金市場ニュース

ニュースレター(2022年12月9日)利上げ減速観測にリセッション懸念も加わり金上昇

週間市場ウォッチ
 
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり 1799ドルと、前週金曜日の LBMA価格のPM価格(午後3時)から 0.81%高と2週連続で週間の上昇となっています。
この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から 2.2%高のトロイオンスあたり 23.11ドルと3週連続の上昇で今週月曜日に達した5月以来の高さへ上昇しています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から 0.3%安のトロイオンスあたり 1004ドルと2週ぶりの週間の下げとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は 2.9%高のトロイオンスあたり 1929ドルと2週連続で週間の上昇となっています。
 
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
 
今週貴金属相場は、ドルインデックスと長期金利が下げる中で、プラチナが多少下げていますが週間の上昇をする傾向となっています。
 
これは、前週のパウエルFRB議長の講演で12月のFOMCで利上げ幅を0.5%へ引き下げる可能性が示唆され、FRBによる利上げペース減速の観測が背景となっていますが、今週に入り米長短国債の利回りの逆転幅が1981年以来の大幅なもので推移し、通常このイールドカーブの逆転は近い将来のリセッションが示唆されるとされており、安全資産の金への需要の高まりが要因となっている模様です。
 
また、銀、プラチナ、パラジウムの価格においては、今週中国のゼロ・コロナ政策の緩和を示す発表が行われており、中国の需要の増加観測もあり上昇しているようです。そこで、金銀比価は今週4月以来の低さの77台へ下げていますので、今週のチャートとしてご紹介しましょう。
 
金銀比価と銀価格チャート 出典元 LBMAデータからブリオンボールトが作成
ちなみに、昨年の金銀比価の平均は72と、現在の水準は昨年より銀が割安ということになります。しかし、パンデミック下において銀が対金大きく下げて金銀比価は120を超えるなどボラティリティは高く、5年平均は80となっています。
 
なお、今年10月に行われた業界関係者が集まるロンドン貴金属協会の年次会議では銀の翌年同時期の価格はトロイオンスあたり28.3ドルと、その時点から51.4%高を予想しています。
 
この背景は、供給量が横ばいから減少することが予想される中で、グリーンエネルギーの工業用途増加とされています。
 
日々の金相場の動きと背景について
 
月曜日金相場は、金先物市場のショートカバーも落ち着く中で、中国のゼロコロナ政策が緩和されたニュースから、ロンドン昼過ぎまでは、金相場は1800ドルを若干下回る水準で推移していました。
 
しかし、ロンドン時間昼過ぎに発表された米ISM非製造業景況指数が予想を上回ったこともあり、FRBによる利上げペース減速観測が後退してドルと長期金利が上昇したことで、トロイオンスあたり1770ドルまで下げて終えていました。
 
火曜日金相場は、ドルと長期金利が前日の水準を若干下回って推移し、前日の終値とほぼ同水準のトロイオンスあたり1769ドルで終えていました。
 
これは、前日のISM非製造業景況指数が予想を上回り、前週の良好な雇用統計からも、今後のFRBによる利上げペース減速観測後退とターミナルレートの水準が引き上げられる観測が、金の頭を重くすることとなりました。
 
水曜日金相場は、世界株価が全般下げる中で、ドルと長期金利も下げて、トロイオンスあたり1786ドルと前日終値からほぼ1%上昇して終えていました。
 
これは、今週に入り米2年物と10年物国債のイールドカーブの逆転幅が1981年以来の大きさに拡大しており、前日JPモルガンの最高経営責任者が景気後退の警告をするなど、近い将来の景気後退懸念が株価を下げ、安全資産として米国債や金が買われていました。
 
木曜日金相場は、翌日の米卸売物価指数を待つ中で、同日発表された新規失業保険申請件数が予想を多少ながら上回り、FRBによる利上げ減速観測が多少戻り、ドルと米長期金利が下げる中で、金相場はトロイオンスあたり1790ドルで終えていました。
 
本日金曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1800ドルを超えたものの、その後多少戻して1799ドル前後を推移しています。
 
本日は、市場注目の米卸売物価指数が発表され、前回の前年比同月比8.0%を下回り7.4%であったものの、予想の7.2%を上回っていたことで、インフレピークアウト観測が多少後退し、ドルインデックスと米長期金利が若干上昇する中で、金は上げ幅を抑えられているようです。
 
