金市場ニュース

ニュースレター(2025年7月11日)米関税政策の懸念で貴金属相場上昇、銀は14年ぶり高値更新

週間市場ウォッチ

今週金曜日の弊社チャートの貴金属価格は、前週のLBMA価格と比較すると、下記のようになります。

一週間の貴金属価格の変化 出典元 ブリオンボールト

LBMA価格ベースでは、ドル建て金価格は6月23日以来の高さで2週連続の上昇、銀価格も2週連続の上昇で、2011年9月22日以来の高値、プラチナは5週ぶりに週間で下げて、前週の2014年9月9日以来の高値から下げています。パラジウムは、3週連続の上昇で、2024年10月29日以来の高さとなっています。

の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週の貴金属相場は、前週すでに4%を超えて上昇していたプラチナを除き、トランプ大統領の関税政策への懸念から全般的に上昇しています。

この関税政策は、米国に輸入される銅に対して50%の関税を課すというものでした。年初来、市場では貴金属にも関税が課されるのではないかとの懸念があり、「解放の日」とトランプ大統領が呼んだ4月2日の関税発表に向けて、関税が発効する前に地金現物をニューヨークへ移送する動きが活発化していました。

しかし、発表当日に「Bullion(地金)には関税はかからない」と明記があり、金・銀・プラチナ・パラジウムは対象外との見方が広まりました。これを受けて、ニューヨークの先物価格とロンドンの現物価格の差(スプレッド)は縮小し、ニューヨークへの地金の流入も落ち着き、プラチナを除くロンドンの地金リースレートは低下していました。

ところが今週に入り、銅に関税が課されたことで、再び貴金属(特に工業用途の多い銀、プラチナ、パラジウム)にも関税が課される可能性が意識され始めたことで、先物と現物の価格差が再び拡大。地金は再びニューヨークへ向かう動きが強まり、それに伴って短期のリースレートも再び上昇に転じ、貴金属価格は全般的に上昇しています。

そこで今回は、各貴金属の月間リースレートの年初からの推移を示すチャートをご紹介します。

貴金属現物の一月のリースレートの推移 出典元 ブリオンボールト

今週最も顕著なのは銀で、リースレートは前日の1.74%から本日5.24%へと急上昇して、銀価格を押上げています。プラチナ価格も、リースレートが6月に急騰した後に1300ドルを超えて上昇を見せていました。

今週の貴金属相場について

週明け月曜日の金相場は、一時トロイオンスあたり3296ドルまで下落した後、3345ドルまで回復し、最終的に3334ドルでロンドン時間を終えました。

下落の背景には、トランプ大統領が水曜日の関税交渉期限を前に、BRICS諸国を含む反米的な国々に対し、新たに10%の追加関税を課すと発表したことで、ドル高が進行したことがありました。

その後の金価格の回復は、3300ドルを割り込んだ水準で買いが入ったことに加え、トランプ氏の強硬な関税方針に対する懸念から株価が下落し、安全資産としての金需要が高まったことが要因と見られます。

火曜日には、金相場が一時3287ドルと6月30日以来の安値を記録しましたが、その後は3302ドルまで回復し、心理的な節目である3300ドルを上回ってロンドン時間を終えました。

この日の下落は、トランプ氏が日本や韓国など複数の貿易相手国に対して新たな関税を発表したことによるものです。ただし、その内容は4月に発表された水準と大差なく、8月1日からの適用も交渉次第で変更される可能性があるとの見方から、市場の懸念はやや後退しました。

同時に、株式市場が横ばいで推移する中、ドル高と長期金利の上昇が金価格の上値を抑える要因となり、安全資産としての金需要がやや減少していたことも影響しました。

水曜日の金相場は、一時3283ドルまで下落したものの、最終的には3317ドルまで回復し、前日終値を上回って取引を終えました。

米国株式市場では、AI関連銘柄の代表であるエヌビディアが時価総額4兆ドルを突破するなど、全体的に上昇し、リスクオンのムードが金相場を圧迫しました。

一方で、トランプ氏が「8月1日の交渉期限は延長しない」と明言し、銅および関連製品に50%、医薬品に最大200%の関税を課すと発表したことが、金の安全資産需要を下支えしました。

また、同日に実施された390億ドル規模の米国債入札は堅調で、ほぼ想定内であったFOMC議事録発表後の長期金利が小幅に低下したことも、金価格のサポート材料となりました。

木曜日の金相場は、一時3330ドルまで上昇した後、S&P500種株価指数が過去最高値を更新する中で、3323ドルで取引を終えました。

この日は、トランプ大統領がブラジルからの輸入品に対し50%の関税を課すと発表したことで、他の貿易相手国との交渉の行方に注目が集まり、安全資産としての金への需要がやや高まりました。

