ニュースレータ(2022年1月14日)インフレ懸念が金を1800ドルを超えて押し上げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1824ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.75%高と、先週金曜日のLBMA価格(PM)ベースで3週ぶりの低さから上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり23.11ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から3.91%高とLBMA価格ベースで、先週の3週ぶりの低さから上昇しています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では980ドルと2.07%高となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属相場は、前週FOMC議事録が予想以上にタカ派的であったことによる長期金利急騰による急落をほぼ取り戻すこととなりました。
今週の主要イベントは火曜日のパウエル議長の上院での議長再任の公聴会、そして水曜日の米消費者物価指数でしたが、ともに想定内の内容となる中でインフレの長期に渡る高止まり観測は広がる事となり、インフレヘッジの貴金属の需要増観測からも、金と銀は上昇をすることとなりました。
そこで、価格の動きが市場規模からも金よりもより大きい銀は、今週金を上回って上昇していることからも、金銀比価は78台後半と今年に入り最も低く、先週の急落時の80から下げて金に対して銀の割安傾向が多少解消されています。
プラチナは、前週の下げ幅は0.3%と限定的であったものの、通常インフレヘッジ的需要はないことから、より経済回復への期待による上昇と思われます。
毎週その週の注目チャートをここで紹介していますが、今週はCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の将来の金利予想(FedWatch)で、市場が如何に早期の利上げ観測を広げているか示すグラフを添付します。
このグラフは2022年12月の段階の金利予想ですが、現在のフェデラルファンドレートが0~0.25%ですので、この水準が保たれているという予想は0.1%と、グラフの下の表の右端のコラムで表示されているひと月前の2.2%から下げ、それに対し、今年7回の利上げ(1.75%~2.00%)の予想が1.2%とひと月前の0.2%から上げていることが分かります。
そして、ほぼ市場が織り込んだと言われている少なくとも4回の利上げ(1.00~1.25%)に関しては62.9%と、ひと月前の30.4%から急激に上昇したことも見ることができます。
ちなみに、利上げのペースが早まる観測は長期金利を上昇させることとなりますが、長期金利からインフレを差し引いた実質金利がマイナスである間は、金利を産まない貴金属にとっては向かい風と言い切れるものではないということになり、高インフレが続く観測は利上げが行われる中でも、金のサポートとなると市場は見ていることが、今週の上昇の背景のようです。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は、米長期金利が2年ぶりの高さへ上昇後その上げ幅を失う中で、ロイオンスあたり1802ドルと1800ドルを取り戻して終えていました。
この長期金利の動きは、市場がFRBによる早期、そして速いペースの利上げを折り込みつつあることが背景でしたが、やはり急激な上げの調整(つまりは債券の買い戻し)等で利回りが下げることになった模様です。
火曜日金相場は、パウエル議長の議会証言を待つ中で、米株価が5日続落で始まったものの、議会証言を消化する中で上昇に転じ、米長期金利は高止まりしていたものの、ドルが弱含んだことからも、トロイオンスあたり1823ドルと一週間ぶりの高さへ一時上昇して、前日終値比1%高の1820ドルで終えていました。
同日開かれたパウエル議長の議長再任指名に伴う米議会の公聴会での証言では「高インフレ定着を防ぐための政策手段を用いる」、そして「バランスシート縮小はおそらく今年後半に開始される」と述べ、FRBによる早期の金融量的緩和縮小及び利上げ政策が価格に織り込まれる中で、長期に渡る高インフレ懸念は金をサポートしていました。
水曜日金相場は、長期金利とドルが弱含む中で、トロイオンスあたり1824ドルと前日比0.3%高で4営業日連続の上昇、一週間ぶりの高さへと上昇していました。
この背景は、同日市場注目の米消費者物価指数が前年同月比7%とほぼ40年ぶりの高さながら、ほぼ予想通りとなったことから、これによる早期の利上げと量的緩和引き締めはすでに価格に織り込み済みである中、高インフレが意識されてインフレヘッジとして金を押し上げることとなりました。
木曜日金相場はロンドン時間午後に一時トロイオンスあたり1812ドルまで下げたものの、ロンドン夕方は1820ドルまで戻して、4営業日ぶりに前日終値比下げて終えていました。
同日は米長期金利とドルインデックスはともに若干下げていたことから、金の下げは前日までの4営業日連続の上昇の調整が入ったようでした。
また、同日ロンドン昼過ぎに米卸売物価指数が発表され、引き続き高い水準であるものの、予想の前年同月比9.8%を多少下回り9.7%となっていたことも、インフレ高懸念による金の需要を多少後退させたようでした。
なお、新たに副議長として指名されたブレイナード理事の上院での公聴会では、ハト派である同氏が、高インフレと戦うというよりタカ派的姿勢を示していましたが、市場への影響は限定的となっていました。
本日金曜日金相場は、ロンドン午前中にトロイオンスあたり1829ドルと今週の最高値を付けたものの、ドルが3営業日ぶりに上昇したことで押し下げられて1817ドル前後を推移しています。
