ニュースレター(2024年5月3日)FOMCと米雇用統計を経て、金価格は2週連続の下げへ
週間市場ウォッチ
今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2296ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から2.0%安でこの価格ベースで3週連続(終値ベースで2週連続)で史上最高値から下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から4.1%安のトロイオンスあたり26.50ドルとやはり3週連続で下げています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から5.3%高のトロイオンスあたり964ドルと2週ぶりの上昇で3週ぶりの高さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から1.7%安でトロイオンスあたり953ドルと3週連続で3月初旬以来の低さへ下げています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、水曜日のFOMCの発表を待つ中で、雇用コストデータが引き続きタイトな雇用環境を示唆したことで、市場のFRBの年内利下げ観測が1回へと下げて、金価格は3週ぶりの低さへ大きく下げていました。その後FOMC後の声明とパウエルFRB議長のコメントがハト派的との解釈で上昇をしたものの上げ幅を削り、本日の米雇用統計も雇用者数は予想を下回り、失業率は1ベーシスポイントながらも上昇し、賃金の上昇率も軟化していたことで、一時上昇したものの上げ幅を削っています。
これは、金は3月初旬から史上最高値を記録した4月12日の最高値までに15%高、銀は同期間に23%高と大きかったこと、また中国が水曜日からゴールデンウィークの休暇中であり、調整の動きが出ている模様です。
なお、今週パラジウムは金と銀同様に下げていますが、プラチナはパラジウムとのディスカウントを2017年以来の高さへのプレミアムに転換するなど、強い動きをしています。これは、数年来の供給不足が予想されているにもかかわらず、下げ幅を広げていたことからも、その反動もあり上昇に転じている模様です。
そこで、今週はプラチナとパラジウムの価格の推移を示すチャートをお届けしましょう。
プラチナはディーゼル車の排ガス処理装置で需要全体の4割が使われ、パラジウムはガソリン車の排ガス処理装置でその需要の8割が使われています。
そこで、2015年のフォルクスワーゲンのディーゼル車の排ガス規制逃れの不正以来、ディーゼル車の需要が激減し、2017年にはプラチナ価格はパラジウム価格を下回り、その後主にパラジウム、そしてプラチナは環境問題からICE車(内燃機関車)からEV車への移行観測からも下げていたものの、2022年2月末のロシアのウクライナ侵攻、そして経済制裁で世界需要の4割を占めるロシアからの産出分減による供給不足懸念から一時金価格を超える水準まで急騰していました。
プラチナは水素エネルギーで利用されることから、将来の需要の増加観測もあり、パラジウムよりも近年強い動きをしているようです。
今週の金相場の動きと背景について
週明け月曜日、市場は今週水曜日に発表されるFRBの金融政策を待つ中で、ドルと長期金利が若干下げていたことから、トロイオンスあたり2346ドルへと上昇していたものの、その後上げ幅を削り前週終値を若干下回る2333ドルで終えていました。
同日は重要指標が無い中で、日本政府の介入と思われる対ドル円高が進み、その後円が戻す等といった為替の動きに金も反応していた模様です。
火曜日金相場は、同日発表された米雇用関連データが強いものであったことで、FRBの利下げ遅延観測が広がり、心理的節目のトロイオンスあたり2300ドルを割って2291ドルと一週間ぶりの低い水準へ下げて終えていました。
このデータは、第1四半期雇用コスト指数で、1.2%と前回の0.9%と予想の1.1%を上回り、一年ぶりの高水準となっていました。そこで、根強い高インフレ懸念が広まり、翌日発表されるFOMC後の金融政策発表で、政策金利が据え置かれるのは織り込み済みであったものの、年内の利下げ遅延観測がより広がることとなりました。
水曜日金相場はロンドン時間発表のFOMC後の声明とパウエルFRB議長の記者会見を待つ中で、前日のひと月ぶりの低値からの下げ幅を削ってトロイオンスあたり2300ドルを超えて上昇をしていました。
この間発表された米ADP雇用者数は予想を上回っていましたが、ISM製造業景況指数は予想を下回っていましたが、雇用コストに関しては2022年以来の高さとなっていました。
その後FOMC後の声明発表で予想通り政策金利は6会合連続で現行の23ぶりの高さの5.25~5.50%で据え置かれたものの、インフレ率が依然として高水準であることが言及され、一時2300を割って下げた後に、パウエル議長の記者会見で2328ドルまで上昇して、2324ドルで終えていました。
