ニュースレター(2025年3月28日)トランプ大統領の「解放の日」が近づく中で金価格は史上最高値を更新
週間市場ウォッチ
今週金曜日の午後3時の弊社チャートの金価格は、前週のLBMA PM金価格(午後3時)と比較すると、2.01%高でトロイオンスあたり3074ドルと、金曜日価格として3週連続で上昇して、やはり3週連続で史上最高値を更新しています。この間金曜日午後12時の弊社チャートの銀価格は、前週のLBMA 銀価格(午後12時)と比較して、3.71%高のトロイオンスあたり34.41ドルと上昇し、前週の昨年10月末以来の高さへと上昇しています。また、今週金曜日午後2時の弊社チャートのプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.85%高でトロイオンスあたり984ドルと上昇しています。そして、本日金曜日午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA PMパラジウム価格(午後2時)から2.12%高でトロイオンスあたり977ドルと上昇し3月18日以来の高さとなっています。
今週のの金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、トランプ政権が来週2日を米国の「解放日の始まり(Liberation day)」と呼び、関税政策を発表することを待つ中で、輸入自動車への25%の関税を発表し、インフレ懸念が高まる中で、米株価が急落し、安全資産としての金が上昇して本日全ての主要通貨で史上最高値を更新する中で、銀が引き上げられ、プラチナとパラジウムも上昇して終える傾向です。
金価格は昨年はドル建てで38回史上最高値を更新した金価格は、本日までにすでに19回の高値更新と速いペースでの上昇となっています。そこで、本日はドル建て金価格と年間の史上最高値の回数を示すチャートをお届けしましょう。
史上最高値の回数はソ連のアフガニスタン侵攻で1979年が最多の54回をつけ、その後の高値は2011年に金融危機後の欧州債務危機を背景に38回、そして昨年のFRBによる利下げ観測、ウクライナ戦争を含む地政学リスクの高まり、米国がスタグフレーションに入る懸念などによる史上最高値38回と続いています。
今週の金相場について
週明け月曜日は前週金曜日に続き、株価が全般上昇する中で金価格はトロイオンスあたり3002ドルまで一時下げて、3014ドルへ戻して終えていました。
これは、トランプ大統領が4月2日に発表するとされている関税において、対象になる国と品目を限定するという報道からも、リスクオンとなり、金価格を押し下げていました。
また、トランプ大統領の関税懸念で、ニューヨーク先物とロンドンの現物価格の差が1月末には最高60ドル近くまで上昇していたものの、同日は2ドルほどへと狭まっていたことからも、市場が落ち着きを取り戻していることも背景となっていました。
この間、同日のS&Pグローバルが発表した米国の製造業PMIは縮小と拡大の境目の50を下回り、予想を下回っていましたが、サービス部門は予想を上回ていたことで、このデータの影響は限定的となっていました。
火曜日金相場は、前日の下げ幅を削って上昇し、一時トロイオンスあたり3035ドルへと上昇後に、3018ドルへ戻して終えていました。
この背景は前日下げた金価格が3000ドルを守ったことで、上昇基調になる中、同日発表された米消費者信頼感指数が予想を下回り、前日まで2営業日連続で大きく上昇していた米株価がその上昇ペースを落としていたこともサポートとなっていました。
水曜日金相場は、米株価が4日続伸で始まる中で、トロイオンスあたり20ドルの幅で動いて3025ドルで終えていました。
この背景は、トランプ大統領が4月2日に発動するとしている関税について、「寛大なものになるだろう」と述べたことが伝えられ、市場の想定よりも厳しくならない観測が広まっていたことからでした。
しかし、これまでもトランプ大統領は関税に関する姿勢を日ごとに大きく変化させてきていることからも、警戒感は残っており、安全資産としての金のサポートとなっていました。
木曜日金相場は、トランプ大統領が輸入自動車に25%の追加関税を課すと発表し、またさらなる関税の可能性に振れたたことで、安全資産の需要の高まりからも、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり3059ドルと史上最高値を更新後に、3063ドルへと再度史上最高値をつけて終えていました。
前夜NY時間に発表した輸入自動車への関税に加えて、同日SNSの投稿で「欧州連合(EU)がカナダと協力して米国に経済的損害を及ぼすことになれば、現在計画しているよりも大規模な関税を課すだろう」と書き込み、貿易摩擦への警戒感が高まっていました。
そこで、米株価は自動車関連株を筆頭に当初大きく下げて始まったものの、同日の米GDPや米住宅販売保留件数件や新規失業保険申請件数が堅調であったことからも、下げ幅を削っています。
そして、追加関税は自動車に限らず部品へも課されることからも、日本から米国への自動車輸入は国別で最大で2024年には約6兆円規模であったことからも、対ドル日本円が下げて、日本円建て金価格もまた本日史上最高値のgあたり14886円をつけていました。
