ニュースレター(2021年7月9日)実質金利のマイナス幅が広がる中で、金価格は3週連続の上昇へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1803ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.99%高と3週連続で上げています。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり26.01ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.61%安と2週ぶりに下げています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1093ドルと、前週LBMA価格から0.22%高と上げています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週金相場は3週間ぶりの高さへ一時上昇し、トロイオンスあたり1800ドルを超える水準で3週連続の上昇で終える傾向となっています。
今週の動きはほぼ長期金利の下げとインフレ率上昇観測による実質金利の下げが背景となりました。この長期金利の下げの要因は、今週発表された経済指標が経済の早期回復に懸念をもたらすものであったこと、そしてデルタ変異種の感染拡大が更に経済回復を妨げる可能性も懸念されたことで、安全資産の国債が購入され、国債価格が上昇することで、その利回りは下げたことからでした。
ちなみに、長期金利が1.3%を割ったのは今年2月以来で、当時の金価格はトロイオンスあたり1800ドルを超える現在の価格水準でした。下記に、長期金利とインフレ予想率と金価格の推移を示すチャートを添付します。
なお、昨日の長期金利が大きく下げた際に金が一時下げたのは、株やコモディティ等のリスク資産が大きく下げたことで、安全資産としてドルが買われたこと、また他の資産のマージンコールなどで金の現金化が多少ながら進んだことも要因となったようです。
そこで、工業用途が6割ほどの銀とプラチナは、金のように安全資産として役割の需要の恩恵を受けず、コモディティの位置付けて銀は下げ、プラチナは上げ幅が押さえられている模様です。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、米国が独立記念日で休場のために、狭い幅での取引となっていましたが、金は前週金曜日の2週間ぶりの高さを維持してトロイオンスあたり1787ドルで終えていました。
なお、同日は実質金利が先週金曜日の雇用統計の内容がまちまちであったことでマイナス幅を広げていました。金利を産まない金と実質金利は通常逆方向の動き(過去5年間でほぼ6割)をするために、マイナス実質金利は金のサポートとなります。
火曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1815ドルと6月17日以来の高値を付けた後、1795ドルまで戻して終えていました。
この動きは、同日2月以来の低さへ長期金利が下げたこと、その後多少ながらドルが強含んでこの下げ幅を狭めたことに反応していたものとなります。
また、翌日FOMC議事要旨が発表され、市場は注目している中で、すでにFOMC後タカ派的内容で大きく下げている金には買いが入りやすい状況となっていました。そこで、長期金利が下げることで実質金利が更にマイナス幅を広げていたこと、そしてテクニカル的には1795ドルのレジスタンスを超えることで更に上げを見せることとなりました。
しかし、次のレジスタンスの1814ドル超えは売りも入りやすい状況で、他のコモディティ価格はリスクオフ基調で下げる中でドルが多少強含み、押し戻されることとなりました。
水曜日、金相場はFOMC議事要旨を待つ中で緩やかに上昇をし、発表後も大きなサプライズはなかったことでトロイオンスあたり1803ドルで終えていました。
なお、FOMC議事要旨では、「テーパリングのための(経済回復)は継続行われているものの、未だ十分ではない」とし、テーパリングについて、「予期せぬ経済情勢に対応できるよう、必要に応じて資産購入を減額できる体制を整えておくことが大切だ」とよりタカ派的ではないとの判断となったようです。
なお、同日実質金利は今年2月以来初めて-1%を付けていたことから、金価格上昇の背景となっていました。
木曜日金相場は、長期金利が2月以来の低さの1.3%を割って下げる中で、一時トロイオンスあたり1818ドルと3週間ぶりの高さへ上昇していましたが、その後金利が1.3%を戻し上昇するとともに、1800ドルを割る水準まで戻し、その後1803ドルで終えていました。
この間、株価は同日発表された新規失業保険申請件数が予想を上回ったこと、またデルタ変異種の感染拡大で景気回復の遅れの見方が広がり大幅に下げたことで、リスクオフでドルが買い戻されて強含んでいたことも金の頭を抑えていました。
本日金曜日は、長期金利の下げが一服し、株式市場が全般落ち着きを取り戻す中で、ドルが弱含んでいることからも、トロイオンスあたり1808ドルへと上昇しています。
先の市場の落ち着きは、昨日ラガルドECB総裁がインフレ率は2%を一時的超えても問題は無いと、ハト派的コメントをして、ECBの緩和的政策が継続することが確認されたことも背景にあるようです。
なお、米国10年物国債の利回りは、今週2020年6月以来の下げ幅となる傾向です。
その他の市場のニュ―ス
-
先週金曜日に発表された5月の中央銀行の金需要のレポートで、金需要がタイ、トルコ、インド、ブラジル、カザフスタン、ポーランドの購入で56.7トンと堅調な需要があること、またセルビア中央銀行が、インフレや金融市場のリスクへのヘッジ目的で今後13.7トン金準備を増加させることを予定していることが伝えられていたこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週29日に、金価格がサポートラインのトロイオンスあたり1750ドルを割る中で、金以外の全ての貴金属で増加していたこと。
-
