金市場ニュース

ニュースレター(2021年8月20日)銀とプラチナがコモディティと共に下げる中で金は堅調に推移

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1780ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.36%高と2週連続で上昇しています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり23.21ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.75%安で2週連続の下げで、LBMA価格ベースでは昨年11月末以来の低さとなっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では981ドルと、前週LBMA価格から4.29%安と8営業日ぶりの低さとなっています。

今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要

今週貴金属市場は、先週同様にそれぞれ異なる動きをすることとなりました。

金相場は、FRBによる早期量的緩和縮小観測が頭をおさえているものの、デルタ変異種感染拡大、中国経済回復のスローダウン、アフガニスタン関連地政学リスクなどによる安全資産的需要からも、株価が今週下げる中で前週終値比上昇して終える方向で推移しています。

それに対し、工業用途が6割と多い銀とプラチナは、デルタ変異種感染拡大による経済回復停滞による需要減少、これら貴金属の最大消費国でもある中国の経済指標の悪化、そして半導体不足からも自動車生産も減少し、今週はトヨタが9月の生産量を4割削減することも発表していたことから、センチメントが大きく悪化することとなりました。

そこで、今週金銀比価は75台で今週始まったものの、本日ほぼ77まで上昇して9ヶ月ぶりの高さとなっています。

また、排ガス浄化触媒の需要が全体の4割ほどと高いプラチナは、トロイオンスあたり1000ドルを割って昨年12月半ばの水準へと下げており、金との差のディスカウントは、今年4月に500ドルまで下げていたものの、800ドルを超える大きさまで広げています。

下記にプラチナ価格の20年間の推移を示すチャートを添付しますが、ここでもご覧いただけるように、今年2月に早期経済回復の期待でトロイオンスあたり1340ドルまでプラチナは上昇していましたが、その観測が後退する中で、すでに今年のピークから25%ほど下げています。しかし、パンデミックによる昨年3月の18年ぶりの低さの571ドルからは未だ74%上昇して推移しています。

ブリオンボールト・リアルタイムプラチナ価格チャート

日々の金相場の動きと背景について

週明け月曜日金価格は、ロンドン時間昼過ぎに先週の1週間ぶりの高い水準から下げていましたが、その後発表されたニューヨーク連銀製造業景気指数が前回と予想を下回り、米長期金利が下げることに反応して、ロンドン時間午後には上昇してトロイオンスあたり1787ドルで終えていました。

また、同日は世界株価が全般下げていたことから、リスクオフで金のサポートとなっていた模様です。

このリスクオフ基調の要因は、中国の経済指標の悪化、その要因でもあるデルタ変異種感染拡大、そしてアフガニスタンにおける地政学リスクへの懸念などでした。

火曜日金相場は、ドルが5日ぶりの高さへ強含む中で、前日の上げ幅をほぼ失って、トロイオンスあたり1786ドルで終えていました。

同日は米小売売上高が予想の-0.2%を再び下回り-1.1と、デルタ変異種感染拡大による経済回復停滞懸念が更に広がり、安全資産としてドルが買われたことによるドル高に反応することとなりました。

なお、ダウ工業株30種平均は6営業日ぶりに反落し、また中国政府が中国の大企業であるアリババグループやバイドゥ等への規制を高めていることから、米国市場でこれらの株が下げていることもあり、S&P500種も5営業日ぶりに下げていたこともセンチメントを悪化させていました。

水曜日金相場は、ロンドン時間午後7時に発表されるFOMC議事録要旨を待つ中で、ドルと長期金利が多少上昇する中で若干下げて推移し、発表後もほぼ大きな動きはなく、結果的にはトロイオンスあたり1787ドルと前日比若干上げて終えていました。

ロンドン時間の下げは、議事録で金融緩和縮小の時期について触れるなどのタカ派的内容が予想されていることが背景となっていましたが、結果は年内の量的緩和縮小が議論されたことが明らかとなったものの、予想を超えるタカ派的内容ではないという判断であったようです。

また、同日発表された米住宅着工件数は予想と前回を下回って3ヶ月ぶり低水準となっていたことからも、需要減速や資材や労働力制約などで住宅建設が抑制されるなど早期経済回復観測後退も金をサーポートすることとなりました。

木曜日金相場は、株価市場が揺らぐ中で、トロイオンスあたり15ドルのレンジで動き、1781ドルで終えていました。

株式市場は前日夜発表されたFOMCの議事録で、年内の量的緩和縮小が議論されたことが明らかとなり、予想より早い動きを警戒して下げたアジアを引き継いで、欧州においては反落して始まってました。

その後、同日発表の新規失業保険申請件数が予想を下回り4週連続の下げであったこと、その後低値買いもあり、テクノロジー株に率いられて米株価が上昇に転じて、ドルが強含んでいたこともあり、金は押し下げられることとなりました。

本日金相場は、前日よりも狭い幅のトロイオンスあたり10ドル以内の狭い幅で1785ドル前後で推移しています。

本日も前日に続き、アジアと欧州株式市場は下げており、そのためにもドルインデックスは前日比上昇して5営業日連続の上げとなって昨年11月以来の高さに上げていることが、金の頭を押さえている模様です。

しかし、長期金利はほぼ前日比横ばいとなっていることで、サポートは入り綱引き状態でもあるようです。

なお、市場は来週末行われるジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演に注目を移して、動意薄ともなっているようです