この背景は、本日昼過ぎに発表された米小売売上高、鉱工業生産、ミシガン大学消費者態度指数が、全て予想を下回ったこと、またJPモーガンとCitigroupと主要米銀行の取引収入が予想を下回ったことからも、米株価が下げてドルが買われて強含んでいる模様です。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週4日火曜日までの週で、金とパラジウムが強気ポジションを減少させ、銀とプラチナで強気ポジションを増加させるなど、まちまちであったこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、4%減の295トンと3週ぶりの高い水準から減少していたものの、2021年平均の280トンを超えていたこと。建玉においては、引き続き7週連続で減少して65万枚ほどと、昨年平均の66.8万枚も下回っていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、23.8%増で3,407トンと4週ぶりの高さとなっていたこと。しかし年平均の4,384トンを下回っていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、5週連続のネットショートであったものの、49%減の3トンと4週ぶりの低さであったこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションも17週連続でネットショートで、1.7%増の7.9トンとなっていたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日まで週間で0.9トン(0.1%)減で976トンと、2週ぶりの週間の減少傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで全く変化がなく、492トンと年初以来の低さであること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに26トン(0.16%)減で16,478トンと、3週連続の週間の下げの傾向であること。 -
金銀比価は、80台で始まり78台まで下げて終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週840から860の間を推移していること。2021年平均は708.82で5年平均は564.76。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週プレミアムで、人民元が対ドル強含む中で、5.33ドルと前週の4.24ドルから上昇していたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、今週平均で金が上昇する中で、銀とプラチナでは前週比多少ながら減少していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は市場注目の米消費者物価指数が発表されて、市場予想と同レベルということで、織り込み済みという判断から金は上昇へ転じましたが、来週も米国及び主要国の金融政策、そしてそれに影響を与える可能性がある指標が注目されることとなります。
それは、火曜日の日銀金融政策決定会合後の政策金利発表、水曜日の英国とドイツの消費者物価指数、木曜日のユーロ圏の消費者物価指数、米新規失業保険申請件数等となります。
詳細は主要経済指標(2022年1月17日~21日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュがBBCワールドサービスで、「なぜ金が2021年に下げたのか?」というインタビューを受けて答えています。このリンクで13:55まで早送りしていただくと、このインタビューをお聞きただけます。
ここでエィドリアンは、2020年のような金への資金流入を繰り返すことは難しかったとし、また株価が史上最高値を更新することで、ポートフォリオの保険の役割としての金投資への緊急性が減っていたと解説しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年1月10日~14日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年1月17日~21日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年1月10日)FRBによる利上げの3月開始が70%確率と見られ長期金利が上昇する中で金は堅固に推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、ロックダウン中に首相官邸で行われたとされるパーティーについて、またエリザベス女王の次男であるアンドリュー王子の性被害疑惑について、そして全豪オープンに参加すべくオーストラリアに入ったノバク・ジェコビッチのビザ問題が大きく伝えられています。
そこで、ここでも、昨年12月にすでにロックダウン中の2020年12月に首相官邸におけるパーティー疑惑についてはお伝えしましたが、今週更に他の数回パーティーが行われていたことが明らかとなり、ジョンソン首相への批判が与党保守党内でも高まっていますのでお伝えしましょう。
まず、週初めに2020年5月、他世帯の人とは一人だけ屋外での運動の最中だけ会えるとされていた最も厳しいロックダウン中に、首相官邸の庭に職員100人以上を招いたパーティーが開かれ、ジョンソン首相も短時間参加したと伝えられていました。
これを受けて、今週水曜日にジョンソン首相は議会で謝罪をしていますが、「職務上のイベントだったと暗に信じていた」と必ずしも謝罪とは言えないコメントも発していました。
そして本日は、昨年4月16日、エリザベス女王の夫のエディンバラ公爵フィリップ殿下の葬儀の前日に、ジョンソン首相は参加していないものの、スタッフによる2つのパーティーが首相官邸で行われていたとのことで、本日はこのニュースを受けて首相官邸が王室へ謝罪したとも伝えられていました。
当初の昨年お伝えしたパーティ疑惑以降、先の2つ以外にも、首相の住居や財務省や運輸省や労働年金省等でも飲み会が行われたことが伝えられており、スー・グレイ第2事務次官が一連の報告について調査をしており、ジョンソン首相は与野党からの批判についてはこの報告結果を待つべきと繰り返しています。
そのような中メディアは、エリザベス女王がフィリップ殿下の葬儀にロックダウン中であったことからも、多くの国民が当時親近者の葬儀にすらも厳しい制限が強いられて臨んでいたように、一人で佇む姿の映像を本日のニュースで繰り返し伝えています。
そのようなことからも、国民のジョンソン政権に対する批判は高まっており、調査会社ユーガブの最新世論調査では、保守党支持率は28%と最大野党労働党に10ポイントのリードを許して13年来の劣勢とのこと。
そして、英国の最大のブックメーカー(賭け屋)によると年内にジョンソン首相が辞任するという掛け率が最も低い最有力シナリオとしているとのことです。
2019年12月の総選挙では、ジョンソン首相率いる保守党は下院過半数議席を獲得するなど大勝していたことからも、選挙で勝てるジョンソン首相を支持する保守党議員は多かったようですが、この首相で2年後の次回選挙を勝てるのか疑問に思う議員が増えているのは確かなようです。
そこでしばらくは、次期首相候補を含めて、英国保守党内の動きに注目が行くことになりそうです。