金市場ニュース

ニュースレター(2020年6月26日)米実質長期金利がマイナス幅を深める中で、米国のCovid-19感染者数が記録を更新し、金価格はほぼ8年ぶりの高さへ

週間市場ウォッチ

今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1749.21ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.83% 上げ、金曜日のLBMA金PM価格としては、2012年10月以来の高さとなっています。そこで、3週連続の上昇となり、1月以来のものとなります。また銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり17.84ドルと前週のLBMA価格(午後12時)から1.80%上昇しています。しかし、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では805.75ドルと前週金曜日のLBMA価格から1.74%下げています。

今週金相場は、主要国国債の実質利回りがマイナス幅を広げて金をサポートする中で、再び新型コロナウイルス感染拡大、特に米国内において経済再開遅延懸念からドル建てでほぼ8年ぶりの高さへ上昇することとなりました。それでは、日々の細かな動きと背景に関しては下記をご覧ください。

月曜日ドル建て金相場はトロイオンスあたり1763ドルを一時付けるなど、直近の上値の1767ドルを試していました。

この背景は、主要国債の利回りがインフレ考慮後の実質利回りでマイナス幅が広がっていること、また新型コロナウィルスの世界的感染拡大懸念がWHOが1日あたりの世界の感染数が前日最大であったと発表したことなどで広がっていることが背景にありました。

また、週末に新たに金ETFへの資金流入、そして金先物・オプションへのポジションが強気へと前週変換したように、多くのプライベートバンクが、主要国の金融政策などでドルの価値が下落して今後の金相場がさらに上昇することを予想していることや、金への資産分散を富裕層に勧めていることが伝えられていることもサポートとなっていたようです。

火曜日金相場はナスダック総合株価指数が過去最高値を付ける中で、直近の上値のトロイオンスあたり1767ドルを超えて一時1770ドルとほぼ8年ぶり(7年8ヶ月)の高さへと上昇していました。

これは、前日同様に米10年物国債の実質利回りがマイナス幅を深めていること、また米国の新型コロナ感染者数が引き続き上昇していること、主要国の金融政策による通貨価値下落の懸念が要因ですが、同日発表された主要国の製造業及びサービス部門のPMIは、英国の製造業PMIを除き、景気拡大と縮小の節目の50を下回っているものの、軒並み予想を上回っていたこと、また同日株価を下げたナバロ米大統領補佐官の「米中貿易合意は終わった」というコメントを、トランプ米大統領が打ち消すように「(米中の第1段階の合意は)全く変わっていない」とツイッターに投稿したことで米中関係を巡る懸念が後退したことは、株価の上昇をサポートすることとなりました。

水曜日金相場は、株価が全般下げる中で、トロイオンスあたり1779ドルまで一時上昇した後、押し戻されて1762ドルで終えていました。

株価の下げは、新型コロナウイルスの感染の拡大への懸念が広がっていることが背景ですが、同日はテキサスやカリフォルニアやアリゾナ州でソーシャルディスタンスの厳守が伝えられ、ニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの3州の知事はこれらの州から訪れる人に14日間の自主隔離を義務付けると発表するなど、経済活動再開遅延が懸念材料とされていました。

このために、安全通貨としてドルが強含んだこと、また同日ドル建てで再びほぼ8年ぶりの高値を付けたことで利益確定の売りも進んだことが金を押し下げていました。

また、同日米政府は欧州の航空機大手エアバスへの補助金が不当だとしてEU各国に課している報復関税の拡大を検討すると発表したこと、またIMFが世界経済見通しで、2020年の成長率をマイナス4.9%と予測し、4月時点から1.9ポイントさらに下方修正したことも、リスクオフ基調を強めていました。

木曜日金相場はトロイオンスあたり1763ドルを挟んで10ドルほどの狭いレンジで動いていました。

この間世界株価は、アジア株が下げて終える中、欧州は下げて始まったものの上昇で終え、米国株も同様に下げた後に上昇して終えていました。

水曜日の新型コロナウイルスの米国の感染者数は過去最高で、テキサス州はロックダウン解除を一時停止し、またアップルやディズニーなどが、感染が急拡大している州の再開延期を決めたことなどがセンチメントを悪化させていました。

しかし、同日米通貨監督庁が、銀行に課しているボルカー・ルールの一部変更を承認し、銀行が特定のベンチャー・キャピタルとの取引を増やすことができるようにし、更に銀行が関連会社とのデリバティブ取引を行う際に、委託証拠金を確保する要件を廃止したことで、銀行株が上昇しセンチメントが改善されたようでした。

本日金曜日金相場は、欧米株価が下げる中でドルが強含み、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり1750ドルを一時割ったものの、その後戻して1767ドル前後を推移しています。

これは、米国の感染者数が前日を上回り再び過去最高を更新し、テキサス州がロックダウン解除の停止から、Tavern(酒場)の営業を停止することを求めたこと、またFRBが米大手銀行対象に行ったストレステストの結果は全ての銀行で最低基準を満たしたと発表したものの、米銀の株主還元には歯止めをかけ、20年7~9月期も自社株買いの実施を停止するよう求めたことで、銀行株が下げて米国株を強く押し下げて、安全資産としてドルがスパイクしたことが背景の模様です。しかし、その後株価の下げが落ち着くことでドルも戻して、金も買い戻されたようです。

