ニュースレター(2025年6月20日)中東リスク若干後退で金は調整局面、銀・プラチナに投資家注目
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格と比較すると、2.0%安でトロイオンスあたり3368ドルと週間の上昇で、前週のLBMAのPM価格としては最高値から下げています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格と比較して0.2%高のトロイオンスあたり36.13ドルと引き続き2012年2月以来の高値の水準を維持しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のこの価格から2.0%高でトロイオンスあたり1267ドルと、2021年5月以来の高さとなっています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のこの価格から0.7%安でトロイオンスあたり1047ドルと前週からは下げていますが、2024年11月以来の高さを維持しています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週の貴金属相場は、イスラエルとイランの紛争に注目が集まる中、主要中央銀行による金融政策の発表にも反応しながら推移しました。
イスラエルとイランの紛争については、米国の軍事介入による拡大が懸念されているものの、貴金属を含む金融市場は大きく動かず、様子見の状況が続いていました。しかし昨夜、トランプ大統領が「交渉に2週間の猶予期間を与える」と発言したことで、この緊張状態はしばらく継続する見通しです。
また、主要中央銀行である日銀、FRB(米連邦準備制度理事会)、イングランド銀行はいずれも政策金利を据え置き、予想通りの内容となりました。FRBにおいては、政策金利を決定するメンバーの中央値が引き続き「年内2回の利下げ」を見込んでおり、これも市場に大きなインパクトを与える材料とはなりませんでした。
その結果、今年、トランプ政権の関税政策や地政学リスクへの懸念から大きく上昇していた金相場は、今週は方向感を欠き、緩やかに下落しています。一方で、これまで金に遅れを取っていた銀とプラチナの価格が大きく動いています。
そこで、今週はこれら貴金属の年初来の上昇幅を示すチャートをお届けします。
年初来の上昇率は、金(黄金色)が29.0%、銀(灰色)が25.0%、プラチナ(水色)が38.6%、パラジウム(緑)が15.2%となっており、特にプラチナ価格の上昇が顕著となっています。
この要因については、下記の「今週の貴金属相場について」をご覧ください。
今週の貴金属相場について
週明け月曜日は、イスラエルとイランの紛争が4日目に入る中で、世界の株価は反発し、前週金曜日に急騰して2か月ぶりの高値をつけた金と、4か月ぶりの高値を記録した原油価格は、アジア時間に一時上昇したものの、上げ幅を失って下落していました。
その後、ロンドン時間の夕方には、イランが核協議の再開を望んでいることを示唆したと伝えられ、金価格は下げ幅をさらに広げ、トロイオンスあたり3402ドルまで下落してロンドン時間を終えていました。
これは、イスラエルとイランの紛争が中東全域に拡大する懸念や、原油供給への影響に対する懸念が後退したことが背景にあります。
また今週は、火曜日に日銀、水曜日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)、木曜日にはイングランド銀行と、主要中央銀行の政策金利発表が相次ぎました。日銀とFOMCはいずれも政策金利を据え置くと予想されており、市場の関心は今後の各中銀の金融政策の方向性へと移っていました。
火曜日の金相場は、中東情勢が5日目に入る中で引き続き注目を集めていましたが、翌日のFOMC発表を控えて様子見ムードが広がり、トロイオンスあたり3378ドルと前日比でわずかに下落して終えていました。
中東情勢については、トランプ米大統領がG7サミットから予定を早めて帰国したことを受けて、本人は否定していたものの、米国がイスラエルによるイラン攻撃に協力するのではないかという懸念が広がりました。さらに、イランがホルムズ海峡を封鎖するとの観測もあり、これらの要因から米株価指数は下落し、原油価格は上昇していました。
こうした地政学的リスクの高まりの中、同日の銀相場はトロイオンスあたり37ドルを超え、2012年2月20日以来の高値を記録しました。これは、これまで金に対して出遅れていた銀が、供給懸念を背景に上昇しているプラチナの動きに連動し、改めて銀の供給不足にも注目が集まったことが要因と見られています。
その結果、金銀比価は91まで低下しましたが、2024年の平均が84台、過去5年平均が82台であることを踏まえると、依然として銀は割安な水準にあると見られます。
水曜日の金相場は、ロンドン時間の夕方に発表されたFOMCの政策金利、FOMCメンバーによる経済見通し(ドットプロット)、パウエルFRB議長の記者会見を待つ中で、トロイオンスあたり3370~3399ドルのレンジ内で推移し、発表後は3375ドルまで下落して終えていました。
FOMCの結果は市場予想通り現状維持で、FFレートの誘導目標は4.25~4.50%のまま。ドットプロットでも年内2回の利下げが中央値で、前回と変わらず。年末のインフレ率見通しは前回の2.7%を上回る3.0%、経済成長率は前回の1.7%から1.4%へと下方修正されました。
