ニュースレター(2021年9月10日)長期金利上昇で金は1800ドル割れへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1795ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.56%安と4週ぶりの下げとなっています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり24.05ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.02%安とやはり2週ぶりの下落となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では980ドルと2.59%安で2週ぶりの下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、長期金利の上昇やドル高などもあり、前週の雇用統計後の上げ幅を失って更に下げることとなりました。
この背景は今週予定されていた大規模な国債入札による需給バランスへの懸念、またFRBは一過性とみなしているインフレの高まりが、前週の雇用統計のデータの中の賃金が上昇していたことで再度意識されことも要因となったようです。
下記に金価格(黄)と米国10年物国債の利回り(緑)と市場が予想しているインフレ率のブレーク・イーブン・インフレ率(赤)の推移のチャートを添付します。
ここで、金と10年物国債利回りが、ほぼ逆相関であることはご覧いただけますが、インフレ率と金は正と負の相関が多少入り混じっていることを見ることができます。
それは、通常金はインフレヘッジと使われるために、インフレ上昇と金価格上昇は伴うのですが、現在のようにインフレ懸念で利回りが上昇する場合は逆の動きをすることもあるためです。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日日は米国がレイバーデーの祝日であることからも、狭いレンジでの取引の中で、前週金曜日の米雇用統計後に付けた一月ぶりの高さのトロイオンスあたり1833ドル、そして週終値の1827ドルから利益確定の売りもあり下げてトロイオンスあたり1823ドルで終えていました。
火曜日本日金相場は、米長期金利が7月以来の高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり1800ドルを割って先週金曜日の米雇用統計後の上昇分を失い、前日比1.5%安と、トロイオンスあたり1795で終えていたこと。
また、この金利上昇からもドルが3営業日ぶりの高さにも上昇していることも金を押し下げていました。
長期金利の上昇は、今週水曜日と木曜日に10年物と30年物国債620億ドルの大規模な入札を控えいたことから、需給バランス懸念が背景とされていました。また、前週金曜日の雇用統計で発表された賃金の上昇が確認され、インフレ高がイメージされて利回りが上昇したとも分析されていました。
水曜日金相場は、長期金利が前日の7月以来の高さから3ベーシスポイント下げる中で、ドルが上昇していたことからも、前日終値から若干下げてトロイオンスあたり1790ドルで終えていました。
同日ドルが上昇しているのは、Covid-19感染拡大で米国景気回復鈍化への警戒感から、米主要株価指数のダウ工業株30種平均とS&P500種が3営業日連続で下げ、ナスダックも同日下げていたことから、安全資産需要でドルが買われていた模様です。
なお、株価の下げの背景には、モーガンスタンレー、シティーグループ等が米株の投資判断を「アンダーウェイト」に引き下げ、クレディ・スイス・グループも慎重な見方を示したことも要因とされていました。
木曜日金市場は、ドルが弱含み米長期金利が多少下げる中で、トロイオンスあたり1800ドルを試したものの超えること無く、前日終値から多少上昇して1794ドルで終えていました。
同日は市場注目の欧州中央銀行の金融政策発表が行われ、金利は据え置かれたものの、予想通り新型コロナウィルス対応で実施されている債券購入ペースの縮小が決定されましたが、これに対する市場の反応はユーロが対ドル多少強含んだ以外は限定的なものとなりました。
しかし、今週行われた大量の国債入札は順調に行われ、同日発表の新規失業保険申請件数は前回修正値の34.5万件、予想の33.5万件を下回る31万件であったことから、米株価が4営業日ぶりに反発していたことで金の頭を抑えることとなりました。
本日金曜日金相場は、週間で7月以来最大の下げ幅を記録する米主要株価指数が反発してドルが下げる中で、米長期金利が高止まりをしていることから、トロイオンスあたり1800ドルを超えを維持できず、ロンドン夕方に1794ドル前後を推移しています。
株価の上げは、自律反発もあるようですが、バイデン大統領によるワクチン接種の事実上義務付けなどを評価する等、コロナ禍による経済回復への悲観論が多少後退していると分析されています。
その他の市場のニュ―ス
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インドの商務省によると、世界第2位の地金消費国であるインドの8月の金輸入量は、 前年同月比で約2倍となり、5カ月ぶりの高水準となっていたこと。 -
ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによると、中央銀行は今年上半期に333トンを超える金準備を積み増し、7月には30.1トンを購入していたこと。 -
ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによると、8月に世界の金ETFの残高は北米の金ETFからの資金流出が欧州とアジアの資金流入を上回っていたことで、月間で22.4トン(0.6%)の減少となっていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、週後半の米雇用統計を待つ中で先週31日にプラチナを除き増加させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4.5%増の307.5トンと8月9日のフラッシュ・クラッシュ以降3週連続で増加していたこと。また、建玉は2週ぶりに減少していたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比22%増の1932トンと2週連続で増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、5週連続でネットショートで、44.7%増の8.5トンと2週ぶりにネットショートを増加させていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比19%増で3.5トンと2週ぶりに増加していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で0.4トン(0.04%)減少し998.2トンと、引き続き2020年4月9日以来の低さで、週間では6週連続の減少傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、0.71トン(0.14%)増で497.3トンと、8月18日以来の高さで2週連続の週間の増加傾向となっていること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で63トン(0.37%)減で、17,041トンと前週2週ぶりに週間で増加後に再び週間の下げの傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週月曜日に73台へ下げたものの、その後74でほぼ安定して推移していたこと。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、週間平均は4ドルと前週の2.46ドルから上げていたこと。これは、人民元が対ドル強含んでいることも要因。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週米レーバーデーの祝日後に価格が大きく下げたことで、週間で金、銀、プラチナ全てで前週を35%、2%、40%上回って、銀を除き過去2ヶ月の月間平均を上回っていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の重要イベント及び指標も、主要中央銀行の金融政策に影響を与えるものとなり、米国のインフレがFRBが唱えるように「一過性」であるのか、火曜日の米消費者物価指数へは市場は注目することとなります。
その他、水曜日の中国の小売売上高、鉱工業生産、米国ニューヨーク連銀製造業と鉱工業生産、木曜日の米小売売上高とフィラデルフィア連銀製造業景気指数と新規失業保険申請件数、金曜日のユーロ圏の消費者物価指数と米ミシガン大学消費者態度指数等となります。
詳細は主要経済指標(2021年9月13日~17日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年9月6日~10日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年9月13日~17日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年9月3日)インド、中国、中銀の金需要が増加する中で、金価格は一月ぶりの高さを維持 -
【金投資家インデックス】金投資需要は増加シているものの、インフレ懸念は欠落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ジョンソン政権の社会保障制度改革と新型コロナウィルス対応等で他の疾患を持つ患者のウェイティングリストがかつて無い規模となっている国民保険サービス(NHS)への追加サポートのための国民保険料引き上げ等のニュースが大きく伝えられています。
これは、個人的にも興味深いニュースですので別途またご紹介します。
そのような中で、現在ニューヨークで行われている全米オープンテニストーナメントで、英国女子の18歳のエマ・ラドゥカヌ選手が活躍をしているために、日々トップニュースで取り上げられていますので、本日はこのニュースをご紹介しましょう。
ラドゥカヌ選手はカナダのトロント生まれで、2歳で英国に移住し、共に金融業界で働くルーマニア人の父親と中国人の母親を持ちます。
そして、昨年11月に18歳になったところで、WTA(Women’s Tennis Association)ツアーのデビューをし、今年7月には大学受験資格を得るAレベルを終了し数学で最高レベルのA*、経済学でAを取得後、テニスに専任できるようになったとのこと。
そこで、英国ですらも無名の選手だった彼女は、今年6月に行われたウィンブルドンテニストーナメントには、世界4大大会(全豪、全仏、ウィンブルドン、全米)グランドスラムデビューをして、シード権なく予選から4回戦まで勝ち残り、一気に注目を浴びることになったのでした。
ウィンブルドンでの結果で世界ランキングを338位から185位に上げ、全米オープン時には150位で予選から参加することができ、明日の決勝へと1セットも落とす無く勝ち進む快挙を収めています。そのために、本日の英国メディアはラドゥカヌ選手のニュースで溢れることとなりました。
ちなみに、英国女子選手がグランドスラムのシングルで決勝に残ったのは44年ぶりとのこと。また、男女を通じて予選から決勝へ勝ち進んだのは、ラドゥカヌ選手が初めてとのことです。
グランドスラム優勝18回の解説者マルチナ・ナブラチロワ氏が「テニスIQもメンタルIQも高い」と評価するラドゥカヌ選手は、試合中の態度や試合後のインタビューでの常に前向きでありながら謙虚な人柄でも評価を高めています。
明日の決勝では、彼女が目指す「自分にとってベストのプレイ」ができることを、英国の多くの人々は祈り、応援をすることでしょう。