金市場ニュース

ニュースレター(2022年11月11日)米消費者物価指数が予想を下回り金は2ヶ月半ぶりの高値へ上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1758ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から5.0%高と2週連続の週間の上昇で、8月半ば以来の高さとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から7.5%高のトロイオンスあたり24.46ドルとやはり2週連続で週間ベースの上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から9.9%高のトロイオンスあたり1041ドルと週間の上昇となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は7.8%高のトロイオンスあたり2036ドルと2週連続の下げとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、米中間選挙結果の観測もありましたが、昨日の米消費者物価指数が予想を下回り、FRBによる利上げペースが緩む観測でドルインデックスと米長期金利が下げ、価格がレジスタンスや心理的節目の水準を破ることで、買いが買いを生み、先物・オプション市場で増加していたショートポジションのショートスクィーズ(ポジションを解消する買い)などからも大きく動くこととなりました。

なお、FRBによる利上げペースが緩む観測の広がりは、CMEのFEDWatchツールで12月のFOMCでの利上げ幅が0.75%から0.50%予想へと今週動いていることからもご覧いただけます。そこで、今週のチャートとしてご紹介しましょう。

FEDWatchツールのFRBによる12月の利上げ予想 出典元:CME

現在のフェデラルファンドレートは3.75~4.00%ですが、12月のFOMCでは0.5%引き上げの4.25~4.50%となる予想がFOMC後に52%であったものが、昨日米消費者物価指数データ発表直後は80.6%まで上昇していたことがご覧いただけます。それに対し、0.75%の利上げは、FOMC後は48%まで上昇していましたが、昨日は19.4%となっていることがご覧いただけます。本日の予想もこの水準はほぼ維持されています。

日々の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、アジア時間で一旦ドル建てはドルが強含み下げたものの、ドルが上げ幅を縮める中でロンドン昼過ぎにはほぼその下げ幅を取り戻して、前週終値の3週ぶりの高値水準のトロイオンスあたり1676ドルを1ドル下回って終えていました。

この背景は、①前週のまちまちの米雇用統計、②ほぼ4年ぶりの高さの金先物・オプションのショートカバー、③中国のゼロコロナ政策の転換観測でしたが、③に関しては同日発表の中国の輸出入データが2年5ヶ月ぶりに共にマイナスであったことがゼロコロナ政策を緩和する観測を広げていました。

火曜日貴金属相場は、ドルと長期金利が下げる中で、全般上昇することとなりました。

このドルと長期金利の下げは、同日行われていた米中間選挙で大統領の政党と議会の多数派が異なる「ねじれ」が予想されていたことで、政策が中道寄りになり、増税や規制強化等の政策が実現しづらくなる観測でリスク資産が上昇していたことからでした。

そこで、金相場は前日終値比2%高のトロイオンスあたり1709ドルとレジスタンスの1680ドルと心理的節目の1700ドルを超え、10月7日以来の高さへ上昇していました。

水曜日金相場は、ドルが前日の下げから反発し、長期金利は2営業日連続で下げる中で、前日の4週間ぶりの上げ幅をほぼ維持して、トロイオンスあたり1706ドルで終えていました。

これは、前日の中間選挙の結果が、下院と上院を共に野党共和党が過半数を取り、政権と議会の政党が異なる「ねじれ」を期待した主要米株価指数の3営業日連続の上げが、下院は共和党が過半数となる傾向であったものの、上院で民主党が善戦していること、翌日の米消費者物価指数の結果を見る様子見の中で、反転して下げていたためにドルが買われやすい状況であったことでした。

木曜日は、市場注目の米消費者物価指数がロンドン時間昼過ぎに発表され、前年同月比予想の8%と前回の8.2%を下回る7.7%で、コアも6.5%予想、6.6%前回から6.3%へ下げていたことで、インフレがピークアウトした観測が広がることとなりました。

そのために、米国債2年物の利回りは前日終値比33bps、10年物は30bpsと一時下げ、ドルインデックスも1.9%下げていたことから、金相場は前日終値比2.5%高で8月26日以来の高さの1751ドルで終えていました。

この間米株価も2年ぶりの上げ幅を見せ、前日の暗号資産交換業大手FTXトレーディングの救済を巡る不透明感による暗号資産の急落によるリスクオフ基調から反転していました。

本日金曜日は、米国債券市場が復員軍人の日で閉まっている中で、ドルインデックスが4営業日連続、そして前日比1.33%下げており、金相場はトロイオンスあたり1763ドルと8月25日ぶりの高さへと上昇しています。

ドル安は本日発表されたミシガン大学消費者態度指数のインフレ観測は超短期とも上昇し、この指数も予想を下回っていたものの、前日の米消費者物価指数が予想を下回ったことでFRBによる利上げペースが緩む観測が継続しているからのようです。

また、本日中国政府が隔離期間を短縮するなどコロナ規制を緩めたこともリスクオン基調を高めて前日の大幅な上昇で利益確定も入る中で株価指数が堅固な動きをしており、ドルを押し下げている模様です。

一週間のドル建て金相場のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス


  • 先週末に発表された先週火曜日のコメックスの先物とオプションのポジションは、FOMCを前に多少悪化した経済指標で利上げペースが緩む観測からドルと長期金利がF若干下げている中で、金とパラジウムで弱気ポジションを増加させ、銀とプラチナは強気ポジションを増加させていたこと。