その他の市場のニュ―ス


  • 木曜日欧州中央銀行は、ユーロ圏外の中央銀行にユーロを融通する枠組みを新設すると発表し、ユーロ需給が緩むとの思惑からユーロが弱含み、ユーロ建て金相場が上昇していたこと。

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週16日、金価格がリスクオンとオフの引き合いで狭いレンジで推移する中で、プラチナを除き全ての貴金属で増加していたこと。

  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは前週比12.4%増の445トンと3週連続ぶりの上昇であったこと。建玉も4週連続で100万枚を割って、引き続き一年ぶりの低さとなっていたこと。

  • コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比16.8%増の4,288トンと3週で最も高い水準となっていたこと。

  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、前週比14.5%減で13.6トンと3週連続の減少となっていたこと。

  • コメックスのパラジウム先物・オプションのネットロングポジションは、前週比1.2%増の2.7トンとなっていたこと。

  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までで16.1トン(1.4%)増加し1175トンと、引き続き2013年4月11日以来の規模で、14週連続の週間の増加の傾向であること。

  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週は週間で16.1トン(1.4%)増で452トンと過去最大を更新し、14週間連続の週間の増加傾向であること。

  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週168トン(1.11%)増で15,299トンと史上最大で、8週連続の週間で増加傾向であること。

  • 金銀比価は今週木曜日に再び100を付けた後、本日は98と多少ながら銀割安傾向が緩和されていたこと。

  • 今週上海黄金交易所(SGE)のディスカウント(ロコ・ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)は、今週の平均が20.39と直近の7週で最も高くなっていたこと。

  • コメックスの金取引量は今週は週平均量で前週比21%増加しているものの、引き続きロックダウン後の低い取引量となっていること。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は新型コロナ感染拡大、米中貿易協議関連、そして米欧貿易摩擦関連ニュースが市場を動かしていますが、来週もこれらのニュースは注目となります。

また、来週は米雇用統計が通常金曜日ですが、同日は米国祝日の関係で木曜日に発表され、火曜日にはパウエルFRB 議長の発言、水曜日にはFOMC議事録が発表され市場は注目することとなります。

その他経済指標では、月曜日ドイツの消費者物価指数、火曜日の日本の失業率と鉱工業生産、中国の製造業PMI、英国第1四半期GDP、ユーロ圏消費者物価指数、米国ケースシラー住宅販売価格、シカゴ購買部協会景気指数、水曜日の中国Caixin製造業PMI、ドイツとユーロ圏と英国と米国の製造業PMI、ドイツの失業率と失業者数、米国の雇用統計の先行指標のADP全国雇用者数とISM製造業景況指数、木曜日の米国貿易収支と新規失業保険申請件数、金曜日の中国のCaixinサービス業PMI、ドイツとユーロ圏と英国のサービス部門PMI等となります。

 

ブリオンボールトニュース

欧州の主要経済サイトのFunds-Europe.comの「ドイツにおける投資傾向のポジティブな驚き」という記事で、ドイツの投資家が長期的視野で、パニックに陥ること無く投資を行っていることを紹介しています。

ここで、弊社リサーチ・ダイレクターのエィドリアン・アッシュは、ドイツ投資家が落ち着いている理由の一つとして、可処分所得における貯蓄の割合が11%と米国の8%や英国の0%より高いことを指摘し、「ドイツの投資家はインフレリスクを最も懸念しているために、他の国の投資家よりも貯蓄の大きな割合を現物金で保有している。」とコメントしています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。

ロンドン便り

英国は今週英国にしては猛暑と言える気温の高い日が続いています。

昨日は33度と今年一番の暑さを記録していました。ちなみに、英国観測史上最高気温は2003年の38.5度で、昨年7月にはそれに次ぐ38.1度を付けていました。

そこで、イギリスはロックダウン下ですが、運動のために遠出することは許されているために、南東のボーンマス等のドーセット地域へ一部メディアによると50万人を超える人々が押し寄せたとのことで、ビーチでは2メートルのソーシャルディスタンスが守られていない写真などが多くのメディアで伝えられています。

それに対し、本日ボリス・ジョンソン首相が他国の第2波を教訓とすべきと述べ、マット・ハンコック保健省大臣は、日光浴を楽しむのは良いが、新型コロナウイルスの感染拡大を防いできたこれまでの努力を無駄にすべきではないとし、現在のロックダウン下のルールが守れないのであれば、そしてそれにより感染者数が増加するのであれば、政府は海岸を封鎖すると警告しています。

個人のリバティーを重視する英国で、しかもジョンソン首相はそれに重きを置いていることからも、今回のルールを守らない人々への対応についても歯切れの悪さが目立っています。

ちなみに、英国がロックダウンに入る直前の3月に国民に向けたブリーフィングでジョンソン氏は、「私達はリバティの守られているこの土地にいます。(We live in a land of liberty..)そのために、人々の行動へ制限をかけることを意図していない。」と述べた上で、感染を防ぐために必要であればどのようなことも除外はしないと続けましたが、人々のリバティを制限することが彼自身にとっては居心地の悪いことであることは明らかでした。

日本語にするとFreedomとLibertyは共に自由となってしまいますが、Freedomが漠然とした自由だとしたら、Libertyは様々な戦い・運動を通じて手に入れた自由とのこと。

日本人的には、規則を守らないこと、それを取り締まらないことへ違和感を持ちますが、人々が勝ち取った自由を簡単に制限してしまう政府よりは、人々の自由を制限することを最大限避けることを望む政府を個人的には選びたいとも改めて思う機会ともなりました。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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