ただし、利下げについて「年内なし」と予想するメンバーが3人増えて7人となり、パウエル議長も関税によるインフレ上昇への懸念について言及するなど、ややタカ派的な内容と受け止められた模様です。
そのような中、前日は銀がトロイオンスあたり37ドルを超えて13年ぶりの高値を記録しましたが、同日はプラチナがトロイオンスあたり1320ドルを突破し、2021年2月以来の高値をつけていました。
これは、今年も3年連続で供給不足が予想されていること、すでに1月の現物リースレートが20%前後で推移しており、現物不足の兆候が見られることなどが背景にあります。
木曜日の金相場は、米国が祝日で薄商いとなる中、トロイオンスあたり3368ドルと前日からやや下落して終えていました。
市場では、引き続き米国がイスラエルとイランの紛争に加わるかどうかに注目が集まっていましたが、トランプ大統領がロンドン時間の夕方に「判断までに2週間の猶予を持つ」と述べたことで懸念はやや後退した模様です。一方で、原油価格はイランによるホルムズ海峡封鎖の可能性など、供給面への懸念から上昇していました。
同日、イングランド銀行も前日のFRB同様に政策金利を据え置きました。FRBでは全会一致での据え置きと「利下げを急がない」姿勢が示されましたが、イングランド銀行の金融政策委員会では、9人の委員のうち3人が利下げを主張しており、この点がポンド安・ドル高の要因となりました。
本日金曜日の金相場は、ロンドン午前中にトロイオンスあたり3340ドルまで下落した後、若干反発して3368ドル前後で推移しています。
この間、米株価は反発してスタートしました。前日のトランプ大統領の発言で「軍事介入の判断までに交渉の余地がある」とされたこと、さらに本日からスイスで欧州を含めた外交努力が行われていることへの期待感が株価を支え、金の安全資産としての需要を抑えている模様です。
しかし、FRBのウォーラー理事が本日、米CNBCに出演し「関税による物価押し上げは一時的」との見方を示し、また「労働市場が悪化するまで利下げを待つべきではない」と述べ、「早ければ7月にも利下げの可能性がある」と言及したことは、金相場のサポート材料となっています。
さらに、米国が中国に半導体工場を持つ同盟国に対する関税免除措置を撤回する可能性が報じられたことを受けて株価が反落し、それが金相場をやや押し上げる要因となった模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に6月10日までのデータが発表され、米中貿易協議と米国消費者物価指数が翌日に発表されるためにレンジ内の取引となっていた際に、金を除く全ての貴金属のネットロングが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、0.5%減で403.88トンと減少し、前週の4月15日までの週以来の高さから若干下げていたこと。価格は0.1%高でトロイオンスあたり3337ドルと4週連続で5月6日までの週以来の高さとなっていたこと。建玉は1.9%減と1月7日の週以来の低さへ下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、7.5%増で7588トンと4週連続で増加して2022年3月8日までの週以来の高さへと増加していたこと。価格は前週比7.3%高で、トロイオンスあたり36.76ドルと2011年9月20日までの週以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングであったものの、5月20日からネットロングへ転換し、46.1%増の29.14トンと、前週の2月18日までの週以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比15.1%高でトロイオンスあたり1218ドルと、2021年5月18日までの週以来の高さとなっていたこと。建玉は4週連続で増加し、少なくとも2006年6月以来の高さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに29.4%減で16.86トンと4週連続で減少して、昨年11月5日までの一週間以来の低さへ下げていたこと。価格は5.7%高でトロイオンスあたり1062ドルと昨年11月5日までの週以来の高さへ上昇していたこと。建玉は2週連続で増加して5月20日までの一週間以来の高さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週祝日であった木曜日前日の水曜日までに6.9トン(0.70%)増加して947.37トンと4月24日以来の高さで、5週連続の週間の増加傾向であること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに1.76トン(0.40%)増で437.76トンと5月16日以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに87.64トン(0.59%)増で14,763.00トンと昨年12月5日以来の高さで、前週3週ぶりの週間の減少から一転して週間の増加傾向であること。
