ニュースレター(2021年12月10日)40年来の高い米インフレ率で金は3週ぶりに週間の上昇へ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1780ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.7%高と2週ぶりの上げとなっています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり21.89ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から2.1%安とLBMA価格ベースで4週連続の下落で、3ヶ月ぶりの低値となっています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では949ドルと0.9%高と3週ぶりの上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属価格は、本日発表の米消費者物価指数を待つ中で、新型コロナウィルスのオミクロン型の感染者数の増加懸念と重症化の可能性の薄さの期待等もあり、動意薄で米長期金利とドルの動きに反応する動きとなっていました。
そのような中で、金とプラチナは週間で前週終値を上回る水準で終える方向ですが、今週は銀の弱さが際立つこととなりました。そこで、金銀比価は昨年10月以来の高さの80を本日超えています。この背景は、工業用途が6割と金の1割よりはるかに高いことで、オミクロン型感染拡大による欧州等で行われている移動制限による経済への悪影響懸念などがあるようです。そこで、今週は、金銀比価(緑色)と銀価格(灰色)のチャートを下記に添付します。2020年3月にパンデミックで世界各地でロックダウンが行われていた際にこの数値は124まで急騰しているのが分かります。この数値が高ければ銀が金に対して割安であり、今年初旬に経済回復が期待され、またレディットのシルバースクイーズで銀価格がトロイオンスあたり30ドル近くまで上昇した際に62まで下げていました。
なお、やはり工業用途の割合が6割のプラチナが銀に比較して堅調であるのは、金と銀が先月月間で3.5%、6.2%上昇していたのに対し、プラチナは2%ほど下げていたことから調整も入っている模様です。
日々の金相場の動きと背景について
週明け月曜日金相場は前週終値のトロイオンスあたり1783ドルを挟んで狭いレンジで推移後、トロイオンスあたり1779ドルで終えていました。
これは、新型コロナウイルスのオミクロン型について、感染率は高いものの重症化する確率が高くないというファウチ米主席医療顧問のコメント等で、警戒感が交代する中で米長期金利が上昇したことが背景となりました。
火曜日は、前日のオミクロン型への警戒感の後退が、同日伝えられたグラクソ・スミスクライン社の治療薬のオミクロン型の有効性が臨床で確認されたというニュースでも進み株価が全般上昇する中で、週後半に発表される米消費者物価指数で高いインフレ率が予想されていた警戒感もあり、金相場はトロイオンスあたり1785ドルへと上昇して終えていました。
水曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1792ドルまで上昇したものの、上げ幅を失い、ほぼ前日の終値の1782ドルで終えていました。
同日の上げ幅は、ドルが弱含み、長期金利が下げていたことが背景でしたが、その後長期金利が上昇に転じたことへ金は反応することとなりました。。
この動きは、前日まで記録的な2日間の上げ幅を見せていた米株価が、同日その基調を一服させたことへ長期金利は反応したようでした。
なお、同日ファイザー社はコロナワクチンを3回接種することでオミクロン型に対して高い予防効果があると発表していましたが、英国は感染者数の増加ペースが高まっていることを理由に、在宅勤務等を奨励するなど、さらなる規制を発表したことなどから、欧州諸国も同様な動きがあるとの警戒感が、株価が上昇貴重を一服させた背景であったようです。
木曜日金相場はドルが強含む中でトロイオンスあたり1777ドルへと前日終値から0.4%下げて終えていました。
同日ドルが強含んだのは、新規失業保険申請件数が18.4万件と予想と前週を下回り50年ぶりの低さであったことや、3営業日連続で上昇していた米株価が同日下げていること等が要因となりました。
本日市場注目の米消費者物価指数は、前年同月比予想どおり6.8%と前回の6.2%を上回り1982年以来の高さとなりました。しかし、市場判断は米中央銀行の量的緩和縮小を加速化するほどのものではないという観測で、ドルと長期金利が下げたことで、金相場はトロイオンスあたり1788ドルまで発表後20ドル弱上昇し、ロンドン時間夕方に1784ドルを推移しています。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週の火曜日にパウエルFRB議長の議会証言がよりタカ派的であったことで貴金属価格が全般下げる中で、全ての貴金属で強気ポジションが減少していたこと。
