ニュースレター(2024年6月14日)米インフレデータ、FOMCを終えて、フランス政情不安からも金は上昇
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2331ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から0.88%高で週間の上げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から3.45%安のトロイオンスあたり29.22ドルと2週連続の下げとなっています。金日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から3.21%安のトロイオンスあたり949ドルと2週連続の週間の下げで5月初旬以来の低さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から2.52%安でトロイオンスあたり893ドルと5週連続の週間の下げで2月初旬以来の低さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属市場は、水曜日の米消費者物価指数とFOMC後のメンバーによる将来の政策金利予想のドットプロットチャートへと注目し、予想を下回る米インフレデータで若干上げたものの、年末までの金利予想が前回3月の3回から1回へと減ったことで下げて推移していました。
しかし、週後半に前週末の欧州議会選挙で極右政党が勝利した結果を受けて、フランスのマクロン大統領が解散、総選挙というサプライズな動きをしたことで、極右政党が勝利した際の政局および経済の不安が高まり、金の安全資産の需要が生まれることとなりました。
また、直近の新規失業保険申請件数やミシガン大学消費者態度指数等の経済データで米経済の停滞の懸念も出ており、市場のFRBによる年内の利下げ回数の予想とFOMCメンバーによる予想に乖離が起きていることも、金の強さの背景となっているようです。
そこで、今週のチャートとしては、最新のFOMCメンバーの年末の政策金利予想(年一回=5.1%:赤色)と本日までの市場の政策金利(4.88%:青色)、そしてドル建て金価格(深緑)のチャートをお届けしましょう。
ここで、市場予想がFOMC後も引き続き下げていること、そして金価格がそれに応じて上昇していることが分かります。
なお、銀、プラチナ、パラジウムは、工業用途需要が高いために、経済停滞懸念が広がる場合は、価格が押し下げられる傾向があります。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は前週金曜日のLBMA価格ベースで2%の下げから上昇してトロイオンスあたり2300ドルを回復して2309ドルで終えていました。
同日は、欧州議会選挙の週末の出口調査で、右派と極右政党のEU懐疑派が躍進したことが明らかとなり、マクロン仏大統領が率いる中道派が大敗したことからも、急遽議会解散、総選挙を発表するなど、先行き不透明感が高まり、ユーロ、仏株、仏国債が売られ、ユーロ建て金相場が1%近く上昇していました。
今週は水曜日にFOMC後のFRBの金融政策発表とその前に米消費者物価指数も発表され、金利は据え置き確実とされていますが、四半期ごとに行われるFOMC参加者の金利見通しのドットプロットの発表が行われ、年内の利下げが3月の3回から減ることは予想されていますが、市場の警戒感は高まっていました。
火曜日金相場は、翌日のFOMCと米消費者物価発表を前に、トロイオンスあたり2315ドルと若干ながら前日終値から上昇して終えていました。
これは、米長期金利が同日行われた390億ドルの米国債入札が堅調なものであったことから、前週の良好な米雇用統計後FRBによる利下げ先送り観測で上昇していた水準から6ベーシスポイントほど下げていたことが背景となっていました。
しかし、米ドルは欧州議会の結果を受けてユーロが弱含む中で、上昇していたことからも、金の頭は重くなっていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が予想を下回り、トロイオンスあたり2341ドルまで一時上げたものの、同日ロンドン時間夕方のFOMC後のメンバーによる政策金利予想の発表とパウエルFRB議長の記者会見で上げ幅を失って2320ドルて終えていました。
米消費者物価指数は前年同月比3.3%と前回と予想の3.4%を下回り、コアにおいても3.4%と前回3.6%と予想の3.5%を下回っていました。しかし、FRBの政策を大きく変えるほどの下げではないという判断であったようです。
そして、FOMC後に政策金利は予想通り7会合連続で20年来の高さの5.25~5.50%で据え置かれ、メンバーによる政策金利予想のドットプロットチャートでは、前回3月の年内3回から1回へ減っていたこと、またパウエル議長も、データ次第では9月の利下げもありと述べたものの、今後の利下げに関しては慎重な姿勢を見せたことからも、金価格は下げることとなりました。
木曜日金相場は、米長期金利は3月末の水準まで下げているもののドルがユーロ安からも上昇し、トロイオンスあたり2298ドルへ下げています。
同日発表された米卸売物価指数は、前月比と前年同月比共に‐0.2%と2.2%と予想の0.1%と2.5%、また前月の0.5%と2.3%からも下げ、新規失業保険申請件数も9か月ぶりの高さとなっていました。そこで、FRBによる利下げ観測が、前日のFOMCメンバーの平均値は今年1回ではあったものの、CMEのFEDWatchツールでは4.9%を割る水準まで下げて、2回の利下げ予想となっていることが、長期金利を下げていたようです。
また、ドルの上昇は、フランスのマクロン大統領によるサプライズ総選挙でフランス株価指数が3%以上下げて、ユーロが弱含んでおり、相対的にドルが上昇することとなりました。
本日金曜日金相場は、フランスの政治不安からも安全資産の買いが入り、ロンドン時間夕方にはトロイオンスあたり2330ドルへと上昇して推移しています。
本日は、今月末と来月初頭に行われるフランスの総選挙で極右政党「国民連合」の勝利が予想されている中で、フメール仏経済・財務相が、極右政党が勝利すれば金融危機のリスクに直面すると述べたことで、仏株価が下げて週間で10月以来の下げ幅となる模様です。
