金市場ニュース

ニュースレター(2024年4月26日)地政学リスクが後退しインフレ高によるFRB利下げ遅延観測が広がる中で金価格は堅固に推移

週間市場ウォッチ

今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2343ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から1.5%安で2週連続で史上最高値から下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.2%安のトロイオンスあたり27.61ドルとやはり2週連続で下げています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.3%安のトロイオンスあたり918ドルと2週連続の下げで3週ぶりの低さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から3.2%安でトロイオンスあたり973ドルと2週連続で3月初旬以来の低さへ下げています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、前週末から週初めにイスラエルとイランが紛争の激化を避ける姿勢を示したことで、3月から上昇を続けていた価格の調整が入り週初めに大きく下げることとなりました。

そして、再び主要経済指標へ注目が移る中で、米経済指標が高インフレが続くことを示唆し、FRB による年内利下げ遅延観測が一気に進み、長期金利やドルが強含むことで、貴金属価格の頭を抑えることとなりました。しかし、金に関してはドルと長期金利が昨年11月以来の高さに上昇する中で、堅固な動きをしているとも言えるでしょう。

なお、今週はブルームバーグファイナンシャルタイムズが中国の上海先物取引所の取引高の急騰からも、4月に入ってからの価格の急騰の背景に中国があるのではないかと伝えています。そこで、中国政府は上海先物取引所と上海黄金交易所の証拠金を15日から引き上げるなど、中国の金市場の過熱に制限をかけたことも発表されていました。

今週のチャートとしては、今週動きが見られている市場のFRBの年末の政策金利予想と金価格の推移のチャートをお届けします。

ここで見られるように、市場の金利予想は昨日の米インフレデータが予想を大きく上回るものであったことからも、5%を初めて超え、FRBのメンバーによる年末の金利予想の4.6%を上回っています。しかし、金価格はそのような中でも多少上昇しており、堅固さが見られています。

市場のFRBの年末の政策金利予想とドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

そのような中で工業用途需要の高い銀、プラチナ、パラジウムの価格は、引き続き長期の高い金利継続によるリセッション懸念もあり、金価格に比較してお下げ幅を広げています。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場はトロイオンスあたり60ドルほど大きく下げて、1週間ぶりの低さの2333ドルで終えていました。

この下げの背景は、イスラエルとイランの緊張が緩んだこと、3月以来ドル建て金相場は14%近く上昇を続けていたことからも、調整の時期であったこと、また同時に直近の米国経済データが堅固なもので年内の米FRBの政策金利引き下げ観測がFRBの予想よりもより小幅なものへと後退していたこと等が背景となりました。

火曜日金相場はロンドン時間午前中にトロイオンスあたり2295ドルと2週ぶりの低さへ一時下げた後に2323ドルで終えていました。

この間ドルと長期金利は前日の前週達した昨年11月以来の高さの水準から下げていたことから、大幅な下げの調整、また低値での買いが同日ロンドン時間午後に入ることとなりました。

水曜日金相場は、ドルと米長期金利が若干上昇し、前週達した昨年11月以来の高さへ近づく中で、前日終値を若干下回るトロイオンスあたり2316ドルで終えていました。

同日の長期金利の上昇は、予定されている700億ドルという大規模な米国債入札前の警戒感が背景となっていました。この入札は順調に行われ、長期金利は全般上げ幅を削っていました。

木曜日金相場は、同日発表された米GDPが予想を下回り、インフレ指標が予想を上回り、FRBの利下げ遅延観測が進み長期金利が再び昨年11月以来の高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり2330ドルと前日終値から上昇して終えていました。

米第1四半期GDPは1.6%と予想の2.4%と前回の3.4%を下回り、第1四半期米コアPCEは3.7%と予想の3.4%と前回の2%を上回っていました。また、新規失業保険申請件数は前回と予想を下回り、雇用市場の堅固さも示していました。そこで、強い雇用市場でインフレが高止まりしていることを背景に、市場の年末のFRBの政策金利予想は同日5%を超えて、長期の金利高による米経済低迷の懸念もあり、米株価指数は全般下げていました。

