ニュースレター(2024年6月7日)中国中銀の金購入停止と良好な米雇用統計で金価格は下落
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2309ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から1.64%安で週間の下げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.15%安のトロイオンスあたり30.28ドルと4週ぶりの下げとなっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から6.3%安のトロイオンスあたり1031ドルと週間の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から3.7%安でトロイオンスあたり913ドルと4週連続の週間の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、金曜日までは、この数週間の米経済指標でインフレ鈍化、雇用市場の逼迫の緩和、経済低迷が示唆され、また今週カナダ中央銀行がG7で最初に利下げをし、欧州中央銀行も利下げをしたことからも、米連邦準備制度理事会(FRB)の近い将来の利下げ観測が広がり、上昇していました。
しかし、本日ロンドン時間午前中に中国の中央銀行が5月に18か月ぶりに金準備を増加させていなかったことが明らかとなり、その後発表された米雇用統計も非農業部門雇用者数が予想を上回るものであったことから、ドルが2週間ぶりの高さ、米長期金利が一週間ぶりの高さに上昇する中で、全ての貴金属で終値ベースで大きく下げています。
本日のチャートは、中国の金準備の推移をお届けしましょう。
ここで見られるように、中国中銀は4月まで18か月金準備を増加させて2264トンと世界の中銀でも7位の規模となっていました。しかし、外貨準備高に占める割合は5%と未だ他の先進国(米国72%、ドイツの72%、イタリア69%、フランス70%)と比較しても低いことからも、今後も購入は続くと市場は見ていたことからも、サプライズではあったようです。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、金価格が前週金曜日の月末のLBMA価格ベースでの史上最高値から若干下げていたものの、ロンドン時間終値ベースではトロイオンスあたり2350ドルで終えていました。
このロンドン時間夕方の上げは、同日発表された米ISM製造業景況指数が48.7と、前回の49.2と予想の49.6も下回ったことで、米経済の陰りの観測とFRBによる近い将来の利下げ観測が広がったことが背景となっていました。
火曜日金相場は、同日発表の米雇用関連データが弱いものであったことから、FRBによる年内利下げ観測が広がり、ドルと長期金利が下げる中で、トロイオンスあたり2328ドルと前日終値から下げて終えていました。
このデータは米雇用動態調査(JOLTS)求人件数で、予想と前回を下回り、1年ぶりの低い水準となっていました。そこで、FRBによる年末の金利予想は4.93%と5月半ばの米消費者物価指数が予想を下回った際以来の低さへと下げていました。
5月半ばの弱いインフレデータでFRBの年内金利引き下げ観測が広がったことで金は上昇基調となっていましたが、今週は金曜日に米雇用統計が発表され、翌日はその先行指標のADP全国雇用者数の発表もあり、これらデータへの警戒感であったようです。
水曜日金相場は、米雇用統計の先行指標が予想を下回り、FRBによる近い将来の利下げ観測からも長期金利が4月初旬以来の低さへ下げる中で、トロイオンスあたり2355ドルへと上昇して終えていました。
この指標はADP全国雇用者数で15.2万人と前回修正値の18.8万人、予想の17.5万人を下回り、2021年2月以来の低い数値となっていました。
また、同日カナダの中央銀行がG7の中で初めて利下げを行ったことも、中銀の利下げ開始観測を広めることとなったようでした。
なお、米ISM非製造業景況指数は53.8と前回の49.4と予想の50.8を上回っていたことで、先の利下げ観測に経済低迷が免れる観測も広がり、米株価指数は史上最高値へと上昇していました。
木曜日金相場は、市場注目の欧州中央銀行(ECB)の政策金利発表後、ロンドン午前中の下げ幅を取り戻し、トロイオンスあたり2376ドルと前日の終値を上回って終えていました。
同日ECBは予想通り4年9カ月ぶりとなる利下げを決め、主要金利を4.25%へと下げていました。しかし、今後の利下げに関しては、「必要な限り政策金利を高い水準にとどめる」としたこともあり、ユーロが対ドル強含みドル建て金価格を押し上げることとなりました。
また、同日発表の米新規失業保険申請件数は予想を上回り、前日はカナダの中央銀行が利下げに踏み切ったことからも、FRBも主要中銀の流れに沿う形で政策金利を引き下げやすくなるという観測も金をサポートしていた模様です。
金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計を待つ中で、中国人民銀行の金準備が5月に全く増加していなかったことが明らかとなり、トロイオンスあたり30ドルほど下げていたところ、米雇用統計が強いものでさらに下げて、ロンドン時間夕方にトロイオンスあたり2312ドル前後を推移しています。
米雇用統計の非農業部門雇用者数は、27.2万件と前回修正値16.5万件と予想18.5万件を上回り、失業率は4%と前回と予想の3.9%を上回っていました。また、平均時給は前月比0.4%で予想の0.3%と前回の0.3%を上回り、前年比も4.1%と前回修正値の4.0%と予想の3.9%を上回っていました。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に5月28日のデータが発表され、FRB高官のタカ派的コメントや低迷な米国債入札にもかかわらず価格が若干上昇していた際に、金とパラジウムは強気ポジションを減少させ、銀とプラチナは同ポジションを増加させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週が4年ぶりの高い水準であったことからも8%減の557トンと減少し、価格はこの際前週の史上最高値からは3.2%安でトロイオンスあたり2350ドルと下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、5%増の6147トンと増加していたこと。価格は0.25%安のトロイオンスあたり31.56ドルと前週の3週連続で上昇してLBMAの火曜日価格で2013年2月以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで1.3%増の32.4トンと2023年5月23日以来の高さへ強気ポジションを増加させていたこと。価格は0.5%高でトロイオンスあたり1049ドルとLBMA価格の火曜日価格で2023年5月以来の高さへ上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、11%増の38.6トンと2月半ば以来の高さへ増加していたこと。価格は5.7%安でトロイオンスあたり971ドルと4月上旬以来の高さへ上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては4.9トン(0.6%)増で837.10トンと2週ぶりの週間の上昇で5月22日以来の高さ。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.23トン(0.24%)増で381.12トンと2週ぶりの週間の上昇傾向で、5月28日以来の高さ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで129.68トン(1.01%)増で12,999.54トンと5月24日以来の高さで、週間の増加傾向であること。
