ニュースレター(2024年6月21日)FRBによる早期利下げ観測の後退で金価格は今週の上げ幅を失う
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2335ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から0.2%高で週間の上げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から4.3%高のトロイオンスあたり30.45ドルと2週ぶりの上昇となっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から5.6%高のトロイオンスあたり1002ドルと2週ぶりの週間の上げで6月初旬以来の高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から10.1%高でトロイオンスあたり980ドルと5週ぶりの週間の上昇で5月末以来の高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、前週の米消費者物価指数やFOMC後の経済指標等を消化する中で、週後半に上昇に転じていましたが、金と銀においては金曜日の午後にその上げ幅をほぼ失って推移することとなりました。
週後半で本日午前中までの価格上昇の背景は、FOMCメンバーは年内1回の利下げを予想しているにもかかわらず、今週の小売売上高や米新規失業保険申請件数、フィラデルフィア連銀製造長景気指数、住宅着工件数等が予想を下回ったことからも、CMEのFEDWatchツールでは市場の観測は年2回となるなど、近い将来の利下げ観測が背景となっていた模様です。
しかし、本日午後に発表された米製造業PMIとサービス部門PMIが予想を上回り、送金の利下げ観測が若干後退している模様で、ドルが4月末以来の高さへ上昇し、金と銀は押し下げられている模様です。
なお、この間も日本円建て金相場は、円が対ドル下げていることからも、本日午後3時と前週午後3時の価格ベースでは、週間で1.5%高で、ロンドン夕方に多少下げたものの、gあたり11940円と6月7日以来の高値となっています。
そこで、米ドルベースで年初来金価格は13%高(ポンド建て14%、ユーロ建て17%、人民元建て16%)となっていますが、日本円建てではほぼ27%高と他の主要通貨建てをはるかに超えて強いパフォーマンスとなっています。
本日のチャートは主要通貨建ての金価格のチャートをお届けしましょう。
なお、銀は金の動きにつられて下げていますが、プラチナとパラジウムは、工業用途の需要が多く、中央銀行の政策金利よりも経済が堅固であるかに影響を受けるために、本日の堅固な米経済データはプラスであるようで、下げ幅は限定的となっています。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日は、前週に続きフランス政情の不安などからも、欧州株価は前週のフランス株価指数が2年ぶりの週間の下げ幅を見せた後も、ほぼ下げ基調の中で、金価格は前週終値からトロイオンスあたり10ドル強下げて2320ドルで終えていました。
これは、午後に発表されたニューヨーク連銀製造業景気指数が-6.0と前回の-15.6と予想の-10.5を上回っていたことで、FRBによる利下げ遅延観測が背景でした。
なお、前週金曜日に金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアが先週1月初旬以来の最大の残高減少をし、上海黄金交易所のロンドン価格との差が狭まり、前月の地金引き出し量が82トンと前月の131トンから減っていたことからも、中国の金需要の減少が見られる等、金のセンチメントは多少悪化していたようでした。
火曜日金相場は、同日発表された米経済指標がまちまちであったものの、トロイオンスあたり2328ドルと、前週終値まで4ドルほどまで上昇していました。
同日の指標は米小売売上高で、前月比0.1%と前回修正値の‐0.2%は上回っていたものの予想の0.2%を下回り、自動車を除く数値も‐0.1%と前回修正値と同水準でしたが、予想の0.2%を下回っていました。それに対し、鉱工業生産は0.9%と前回の0.0%と予想の0.3%を上回っていました。
しかし市場の反応はFRBによる利下げが近いというもので、9月のFOMCでの利下げ観測は67%と、一週間前の52.8%、前日の61.5%から上昇して、ドルが若干下げ、米長期金利が3月末の水準まで下げていたことからも、金を押し上げることとなりました。
水曜日金相場は、米国が祝日で薄商いである中で、トロイオンスあたり2329ドルと前日終値からも若干上昇して終えていました。