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コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、12%減で327トンと前週に続き2週連続で昨年9月15日の週以来の高さから40%減少させていたこと。ロングポジションのみでは昨年最高値2075ドルを付けた週以来の高さから前週20%減に続き9%減で、ショートポジションは前週の7%からほぼ変化なかったこと。また、建玉は前週から3.7%減で、前週に引き続き2週連続で昨年11月17日の週以来の高さから下げていたこと。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、前週比7.7%減で4,289トンと2週連続で25%減少させて6月15日の週以来の高さから減少していたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションのネットロングポジションは、99%減で0.05トンと、かろうじてネットロングで、前前週の6週連続でネットロングを増加させて5月18日の週以来の大きさから下げていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは12週連続のネットショートで、134%増の8.5トンへと増加していたこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で1.7トン(0.18%)減の983トンで11月18日以来の低さで、週間として2週連続の減少傾向となっていること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で0.8トン(0.16%)減で495トンと11月1日以来の低さで、週間として2週連続で減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに週間で58トン(0.34%)増加して17,003トンと6営業日で最大で、週間で増加傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週79台から80台後半へと上昇して昨年10月末以来の高さとなっていること。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消:過去5年の平均は80、過去10年は72。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週840台後半から820台後半へと多少ながら下げていること。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対しプレミアムで、週間の平均は8.90と、前週の7.08から7週ぶりの高さへと上昇していたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す) -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、木曜日までの平均は金、銀、プラチナで前週比34%、33%、9%減少していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週の最大注目指標の米インフレ率が本日発表され、ほぼ予想の水準で、さらなる量的緩和縮小ペースの加速は無しとの観測から金は上昇していますが、来週以降も主要中央銀行の金融政策にかかわる指標、イベントが重要となります。
そこで、水曜日の米国のFOMC後の金融政策発表、木曜日のイングランド銀行と欧州中央銀行、金曜日の日本銀行の発表が重要となります。
詳細は主要経済指標(2021年12月13日~17日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2021年12月6日~10日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2021年12月13日~17日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2021年12月6日)中国の金需要が増加する中で、金ETFと金先物・オプションからの資金流出は続き、金はほぼ4週間ぶりの低い水準を推移
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、新型コロナウィルス変異型のオミクロン型の感染拡大に対応すべく発表された新たな規制について、また先週お伝えした首相官邸で昨年のロックダウン中に行われたと伝えられたクリスマスパーティに関して、昨年12月22日に当時の首相報道官が行った模擬記者会見の映像がメディアで伝えたことで、対応をせざるを得なくなったジョンソン政権について日々大きく伝えられています。
そこで、先週の続編として今週の動きをお伝えしましょう。
問題となった映像は、ストラットン首相報道官が模擬記者会見でクリスマスパーティについて意見を求められ、冗談交じりに「チーズとワインの会で、何をしてクリスマスパーティとするのか」、「打ち合わせだったが社会的距離は取っていなかった」等と笑いながら答えていたもので、その受け答えの軽さ等が、当時厳しいロックダウン下で同居していない限り、家族にすら会えなかった人々の逆鱗に触れることとなったようです。
その後政府顧問となり今年英国で開催されたCOP26にも関わっていたストラットン氏は、先の報道がされた翌日に謝罪の記者会見をした上で辞任をしていますが、人々の怒りは収まらないようです。
そこで、ジョンソン首相は先の映像に関して「全面的に謝罪」した上で、事実関係について調査するように指示していますが、あくまでもクリスマスパーティが行われたことは否定し、「ルールは破られていない」から「ルールは破られていないと聞いている」とニュアンスを多少変えています。
本日は、今年の首相官邸クリスマスパーティは中止すると伝えられていますが、ジョンソン首相が開かれたことをあくまでも否定している昨年のクリスマスパーティに当時の官邸広報副部長で現広報部長のジャック・ドイル氏が参加して職員に様々な賞や表彰状を渡していたとも伝えられ、この件に関するメディアの追求は収まる様相はありません。
クリスマスパーティが行われたこと自体は、感染者数を増加させたクラスターイベントになった訳ではなく、おそらく重要ではないかもしれませんが、国民生活の重要な決定に係る首相官邸と国民とのモラルのギャップが明らかになったことが、人々の首相への批判を高めていることは確かです。個人的には、これまでも英国の欧州連合離脱の際なども、様々な綱渡りを見事渡ってきたジョンソン首相が今回のメディア、野党の批判をかわせることができるのか、お手並み拝見というところです。