- 金銀比価は、今週76半で始まり水曜日に78台後半と5月半ば以来の高さへ上昇し、本日76台半まで戻して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1294ドルで始まり、木曜日に1364ドルと6月半ば以来の高さ上げたものの、本日1351ドルへ下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、124ドルと2017年6月以来の高さまで上昇して始まったものの、本日69ドルへ戻して終える傾向。引き続き2017年9月以来の高さの水準。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が31.66ドルと前週の32.10ドルの人民元で最高値をつけていた翌週の4月半ば以来の高さから若干下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は34%減で2月末以来の低さで、銀も19%減で5月10日の週以来の低さ、プラチナは3%減で5月24日の週以来の低さ、パラジウムは59%減で4月5日以来の低さであったこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月3日から負の相関関係へ転換したものの、-0.01と関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月15日から負の関係で昨日6月6日から正の関係で本日は0.1と未だ薄い関係であること。S&P500種と金の相関関係は5月15日から正の相関関係で木曜日に0.45と今週その関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週も市場は主要中央銀行の金利引き下げ時期に関わるイベントのカナダ中央銀行、欧州中央銀行の政策金利発表や米雇用関係データに注目し、中国人民銀行の金準備増減なしのニュースでも動いていましたが、来週はFRBの政策金利発表が水曜日に行われ、最大イベントとなります。
また、同日には米消費者物価指数、翌木曜日には生産者物価指数が発表され、これらも重要となります。
詳細は主要経済指標(2024年6月10日~14日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
時事通信社のコモディティー市場を中心としたニュースサイトJiji Commodityで、ブリオンボールトのリサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが引用されています。
この記事では、米ADP雇用データが予想を下回ったことで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待が強まり、金相場が上昇したことを伝え、次のようにエィドリアンのコメントを紹介しています。
「中央銀行と中国の投資家が金価格を史上最高値まで上昇させた結果、欧米勢による利益確定の地金売却は出尽くしたようだ」と指摘し、価格上昇の勢いは失われつつあるものの、地政学的なリスクに加えて、今後は主要国で予定されている総選挙がもたらす不確実性が意識される中では、投資家の投資意欲は強固であり、「金地金の現物を購入することへの関心が高まっている」と述べた。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年6月3日~7日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年6月10日~14日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年6月3日)金地金は史上最高値水準から下げ、銀価格はコメックスで強気ポジションが増加する等「スポットライト」があたる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では引き続き総選挙へ向けての各党の選挙活動、与党保守党スナク党首と野党労働党スターマ党首のテレビ討論、そして、第二次世界大戦で連合軍を勝利へと導いた戦略のノルマンディー上陸作戦開始日のD-ディ80周年を祝う式典についてが大きく伝えられています。
そこで、本日はこのD-ディについて簡単にまとめて、今回の式典関連のニュースについてお伝えしましょう。
D-デイは本来戦略上重要な攻撃もしくは作戦開始日時を表すアメリカの軍事用語とのことですが、最も有名なのは1944年6月6日の第二次世界大戦中のナチス・ドイツ占領下のヨーロッパに連合軍が侵攻を開始した日となっています。この作戦の全体名がノルマンディー上陸作戦もしくはノルマンディー侵攻となります。
今年は80周年を記念して、当時上陸が行われたノルマンディーの海岸で昨日数々の式典が行われていました。
この式典には、英国からはチャールズ国王、カミラ女王、ウィリアム王子、そしてスナク首相と共に野党の党首も参加し、主催国のフランスからはマクロン大統領、米国からはバイデン大統領、カナダのトルドー首相等と共に欧州各国の首脳、そしてウクライナのゼリンスキー大統領も参加していました。
しかし、ノルマンディー作戦で重要な役割を担っていたロシアのプーチン大統領は、ウクライナ戦争からも、招待されていなかったとのことです。
今回の記念式典では、バイデン大統領は80年前にノルマンディーで起きたことは、現在の世代が今日なすべきことから免責されるものでは無いとし、「民主主義は決して保証されたものではありません。そして、それは守り、戦わなければならない。」と述べていました。
第2次世界大戦後、世界大戦とはならないまでも、ウクライナ戦争やハマスとイスラエルの紛争のように、未だ多くの地域で戦争や紛争が続いています。
この式典に参加した退役軍人は高齢化しており、英国退役軍人225名のうちの23名は100歳を超えているとのこと。
式典では、彼らの言葉を著名俳優や退役軍人本人が語る機会もありましたが、このように彼らの経験や言葉を伝え、戦争の悲惨さや歴史から学び、次の世代へ平和や民主主義を守ることの大切さを伝えていくことが今後もさらに重要となってくるのでしょう。