金市場ニュース

ニュースレター(2025年6月27日)地政学リスク緩和とリスクオン基調で金は下落、プラチナ・パラジウムが大幅上昇

週間市場ウォッチ

今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、2.9でトロイオンスあたり3272ドルと週間の下落で、4週ぶりの低値となっています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して0.4%安のトロイオンスあたり35.98ドルと前週の2012年2月以来の高値の水準から下げています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から5.3%高でトロイオンスあたり1330ドルと、2021年2月以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から7.5%高でトロイオンスあたり1123ドルと昨年10月末以来の高さとなっています。

の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週の貴金属相場は、いくつかの地政学的および経済的要因の影響を受けて変動しました。

まず、イスラエルとイランの紛争に停戦の動きが見られたことに加え、来年5月に任期が終了するパウエルFRB(米連邦準備制度)議長の後任がトランプ大統領の意向でよりハト派的となる観測、トランプ政権高官のコメントで関税協議の進展と主要貿易国との合意が近いとの観測が広がりました。これにより市場では「リスクオン」ムードが高まり、世界の株価は史上最高値、またはそれに近い水準へと上昇しました。

このような市場環境のなか、安全資産としての需要が後退したことから金価格は下落。一方、銀は安全資産と工業用貴金属の中間的な位置づけにあるため、金ほど下げずに踏みとどまりました。さらに、工業用途の需要が強いプラチナとパラジウムは、大きく上昇して推移しています。

為替市場では、FRB(米連邦準備制度)の利下げ観測に加え、トランプ政権の政策によって財政赤字拡大への懸念は強まっており、ドルインデックスは約3年ぶりの低水準まで下落しています。

そのような中、ドル建ての金価格は年初来での上昇率が、6月中旬の31.6%からはやや下がっているものの、依然として25.4%と高水準を維持していますが、英国ポンド、ユーロ、日本円などの主要通貨が対ドルで強含んでいることから、これら通貨建ての金価格の上昇幅はドル建てに比べてやや抑えられており、それぞれポンド建てで14.7%、ユーロ建てで11.2%、円建てで16.0%の上昇にとどまっています。

本日は、トランプ大統領就任以降の金価格を、米ドル(深緑)、英国ポンド(ピンク)、ユーロ(青)、日本円(緑)建てで指数化したチャートをご紹介します。通貨が対ドルで強含んでいるユーロ建て金価格の上昇幅が、ドル建てに比べて大きく削られている点がご確認いただけるでしょう。

トランプ大統領就任以来の主要通貨の金価格 出典元 ブリオンボールト

今週の貴金属相場について

週明け月曜日の金相場は、土曜日に米国がイランの核関連施設3カ所を攻撃したことを受けて、市場開始と同時に急騰。トロイオンスあたり3396ドルまで上昇した後、上げ幅を削り、ロンドン時間の終値は3334ドルとなりました。

原油相場も、イスラエルとイランの紛争が米国の介入によりさらに激化するとの懸念や、イランによるホルムズ海峡封鎖の可能性から供給不安が強まり、一時5カ月ぶりの高値を付けたものの、その後は金相場と同様に神経質な値動きで上げ幅を縮小しました。

火曜日の金相場は、イスラエルとイランの停戦合意を受け、一時3295ドルと2週間ぶりに3300ドルを下回りましたが、最終的には3324ドルで引けました。この停戦は、トランプ米大統領が英国時間の早朝にSNS上で発表したものでしたが、その後、両国が合意を順守していないとも発言していました。それでも、市場では「最悪の事態は回避された」との見方が広がっていました。

この影響で、供給懸念から上昇していた原油価格は2週間ぶりの安値へと下落し、米国株価はS&P500種指数が2月の史上最高値に迫る水準へと上昇しました。

なお、同日トランプ大統領は、パウエルFRB議長が利下げを急がないことについてSNSで改めて批判しましたが、議会証言においてパウエル議長は、従来通り「関税の影響を慎重に見極め、拙速な利下げは行わない」との姿勢を繰り返しました。