本日金曜日金相場は、前日の上げ基調を受け継ぎ上昇する中、本日発表のFRBがインフレ指標として重視するデータが予想を上回り、また消費者心理のデータも悪化していたことで、米主要株価指数が2%を超えて下げ、トロイオンスあたり3086ドルとロンドン時間午前中の史上最高値を若干上回った後に、若干下げて推移しています。
本日発表された個人消費支出(PCE)コア・デフレーターは、前月比0.4%と予想と前回のの0.3%を上回り、前年同月比も2.8%と予想の2.7%と前回の2.6%を上回っていました。
また、ミシガン大学消費者態度指数も57.0と前回と予想の57.9を下回り、インフレ予想は、一年後が5%、5年後が4.1%と1993年2月以来初めて4%を上回るなど、インフレ懸念の高まりを示すものとなっていました。
そこで、S&P500種は2%弱と2022年以来の下げ幅で、ナスダック総合は2.7%、ダウジョーンズが1.7%と大きく下げ、ドルインデックスと長期金利が一週間ぶりの低さへ下げています。
なお、本日金相場は、日本円建てでgあたり14943ドル、また他の主要通貨建てでも史上最高値をつけています。
その他の市場のニュ―ス
- 貴金属を投資ポートフォリオに組み込むことを承認された中国の保険会社10社のうち、最初の4社が今週初めに「ビジネス準備を完了し、市場に参入した」こと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に3月18日までのデータが発表され、FOMCを前に金価格がトロイオンスあたり3000ドルを超えて上昇していた際に、全ての貴金属においてネットロングポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、11.5%増で632トンと7週ぶりに増加して前週の昨年7月初旬以来の低さから増加していたこと。価格は3.7%高でトロイオンスあたり3025.80ドルと史上最高値へと上昇し、建玉は11.7%増と2週連続で増加して2月半ば以来の高さへ増加していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、17.5%増で7721トンと3週連続で増加して2020年2月末の週以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比4.7%高で、トロイオンスあたり34.09ドルと昨年10月29日の週以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、12月24日からネットロングで、364%増で23.1トンと2月半ばの週以来の大きさとなっていたこと。価格は前週比0.5%高でトロイオンスあたり951ドルと2週連続で2月11日の週以来の高さに上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに1.1%減で36.0トンと3週ぶりに減少して前週の1月7日の週以来の高さから下げていたこと。価格は0.5%高でトロイオンスあたり951ドルと2週連続で上昇して、2月18日の週以来の高さとなっていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに0.9トン(0.1%)減少して929.65トンと、2週ぶりに週間の減少傾向ではあるものの、前週金曜日以来の高さではあること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.41トン(0.1%)減で424.06トンと下げて、8週ぶりの週間の減少傾向であること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに192.48トン(1.44%)増で13,916.39トンと3週連続の週間の増加傾向で1月27日以来の大きさである。
- 金銀比価は、今週91台半ばで始まり、本日は89代前半と3月17日以来の低さへ下げて終える傾向であること。2024年の年間平均は84.75、2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.44。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週2057ドルで始まり、本日2084ドルと史上最高値以来の高さへ上昇して終える傾向。2024年間の平均は1431ドル。2023年の平均は975で、5年平均は968ドル。
- プラチナとパラジウムの差は2月6日からプレミアムで、今週10ドルのプレミアムで始まり、週半ばに19ドルまで上昇後、本日4ドルと2月21日以来の低さへ下げて終える傾向。2024年の平均は28ドルのディスカウント。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰して1153ドル。5年平均は835ドルのディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、人民元建て金価格が本日史上最高値のgあたり721元と前日比1.7%と急騰する中で、7.92ドルのプレミアムと3月11日以来の高さであったことからも、週平均は5.76ドルと前週の0.28ドルのディスカウントへ大きく転換していたこと。2024年の平均は15.15ドルのプレミアム。