ニュースレター(2024年7月5日)米雇用統計後金価格は6週ぶりの高さへ上昇
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2380ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から2.1%高で週間の上昇で、LBMA価格としては5月22日以来の高さとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から4.2%高のトロイオンスあたり30.61ドルと週間で上昇し、5月31日以来の高さとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.1%高のトロイオンスあたり1022ドルと3週連続の上昇で6月3日以来の高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から5.9%高でトロイオンスあたり1029ドルと週間の上昇で、今週水曜日につけていますが、5月21日以来の高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、米主要経済指標が労働市場の逼迫が緩和し、景気の停滞傾向を示唆したことで、大きく上昇し、金価格においては取引時間内にドル建てで5月22日以来の高さ、日本円では史上最高値を更新することとなりました。(詳細は下記の今週の金相場の動きと背景を参照ください。)
そこで、年末の市場が予想するFRBによる金利は本日4.88%と4月9日以来の低さで年二回観測となっており、9月の利下げも本日7割を超えて一週間前の6割弱から上昇して予想されています。
そこで、今週のチャートは年末のFRBによる金利予想(赤の点線)、市場の金利予想(青)、ドル建て金価格(深緑)をお届けしましょう。
今年に入り、年末の金利予想が高くなるにつれて金価格が下げ、金利予想が低くなることで金価格が上昇していることが分かります。
そのような中、銀とパラジウムの上げ幅が顕著となっていますが、銀は金との金銀比価が80を超えて割安傾向となっていたことからも、また金よりも市場が小さいために通常ボラティリティが高いこと、そして近年太陽光発電の需要増から供給不足となっていることも伝えられており、上げ幅を広げています。
パラジウムに関しては、前々週まで記録上最高のネットショートポジションとなっていましたのでショートカバーも入り、上げが上げを呼んでいる模様です。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場はロンドン昼過ぎまでにドル建ては堅固に推移し、一時トロイオンスあたり2338ドルまで上昇後、2332ドルへと上げ幅を削って終えていました。
この間ユーロ建て金価格は、週末のフランスの下院選初回で極右政党が投票率首位であったものの、大差で勝利する警戒感は後退し、ユーロが強含み、トロイオンスあたり2154ユーロまで一時下げていました。
火曜日金相場は、ドルと長期金利は若干下げていたものの、トロイオンスあたり2330ドルと前日から若干下げて終えていました。
同日は欧州中央銀行がポルトガルのシントラで主催する国際金融会議「ECBフォーラム」に参加しているパウエルFRB議長のスピーチに市場は注目し、ここで「労働市場が想定外に軟化すれば、(利下げ)で対応する理由になる」というハト派的コメントで、長期金利とドルが下げて金は上昇していましたが、その後発表された米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が予想を上回り、下げに転じることとなりました。
水曜日金相場はロンドン時間午後に発表された米指標が労働需給が緩和する方向を示唆し、ドルと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり2364ドルと6月21日以来の高さを一時つけ、その後2359ドルで終えていました。
同日発表された指標はADP全国雇用者数で15万人と予想の16万人と前回修正値の15.7万人を下回り、新規失業保険申請件数は、23.8万人と予想の23.5万人と前回修正値の23.4万人も上回っていました。
また、ISM非製造業景況指数は48.8と予想の52.5と前回の53.8からも下げて、経済の拡大と縮小の境目である50を下回ったことも、米景気停滞、FRBによる近い利下げ観測を広げ、年末の金利はFEDWatchツールで同日4.8%と6月20日以来の低さまで下げていました。
なお、同日発表のFOMC議事録要旨は、ほぼ想定内の内容であったことから、市場への影響は限定的となっていました。
なお、日本円建て金相場はgあたり12274円と、5月20日につけた12264円の取引時間内の史上最高値を更新していました。
木曜日金相場は、米国が独立記念日で祝日の中、主要経済指標も無く、前日終値前後のトロイオンスあたり5ドルという狭いレンジで推移し、2356ドルで終えていました。
本日金曜日は注目の米雇用統計が発表され、予想とほぼ同水準であったものの、発表直後神経質な動きの後に一時トロイオンスあたり2675ドルとひと月ぶりの高さへ上昇し、その後さらに上昇して5月22日以来の高さの2388ドルもつけて、2385ドル前後をロンドン時間夕方に推移しています。
日本円建て金価格は水曜日付けた最高値を本日も更新し、gあたり12357円の史上最高値をつけています。
なお、米雇用統計では、非農業部門雇用者数は20.6万人と前回修正値の21.8万人を下回っていましたが、予想の19万人は上回っていました。 しかし、失業率は4.1%と前回と予想の4.0%を上回り、平均時給は前月比0.3%、前年同月比3.9%と予想と同じで、前回の0.4%と4.1%を下回り、今週他のデータも示していたように労働環境の逼迫緩和を示唆していました。
そこで、FRBによる早期の利下げ観測が広がっている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- インドの中銀が6月に9トンと2022年7月以来の大規模な金準備を積み増して、今年37トン増で841トンとしたことが明らかとなったこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週末に6月25日までの一週間データが発表され、FRBが重視するインフレデータの米個人消費支出(PCE)コア・デフレーターの発表前にプラチナとパラジウムの価格が上昇している中で、金のネットロングポジションは減少し、銀、プラチナ、パラジウムのネットロングは増加(もしくはネットショートは減少)していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週から2.5%減で575トンと5月半ばまでの週以来の高さから若干下げていたこと。価格は0.2%安のトロイオンスあたり2325ドルへと下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、2.6%増の5131トンと2週連続で増加していたこと。価格は1.5%高のトロイオンスあたり29.56ドルと4週ぶりに上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで109%増の19.0トンと3週ぶりの上昇で5月初旬以来の低さから増加していたこと。