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金価格3500ドルの意味を探る(Part 1)―群衆と真の買い手たち

2025年に金投資価格は既に急騰しすぎたのでしょうか?

「金価格 $3500は4月に安全資産としての金の最高値をつけたのでしょうか」と、ブリオンボールトのアドリアン・アッシュが問いかけています。

歴史はそうかもしれないと示唆しています。投資のプロたちも同様の見方をしています。

バンク・オブ・アメリカの最新のファンドマネージャーへのアンケートによると、調査対象のファンドマネージャーのほぼ半数(49%)が、金価格の上昇を予想する『ロング・ゴールド』が現在市場で最も過熱した取引だと見ています。

Yahooファイナンスの記事では、4月に「ファンドマネージャーが『マグニフィセント・セブン』(米国の大手テクノロジー株7社)をウォール街で最も過熱した取引と見なさないのは、2年ぶりのことだ」と説明していました。

5月には金の過熱感がさらに悪化したと、バンク・オブ・アメリカの月次調査に回答した208人の機関投資家ファンドマネージャーが指摘しています。

そのうち、驚くべきことに58%が金を「最も過熱した取引」と指摘しました…!

バンク・オブ・アメリカのファンドマネージャーへのアンケート結果

しかし、これは真実なのでしょうか。

確かに、2025年には現物金投資が活発化しています。

3月と4月は、2021年新年以来のどの月よりも多くの新規ユーザーがブリオンボールトで口座を開設し、その大部分のユーザーが金を購入しました。

しかし、新規口座開設数は2020年や2011年当時のゴールドラッシュには遠く及ばず、5月と6月にかけて徐々に減少しています。

...一方、多くの小売の金貨や地金販売店は(主流メディアの中でもより軽信的なメディアを通じて)需要が殺到していると主張していますが、彼らによって売却される中古の金貨や地金は、その需要に匹敵するか、あるいはそれを上回る勢いで続いています。

第二に、一部の金融商品も需要が増加しました。しかし、一部の製品に限られ、その増加も限定的でした。

例えば、世界中の金連動型ETF投資信託は、5月初旬に2022年9月以来最も多く資金流入が見られました。

しかし、その量は前年同月の4年ぶりの低水準から15%増加したに過ぎず、欧州で上場する金ETF投資信託の増加率は7%未満でした。

その後、5月に3週間連続で世界全体の金ETFの残高総量が減少しました。

さらに注目すべきは、米国金先物とオプションの投機的取引が、価格が4月の新たな史上最高値に急上昇する中で実際には減少したことです。ヘッジファンド、CTA(商品取引顧問)、その他の「資金運用業者」のトレーダーの投機的資金は、2025年現在、金から資金を引き出しているのです。

新年明けから21週間で、金価格は28%上昇しました。しかし、コメックス金先物とオプションの投機的ネットロングポジションの規模は3分の1以上縮小し、10年、5年、3年の平均を下回り、本来は密接な関係である金価格の方向性との関連性を無くしています。

したがって、金価格を押し上げている「群衆」は、ロンドン、フランクフルト、パリ、ニューヨークでは存在しません。しかし、これは驚くべきことではありません。2023年末に金価格が明確に上昇に転じて以来、データと実際の状況がsめしているのは、中国の消費者の資金の金市場への流入、および中央銀行や政府系ファンドにおける「西側諸国対その他の国々」という構図であるからです。

先のの2つの取引は過熱しているのでしょうか?おそらくそうであるかもしれません。

「SHFE金先物取引の最大のトレーダーは、新たな史上最高水準のポジションサイズを積み上げています」と、カナダの証券会社TD Securitiesのコモディティ戦略家ダニエル・ガリー氏は述べています。しかし、ブリオンボールトが見出したように、上海黄金交易所における投機的な賭けの規模と価格の動向との間には関係がありません(米国Comexの買い手が価格を追随し、場合によっては価格を牽引する傾向とは対照的です)。さらに、ガリ氏も指摘するように、「中国の金ETFの資金流入は依然として鈍化している」と、今年初めにみられた急激な上昇(ただし非常に低い水準からの上昇)が止まっています。

一方、中央銀行は全体として公式金準備として金を増加し続けています。

しかし、4月に価格が新たな記録高を更新したため、ペースは鈍化しています...