- 金銀比価はLBMA価格ベースで、今週93台後半ばで始まり、水曜日に91台前半と一週間ぶりの低さへ下げた後に、本日93台前半へ戻して終える傾向。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2169ドルで始まり、本日金曜日に2062ドルへと3月末以来の低さへ下げて終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週202ドルのプレミアムで始まり、昨日259ドルと2017年1月以来の高さへ上げて、本日金曜日242ドルへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドルのディスカウント。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)の今週のロンドン価格との差は、引き続きプレミアムであったものの、週平均は5.47ドルと、3月末の週以来の低さで、前週の15.89ドルから下げていたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
今週の主要イベント及び主要経済指標
今週貴金属相場は、イスラエルとイランの紛争に注目するとともに、水曜日のFRBの金融政策決定発表を含む主要中央銀行の金融政策の発表も重要視されていました。
来週も中東情勢は重要となりますが、それに加えて月曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、火曜日のパウエルFRB議長の発言、水曜日の米第1四半期GDPと耐久財受注、金曜日のFRBがインフレ指標として重要視する個人消費支出(PCE)コアデフレーター等が重要となります。
詳細は主要経済指標(2025年6月23日~27日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年6月16日~20日)今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年6月23日~27日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年6月16日)イスラエルとイランの紛争が激化する中で、金と原油価格は下落
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週の英国では、イスラエルとイランの紛争、そしてそれに対する米国の積極的な介入の可能性が大きく報じられました。これに関連して、カナダで開催されたG7サミット、イスラエルとパレスチナの武装組織ハマスとの紛争、ガザ地区における救援物資配布の停滞、さらに先週墜落事故で270人以上の死者を出したエア・インディアに関するニュースも続いています。
国内の話題としては、先週末に行われたチャールズ国王の公式誕生日を祝う式典の様子、イングランド銀行がFOMC同様に政策金利を据え置いたこと、今週30度を超える夏日が続き熱中症注意報が発令されたこと、そして本日、英国議会下院で「末期患者の自己決定による安楽死を合法化する法案」が可決されたことが大きく報じられています。
本日はこの法案について、簡単にご紹介いたします。
この法案は、労働党のキム・リードビーター議員によって提案されたもので、余命6か月以内の末期患者に対し、自己投薬によって命を終える選択肢を認める内容です。その実施には、2名の医師と専門パネルによる承認が必要とされています。
本日、この法案は賛成314票、反対291票という僅差で下院を通過しました。対象となるのはイングランドおよびウェールズ在住の成人であり、スコットランドおよび北アイルランドは、それぞれ独自の議会を持つため適用外となります。
承認プロセスは次の通りです:
- 独立した2名の医師による診断
- 弁護士・精神科医・ソーシャルワーカーの3名からなるパネルによる承認
- 自ら薬物を投与して命を終えること(他者による介助は禁止)
- 家族や第三者からの強要を防ぐための刑罰規定も明記
可決に先立ち、議会では支持・反対の立場による活発な討論が行われました。法案を提案したリードビーター議員は「末期患者に“選ぶ自由”を与えることが目的」と述べ、遺族や人権活動家からは「尊厳ある死の選択を支持する」との声が寄せられました。一方、反対派からは、障がい者団体や医療従事者らが、脆弱な立場の人々への心理的圧力や制度の安全性に対する懸念を表明。また、ホスピスや緩和ケア関係者からは、制度整備や財源に対する不安の声も上がっています。
今後、この法案は貴族院(上院)での審議に移ります。下院での賛成多数に加え、スターマー首相が支持を表明していることから、上院での大きな反対は起きにくいと見られています。仮に法律として成立した場合でも、制度の構築や人材育成などの準備に時間がかかるとされ、施行は2029年頃になる見通しです。
この法案の可決は、英国社会における価値観・倫理観・法制度の転換点と捉えられており、2013年の「同性婚の合法化」や、今年議論が続いている「女性の権利や性別の法的定義」などと並び、歴史的に重要な立法と位置付けられています。過去にも類似の法案は提出されてきましたが、今回のように下院を通過したのは初めてで、制度改革としての重みがあると言えるでしょう。