一方、同日に発表された米新規失業保険申請件数は予想を下回り、7週間ぶりの低水準を記録。労働市場の強さが意識され、株価の下支えとなるとともに、安全資産需要はやや抑制されました。

また、同日注目されたのは、銅価格の急騰を背景とした貴金属市場の変動です。今週発表された銅への50%関税により銅価格が急騰し、これに連動してプラチナの1カ月リースレートも急上昇しました。

これはNymexの先物価格とロンドンの現物価格との価格差拡大によって、ロンドンからニューヨークへの現物移動が加速し、現物逼迫の兆しが見られたためであり、通常このような状況はさらなる価格上昇をもたらす要因となります。

金曜日(本日)の金相場は、世界的な株価下落、米ドル高、長期金利上昇の中で、一時トロイオンスあたり3364ドルと7月2日以来の高値を記録しています。

この株価下落は、トランプ政権がカナダへの関税率を35%に引き上げると発表したことによるもので、世界経済への懸念から株が売られ、安全資産としての金とドルが買われた結果と見られます。

また、本日は銀相場もトロイオンスあたり38.21ドルと14年ぶりの高値を更新しており、これが金相場をさらに押し上げる一因となっています。

背景としては、銅への50%関税発表により銅価格が急騰したこと、さらにトランプ氏による銀・プラチナ・パラジウムへの関税導入懸念が高まっていることがあり、ニューヨークとロンドンの価格差拡大を通じて、現物がニューヨークに流入し、短期的な現物リースレートが急騰していることが挙げられます。これにより、銀やパラジウムの現物価格の上昇が促されています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 月初に前月の中央銀行の金準備増加が明らかとなり、中国人民銀行は2トン増で8ヶ月連続で19トン増加の2299トン、ウズベキスタンの中央銀行は9トン増であったものの、年初からは18トン減の365トン、チェコの中央銀行は前月2トン増で年初来11トン増で金準備は62トン。
  • ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによると、上半期の金ETFの増加量は評価額で80億ドルと2020年上半期以来の大きさで、北米と欧州の増加に牽引されていたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週金曜日が米独立記念日であったことから、今週月曜日に7月1日までのデータが発表され、金はリスクオン基調で前週からの下げ幅を若干取り戻した際に、金以外の全ての貴金属で、ネットロングが減少。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、4.8%増で425.18トンと、4月15日までの週以来の高さ。その際の価格は前週比1.4%高でトロイオンスあたり3349ドルと6月17日までの週以来の高さ。建玉は4.3%減と12月31日までの週以来の低さへ減少。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、0.1%減で7095トンと2週連続で減少して、前前週の2020年2月25日までの週以来の高さから下落。価格は前週比1.2%高で、トロイオンスあたり36.51ドルと前前週以来の高さ。建玉は2週連続で減少して5月27日までの週以来の低さ。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、前週火曜日までに21.8%減の24.09トンと、前前週の2月18日までの週以来の高さから減少。価格は前週比4.2%高でトロイオンスあたり1359ドルと、2014年9月16日までの週以来の高さ。建玉は2週連続で下げて、前週の記録が始まった2006年6月以来の高さから若干下落。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに9.1%増で14.82トンと6週ぶりに増加して、昨年11月5日までの一週間以来の低さから増加。価格は5.0%高でトロイオンスあたり1125ドルと2023年12月26日の週以来の高さへ上昇。建玉は4月8日の週以来の高さへ増加。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、昨日木曜日までに週間で1.1トン(0.1%)増加して948.80トンと6月末以来の高さで、前月の6週ぶりの週間の減少から、週間の増加傾向。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに全く増減なく442.24トンと2023年8月2日以来の高さで、前週の5週連続の週間の増加後に変化がないこと。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で21.19トン(0.1%)増で14,889.93トンと、2024年10月末以来の高さで、4週連続の週間の増加傾向。
  • 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週91台前半で始まり、本日89台前半と今年3月18日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1943ドルで始まり、本日金曜日に1977ドルへと7月1日以来の高さへ上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週252ドルのプレミアムで始まり、本日金曜日に203ドルへ下げて、6月16日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムで、週平均は10.96ドルと前週の14.24ドルから下げて、6月20日までの週以来の低さとなっていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。

