金市場ニュース

ニュースレター(2022年10月28日)FRBの大幅金利引き上げ観測が戻り、金は上げ幅を削る

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1647ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.3%高と2週ぶりの週間の上昇となっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)から4.5%高のトロイオンスあたり19.22ドルとやはり2週ぶりの週間ベースの上げとなっています。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から4.9%高のトロイオンスあたり949ドルと2週ぶりの上昇で8月半ば以来の高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は5.0%安のトロイオンスあたり1897ドルと3週連続の下げで今週火曜日につけた7月21日以来の低さとなっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属市場は、パラジウムを除き米長期金利が週半ばで下げていたことからも週間での上昇を記録する傾向でしたが、金曜日ロンドン午後に長期金利が上昇していることからも、週間ベースで下げる傾向となっています。

週半ばに長期金利が下げていたのは、前週金曜日のFRB高官による利上げペースを見直す時期というコメントと発表された経済指標の悪化などからも、FRBが12月以降利上げペースを落とす観測が広がったことからでした。

しかし、本日FRBがインフレ指標として重要としている個人消費支出PCEコアデフレーター数値が予想を若干下回ったものの、前回から上昇していたことからも、先の観測が後退し、大幅利上げペース継続観測が広がっている模様です。

本日のチャートとしては、この個人消費支出PCEコアデフレーターの数値(赤)とFRBの政策金利(青)の推移をお見せしましょう。ご覧になって分かるように、米インフレーションは40年来の高水準であることも分かります。なお、このチャートの灰色の影は米国の景気後退時期を示しています。

米国インフレ率と政策金利の推移 出典元 セントルイス連銀

インフレを抑え込むための急激な利上げ後に景気後退が起きている事が1970年代、1980年代等で見られています。中央銀行はインフレを抑え込む中で景気後退をできる限り避けるという手腕が求められますが、歴史的には難しかったことも見ることができます。

日々の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は、前週金曜日に続く日本銀行を通じた日本政府による円買い介入でドル/円が大きく動いたことで、金相場も動きましたが、結果的には日本円建て金価格を除き、前週終値から若干下げて、ドル建てではトロイオンスあたり1651ドルへと下げて終えていました。

これは、前週金曜日にFRB高官による大幅利上げペースの再検討の必要性があるなどのコメントで、利上げペースが緩む観測が出ていたものの、11月のFOMCは75ベーシスポイントでほぼ間違いないことからも、動きが取れない状況となっていた模様です。

火曜日金相場は、ドルインデックスと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり1662ドルまで一時上昇したものの、1652ドルと前日終値の水準で終えていました。

ドルと長期金利の下げは、同日発表された指標のケース・シラー米住宅価格指数が記録に残る中で最も低い水準で、米消費者信頼感指数も下げるなど、米国経済の停滞によるFRBの金利引き上げペースが緩まる観測と、今週の欧州中央銀行の政策金利引き上げ幅が75ベーシスポイントと大幅なもので、FRBの政策金利差がより狭まる観測でユーロが強含んでいたこと、同日英国で新首相が誕生したことも好感されてポンドも強含んでいたことで、ドルを相対的に下げることとなりました。

水曜日金相場は、ドルと長期金利が前日に続き下げる中で、トロイオンスあたり1667ドルと前日終値比0.9%高で終えていました。

同日は、カナダ中銀が予想を下回る利上げ幅であったこと、米新築住宅販売件数が前月から減少していることで、FRBによる12月以降の利上げ幅が縮小する観測が広がっていたことが、長期金利を押し下げた背景となりました。

また、同日からスナク英政権が始動して英国ポンドが強含んでいたこと、翌日の欧州中銀の利上げ幅が75ベースポイントと大幅なもので米欧の金利幅縮小観測でユーロが引き続き強含んでいたことも、ドルを相対的に下げていました。

そこでドルインデックスはほぼ6週ぶり、米長期金利は2週ぶりの低さへ下げていました。

木曜日金相場はドルが2営業日ぶりに強含み、長期金利が3営業日連続で下げる中で、これら重要な要因が異なる方向に動いていることからも、狭いレンジでの動きでしたが、トロイオンスあたり1661ドルと前日終値から下げていたものの、前週終値を上回る水準で終えていました。

ドルが強含んでいたのは、同日の米GDPが予想の2.4%を上回り2.6%であったこと、また欧州中銀の利上げが75ベーシスポイントと大幅であったものの予想通りであったことで、「噂で買ってニュースで売る」のパターンでユーロが下げていたことなどが要因となりました。

長期金利の下げは、同日発表された第3四半期GDP価格指数が前四半期の数値と予想から大きく下げていたことからも、FRBによる利上げ幅が12月以降緩まる観測を広めたことが背景のようです。

本日金曜日金相場は、ドルが前日に続き上昇し、長期金利は3営業日連続の下げから反転し上昇したことからも、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり1641ドルへと下げています。

長期金利の上昇は、本日発表されたFRBがインフレ指標として重要と見ている米個人消費支出PCEのコア数値は予想と一致するなど、引き続き高い水準であることからも、FRBの利上げペースが緩む観測が後退したことが背景となっている模様です。

