

日々ニュースで伝えられるウクライナ情勢は心が痛むもので、英国の人々のウクライナへ向ける気持ちは同情以外のなにものでもありませんが、国技とも言われるほどの人気があるサッカーのプレミアリーグのチームに関わることとなると、ロシアへの制裁は必要という原則よりも、このチームの先行きのほうがファンの人々にとっては重要となるようです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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