ニュースレター(8月8日) 1309.75ドル 高まる地政学リスクが金価格を押し上げる
週間市場ウォッチ
今週金曜日のPM Fix金価格は、トロイオンスあたり1309.75ドルと、前週同価格から1.4%上昇し、2週間半ぶりの高水準となりました。
週明け月曜日は、金価格は先週金曜日の上昇分をロンドン午後に緩やかに削ることとなりました。これは、ポルトガルの大手銀エスピリト・サントの救済にポルトガル中央銀行が乗り出すことが明らかになったことが好感され、欧州株が上げ、米国株も先週の下げを回復する動きとなったことからです。
翌火曜日は、米国7月ISM非製造業景況指数が、58.7と予想と前回を上回り、2008年1月以来の高水準となったことから、金価格は下げることとなりました。しかし、その後、ポーランドのシコルスキ外相が、ロシアがウクライナへの圧力行使もしくは侵攻に備え、ウクライナ国境沿いに軍部隊を集結させたことを明らかにしたことから、地政学リスクが高まり、株価が下げ金価格は上昇することとなりました。
水曜日金価格は、ウクライナ情勢がさらに緊迫化する中、トロイオンスあたり1300ドルを超え、トロイオンスあたり20ドルほど急伸することとなりました。
これは、前日ポーランド外相が明らかにした、ロシアがウクライナ国境沿いに軍部隊を集結させていることを、北大西洋条約機構(NATO)当局も確認し、その規模が、「数時間のうちに侵入して戦況を大きく変える能力を持っている」と懸念を示したことからです。
また、先週の欧米のロシアへの経済制裁への対抗措置として、ロシアが制裁を実施した国を対象に、1年間農産物の輸入を禁止あるいは制限することを発表したことも、緊張を高めることとなりました。
さらに、同日発表のドイツの6月の製造業受注が-3.2%と予想と前回を大きく下回り、イタリアの第2四半期GDPが前期比-0.2%と、2四半期連続で縮小したことから、景気後退(リセッション)に陥ったことが発表され、欧州株が下げたことも、金価格を押し上げた模様です。
木曜日は、ウクライナの戦闘機が撃墜されたことが報道され、ウクライナ情勢が緊迫化したことに加え、米国がイラクの空爆を検討中と一部で伝えられたことから、地政学リスクが高まり、株価が下げ、金価格はトロイオンスあたり20ドルほど一時急騰することとなりました。
同日行われたECBドラギ総裁の金融政策発表後の記者会見でも「ウクライナ危機は他国よりもユーロ圏経済に大きな影響を与える」との見方を示し、欧州株が下げることとなりました。
本日金曜日は、オバマ大統領がイラクの限定空爆を承認したことから、アジア時間にトロイオンスあたり1320ドルを超えるなど、3週間ぶりの高水準となりましたが、その後ロンドン時間で米国のイラク空爆が開始されたことが伝えられていますが、金価格は多少戻しています。
他の市場のニュース
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金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアが、先月11トン増加し、先月末に801トンとなったこと。そして、金ETF全体では15.7トン増加したこと。これにより、7月に、3月以来初めて月間で増加となったこと。 -
先週末発表された金の先物とオプションのOpen Interest(未決済の建玉)が、2013年11月以来の速いペースで減少し、過去5年間で最も低い水準となったこと。
ブリオンボールトニュース
今週火曜日に発表された、ブリオンボールト金投資家インデックスの7月数値が、主要メディアで取り上げられました。この内容は、金の情報を提供しているゴールドニュースサイトで日本語でご覧いただけます。
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ブルームバーグ:「ブリオンボールトの金購入インデックスが保有量が増加するとともに上昇」 -
ロイター:「ウクライナ情勢への懸念から米国株価が下げ、金価格が上昇」
また、英国主要日刊紙のテレグラフで、ブリオンボールトリサーチ主任のエィドリアン・アッシュの「金に影響を与える7つの要因」の記事が取り上げられました。
今週のブリオンボールト市場分析ページには下記の記事が掲載されました。
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ブリオンボールトのリサーチ主任エィドリアン・アッシュの「金投資家のセンチメントが今年2月以来初めて上昇」
今週の主要経済指標の結果は、下記のリンクでご覧いただけます。
ロンドン便り
今週英国では、8月4日が第一次世界大戦にイギリスが参戦して100年目ということから、それを記念する式典の数々が行われ報道されています。
8月4日はイギリスが当時中立を保証していたベルギーへのドイツ軍の侵攻を受け、イギリスが参戦した日です。そのために、ベルギーで行われた記念式典へは英国のウィリアム王子とキャサリン妃が出席するなど、ベルギーと英国で多くの行事が執り行われ、王室関係者や議員が出席し、英国の国営放送BBCでは、一日に渡りこれらの行事が生放送で伝えられていました。
そしてその日を締めくくるように、100年前に宣戦布告が行われた時刻に近い同日夜10時から、ウェストミンスター寺院で追悼式典が開かれました。この行事はキャンドルライトの中で行われ、ロンドンでは、普段はライトアップされているタワーブリッジや国会議事堂やバッキンガム宮殿も電気が消され、多くの一般家庭も電気を消し、珍しく暗闇に包まれたロンドンの中で、犠牲者を悼みました。
今年に入り、第一次世界大戦に関わるドキュメンタリーなどが英国では多く放映され、各地で多くの関連のイベントが行われています。幸いなことに平時に生まれ、大戦を経験していない私達世代は、このようにして世界大戦のことを学び、その犠牲者一人ひとりの人生が見えてきた時に、本当に戦争の悲惨さを感じることができるのかもしれません。
イスラエルとハマスの紛争、ウクライナ国内の親露派との紛争、イラク国内のイスラム過激派組織との紛争など、昨今留まること無く激化している紛争に対しても、多くの人々がその歴史を学び、無関心ではなく、打開策を見出す努力を続けていれば、紛争解決のモメンタムが生まれるのかもしれません。そして、いつの日か紛争のない世界が来るかもしれないと、楽観的すぎるかもしれませんが、小さな希望を持ち祈り続けたいと思います。