今週の主要イベント及び主要経済指標

今週は、トランプ政権が関税交渉のデットラインとした7月9日を前に、またそれ以降も、関税関連ニュースに市場は注目し動いていました。

来週も引き続き米関税関連ニュースは重要ですが、それに加え、米消費者物価指数が火曜日、卸売物価指数が水曜日に発表され、連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測に絡み、インフレの状況に市場は注目するとともに、水曜日の英国、木曜日のユーロ圏の消費者物価指数と金曜日のミシガン大学消費態度指数等も重要となります。

詳細主要経済指標(2025年7月14日~18日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では、トランプ前大統領の関税政策や、ネタニヤフ・イスラエル首相の訪米、イスラエルとパレスチナ武装勢力ハマスとの停戦交渉、そしてウクライナ戦争など国際情勢が大きく報道されています。また国内では、マクロン仏大統領の国賓訪英と、それに合わせて行われた英仏会談(違法移民政策を含む)が注目されました。スポーツでは、ウィンブルドン・テニストーナメントやUEFA女子欧州選手権などが関心を集めています。

今週はその中でも、マクロン大統領夫妻の国賓訪英について、その目的や背景を中心にお伝えします。

昨年、日本の天皇・皇后両陛下がチャールズ3世国王の招待を受け、国賓として英国を訪問されました。英国では、国家元首や皇族が国賓として招かれるのは原則として一度限りとされており、私たち在英日本人にとっても大変貴重で、記憶に残る機会となりました。

今回のマクロン大統領夫妻にとっては初の国賓訪英であり、フランスの現職大統領としては、2008年3月のサルコジ大統領以来17年ぶりのことです。

このように長い間フランスの大統領が国賓として招待されなかった理由としては、英国では国賓の招待が年間1〜2回と限られていることに加え、地政学的なバランスの配慮、2016年の英国のEU離脱、2020年以降のパンデミックの影響などが挙げられます。

今回の招待は、チャールズ3世国王の即位後、初めて欧州の国家元首を迎えるものであり、英仏関係の再構築を意図した象徴的な機会と位置づけられています。

国賓としての主な公式行事は次の通りです。

7月8日(火)
ウィンザー城の参道を馬車でパレード後、国王主催の晩餐会に出席。

7月9日(水)
ウェストミンスター寺院での英仏戦没者への献花、議会での演説、首相官邸でのランチ会談、英仏首脳会談および企業トップとの対話、ロンドン市庁舎(ギルドホール)での公式晩餐会。

7月10日(木)
英仏首脳サミットでは、移民政策や防衛協力などについて協議。英国軍合同司令部やNATO海軍司令部を視察し、英仏軍関係者と会合。

英仏首脳サミット後に発表された合意事項は次のようになります。

  • 核抑止協力:ノースウッド宣言(重大な脅威に英仏が協調して対応)、監視委員会の設置
  • 軍事協力の強化:合同展開部隊の規模を1万人から5万人に拡大、ミサイルの共同開発
  • 移民政策:「One-in, One-out」パイロット制度の導入
  • 技術・エネルギー協力:原子力発電への仏側からの投資、AI・衛星通信・サイバー技術分野での連携
  • 国際支援・平和外交:ウクライナ支援に関する司令部拠点をパリに設置、パレスチナ国家承認に向けた共同姿勢の表明

英国で興味の高さからも、最も大きく伝えられている移民政策「One-in, One-out」パイロット制度について更に詳しくお伝えしましょう。

この制度は、英仏海峡をボートで越えて英国に不法入国した移民を、週に50人程度フランスへ送り返し、代わりにフランスから家族関係などを証明できる合法移民を同数英国が受け入れるという取り決めです。

さらにフランス側では、不法な出航を抑止するための法整備や、海上警察の権限強化を進めることも合意されました。

この制度への批判と課題として下記のような声もあがっています。

  • 不法入国者は今年すでに2万人を超えており、「週50人」ではあまりに規模が小さすぎる
  • 命の危険を伴う航海への対応としては人道的な観点が不足している
  • 不法入国者を返送することによって、EU内の他国(特に南欧諸国)への負担が増し、域内協力が損なわれる懸念

英国を目指す人々が多い背景には、英国の難民審査が比較的緩やかであること、難民認定後の待遇が良いこと、そして英語圏であることから将来の教育や就職の面で有利といった理由があります。

英国のEU離脱以降、英仏を含む欧州各国との関係は一時的に冷え込みましたが、ウクライナ戦争や中東情勢などを背景に、共通の課題への協力が進む中で、今回のマクロン大統領の訪英はその転機ともなりうるものでした。

将来的には、不法移民の抑止にとどまらず、自国を逃れざるを得ない人々に対し、いかに世界各国が協力して支援できるかという、人道的な観点からの議論の深化が望まれます。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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