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4.8%減の225トンと、4週連続で減少し、5月4日以来の低さとなっていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比11%増の5,514トンと増加していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比0.14%増で13.71トンへ増加していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比23%増で8.4トンと増加していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.1トン(0.2%)減で1040.5トンと3週連続の週間の減少傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで全く動きがなく505トンと5月25日以来の低さで、前週8週ぶりに週間の減少後横ばいの傾向。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで週間で57.7トン(0.3%)減で17,296トンと5週連続の週間の減少傾向であること。 -
金銀比価は、今週68台を推移していたものの、木曜日に69台へ増加(この指数が増加時は銀割安傾向が強まったこと)して推移していたこと。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格は、ロンドン価格に対し先週に引き続きプレミアム(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)で、週間平均が3.31ドルと前週から減少していたこと。これは、人民元が対ドル弱含んでいることが背景。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物の取引量は、実質金利の低下、リスクオフ基調等で価格のボラティリティが増加する中で、金が週平均で30%増加している中で、銀とプラチナはそれぞれ4%と15%減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週の重要イベント及び指標は、火曜日の米国消費者物価指数、水曜日のパウエルFRB議長議会証言、米地区連銀経済報告等と、米国の経済回復、それによるインフレ、そしてFRBの経済見通しと金融政策関連コメントとなります。
また、その他指標としては、木曜日の中国の第2四半期GDP、小売売上高、鉱工業生産、米国新規失業保険申請件数、ニューヨーク及びフィラデルフィア連銀製造業景気指数、鉱工業生産、そして、金曜日の日銀金融政策決定会合後の政策金利発表等となります。
詳細は主要経済指標(2021年7月12日~16日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週弊社が毎月発表している金投資家インデックスの6月の数値をまとめた記事「【金投資家インデックス】金投資はインフレ懸念と価格下落で40%増」で、金価格が5年ぶりの下げ幅を見せる中で、インフレ懸念からも金需要が急増していたことをお伝えしましたが、その金需要の3分の1がドイツからの需要であったことをドイツの経済サイトが「ドイツの投資家がインフレヘッジの目的で金投資を進める」で伝えています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
-
主要経済指標(2021年7月5日~9日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年7月12日~16日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年7月5日)実質金利マイナスと中央銀行の買いが金の追い風となる -
【金投資家インデックス】金投資はインフレ懸念と価格下落で40%増
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、先週お伝えしたサッカーの欧州選手権に出場しているイングランドチームが水曜日にデンマークを破って決勝進出が決まったので、このニュースと、今週末日曜日の試合に備えるチームの様子等が、ほぼトップで伝えられています。
ちなみに、このような主要大会での決勝進出は1966年のワールドカップで優勝して以来とのことです。
そのような中で、英国はコロナ禍で行われているロックダウンの最終解除を予定通り7月19日に行う方向であることが、ボリス・ジョンソン首相によって今週月曜日に発表され、その後も様々な規制解除について日々伝えられているので、簡単にお伝えしましょう。
7月19日に予定されているロックダウンの最終段階解除は、当初6月21日に行われる予定でしたが、デルタ変異種感染拡大で4週間延期されていました。
その後、感染者数は本日で35,000人を超えるなど、必ずしも減少していないのですが、ワクチン普及が進むことで、重症化、そして死亡するリスクが抑えられたことからとの説明がされています。なお、正式な判断は来週月曜日に発表される予定です。
そこで、ロックダウン全面解除には、公共の場でのマスクの着用義務も無くなることが含まれていることから、科学者の多くがマスク着用に関しては再考すべきと共同で意見書を出しています。ちなみに、6つの大陸の2000万人を対象に行った、ブリストル大学、オックスフォード大学、コペンハーゲン大学の共同調査では、マスクを全ての人々が着用していた場合、Covid-19感染を約25%減少させることができるとのことです。
そして、本日は日本を含む黄色に分類された国から帰国するワクチン接種完了者の現行10日間必要とされている自己隔離を、7月19日のロックダウン最終解除にあわせて終わらせることについても、グラント・シャップス運輸相が発表しています。
このように、コロナと共に生きるフェーズに入ったとして、全てのロックダウン解除を進めようとする英国政府ですが、多くの科学者が警笛を鳴らしているように、個人的には少なくともマスク着用の義務は残すべきではないかと思っているところです。