パウエル議長は政策金利はインフレが高止まりしていることからも、高く長く続くことを示唆したものの、利上げを行うことはほぼ否定し、追加量的引き締めは上限をこれまでの600億ドルから250億ドルへと6月から緩めると市場の予想の300億ドルよりも低かったことからも、ドルと長期金利が下げて金を押し上げた模様です。
ちなみに、年末のFRBの政策金利予想は、先週木曜日から5%を超えていましたが、同日FOMCとパウエル議長の記者会見後に1週間ぶりの低さの4.95%へ下げていました。
木曜日金相場は、翌日の米雇用統計の発表を前に、前日のFOMC及びパウエルFRB議長の記者会見後の上げ幅を削り、トロイオンスあたり2300ドルの攻防で、2304ドルで終えていました。
同日発表された第1四半期単位労働コストは前年木比率4.7%と予想の3.3%と前回修正値の0.0%を上回り、米新規失業保険申請件数は、予想を下回っていたことからも、前日のパウエルFRB議長の利上げはほぼ無いというコメント、そして量的引き締めの減額というハト派的内容による上昇分を削ることとなりました。
なお、日本円はロンドン時間昨夜遅くに対ドル市場介入によると思われる1ドル=153円まで4円高と大きな動きをしたことからも、日本円建て金価格はgあたり11762円から11413円へと大きく下げて、本日は11375円と4月10日以来の安値へと下げていました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が雇用者数は大きく予想を下回るものであったことから、発表後に神経質な動きをした後に、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり2300ドルを安定して超えられなかったことからか、2284ドルへと下げて推移しています。
非農業部門雇用者数は、17.5万人と前回修正値の31.5万人と予想の24.3万人を下回っていました。また、失業率も3.9%と予想と前回の3.8%を上回っていました。そして、平均時給は前月比0.2%と前回と予想の0.3%を下回り、前年同月比においても、3.9%と前回の4.1%と予想の4.0%を下回っていました。
そこで、発表後2320ドルまで20ドルほど上昇しましたが、1時間ほどでその上げ幅をほぼ失って推移することとなりました。
これは、米株価指数が先の発表でFRBによる金利引き下げが9月にも行われるという観測も広がりナスダック株価指数においては2%を超えて上昇していることから、リスクオン環境の中で、金からの資金が流出している模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 金鉱業界のマーケティング団体のをワールドゴールドカウンシルが、第一四半期の金需給レポートを今週発表し、本日発表された第一四半期の金の需給レポートでは、OTC取引を除くと、金ETFからの資金流出が114トン相当であったことからも、前年同四半期比5%減で1102トンとのこと。しかしOTC取引を加えると同四半期比3%増で1238トンと2016年以来の高さとのこと。詳細は第一四半期金需給:金の需要は中国の需要増を欧米の投資資金流出で相殺し、供給量はリサイクル量と産出量共に増加。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に4月23日のデータが発表され、前週初めに地政学リスクが後退し、金価格が大きく下げた際に、金は若干強気ポジションを増加させ、銀とプラチナとパラジウムで強気ポジションを減少させていたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.9%増で548トンと2020年7月半ば以来の高さの水準へ増加していたこと。価格はこの際1.7%安でトロイオンスあたり2328.45ドル。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、2.5%減の6214トンと3週ぶりに減少して2022年4月19日以来の高さから減少していたこと。価格は4.7%安のトロイオンスあたり26.92ドルと前週の2021年6月初旬以来の高さから下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、3週ぶりにネットショートで、7.5トンと3月初旬以来の大きさとなっていたこと。価格は6.3%安でトロイオンスあたり905ドルと3月中旬以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、2.3%増の30トンへ増加していたこと。価格は0.89%安でトロイオンスあたり997ドルと2週連続で下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては2.6トン(0.3%)減で829.60トンと3週ぶりの週間の下落の傾向で、4月18日以来の低さであること。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.34トン(0.09%)増で382.91トンと、2週ぶりの増加傾向で2020年3月末以来の低さから増加していること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで130.79トン(0.98%)減で13,209.52トンと4月19日以来の低さで、週間の減少傾向であること。