2023年平均は29ドルのプレミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は6.9ドル。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は3月4日から正の相関関係で本日0.50と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は1月23日から負の相関関係で、本日-0.34と前週から関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は3月13日から負の相関関係で、木曜日までで-0.52と関係を若干強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週も週後半のFRBがインフレ指標として重視する個人消費支出PCEコア・デフレーターを待つ中で、トランプ大統領が4月2日に実施するとしている関税に関するコメントで市場は動くこととなりました。来週は、米雇用関係データが火曜日には雇用動態調査(JOLTS)求人件数、水曜日にはADP全国雇用者数、金曜日には雇用統計と続き、これらに市場は注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2025年3月31日~4月4日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
先週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2025年3月24日~28日今週のの結果をまとめています。
- 主要経済指標(2025年3月31日~4月4日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2025年3月24日)ロンドン金地金価格はトランプ関税による先物との差が狭まる中で下落
- 金(ゴールド)の主な利用方法
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続き注目を集めているトランプ大統領の関税に関する発表、ウクライナ戦争の停戦を巡る主要国の動き、トルコのイスタンブール市長逮捕への抗議デモ、ビルマの地震、そして英国国内のニュースとしては、前週末に発生した発電所の火災によるヒースロー空港の一時閉鎖、さらに今週水曜日に発表された英国政府の春季財政報告が大きく伝えられています。
そのような中、英国では、ネットフリックスのドラマシリーズ「Adolescence(思春期)」が週間視聴者数チャートでトップに立ったことがニュースとして伝えられているので、そのドラマと英国事情なども合わせてお伝えしましょう。
このニュースが特に話題となった理由は、ネットフリックスのようなストリーミングサービスが提供するドラマが、BBCなどの地上波放送を抑えて週間視聴率でトップに立つのが英国史上初めてであったためです。
このドラマの視聴者数は、第一話が645万人で週間トップとなり、ネットフリックスの契約者数が英国では約1,700万人と言われているため、全契約者の38%が視聴したことになります。また、第2話も594万人が視聴し、週間視聴者数の第2位となりました。
「Adolescence」のストーリーは、13歳の少年が同じ学校の女学生を刺殺する事件を題材としており、近年話題となっているインセル(Incel)文化にも触れています。インセルとは、ウィキペディアによると、自らを「異性との交際が長期間ないまま独身を続けることを強いられている」と定義し、女性蔑視を行うインターネットコミュニティーの一部を指します。このインセルを標榜した事件は北米ですでに発生し、学生が犠牲となっていますが、英国でも最近同様の事件が起きています。このため、このドラマのテーマが英国の視聴者に強い共感を呼んだのではないかと考えられます。
さらに、主人公の少年を演じるオーウェン・クーパーやその他の学生役を演じる俳優は全くの新人でありながら、見事に現代の若者を演じています。また、このドラマの撮影手法も話題を集めており、一話全体を一台のカメラで途切れることなく撮影するという斬新なアプローチが、その臨場感を高めて視聴者を引きつけています。
英国のスターマー首相も、このドラマについて言及し、「学校やその他の場所で若者と関わる多くの人々が、少年や若い男性に対処すべき問題があることを認識している」とコメントしており、このドラマが契機となり、インセル文化に関する議論が英国全土で高まっています。
ちなみに、昨年このコラムでご紹介した1999年から2015年にかけて英国で発生した郵便局スキャンダル事件も、昨年英民法ITVでドラマ化されたことで、事件に対する国民の関心が高まり、政府を動かす社会現象にまで発展しました。
今回のドラマに関連して、学校でのスマートフォン使用禁止や、SNS関連企業や検索サービスに新たな義務を課す法案についての議論が始まっています。これにより、SNSプラットフォームにおけるユーザーの安全に対する責任が強化される見込みです。
インターネットの普及により人々の生活は便利になっていますが、提供される情報に対してまだ適切な判断力を持たない若者を社会が守らなければならないという認識と実質的な行動を起こす必要性は高まっていると言えるでしょう。