ニュースレター(2019年7月26日)ドラギECB総裁の期待以下のハト派的コメントや良好な経済指標で週間の下げへ
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1421.16ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.3%下げています。それに対し銀価格においては、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり16.44ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から0.8%上げ、先週の高値同様に5が月ぶりの高さとなっています。なお、プラチナは本日午後3時の弊社チャート上では868.92ドルと前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.7%上昇し、今年ほぼ2か月ぶりの高さとなっています。
今週は、ECBが利下げを示唆し量的緩和も検討していることが明らかになり、金相場は上昇したものの、その後のドラギECB総裁の記者会見での欧州経済への楽観的なコメントや、良好な米経済指標等からもその上げ幅を失い、来週のFOMCへと市場の注目が移る中で、週間では下げの方向で推移しています。それでは、日々の価格の動きとその背景を追ってみましょう。
月曜日金相場は、ドルインデックスが多少上昇する中で、先週の終値を若干上回るトロイオンスあたり1428ドル前後を推移することとなりました。
先週金価格は、ウィリアムズNY連銀総裁のハト派的コメントからもトロイオンスあたり1452ドルと6年ぶりの高さに上昇していましたが、金曜日にNY連銀が行き過ぎた利下げ期待を調整するべくコメントを出したこと、またウォールストリートジャーナルが同様に7月のFOMCでは25ベーシスポイントの引き下げとなるだろうというレポートを出したことで、50ベーシスポイントの利下げ期待が後退していたことが金の頭を押さえることとなりました。
火曜日金相場は同日午前中に下げたものの、英国の新首相が発表された頃にその下げ幅を取り戻し、ロンドン午後にトロイオンスあたり1429ドルを付けて1417ドルへと下げていました。
これはブルームバーグが午後に「米通商代表部のライトハイザー代表ら米政府高官が来週月曜に訪中し、貿易交渉を再開する」と報じたことや、米政府による中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置で22日に「時期に配慮して輸出を許可してほしい」との米企業の要求をトランプ米大統領が受け入れたことから、安全資産の需要が減少したことが要因とされていました。
ただ、イラン情勢は悪化はしていないものの解決策は見られていない中で、英国の同意なき離脱リスクは離脱強硬派のジョンソン氏が首相になることで高まっており、今月末のFOMCでの金利引き下げ観測などからも、サポートが入っていました。
水曜日金相場はドルインデックスが4営業日ぶりに下げる中で、トロイオンスあたり1429ドルへと上昇していました。
米司法省は前日夕方、米IT大手に対し反トラスト法違反を巡る調査を始めると発表し、アルファベットやフェイスブック、アマゾン・ドット・コムなどに売りが先行して、米株価は3営業日ぶりに反落していました。
なお、前日はIMFが四半期の経済見通しを公表し、2019年と20年の見通しを米中の関税や英国の合意の無いEU離脱懸念から下方修正し、今週木曜日のECBの金政策発表、そして月末のFOMCでの利下げ観測が広がり、金相場を支えていました。
また、同日は先週から勢いを増している銀価格の上昇ですが、同日も銀価格はトロイオンスあたり16.65オンスと、昨年6月以来の高さへと上昇していました。
木曜日金相場は、一時トロイオンスあたり1433ドルへと上げたものの、ドルが5週間ぶりの高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり1415ドルと1週間ぶりの低さへと下げることとなりました。
これは、まず同日発表のECBの金融政策発表が将来の金融緩和に触れたことで、上昇を一時したものの、その後の記者会見などでは期待よりハト派ではないと解釈されたことで上げ幅を失うこととなりました。
そして、その後発表された米国新規失業保険申請件数や耐久財受注が予想を上回ったことで、来週のFOMCの利下げ観測も25ベーシスポイント以上が無いとの観測が広がり、ドルが強含んだことも要因となりました。
本日金相場は、トロイオンスあたり1418ドルと昨日の終値からは上げているものの、週間の下げを付ける模様です。
本日は、米株式市場がアルファベットの決算が良好であったことからも全般上昇しており、本日発表された米国第2四半期GDPが前回3.1%を下回ったものの、予想の1.8%を上回る2.1%であったことで、ドルインデックスが98を超えて8週間ぶりに上昇していること等が金の頭を押さえている模様です。
また、ブルームバーグは先のドルの上昇は本日クドロー国家経済会議委員長が為替市場への介入は行わないと述べたことも要因と伝えています。
その他の市場のニュ―ス
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本日ECBが中央銀行金売却協定(CBGA)の5度目の更新が行われないことを発表したこと。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週月曜日に4.7トン増加したものの、その後3営業日連続で減少し、昨日までで-1.2トンの週間の下げで、819トンと5営業日ぶりの低さとなっていること。 -
金銀比価は今週昨日まで86台と3か月半ぶりの低い水準であること。 -
先週末に発表されたコメックスデータによると、先週の金先物・オプションの資金運用業者の建玉は、4週連続で100万枚を超え史上最高値を付けていたこと。この水準まで上げていたのは、金融危機後金の強気市場が続いて、金価格がトロイオンスあたり1920ドルまで上昇していた時のみ。 -
コメックス金先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、先週1.3%増加させていたものの、銀先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは81.7%増の5か月ぶりの高さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、8種連続でネットショートであったものの、65.5%減少していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションの資金運用者のネットロングポジションは9週間ぶりに0.36%と少ないものの減少していたこと。 -