- 金銀比価は、今週85台前半で始まり昨日87台後半まで上昇して、本日86台後半で終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1415ドルで始まり、1332ドルと3月末以来の低さへ下げていたこと。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週33ドルで始まり、木曜日プレミアムに転換し、本日金曜日にほぼ30ドルと、2017年9月以来の高い水準で終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEが中国の祝日で水曜日から閉まっている際に、週間の平均が24.67ドルと3月半ば以来の低さへ、前週の27.17ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は8%減で9週ぶりの低さ、銀は39%減で5週ぶりの低さ、プラチナは8%増で4週ぶりの高さ、パラジウムは16%増で11週ぶりの高さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年3月28日からの正の相関関係であったものの、本日負の相関関係へ転換し-0.06。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年3月28日から正の関係として本日は0.27と関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は負の相関関係に4月12日から転換して木曜日に-0.23と今週その関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は水曜日のFOMC後の金融政策発表、金曜日の米雇用統計に加え、多くの重要指標が発表され、市場が動くこととなりました。
来週はイングランド銀行の金融政策発表が木曜日に行われ、市場は注目しますが、その他は月曜日の主要国のサービス部門PMIなどがありますが、比較的重要指標は少ない週となります。しかし、FRBの高官のブラックアウト期間が終わっていますので、これらのコメントなどへも市場は再び注目することとなります。
詳細は主要経済指標(2024年5月6日~10日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年4月29日~5月3日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年5月6日~10日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年4月29日)FRBの政策金利発表を前に、上海黄金交易所のプレミアムが下げ、コメックスの投機筋が多少ネットロングを増加させる中で、金は若干下げる
- 第一四半期金需給:金の需要は中国の需要増を欧米の投資資金流出で相殺し、供給量はリサイクル量と産出量共に増加
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、天皇・皇后両陛下の国賓として6月に訪英すること、チャールズ国王が公務に復帰したこと、スコットランド自治政府のユーサフ首相が辞職し、新たにスウィンニ(Swinney)氏が首相が選出されることとなったこと、そして昨日行われた統一地方選挙とその結果が大きく伝えられています。
そこで、未だ選挙結果は全て出ていませんが、来年1月までに実施される英議会下院の総選挙の前哨戦とみられている地方選挙の状況をお伝えしましょう。
ロンドン時間午後2時半の段階で、野党第一党の労働党、第二党の自由民主党、第3党の緑の党が全て議席を伸ばす中で、与党保守党は改選前の989議席中の215議席を失っています。
今回の議席を争った前回の地方統一選挙は2021年に行われ、当時はジョンソン元首相のワクチン政策が順調に導入されて、人々の生活が平時に戻りつつあった時期でもあり、通常国税与党に厳しい結果が出やすい地方選にもかかわらず、保守党は議席を増やしていました。
ちなみに、英国の地方選挙は自治体によって選挙の時期が異なり、今回は3分の1にあたる議席で、2023年に実施された地方選挙では労働党が躍進していました。
世論調査を行うYouGov社の主要政党の支持率を見ると、与党保守党は、ジョンソン首相のコロナ危機下のパーティ問題が起きた2021年11月前後に、労働党に支持率で下回ることになり、2022年9月のトラス前首相の財源なき減税の補正予算案後のポンド、株、国債が暴落したトリプル安で大幅に支持率を下げて5月1日の段階で18%と労働党の44%から大きく離されています。
今回保守党が苦戦することは予想されていましたが、選挙結果がどこまで悪いものであるかが注目されています。結果によってはスナク首相のポジションも危うくなるのか、今年後半から来年初めとされている総選挙を前倒しするのか等、大きな動きが出るようでしたら、来週お伝えすることとしましょう。