また、本日発表されたミシガン大学消費者態度指数も予想を下回ったことで、昨日まで史上最高値をつけていた米株価も下げいることも金を押し上げている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に6月4日のデータが発表され、米国の雇用動態調査(JOLT)のデータが予想を下回る中で、価格が下げていた際に、資金運用業者は金の強気ポジションを増加させ、銀とプラチナとパラジウムの同ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、前週から0.9%と若干ながら増加させて562トンであったこと。価格は1.1%安のトロイオンスあたり2326ドルと前々週の史上最高値から2週連続で下げていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、9%減の5568トンと減少して5月初旬以来の低い水準となっていたこと。価格は5.9%安のトロイオンスあたり29.71ドルと、前々週の2023年5月以来の高さから2週連続で下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、5月7日の週以来ネットロングで29%減の22.9トンと前週の2023年5月23日以来の高さから減少させていたこと。価格は3.7%安でトロイオンスあたり1010ドルと前週のLBMA価格の火曜日価格で2023年5月以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、16%増の44.6トンと2006年6月から始まった記録上で最大となっていたこと。価格は4.8%安でトロイオンスあたり924ドルと2月中10以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては6.3トン(0.8%)減で829.34トンと前週の2週ぶりの増加後に週間の減少で4月18日以来の低さ。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで1.65トン(0.43%)減で379.47トンと前週の2週ぶりの増加から一転週間の減少傾向で、2020年3月2日以来の低さ。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで265.67トン(2.03%)増で13,364.66トンと4月9日以来の高さで、2週連続の週間の増加傾向で、週間の増量としては4月26日の週以来の高さであること。
- 金銀比価は、今週77台半ばで始まり本日79台後半と5月半ば以来の高さで終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1326ドルで始まり、木曜日に1367ドル5月半ばの水準へ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは5月8日からプレミアムに転換し、54ドルで始まり、火曜日に69ドルまで上昇して54ドルへ戻して終える傾向。引き続き2017年9月以来の高さの水準。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週の平均が28.45ドルと4月末以来の低さへと前週の31.66ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は14%減で2月末の週以来の低さで、銀も0.3%減で5月半ばの週以来の低さ、プラチナは20%増で4月半ばの週以来の高さで、パラジウムは7%増で5月末の週以来の高さであったこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は5月14日から負の相関関係であったものの本日正の相関関係へ転換していたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は5月14日から負の関係で本日-0.32と関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は6月10日から負の関係で-0.38と今週S&P500種が史上最高値をつける中で、その関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は、前週末の欧州議会選挙後のマクロン大統領が発表したサプライズであるフランスの総選挙、そして水曜日の米消費者物価指数、その後のFOMC後のドットプロットチャートとパウエル議長の記者会見に、今後のFRBの政策金利観測からも市場は注目し動いていました。
来週も主要中央銀行の金融政策にかかわる指標やイベントへ市場は注目しますが、それは、火曜日のユーロ圏の消費者物価指数、木曜日のイングランド銀行の金融政策発表、金曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI等となります。その他、引き続きフランスの政情へは注目がいくこととなります。
詳細は主要経済指標(2024年6月17日~21日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年6月10日~14日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年6月17日~21日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年6月10日)ドル建て金価格は2%急落後2300ドルまで反発し、ユーロ相場は「極右」勝利で急上昇
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続き7月4日に行われる総選挙を前に行われている各党の選挙活動の模様やTV討論、そしてハマスとイスラエルの紛争関連、またウクライナ戦争についても引き続き伝えられていますが、本日から始まるサッカーの試合ユーロ2024の開幕試合がスコットランドとドイツ戦であるために、これについても大きく伝えられています。
そのような中で、米シンガーソングライターのテイラー・スウィフトのUKツアーが先週金曜日にエジンバラで始まり、ニュースでも大きく伝えらえていますのでお伝えしましょう。
このUKツアーでは、ロンドンを含むUK各地で17日コンサートが行われ、エジンバラの初日のコンサートでは、73,000人の観客が、人気のある曲「Ready for it?」等で一斉に踊ったことで、6キロ先までその振動が伝わったとのことです。
ちなみに、米シアトルのコンサートでは、2.3マグニチュードの地震を引き起こしたとのこと。
今週13日からは英国北部のリバプールで3日間コンサートが行われるとのことですが、それによって10万人がこの地を訪問し、コンサート会場では1200万ポンド(約24億円)が消費され、リバプール全体では4900万ポンド(約98億円)、英国全体では10億ポンド(約1998億円)とのことで、その経済効果についてもニュースで伝えられています。
昨年行われたこのツアーでは、チケットセールだけでも435万枚の10億ドル(1560億円)を超える史上最高のものであったことは年末に伝えられていましたが、今年のツアーでも10億ドルを超えることは間違いないようです。
シンガーソングライターとして絶大な人気を誇るテイラー・スウィフトの地震さえも引き起こしてしまうエネルギーを一度体感してみたいものです。