月曜日週末伝えられていたイランの英国籍タンカー拿捕などから中東からの供給懸念から原油価格が上昇していたこと。 -
月曜日ローンチした米ナスダックの中国版テクノロジー株式市場の「科創板」がローンチし、一部銘柄は520%の上げを見せていたこと。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高が今週も水曜日0.5%、木曜日0.47%増で今年に入り13%増と市場最高値を付け、2010年以来の早いペースで増加していること。
来週の主要イベント及び主要経済指標
来週は月曜日から米中の貿易協議が中国で行われ、この動向に市場は注目しますが、それと共に多くの中央銀行が政策金利発表を行い、米雇用統計も発表されることから、イベントの多い週となります。
まず最も注目されるイベントとしては火曜日と水曜日のFOMC後の米国の政策金利発表で、25ベーシスポイントの利下げは既に織り込み済みですが、その他今後の利下げ観測を示唆するコメントが出るのか等に市場は注目することとなります。また、共に大きく動くことは予想されていませんが、日銀も火曜日に、そしてイングランド銀行も木曜日に政策金利を発表します。
そして、金曜日には米国の雇用統計が発表されますが、その先行指標のADP全国雇用者数は水曜日にFOMCの発表当日に行われます。
その他の経済指標としては、火曜日のユーロ圏消費者信頼感指数、ドイツの消費者物価指数、米国の個人支出、個人消費支出、個人所得、米国消費者信頼感指数、水曜日の中国製造業PMIと非製造業PMI、ユーロ圏第2四半期GDPと失業率と消費者物価指数、木曜日の中国Caixin製造業、ドイツとユーロ圏と英国と米国のMarkit製造業PMI、米国のISM製造業景況指数、金曜日の米国貿易収支とロイターミシガン大消費者信頼感指数と製造業受注指数等となります。
ブリオンボールトニュース
本日弊社が発表した弊社ユーザーのアンケート結果について、主要メディアが取り上げています。
英国主要日刊紙エクスプレス「金投資家の60%が2020年末までに米国が不況となることを予想」
この記事では弊社ユーザーの金相場の見通しを含むアンケート結果を紹介した上で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメント「米国はかつてこのような長い間不況を経験しなかったことは無い。金利を0近くまで下げることで、景気後退を遅らせることはできても、永遠に防ぐことはできない。金の価格の上昇は保証はないが、米国が次に景気後退した場合、金は資産価値を守ることが歴史的に証明されており、株式市場が下げた場合には上昇する傾向がある。」を取り上げています。
英国主要経済サイトYour Money.com「投資家は金相場が20%年末までに上昇することを予想」
ここで、金がポンド建てで8年ぶりの高さへと上昇したことに触れ、ブリオンボールトのユーザーの65%が年末までに20%上昇すると見ていると紹介しています。
そして、35%の投資家がその背景を地政学リスクとしていると説明し、61%は米国の景気後退が2020年末までにあるとし、38%は行き過ぎた金融緩和を要因とし、21%は膨大に膨れ上がった債務とし、金相場へ影響を与えるものとしては、31%が中央銀行の金融政策とし6か月前のアンケートの13%から大きく上昇したことも取り上げています。
そして、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメント「米中の貿易戦争の悪化と主要中央銀行の積極的な緩和を示唆するハト派的コメントで金価格が2019年に14%すでに上昇している。そのために、金購入の動きが出ており、現在ポンド建てでは2011年のピークに5%と近づいているものの、将来の金相場の見通しも強いものがある。」を引用しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2019年7月22日~26日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2019年7月29日~8月2日)来週の予定をまとめています。
ロンドン便り
今週英国は与党保守党の党首選結果が23日に発表され、ボリス・ジョンソン氏が保守党党首、そして次期首相に24日に就任したことから、英国で古くから続くしきたりで、首相就任が行われる模様がBBC等で生中継されていましたので、ご紹介しましょう。
まず、前首相のテリーザ・メイ氏が議会で最後のスピーチをし、エリザベス女王に退任を報告した上で、首相官邸前で最後のスピーチを行いました。その後、同日に次期首相がバッキンガム宮殿でエリザベス女王と会見して首相官邸前で就任のスピーチをした上で、首相官邸へ入居するという段取りでした。
そして、その夕方には主要内閣、閣僚を発表し、昨日は早朝から初閣議を行い、夏休みを取ることなく次の英国のEU離脱のデットラインである10月31日までにEUを離脱すべく準備を進めるとのことです。
本日は先の就任関連の出来事の裏話をいくつかご紹介しましょう。
まず、エリザベス女王は本来であれば、例年通りスコットランドの別荘で過ごす夏休みに入っていたはずなのですが、今回の首相就任の日程に合わせて夏休みを遅らせたとのこと。
そして、本来はエリザベス女王との会見内容は公表してはいけないものですが、今回はボリスジョンソン氏が、エリザベス女王が「(首相)の仕事をなぜやりたがる人がいるのか私は分かりません。」と言ったことを、入居した首相官邸を見て回っている際に側近の方々に話したところ、スタッフの方にとがめられたことがツィッターで紹介されていました。
ちなみに、エリザベス女王は1952年に戴冠以来、ウィンストン・チャーチルが最初でジョンソン氏に至るまで、すでに14人の英国首相と対してきたとのことです。
そして、ジョンソン氏は現在離婚協議中ですが、付き合っているパートナーと共に首相官邸に入居したとのこと。そこで、BBCによると結婚をしていないカップルが首相官邸の住人となるのも初めてのことだそうです。
とにかく型破りな首相の誕生に、残留派の方達は就任当日首相官邸前で、ブーイングでジョンソン氏を迎えていましたが、保守党党首選を圧倒的な票差で勝利する等、保守党内では高い人気を誇っています。
公約通りジョンソン氏が英国EU離脱を10月31日までに行うことができるのか、英国を一つにまとめることができるのか、英国中、欧州、そして世界が注目している彼のお手並みを拝見したいと思います。