また、本日日銀が金融政策決定会合後、市場予想通り現状維持で、近い将来の政策転換の可能性も否定されたことで、円が対ドル弱含んだこともドルを押し上げている模様です。

一週間のドル建て金価格チャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 先週末に発表された先週火曜日のコメックスの先物とオプションのポジションは、ドルと長期金利が上昇している中でプラチナを除き全て弱気傾向の動きとなっていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションのネットポジションは2週ぶりにネットショートに転換して64トンであったこと。この間LBMA PM金価格は前々週比0.7%安で1653ドルと、2週ぶりの低さへ下落し、建玉は前週比1.4%増で、前週の2016年以来の低さから多少増加していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、2週ぶりにネットショートへ転換して1,182トンと2週ぶりの高さ。この間LBMA銀価格は3.6%安で18.70ドルと2週ぶりの低さであったこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションは、前々週に4月19日の週以来連続のネットショートからネットロングへ転換した後に2週連続でネットロングで、そのポジションは371%増の5トンと6月7日以来の高さ。LBMA PMプラチナ価格は2.9%高で921ドル。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは5週ぶりにネットショートへ転換して0.65トン。LBMA PMパラジウム価格は7.4%安で2026ドルで8月23日以来の低さ。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに2.9トン(0.3%)減で925トンと2022年3月末以来の低さで、3週連続の週間で減少傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに3.1トン(0.7%)減で459トンと2020年7月初旬以来の低さで、9週連続の週間で減少傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに38.7トン(0.3%)減の15,066トンで、2週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、火曜日以外は今週85台へと下げていたこと。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週も徐々に下げて本日697と2021年7月以来の低さ。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは、今週も下げて本日994と7月20日以来の低さへ下げていること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。
  • 上海黄金交易所(SGE)のロンドン金価格との差は、今週平均は28.69ドルと前週の40.28ドルの2016年以来の高さから下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は前週から金は3%増、銀は9%増、プラチナは12%増、パラジウムは42%増で、パラジウムは8週ぶりの高さとなっていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

来週も引き続き主要中央銀行の金融政策とそれに影響を与える指標が重要となり、水曜日のFOMC後の発表及びパウエルFRB議長の記者会見と木曜日のイングランド銀行の政策金利発表、そして金曜日の米雇用統計へは市場の注目が集まることとなります。

その他、月曜日のユーロ圏消費者物価指数とGDP、火曜日の主要国製造業PMIと米ISM製造業景況指数、水曜日のADP雇用統計、木曜日の米新規失業保険申請件数などとなります。

詳細は主要経済指標(2022年10月31日~11月4日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

弊社日本市場責任者のホワイトハウス佐藤敦子が、11月10日日本時間午後7時(英国時間午前10時)にサンワード貿易株式会社主催の「金や海外資産への分散投資のススメ」というウェビナーに、日本貴金属マーケット協会の代表理事の池水雄一氏と登壇します。これは、無料で参加が可能ですので、よろしければ先のリンクでお申し込みください。 

サンワード貿易主催ウエビナーのイメージ

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では月曜日に無投票でリシ・スナク氏が保守党党首が選出されたこと、その後のスナク政権の内閣人事、ブレイバマン内務相就任への批判、スナク首相が来月の国際気候変動枠組条27回締約国会議(COP27)への参加を取りやめたこととその批判等、政治関連ニュースが引き続きニュースのトップを飾っています。

そこで、今週はスナク政権発足一週目の話題を取り上げてみましょう。

まず、ブレイバマン内務相の再任は、トラス前政権で機密情報を個人のメールアドレスへ送ったこと等の規則違反で辞任後であったことからも、野党はスナク首相のインテグリティ(高潔さ)を疑問視すると追求しています。

その後、問題となっているのはスナク首相がCOP27への参加を見送ったこととなっています。

来月11月6日から18日までエジプトで行われる会議にスナク首相が参加しない理由は、11月17日に秋季予算案及び歳出計画発表の準備のためとのこと。

金融市場の信頼を取り戻し安定させることが第一と考えるスナク首相がCOP27への参加を見送ることは、トラス前政権下で大荒れに荒れた英国政情や金融市場を思えば当然であるとも思えますが、野党や環境団体にとっては批判の対象となるようです。

その他、軽い話ではスナク首相は、英国で初のアジア系でヒンドゥー教徒であることから、今週ヒンドゥー教でも最も大きな祭であるディワリ(光の祭り)であったことから、インド系英国人コミュニティーが喜んでいるというニュースも紹介されていました。

スナク首相は近代史史上最年少の首相ですが、インドの富豪家出身の妻を持ち、合計資産は約7億3000万ポンド(約1240億円)。チャールズ国王とカミラ王妃の推定資産3億~3億5000万ポンド(約510億~590億円)の2倍以上であることなども伝えられています。

左派の新聞や労働党の議員の一部は、スナク氏が金持ち過ぎて一般国民の苦労を理解できないともコメントしており、保守党議員内の支持は高いものの、先行きの厳しさも見えています。

政権発足一週間未満とは思えない日々ですが、ますは来月の秋季予算においてスナク政権が市場と政情を落ち着かせることができることを祈る限りです。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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