ブリオンボールト・リアルタイム金価格チャート

その他の市場のニュ―ス


  • World Gold Council (WGC)によるとアフガニスタンの中央銀行が保有するゴールドは20.9トンでFRBに預託。

  • Palantir Technology (米国のビッグデータ分析会社)が、何らかの危機的状況に備えるために今月約8.9トンの金を購入したこと。また顧客からの支払いをゴールドで受け取ることも可能としたとのこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週10日、良好な米雇用統計後の価格の下落、そして翌月曜日のフラッシュ・クラッシュ(瞬時暴落)の翌日に、パラジウム以外の貴金属で大幅に減少していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、52%減の159トンと減少し、今年3月30日以来の低さとなっていたこと。また、建玉は4週連続で減少していたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比54%減の1851トンと昨年5月5日以来の低さへ下げていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのポジションは、前週に続きネットショートで14トンと131%その規模を増加させていたこと。この規模のネットショートは、2019年7月9日以来。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比17.5%増で9トンと3週ぶりに増加していたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で6.7トン(0.7%)減少し1015トンと、昨年4月20日以来の低さで、週間では3週連続の減少傾向となっていること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高も、木曜日までに2.25トン(0.45%)減少し495.7トンと5月6日以来の低さで、3週連続の週間の減少となる傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で109.5トン(0.63%)減で17,167トンと12月16日以来の低さで、2週ぶりに週間の下げの傾向となっていること。

  • 金銀比価は、今週75で始まり、昨日76台へ上昇して本日はほぼ77と、昨年11月30日以来の高さ(銀の金に対して割安傾向)となっていること。

  • 上海黄金交易所(SGE)の価格は先週の価格の急落時から今週多少戻していることから、ロンドン価格に対し、プレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)ではあるものの、週間平均は4.30ドルと前週の7.39ドルから下げていたこと。

  • コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、今週金が前週終値比上回る価格で推移する中で、銀とプラチナは下げて、特にプラチナの下げ幅の大きさからも、プラチナは増加していたものの、金と銀は下げて直近の週間平均取引量を下回っていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は注目のFOMC議事録を経て、テーパリング(量的緩和縮小)の早期実施観測が広がり、金融市場を揺らしていますが、来週も引き続き中央銀行の金融政策に影響を与える指標やイベントが注目となります。

そこで、注目は週末に控えているジャクソンホール会議で、パウエルFRB議長は27日に経済見通しに関する講演をすることからも、今後の量的緩和縮小の工程表について触れるかに注目することとなります。

その他、月曜日のドイツ、英国、米国の製造業及びサービスPMI、火曜日の米リッチモンド連銀製造業指数、水曜日の米耐久財受注、木曜日の米第2四半期GDPと個人消費とコアPCE、金曜日の米個人消費支出と個人所得、ミシガン大学消費者態度指数等となります。

詳細は主要経済指標(2021年8月23日~27日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

先週末の英主要経済誌Money Weekの、「金本位制終焉50周年せ学んだ3つのポイント」の記事で、弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。

ここで、金本位制の終焉の経緯を説明する際にエイドリアンの「金本位制の終焉は、現実からの乖離で、多くの人々を動揺させることとなった。」というコメントを引用し、どのようなシステムも永遠に続くことは保証されていない、そして政治家は短期的視野で動くことが多い、そして基軸通貨として英国ポンド、米国ドルを経て次へと移行する可能性がある中で、ある一定の金保有が重要であるとまとめています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国ではアフガニスタンを制したタリバンの動きとアフガニスタンから逃れるために脱出を試みる人々や、駐留米軍撤収を決めたバイデン政権とそれに歩調を合わせたジョンソン政権への批判が野党はもとより与党議員からも出ていたこと等が大きく伝えられています。

そのような中で、本日はアフガン難民の方々のためのチャリティーへの寄付が予想以上の規模と速さで集まっていることが伝えられていますので、ご紹介しましょう。

今週ジョンソン首相は、アフガン難民を最大2万人英国に定住させる計画を発表していました。そのうちの5000人は一年目で残りの人々が受け入れられる期間は特に設定はされていません。

しかし、今回の発表以前に英国のために働いたアフガン人通訳や家族に関してはすでに別枠で受け入れおり、6月22日からすでに2000人が英国に入っているとのこと。

そして、そのうちの64人はアフガニスタンからの子供の難民であったことから、受け入れた英国北西部のピーク地方のチェシャー地区の役所が、子供の服を寄付するチャリティー団体へ寄付を要請し、団体がSNSなどで今週火曜日に募ったところ、翌水曜日のお昼までに200袋を超える寄付が個人や企業からあったとのこと。

また、マンチェスターの難民のチャリティー団体は、火曜日から難民の方々ための洋服や生活必需品を買うためのクラウドファンディングを始めたところ、水曜日の午後までに22,000ポンド(330万円ほど)が集まったとのことです。

日々ニュースではアフガニスタンの首都カブールにある空港へ押し寄せる人々や空港で飛び立つ飛行機にしがみついている人々等の映像が伝えられています。生まれ育った場所がたまたま政治的に混乱下にある国であったがゆえに、日本や英国等で当然のように得ることができる平穏な日々を経験できない人々を想い、何かできることを探している人々は多いようです。

最後に、アフガンの子どもたちを助けることに強い道徳的責任を感じていたというチャリティー団体の代表の言葉が心に残ったのでご紹介しましょう。

「彼らは戦争以外のものを知らない子供たちです。彼らは誰かの娘であり、誰かの息子なのです。彼らを助け、着の身着のままで家を出て英国へ来なければならなかった状況から脱して、尊厳を取り戻すことができるように助けてあげましょう。」

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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