同日のニュースとしては英国の消費者物価指数がイングランド銀行の目標の2%へと2021年7月以来初めて下げたことでしたが、翌日のイングランド銀行の政策金利発表では政策金利は16年来の高さの5.25%で据え置かれるとの観測で為替市場への影響も限定的となっていました。
なお、6月のFOMC前後にはFOMCメンバーによる利下げへ慎重なコメントが続いていましたが、今年FOMCで投票権を持たないアドリアナ・クグラー米連邦準備制度理事会(FRB)総裁は前日、経済状況が自身の予想通りに展開すれば年内に利下げをするのが適切となる可能性が高いというハト派的なコメントを発していたことが伝えられていました。
木曜日金相場は、ロンドン時間午前中にトロイオンスあたり2346ドルまで上昇し、一旦上げ幅を戻したものの、ロンドン午後に2365ドルまで一時上昇して6月7日以来の高さをつけ、2360ドルで終えていました。
午前中の上げは中国の上海黄金交易所の金関連商品の取引高が6月3日以来の高さで、ロンドンとの価格差が30ドルを超えて、6月6日ぶりの高さと、中国での需要の高さが見られていました。
ロンドン午後の上げは、同日発表された米新規失業保険申請件数が予想を上回り、フィラデルフィア連銀製造業景気指数が予想を下回り、米住宅着工件数は4年ぶりの低さであったことからも、FRBによる近い将来の利下げ観測が広がり、同日年末の金利予想は4.84%と2回の利下げ予想となっていました。
なお、イングランド銀行は同日予想通り金利を据え置きましたが、前日発表の5月の消費者物価指数が2% まで下げ、利下げを支持するメンバーが増えた可能性からも、8月の金融政策会議では利下げが行われる観測が広がっていました。
本日金曜日金相場は、前日の上げ基調を受け継いで、トロイオンスあたり2368ドルまで上昇していましたが、ロンドン時間昼過ぎに発表された米経済指標が良好であったことから、また週末を控えてのポジション整理もあった模様で、今週の上げ幅をほぼ失って2327ドルへと下げています。
発表された指標は、米製造業、サービス部門PMIで、製造業PMIは51.7と前回の51.3と予想の51.0を上回り、サービス部門PMIは55.1と前回の54.8と予想の53.7を上回っていました。中古住宅販売件数も前月比‐0.7%と前回の‐1.9%と予想の‐1.0%から回復していました。
米長期金利はこの発表を受けても動きは限定的ですが、ドルインデックスは5月初旬の水準まで上昇していることが金を押し下げている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に6月11日のデータが発表され、予想を下回る米消費者物価指数と多少タカ派的であったFOMCの結果が発表される前に若干価格が上昇していた際に、資金運用業者は全ての貴金属で強気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週から1.8%減で552トンと5月半ばまでの週以来の低さであったこと。価格は0.2%高のトロイオンスあたり2330ドルと2週ぶりに上昇していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、17.3%減の4603トンと減少して3月半ば以来の低い水準となっていたこと。価格は1.6%安のトロイオンスあたり29.25ドルと、5月半ば以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで55.9%減の10.1トンと前々週の2023年5月23日以来の高さから2週連続で減少させていたこと。価格は5.0%安でトロイオンスあたり960ドルと4月末以来の低さとなっていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、12%増の49.8トンと2006年6月から始まった記録上で最大となっていたこと。価格は3.7%安でトロイオンスあたり890ドルと2月半ば以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては8.34トン(1.0%)増で833.65トンと6月10日以来の高さで、週間の増加傾向となっていること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.35トン(0.1%)減で379.12トンと2週連続の週間の減少傾向で、2020年3月2日以来の低さであること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで137.79トン(1.0%)増で13,528.02トンと4月9日以来の高さで、3週連続の週間の増加傾向であること。
