ニュースレター(2022年11月18日)FRBによる利上げペース緩和観測後退で金は2週ぶりに週間の下げへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1754ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.3%安と2週ぶりの週間の下落となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から1.2%安のトロイオンスあたり21.22ドルとやはり2週ぶりで週間ベースの下げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から5.13%安のトロイオンスあたり987ドルと週間の下落となっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は3.0%安のトロイオンスあたり1971ドルと週間の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属は、前週大きく上昇していたことからも、ほぼ全ての通貨建てで週間の下げをつける傾向となっています。
この背景は、前週までのインフレがピークアウトした観測で、FRBが利上げペースを緩める観測が、FRB高官数人のタカ派的コメントで後退し、ドルと長期金利が上昇に転じているためとなります。
また、プラチナとパラジウムの下げは、世界的景気後退懸念と中国のCovid-19の感染拡大もあり、需要減少観測も背景となっている模様です。
そして、今月貴金属は全般大きく上昇していることからも、来週の米国の感謝祭の祝日を前に多くのトレーダーが長期の休暇に入ることからも調整の動きも入りやすい状況である模様です。
今週のチャートとして、今月の貴金属価格の%変化を下記にまとめます。
貴金属 | 月間の価格の変化 |
ドル建て金 | 6.85% |
ポンド建て金 | 3.43% |
ユーロ建て金 | 2.40% |
円建て金 | 1.13% |
ドル建て銀 | 9.97% |
ドル建てプラチナ | 5.34% |
ドル建てパラジウム | 7.20% |
ちなみにこの間ドルインデックスは3.66%の下げ幅で、米国債10年物の利回りは4.86%の下げ幅となっています。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場はドルと長期金利が週末伝えられたFRB高官のタカ派的コメントからも上昇する中で、前週の3か月ぶりの高値圏内のトロイオンスあたり1768ドル前後と堅固な動きをしていました。
この背景として、前週の混乱後に破綻法適用申請を提出したFTXの崩壊と暗号資産市場への不信などで現物資産の需要が高まっている可能性があることをアナリストが分析していました。
火曜日金相場は、発表された米卸売物価指数が予想を下回り、インフレピークアウト観測、FRB利上げペースが緩む観測が広がり、ドルと米長期金利が下げる中で、一時1786ドルと3ヶ月ぶりの高さへ上昇していました。
その後ドルと長期金利が下げ幅を削る中で、利益確定や株式市場が反発したこともあり、1777ドルまで上げ幅を失いながらも、前日終値比10ドル上昇して終えていました。
水曜日金相場は、同日発表の米小売売上高が8ヶ月ぶりの高い数値であったことやFRB高官のタカ派的コメントで、ドルが下げ幅を削る中で、長期金利は若干下げていたことから、動きづらい状況でトロイオンスあたり1773ドルで終えていました。
FRB高官のコメントはNY連銀のウィリアム総裁の「FRBは金融市場の安定を利上げの際に考慮するべきでない」や、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁の「金利引き上げ中断は選択肢にない」というコメントで、小売売上高が好調であったことからもFRBの金利引き上げペース緩和観測が後退していました。
また、前夜伝えられたポーランド領内にミサイルが着弾し2人が死亡した事件は、米当局者は初期段階の分析でウクライナ軍がロシアのミサイルを迎撃するために発射したミサイルとの見方を示し、前夜から欧州株式市場に影響を与えていたリスクオフ基調は後退していました。
木曜日金相場は、前日に続きFRB高官のタカ派的コメントでドルと長期金利が上昇する中で、トロイオンスあたり1762ドルと前日終値比0.6%下げで終えていました。
この背景はセントルイス連銀のブラード総裁が米金利について「一段と引き上げる必要がある」と述べたことなどから、利上げペースが緩む観測が後退することとなりました。
同日12月の利上げ幅は0.5%が80%と前日比5ベーシスポイント下げと小幅なものとなっていましたが、最終到達点(ターミナルレート)の上限が5%から5.25%の確率が上回るなど、引き上げられていました。
本日金相場は、ドルが引き続き8月半ば以来低い水準で推移し、長期金利は10月初旬以来の低さから若干上昇する中で、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり1754ドルと前日終値比下げて、週間でも下げの傾向で推移しています。
これは、今月に入りすでに6.9%高と上昇していることからも、RSI(相対力指数)が買われすぎの水準でもあり、利益確定等で上昇の勢いが一息ついているともアナリストは分析しています。
また、急激な価格の上昇で中国やインドの需要が減少していることはプレミアムが下げていることからも明らかとなっており、これらの国の現物需要が形成していたサポートラインも多少下げている可能性があります。
そして来週米国は木曜日が感謝祭の祝日で多くのトレーダーは長期休暇を取ることからも、週末を前にポジション整理も行われている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週月曜日に発表された先週火曜日のコメックスの先物とオプションのポジションは、米中間選挙の結果と消費者物価指数のデータ発表を前に、ドルと長期金利が若干下げている中で、パラジウムを除き全ての貴金属で弱気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションのネットポジションは4週連続でネットショートで、79%減の25.6トンで、3週ぶりの低さであったこと。この間LBMA PM金価格は前々週比2%高で1679ドルと上げ、建玉は前週比7.7%増で、7月半ば以来の高さ。
- コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、3週ぶりにネットロングへ転換し、1943トンと前週から2482トン増加していたこと。この間LBMA銀価格は3.8%高で20.75ドルと上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションは、17週のネットショート後に5週連続でネットロングで、そのポジションは27%増の26.3トンと3月15日以来の高さ。LBMA PMプラチナ価格は3.2%高で980ドル。
- コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは5週連続でネットショートで42%増の5.6トン。LBMA PMパラジウム価格は2.6%安で1870ドルで6月14日の週以来の低さ。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに3.8トン(0.4%)減で906トンと、前週4週ぶりに週間の増加であったものの、2020年1月31日以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.17トン(0.04%)減で452トンと2020年6月23日以来の低さで、12週連続の週間で減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに52.27トン(0.39%)増の14,735トンで、4週ぶりの週間の増加傾向。
- 金銀比価は、週初めの81台から水曜日に83台へ上昇して終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、週初めに734で始まり徐々増加して779と10月半ばの水準で終える傾向。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、今週火曜日に1000ポンド台へ乗ったものの、本日再び981と下げていること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。
- 上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、今週人民元建て金価格が3月以来の高さへ上昇する中で、平均は15ドルと8月半ば以来の低さへと、前週の23ドルから下げていること。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は17%減と前週の8ヶ月ぶりの高さから下げ、銀は15%減でやはり前週の8ヶ月強の高さから下げ、プラチナは30%減と6週ぶりの高さから下げ、パラジウムは2%減と6ヶ月強の高さから下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週もFRB高官のコメントやFRBの金融政策へ影響を与える可能性のある指標で市場は動いていますが、来週もこの傾向は続くこととなります。そのような中で来週木曜日は米国が感謝祭の祝日となり、主要指標は水曜日までに集中することとなります。
そこで、水曜日のFOMC議事要旨が最も重要となりますが、その他火曜日のリッチモンド連銀製造業指数、水曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、米国の耐久剤受注と新規失業保険申請件数とミシガン大学消費者態度指数等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2022年11月21日~25日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
昨日行われた英国政府の秋季財政報告に際して、なぜ前政権の小型補正案が英債券市場を揺るがしてトラス前首相が退任せざるを得なくなるものであったのかを解析した日経新聞の記事「トラスノミクスの失敗、震源は大減税よりもエネ対策」で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのリサーチとコメントが取り上げられました。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2022年11月14日~18日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2022年11月21日~25日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2022年11月14日)金価格は暗号資産の暴落による現物資産需要で、米FRBの警告の中堅固に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、インドネシアで行われていたG20サミット、ウクライナ情勢、昨日発表された秋季財政報告関連ニュースが大きく伝えられています。
そこで、本日は昨日の秋季財政報告の内容を簡単にまとめてみましょう。
ご存知のように9月23日に前トラス政権が発表した小型補正予算は、財源無き減税を含むものでもあり、英国国債市場を混乱に陥れました。そこで、金融市場の信頼を取り戻すためにも財政規律を重視するものでなければならず、事前にハント財務相はメディアを介して痛みを伴うものとなることを伝えていました。
その緊縮策の主なものは下記のようになります。
- 納税額の上限は2028年まで凍結。そのために実質増税。
- イングランドの公的サービス支出増額を遅らせ、省庁の部門によっては2024年予定の総選挙後に削減。
- 光熱費上限の起源は来年4月までから1年間延長されたものの、標準世帯の上限は2500ポンドから3000ポンドへ引き上げ。
- 所得税の最高税率45%は15万ポンドから12万5140ポンドからが対象。
- 石油・ガス会社への超過利潤税の税率は現行25%から35%へ引き上げられる。
- 配当への非課税枠2000ポンドを2023年に1000ポンド、2024年に500ポンドへ引き下げる。
先に対し、厳しい経済環境の中で弱者を守るという政策として下記も発表されています。
- 公的年金支給額の伸び率をインフレ率、賃金上昇率、2.5%の3つの指標のうち最も高いものとする「トリプルロック制度」は維持され、インフレ率の10.1%で引き上げられること。
- 生活補助金が増額され、就労不能給付を受けている人へは900ポンド、年金生活者へは300ポンド追加給付。
- 23歳以上の人の最低賃金は、時給9.50ポンドから10.42ポンドに引き上げられる。
先に加え、重要な公的サービスとする教育と国民保健サービス(NHS)と社会福祉の予算は増額することを約束しています。
先の英国秋季財政報告後の金融市場の反応は、財務相がイングランド銀行や予算責任局(OBR)が述べているように、英国はすでにリセッション(景気後退)にあるとの見方を示す中で550億ポンド(約9億1100億円)規模の増税と支出削減計画を打ち出したことから、ポンドは主要通貨建てで下げて、長期国債利回りは上昇となっていましたが、本日ポンドはほぼその下げ幅を取り戻し、長期国債は若干上昇しているものの、ポンド同様に小型補正予算案以前の水準となっています。
そこで、財政規律を重視した姿勢は認められたようですが、予算責任局(OBR)は英国経済のりセッションは1年あまり続くとし、今後18ヶ月の平均世帯収入は7%以上減少し、納税者の税負担は第2次世界対戦の終戦以来の高い水準となると予想しています。
ハント財務相は起業家でもあり、本来保守党の政策の基本である低い税率で経済成長を促すことを信じています。しかし、長期にわたる主要中央銀行の金融緩和、パンデミック後の需給のバランスの崩れを経て、ウクライナ戦争によるエネルギー高からも、40年来の高インフレの11.1%が現実である以上、前政権のように金融市場の反応を無視することはできず、また財政規律を重視することも保守党の主義であることからも、債務残高の増加を抑制するための増税と歳出カットは免れないものであったのでしょう。
多くの人々が昨日の秋季財政報告発表後にニュースレポーターにインタビューを受け、生活費高騰からもこの報告内容が十分なものでないことを訴える中で、あるお年寄りの次の言葉が心に残りましたのでご紹介しましょう。
「私たちは2つの世界大戦を経て多くの苦難を乗り越えてきました。今回もきっと乗り越えられるものです。」