水曜日の金相場は、前日の終値(3324ドル)を中心とする狭いレンジ内で推移したのち、わずかに上昇し3339ドルで終了しました。一方、イスラエルとイランの停戦継続により、ホルムズ海峡封鎖への懸念が後退したことから、前日までに2022年以来最大の2日間下落を記録していた原油価格は小幅に反発しました。

また、引き続き行われたパウエル議長の議会証言では利下げに慎重な姿勢が維持されましたが、先週および今週に発言したウォラー理事とボウマン理事(いずれもトランプ政権下で任命)は、7月の利下げを支持する考えを示しており、市場では年内に2回の利下げが実施されるとの観測が強まり、金相場の下支え要因となっています。

木曜日の金相場は、トロイオンスあたり3317ドルまで下落しロンドン時間を終えました。背景には、S&P500種指数が史上最高値に接近するなど、米株式市場の上昇によるリスクオンの動きがありました。

株価上昇の主な要因としては、以下が挙げられています。

  1. イスラエルとイランの停戦により、中東情勢の地政学的リスクが後退
  2. トランプ前大統領が、来年5月に任期満了を迎えるパウエルFRB議長の後任に、金融緩和に前向きな「ハト派」候補を早期に指名するとの観測
  3. 米国の耐久財受注が予想を上回り、新規失業保険申請件数が予想を下回ったことで、米経済の底堅さが意識されたこと

これらは本来金にとっても支援材料ではありますが、リスク選好が強まったことにより資金が株式市場へと流れ、金価格の重しとなりました。

一方、同日プラチナ価格は一時1416ドルまで上昇し、2014年10月以来の高値を記録しました。これは、堅調な経済を背景とした工業需要の拡大(全体需要の6割超)、3年連続の供給不足、1月以降続くリースレートの高止まりによる現物逼迫などが背景とされています。

また、工業用途比率が約8割にのぼるパラジウム(主にガソリン車の排ガス浄化装置向け)も、1132ドルと昨年11月以来の高値に上昇しました。

本日金曜日の金相場は、引き続き世界株高とリスクオンの流れの中、一時トロイオンスあたり3256ドルと約1カ月ぶりの安値まで下落し、ロンドン時間の夕方には3274ドル付近で推移しています。

本日、日経平均株価は5カ月ぶりに4万円台を回復し、S&P500種指数は2月19日の史上最高値を上回り、MSCI世界株価指数も史上最高値を更新しました。

これらの背景には、以下の要因が挙げられます。

  1. 米国が主要な貿易相手国との最終合意に近づいているとの見方から、トランプ政権が7月上旬に発動予定の関税の猶予期間を延長するとの観測
  2. 本日発表された米個人所得と個人消費支出が、経済減速を示し、FRBによる利下げ観測を強めたこと

なお、FRBがインフレ指標として注目するPCEコア・デフレーターは、前月比0.2%と、前回および市場予想(0.1%)を上回り、前年同月比では2.7%と、前月の2.6%を上回りましたが、市場では「比較的抑制されている」との見方が優勢となっています。

一週間のドル建て金価格の推移 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に6月17日までのデータが発表され、イランとイスラエルの紛争が5日目に入る中で、金価格が前日比下げて、銀、プラチナ、パラジウム価格が上昇する中で、プラチナを除く全ての貴金属のネットロングが増加していたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、5.2%増で424.95トンと、4月15日までの週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比1.52%高でトロイオンスあたり3388ドルと5週連続で5月6日までの週以来の高さとなっていたこと。建玉は6.5%増と前週の1月7日の週以来の低さから5月20日までの週以来の高さへ増加していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、2.5%増で7781トンと5週連続で増加して2020年2月25日までの週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比0.84%高で、トロイオンスあたり37.07ドルと2011年9月20日までの週以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、10.37%減の26.12トンと、前週の2月18日までの週以来の高さから下げていたこと。価格は前週比4.02%高でトロイオンスあたり1267ドルと、2015年1月20日までの週以来の高さとなっていたこと。建玉は5週連続で増と、記録が始まった2006年6月以来の高さとなっていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに4.22%減で16.15トンと5週連続で減少して、昨年11月5日までの一週間以来の低さへ下げていたこと。価格は1.6%安でトロイオンスあたり1045ドルと昨年11月5日までの週以来の高さから下げていたこと。建玉は3週連続で増加して5月20日までの一週間以来の高さとなっていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに3.10トン(0.30%)増加して953.39トンと、6週連続の週間の増加傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに4.16トン(0.95%)増で441.92トンと2023年8月2日以来の高さで、4週連続の週間の増加傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに115.91トン(0.78%)増で14,866.19トンと、2週連続の週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週93台前半で始まり、水曜日に91台前半と一週間ぶりの低さへ下げた後に、本日91台半ばへ戻して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2065ドルで始まり、本日金曜日に1929ドルへと3月半ば以来の低さへ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
  • プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週228ドルのプレミアムで始まり、昨日296ドルと2016年11月以来の高さへ上げて、本日金曜日242ドルへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
  • 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムで、週平均は13.83ドルと、前週の5.47ドルの3月末の週以来の低さから上昇していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。