ポーランドの中央銀行National Bank of Poland(長年の金愛好家)を筆頭に、チェコ、中国、トルコが続いています。

ただし、非公式で報告されていない金準備の需要を加えると、専門アナリストのMetals Focusの予測によると、2025年に中央銀行の総購入量は4年連続で1,000トンを突破する見込みです。これは大きな数字で、2022年に初めて突破された第二次世界大戦前の水準以来の最高値です。しかし、Metals Focustの分析によると、重量ベースでは加速していません。したがって、この「群衆」は現在、市場における長期的な(ただし隠れた)存在となっています。

ところで、バンク・オブ・アメリカのアンケートに答えたファンドマネージャーが言及している「群衆」とは、本当に存在するのでしょうか?

バンク・オブ・アメリカのアンケートは馬鹿げた質問をし、馬鹿げた回答を得ています。回答者が「過熱」という言葉で何を指しているのかは定義されていません。また、他の投資家が何をしているかを示す市場洞察や情報も明確ではありません。

確かに、現在では6ヶ月前や12ヶ月前、ましてや2022年半ばに金価格が現在の半額だった頃と比べて、はるかに多くの強気派が声を上げているのは事実です。

しかし、スマートフォンでヘッドラインをスクロールするだけでは、他の投資家が実際に資金(または顧客の貯蓄)をどう運用しているかを知ることはできません。また、セールスマンやプロモーターが事実を誇張しているかどうかを判断するにも役立ちません。

事実、最も混雑した取引を特定しようとするという考えそのものが、偏見、嫉妬、そしてFOMO(取り残される恐怖)が渦巻く心理的な落とし穴なのです。

そして、バンク・オブ・アメリカの質問は、おそらくa) 現在の群衆が保有していない資産、そしてb) 彼らが取り残されたため、過度に急上昇した資産だと信じたいもの、ということを反映しています。
 
そして、見よ!金を所有していないファンドマネージャーたちも、金が高値すぎると考えているのです。
 
バンク・オブ・アメリカのアンケートでは「金は高値すぎる」と評価
「通常、投資家たちに何かが過小評価されているか過大評価されているかを尋ね、その多くが同意した場合、すべきことはその反対の行動を取ることです」と、フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ロバート・アームストロング氏は、5 月の バンク・オブ・アメリカ のアンケートをレビューしながら述べています。
 
「興味深いのは、2020 年と 2011 年の 2 回、多くのマネージャーが金が高値であると一致して判断したとき、その判断は正しかったことです。」と続けています。
 
その後の金のパフォーマンス(濃い青色の線)を見てみてください。2011 年の下落後、金は名目上の高値を取り戻すまでに 10 年を要しました。
 
興味深いです。しかし、この情報は有用でしょうか?
 
バンク・オブ・アメリカ の調査が金の将来価値の指針となる場合、その 100% の的中率は、これまでのところ 2 回中 2 回にすぎません。これは、決してパターンと言うにはほど遠いものです。
 
さらに注目すべきは、この調査はこれまで 2 回(2010 年初頭、2024 年後半)の明らかな「誤検知」も示していることです。
 
したがって、バンク・オブ・アメリカのアンケート結果は、2011年、2020年、または2025年までの金の記録的な価格上昇について語るよりも、ファンドマネージャーの心理状態について多くを語っている可能性が高いと言えるでしょう。
 
金の市場自体は、空っぽではないものの、強気派で溢れているわけでもありません。
 
スウェーデンの株式取引プラットフォームの見出しでは、『Nordnetのファンド投資家は5月にグローバルファンドを購入し、金と銀を売却した』と報じられています。
 
「金はアウト、株式はイン」と、インドのレポートは資産管理会社WhiteOakの言葉を引用しています。
 
「ビットコインETFが$90億の資金を取り入れ、投資家が金保有を売却」とブルームバーグは、米国の信託基金の資金流入を指摘しています。
 
先をまとめると、金は急騰したものの、多くのファンドマネージャーはそれを逃したということでしょう。しかし、それが過大評価や過熱を意味するわけではありません。バンク・オブ・アメリカのアンケートは逆張り指標としての価値があるかもしれませんが、むしろ米国株式や他の先進国株式市場に光を当てる可能性が高いでしょう。
 
なぜなら、それがファンドマネージャーが売買する対象だからです。
 
一方、金の価格チャートを見ると、今春の急騰の規模と速度は一目瞭然です。これは3500ドルが重要な長期的な高値を示唆しているかもしれません。なぜなら、金は大きな高値をつけるという習性があるためです。
 
Part 2では、金の3500ドルの高値についてさらに詳しく述べてみましょう。

 

エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチダイレクターとして、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。

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