一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト
 
その他の市場のニュ―ス
 
  • 長年ロンドン貴金属決済を行うブリオンバンクの1行で、金と銀の値付けをしていたものの2014年に貴金属現物取引から撤退し、ロンドン貴金属協会(LBMA)から退会していたドイツ銀行が、顧客の需要からも再びLBMAへ復帰すべく会員申請を行ったことが本日伝えられています。
  • 水曜日に中国の中央銀行が11月に3年以上ぶりに32トン金準備を増加させたことを発表していたこと。第3四半期に中央銀行が四半期としては最高の399トンの金準備を増加させていたことがワールドゴールドカウンシルによって発表されていたものの、多くの金準備はどの国であるかが公表されておらず、ロシアと中国という観測であったことから、この観測が中国においては正しくなかった模様。
  • 先週末に発表された前週火曜日のコメックスの先物とオプションのポジションは、パウエルFRB議長のハト派的と捉えられた講演の前にドルインデックスが若干下げる中で、金とパラジウムででネットで強気ポジションが減少する中で、銀とプラチナムでは増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは3週連続でネットロングであったものの、12%減の87トンと減少していたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比0.6%高で1753ルと上げ、建玉は前週比2%減で、2016年2月以来の低さへ下げていたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、4週連続でネットロングで、16%増で2,285トンと増加していたこと。この間LBMA銀価格は0.5%高で21.37ドルと下落していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、17週のネットショート後に8週連続でネットロングで、そのポジションは5%増の31.9トンと減少していたこと。LBMA PMプラチナ価格は0.4%安で993ドル。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは7週連続でネットショートで163%増の2.2トン。LBMA PMパラジウム価格は2.6%安で1831ドル。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに2.6トン(0.3%)増で908トンと、週間の増加傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.7トン(0.1%)減で450トンと15週連続の週間の減少傾向。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに0.01トン増と若干増の14,793トンで、2週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、週初めの半ばの79台をピークに本日は77台へと4月以来の低さへ下げて終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、週半ばに788へ上げたものの779で終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、今週899で始まって852へ下げて終える傾向。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。
  • 上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、今週も人民建て金価格が多少前週から下げる中で、プレミアムでその平均は13ドルと前週の11ドルから上昇していること。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は27%減で15週ぶりの低さ、銀は24%減で5週ぶりの低さ、プラチナは29%減で2週ぶりの低さ、パラジウムは28%減で7週ぶりの低さと低い水準となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
 
来週は、主要中央銀行の金融政策発表や主要国の消費者物価指数の発表が続くことになり、市場は注目することとなります。
 
まず、火曜日にドイツと米国の消費者物価指数、水曜日に英国消費者物価指数、そしてFOMC終了後の発表とパウエルFRB議長の記者会見があり、木曜日はイングランド銀行と欧州中央銀行の発表、金曜日にはユーロ圏の消費者物価指数発表があります。
 
詳細は 主要経済指標(2022年12月12日~16日)でご覧ください。
 
ブリオンボールトニュース
 
今週の 市場分析及び 投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
なお、 弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
 
ロンドン便り
 
今週英国では、イングランドチームがワールドカップで善戦していること、英国で続発しているストライキについて、そして昨日からはヘンリー王子夫妻のネットフリックのドキュメンタリーが放映されたことから、この内容についても大きく伝えられています。
 
そこで、本日は英国のストライキ状況についてアップデートをお伝えしましょう。
 
すでに、 ここで看護師が106年の歴史で初めて全国規模でストライキを行うことを決めたことをお伝えしました。
 
以前から地下鉄のストライキは慢性化していますが、この12月は1989年のサッチャー元首相時代以来の多さの100万労働日数が失われるということで、「Winter of Strikes(ストライキの冬)」とも呼ばれています。
 
この背景は41年来の高インフレで賃上げ無くしては実質賃金カットとなるためですが、長年の緊縮財政で公的期間に勤める人々の賃金は、民間よりも抑えられていたこと、そして公的機関のストライキがきっかけとなって民間企業にもそのストライキの波は押し寄せているようです。
 
現段階でストライキを宣言しているのは、全国鉄道・海運・輸送従事者組合、英国の郵便事業を営むロイヤルメール、看護師の団体と救急車に携わる人々の団体、またG4Sという警備保障会社の従業員、そして今週は出入国管理の団体、スコットランドの教員の団体、国道の整備等に携わる人々の団体等も発表しています。
 
そこで本日は、出入国管理の団体のストに備えて、英国軍隊で働く人々がトレーニングを受ける事も伝えられ、政府もストに備える体制を整えること、またスナク政権はすでに公共交通網で働く人々のストを公共の利益からも制限する法案を提出していますが、看護師等の公的機関の団体に対しては、独立機関が推奨する賃上げ率を提供しているとして、妥協の余地は無いというスタンスのようです。
 
英国の民間企業においては、良い人材を得るための賃金インフレが起きており、看護師や救急車の配車等に携わる人々の中には、賃金の高さから他の業種へ転職していることから、人員不足が起きているとのこと。
 
高インフレの中で、公的機関の賃金をインフレ並みに引き上げることによるインフレへの影響への懸念も理解できますが、長い目で見た時に看護師等の医療関係者に関しては、慢性的な人員不足を解決するためにも、賃金を含めた待遇を改善を検討すべきではないかとも思うところです。
 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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