今週の主要イベント及び主要経済指標

今週の貴金属相場は、イスラエルとイランの停戦(その継続可能性を含む)、株価の急騰によるリスクオンの流れ、そしてFRB高官による発言など、複数の要因に影響されながら推移しました。

来週は、トランプ大統領による関税政策の動向や、FRB高官による金融政策に関する発言に引き続き注目が集まります。加えて、米国の雇用関連データが多く発表される予定であり、市場への影響が見込まれます。具体的には、火曜日の雇用動態調査(JOLTS)求人件数、水曜日のADP全国雇用者数、そして金曜日の非農業部門雇用者数(NFP)などが、重要な経済指標として注視されることになります。

詳細は主要経済指標(2025年6月30日~7月4日)をご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週の英国では、イスラエルとイランの紛争およびその停戦の動向、オランダ・ハーグで開催された北大西洋条約機構(NATO)サミット、さらにガザ地区で援助物資を待つ人々がイスラエル軍の発砲により殺害された事件など、中東情勢に関する報道が大きく取り上げられています。

英国関連のニュースとしては、同国が米国から搭載可能な戦闘機12機を購入する決定を下したことや、福祉政策を巡り労働党内の反発に対し、政府が一定の譲歩措置を講じたことが注目されています。

こうした政治・国際ニュースに加え、水曜日から英国最大の屋外ミュージックフェスティバルが開催されており、こちらも広く報道されています。以下、その概要をご紹介します。

グラストンベリー・フェスティバルの概要

このミュージックフェスティバルは「グラストンベリー・フェスティバル」と呼ばれ、イングランド南西部サマセット州ピルトンにある酪農家マイケル・イーヴィス氏の農場「ウォーシー・ファーム」で、1970年に「Pilton Pop, Folk & Blues Festival」として創設されました。

70年代には一時期(1972~1978年)中断がありましたが、80年代に入って名称を「Glastonbury Festival」と改め、音楽イベントにとどまらず反核・環境・社会運動と結びついたフェスへと発展しました。1994年にはテレビ放送も開始され、知名度を大きく高めています。

2000年代以降は規模が拡大し、巨大な「ピラミッド・ステージ」にはトップアーティストのコールドプレイ、ビヨンセ、Jay-Zなどが登場。2025年の開催では、約21万人が来場し、ヘッドライナーはニール・ヤング、オリビア・ロドリゴ、The 1975、レジェンド枠にはロッド・スチュアートが名を連ねました。

フェスティバルは5日間にわたり、約3,876のパフォーマンス枠で約2,435名のアーティストや出演者が、92のステージや会場エリアでパフォーマンスを行います。

グラストンベリー・フェスティバルは50年以上の歴史を持ち、一大文化現象へと成長しました。多様な音楽ジャンルを取り入れるだけでなく、慈善活動や社会・環境運動と密接に結びつき、現代のポップカルチャーと社会的価値の融合を象徴するイベントとなっています。

英国の気まぐれな天候のもと、例年この時期に雨が続くと、開催地が農場であることもあり、観客が泥まみれになって楽しむ様子が話題になります。しかし今年は、夏日警報が出るほどの好天に恵まれており、参加者は例年以上に快適な環境でフェスティバルを楽しめそうです。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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