- 金銀比価は、今週79台半ばで始まり木曜日に77台前半と6月3日以来の低さへ下げて、本日77台半ばまで上昇して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1368ドルで始まり、火曜日に1341ドルまで下げたものの、本日1371ドルと5月半ば以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、今週59ドルで始まり、火曜日に86ドルまで上昇して、本日50ドルと5月半ば以来の低さへ下げて終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が26.30ドルと4月末の週以来の低さで、前週の28.45ドル~下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は今週木曜日までで、前週平均比で、金は2%増と前週の2月半ば以来の低さから若干増加、銀は0.4%減で5月半ば以来の低さ、プラチナは24%増で少なくとも弊社が記録をつけ始めた2020年6月以来の高さで、パラジウムは11%増で5月末以来の高さであること。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は6月17日から正の相関関係であったものの0.03とその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月14日から負の関係で本日-0.31と関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は6月10日から負の関係で-0.37と今週S&P500種が史上最高値をつける中で、その関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、前週のフランス総選挙に伴う政情不安関連ニュースとFRBの政策金利を予想するべく米指標と高官のコメント、そしてイングランド銀行の政策金利発表等で市場は動いていましたが、来週もこの傾向は続くこととなります。
そこで、重要指標は金曜日に発表のFRBがインフレ指標として注目する個人消費支出PCEコア・デフレーターとなりますが、木曜日の米GDPと耐久財受注なども重要となります。
詳細は主要経済指標(2024年6月24日~28日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年6月17日~21日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年6月24日~28日)来週の予定をまとめています。
- ニュースレター(2024年6月17日)フランス政情不安が残る中で、金ETFの最大銘柄は1月以来の週間の減少をし、中国需要も軟化し、金価格は下げる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では引き続き7月4日に行われる総選挙関連ニュースがトップで伝えられていますが、それに加え先週末に行われたチャールズ国王の公式誕生日の行事と、これにがんの治療で公式行事は昨年末以来出席していなかったキャサリン妃が参加したこと、そして先週金曜日に始まったUEFA欧州選手権について大きく伝えられています。
そこで、本日はチャールズ国王の公式誕生日の式典について簡単にお伝えしましょう。
この祝賀行事は「Trooping the Colour(トル‐ピング・ザ・カラー)と呼ばれ、歴代の国王、女王の実際の誕生日とは別に6月の第2土曜日に行われるものです。
この時期を選んだのは英国で最も気候が良い時期ということであるようです。今年同日は、にわか雨もありましたが、ほぼ全般天候に恵まれることとなりました。
また、この行事の名前は、軍旗の色を見せることが名前の由来とのこと。
まず、当日はバッキンガム宮殿から会場の近衛騎兵練兵所(Horse Guards Parade)までロイヤルファミリーが馬車に乗って向かわれます。
そして、王室師団が近衛騎兵練兵所で君主である国王を前に騎馬行進を行います。通常君主は馬上で閲兵式に臨みますが、現在がんの治療中のチャールズ国王は馬車での臨席となりました。それに対し、ウィリアム王子、アン王女、エドワード王子は騎乗して臨んでいました。
この閲兵式の最後にはロイヤルファミリーがバッキンガム宮殿のバルコニーで空軍の儀礼飛行を見ることからも、多くの人々が王室の人々を一目見ようとバッキンガム宮殿の前に集まります。
そして、儀礼飛行の最後を飾るのは英空軍のレッドアローズで、英国国旗の色の赤と青と白のスモークの軌跡を残すのが恒例となっています。
キャサリン妃は年末からがんの治療のためにも、すべての公式行事は欠席していますが、同日参加することを発表し、当日は彼女のお元気そうな姿を多くのメディアが明るいニュースとして伝えていました。
明日22日には天皇、皇后両陛下が英国に公式訪問をされ、英国王室との公式行事が来週25日と26日に行われます。私も英国日本人コミュニティーの代表として非公式行事でお会いする機会をいただきましたので、今回の公式訪問の模様は来週お伝えさせていただきます。