  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは3週連続でネットショートで、17%増の121トンで、ショートポジションは2018年11月末以来の高さであったこと。この間LBMA PM金価格は前々週比0.8%安で1645ドルと下げ、建玉は前週比1.3%減で、前週の4週ぶりの高さから下げていたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、3週連続でネットショートであったものの43%減の539トンと2週連続で減少していたこと。この間LBMA銀価格は5.9%高で20ドルと上昇していたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、17週のネットショート後に4週連続でネットロングで、そのポジションは67%増の20.7トンと3月22日以来の高さ。LBMA PMプラチナ価格は4.3%安で950ドル。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3週連続でネットショートで42%増の3.9トン。LBMA PMパラジウム価格は1.5%高で1919ドルで、前週の7月19日以来の低さから上昇していたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに4.6トン(0.5%)増で912トンと4週ぶりに週間の増加傾向。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに2.1トン(0.5%)減で453トンと2020年6月末以来の低さで、11週連続の週間で減少傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに179トン(1.2%)減の14,678トンで、4週連続の週間の減少傾向。

  • 金銀比価は、水曜日に79台まで下げたものの、その後81台で終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)

  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、火曜日に692と16ヶ月ぶりの低さへ下げた後に707で終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。

  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、今週も火曜日に882と10ヶ月ぶりの低さまで下げた後に、本日965へ上昇して終える傾向。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。

  • 上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、今週平均は23ドルと9月初旬の低さへ前週の33ドルから下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。

  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は35%増で8ヶ月ぶりの高さ、銀は30%増で8ヶ月強の高さ、プラチナは16%増で6週ぶりの高さ、パラジウムは11%増で6ヶ月強の高さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

昨日は市場注目の米消費者物価指数が予想を下回り市場が大きく動きましたが、来週も引き続き主要中央銀行の金融政策に影響を与える指標やイベントへ市場は注目することになり、火曜日の米卸売物価指数、木曜日のユーロ圏消費者物価指数、そして同日の英国の秋季予算案・歳出計画は9月の小型補正予算が英債権市場、英ポンド急落等の為替市場の混乱も引き起こしたことからも重要となります。

その他、火曜日の中国の小売売上高と鉱工業生産、ユーロ圏GDP、水曜日の英国消費者物価指数、米国小売売上高と鉱工業生産、木曜日の米新規失業保険申請件数等となります。


詳しくは主要経済指標(2022年11月14日~18日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では引き続きウクライナ戦争の情勢は大きく伝えられ、今週行われた米中間選挙の結果、そしてCOP27とそれに参加したスナク英首相について、またウィリアムソン無任所相の官僚の同僚や部下に対する嫌がらせ疑惑後の辞任、更には労働争議で頻発している鉄道のストに続き、看護師や他の公的機関で働く人々もストを行うことを決めたことなどが大きく伝えられています。

そこで、今週は背景が今年続発している他の公的機関で働く人々のストライキにも通じる看護師のストライキについてお伝えしましょう。

イギリス看護協会は106年の歴史で始めて全国規模でストライキの実施の可否を問う投票を行い、今週ストライキを行うことが賛成多数で決まりました。

ここでも伝えてきているように、欧米のインフレ高は、パンデミック後の需給バランスの崩れ、その後のウクライナ戦争によるエネルギー代や食料品の高騰で、英国はインフレ率が40年ぶりの高さの10%を超えています。

そのような中で、公的機関で働く人々は、英国政府の長年による緊縮財政で給与を抑えられており、実質賃下げの状況が長く続いています。

そして、英国政府は現在の高インフレの中で賃金を大きく上げることによりインフレをより悪化させることも懸念しており、独立機関が推奨したという平均的に4.75%の値上げを提案しています。

それに対して、看護協会は長年のインフレを下回る賃上げからも、今年卸売物価指数プラス5%の賃上げで12%を上回るものを要求しています。

ちなみに、2011年から2021年までにインフレを考慮すると看護師の給与は6%下げているとのこと。これは、他の業種全体の平均の4.6%減よりも大きいものがあります。

それがゆえにも、看護師のなり手が少なく、すでに資格を持っている看護師も他の業種に転職をしていることなどから、看護師の人手不足は深刻となっていることも、今回看護協会が強く十分な賃上げを望んでいる理由でもあります。

ちなみに、今週やはり大きく伝えられているのは、コロナ禍を経てで緊急性を持たない治療が延期されていたことから、国民保健サービスの人員不足等の理由からも、現在英国で緊急性を持たない治療を待っている人々は、9月末で710万人と史上最高の数値に増加していることでした。

コロナ禍では国民が医療従事者の方々に感謝の気持ちを表してていることなどをメディアは伝えていましたが、現在多くのメディアは、看護師の方々が長く賃下げの中で働いていたことを伝えながらも、このような記録的な水準で治療を待つ人々がいる中でストライキを行うことで、より多くの人々の治療が先延ばされることの懸念も同時に伝えています。

英国国民保健サービスは、英国に在住する人々は基本無料で受けることができます。その財源は98.8%が公費にて賄われており、2021年の英国歳出の11.7%に相当し、ここで従事する人々への支払い分はその6割と膨大な規模となります。

医療の進化や高齢化などで、今後も国家が負担する英国国民保健サービスへの予算が増加し続けることは見えています。そこで、これまでのように目先の変更や医療従事者に負担を強いるのではなく、何らの根本を見直す時期が来ていると個人的に思います。

しかし、トラス前政権後の政治的混乱を安定化することがスナク政権の現在の第一の目標でもあり、看護師の待遇改善を含む国民保健サービスの大改革が行われるのは残念ながら近い将来には起こらないと考えるべきなのでしょう。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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