価格は2.4%高でトロイオンスあたり989ドルと2週連続で上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、7.5%減の46.3トンと前週の2006年6月から始まった記録上で最大の規模から減少していたこと。価格は9.3%高でトロイオンスあたり953ドルと前週の2017年7月末以来の低さから上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては5.8トン(0.7%)増で834.80トンと6月20日以来の高さで、週間の増加傾向となっていること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.08トン(0.02%)減で387.45トンと週間の減少傾向で、2020年3月2日以来の低さであること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで82.51トン(0.61%)増で13,688.66トンと4月9日以来の高さで、5週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価は、今週79台半ばで始まり水曜日に77台後半へと下げ、本日77台半ばと6月20日以来の低さへ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1335ドルで始まり、本日1357ドルと6月21日以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換していたものの、今週火曜日に再びディスカウントへと転換し、本日は22.5ドルまで上昇して終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が26.14ドルと4月後半以来の低さへと前週の26.51ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は今週木曜日までで、前週平均比で、金は15%減で2月上旬以来の低さ、銀は12%減で5月上旬以来の低さ、プラチナは20%減で6月半ば以来の低さで、パラジウムは5%増であること。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月27日から負の相関関係で-0.34へと週間では関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は6月10日から負の関係で、今週木曜に正の関係へ転換してたものの、本日再び負の関係となり-0.16となっていたこと。S&P500種と金の相関関係は6月10日から負の関係であったものの、今週S&P500種が再び史上最高値へを更新する中で7月3日に正の関係へ転換し0.17となっていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は木曜日が米独立記念日で祝日でしたが、その前日のADP全国雇用者数やISM非製造業景況、そして本日の米雇用統計で市場は動いていました。
来週は、火曜日と水曜日にパウエルFRB議長の議会証言があり、木曜日には米消費者物価指数、金曜日には米卸売物価指数と、重要イベントと指標が続くこととなります。
詳細は主要経済指標(2024年7月8日~12日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年7月1日~5日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年7月8日~12日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年7月1日)フランス総選挙の結果を受けた時期尚早の警戒感の和らぎでユーロ建て金価格が下落
- 【金投資家インデックス】史上最高値に近い水準にもかかわらず金の利益確定売却は減少
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、昨日の総選挙へ向けたそれぞれの党の最後の追い込みの様子、そして本日は労働党が歴史的圧勝となった結果、そしてスナク前首相の退任スピーチとスターマー新首相の就任スピーチ等が大きく伝えられていますが、昨日ウィンブルドンテニス選手権では、英国のウィンブルドンで2度、オリンピックでも2度金メダルを取った英国を代表するテニスプレーヤーのアンディ・マリーがこの大会最後ということで、彼のインタビューを含む、ウィンブルドンの様子等も伝えられています。
そこで、本日は予想されていたとは英国総選挙の結果についてまとめてみましょう。
ここでもお伝えしていたように、世論調査で保守党は労働党に20ポイント以上下回っていましたので、選挙で保守党が負けることは予想されていましたが、過半数をどれほど上回るかというところが焦点となっていました。
昨夜10時に投票が締め切られた後の出口調査の結果は全体の過半数170議席に相当する推定410議席と、第二次世界大戦以来最大の過半数の大きさとなるという予想が出ていました。
結果は、労働党が改選前から211議席増の412議席、保守党が250議席減の121議席となっています。選挙前には、保守党議席が100議席を下回り、自由民主党にも負けて第3党へ落ちる予想もあったことから、1906年以来の最低の議席数ではあるものの最大野党の位置は守り、保守党にとっての最悪の事態は避けたようです。
なお、英国の下院は小選挙区制となります。そこで、投票率が議席数に必ずしも反映しませんが、今回も投票率においては、労働党は34%で保守党は24%、今回保守党の票を削ったリフォームUKは14%と投票率では3位でありながら4議席と、71議席を獲得した自由民主党の12%を上回っていました。
しかし、結果は保守党の大敗であることは間違いなく、前回1997年にトニー・ブレア政権が18年の保守党政権に大勝し、13年間政権を維持したように、スターマ新首相が着実な政権運営を行うのであれば、保守党は政権獲得のために時間をかけて党を立て直す以外に道はないのでしょう。
スナク前首相は退任スピーチで、選挙で大敗したことを受けて「あなた方の怒り失望を聞き、この責任を取る」と明言し、保守党党首を辞任することも明らかとしました。
そして、スターマー新首相は就任のスピーチで「奉仕の政府」を構築することを誓っています。
彼は看護師の母親と工具製作者の父親の一般家庭で育ち、公立校で学んで弁護士として人権法を専門として、検察官としてはナンバー3まで上り詰めた後に、2015年に下院議員として当選後、2019年に社会主義者の前コービン党首の下で保守党に大敗して以来、労働党をより中道に戻し、党内をまとめて、労働党の支持団体である労働組合とも折り合いをつけてきました。
そこで、英国内では、労働党内の左派や右派の支持を取り付けるために、方針を頻繁に変えていたことからも、フリップフロップ(方針を変えることとサンダルの名前を掛け合わせたダジャレ)という呼び名や、「カリスマが無い退屈な人」とも批判されることも多いようですが、誠実な人であるという印象は確かにあります。
今後スターマー首相がどのような政権運営を行うかを注目したいと思います。