そこで、金が狭いレンジながら下げることなく推移しているのは、長期金利高の向かい風の中で安全資産の需要もあった模様です。

本日金曜日金相場は、市場注目のFRBが重要視する米個人消費支出コアデフレーターがほぼ市場予想と同水準であったことで、多少本日の上げ幅を削ったものの、前日終値からは上昇してトロイオンスあたり2339ドル前後で推移しています。

このインフレデータは、前月比0.3%と前回と予想と同水準で、前年同月比は2.8%と前回と同水準、予想の2.7%を若干上回っていました。

そこで、前日上昇していた長期金利が下げ、ドルは若干上昇していますが、週末を前に金の需要も出ているようです。

なお、本日日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を維持したことで、円が対ドル157円へ下げて34年ぶりの円安となったことからも、円建て金相場は週間の下げ幅が0.53%と他の通貨建ての下げ幅の1.5%から1.9%を下回って推移しています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 中国の金宝飾品需要が昨年第1四半期比、2024年は3%減であったものの、金貨や金地金需要は26.8%増であったことを、中国黄金協会が本日発表していたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に4月16日のデータが発表され、前週金価格が8営業日連続でLBMA価格で金価格が史上最高値をつけた後に、強い米小売売上高データやタカ派的パウエルFRB議長のコメントにもかかわらず、レンジ内で推移していた際に、金とプラチナで強気ポジションを減少させ、銀とパラジウムで強気ポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3.5%減で537トンと2020年7月半ば以来の高さから4週ぶりに減少させていたこと。価格はこの際0.6%高でトロイオンスあたり2369.15ドル。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、6.4%増の6370トンと3週連続で増加して2022年4月19日以来の高さへ増加していたこと。価格は1%高のトロイオンスあたり28.26ドルと2021年6月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、3週連続でネットロングで、13.8%減の17.1トンと1月初旬以来の高さから2週ぶりに下げていたこと。価格は1.6%安でトロイオンスあたり966ドルと前週火曜日の1月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、0.4%減の29.5トンと1月初旬以来の低さへ減少していたこと。価格は5.72%安でトロイオンスあたり1006ドルと前週の1月初旬以来の高さから下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては2.9トン(0.3%)増で834.78トンと3週連続の週間の上昇の傾向で、3月25日以来の高さであること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.41トン(0.11%)減で382.57トンと、2週連続の減少傾向で、再びパンデミック最中の増加分を失って2020年3月末以来の低さへ戻していること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで412.29トン(3.2%)増で13,363.04トンと2週ぶりの週間の増加傾向であること。
  • 金銀比価は、今週85台前半で始まり本日84台後半と若干銀の割安傾向を解消しているものの引き続き過去の平均と比較して高い水準。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1434ドルで始まり、1431ドルと1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さを若干下回る水準で推移していたこと。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週89ドルで始まり、火曜日に104まで上げたものの、金曜日に62ドルへ下げて終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの価格が前週や前々週の史上最高値から下げる中で、週間の平均が27.17ドルと前週の47.52ドルから下げていること。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は10%減で8週ぶりの低さ、銀は13%増で、プラチナは14%増、パラジウムは4%。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年3月28日からの正の相関関係で0.73と週間で関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年3月28日から正の関係として本日は0.64と関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は負の相関関係に4月12日から転換して木曜日に-0.68と今週その関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は地政学リスクが後退し、再び主要経済指標、特に米個人消費支出コアデフレーターへ市場は注目していましたが、前日発表の米GDPと第1四半期コアPCEの数値に金融市場は反応することとなりました。

来週は、水曜日に結果が発表されるFOMC、そして金曜日の米雇用統計が重要指標となりますが、その他火曜日のユーロ圏消費者物価指数、水曜日の米ADP雇用統計、ISM製造業景況指数、雇用動態調査(JOLTS)求人件数なども重要となります。

詳細は主要経済指標(2024年4月29日~5月3日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、ルワンダに英国への不法入国者をルワンダに強制移送を可能とする法案を議会で可決したこと、英国政府が防衛費を6年間でGDP比現行の2.0%から2.5%へ引き上げることを発表したこと、そしてスコットランド自治政府のスコットランド国民党のハムザ・ユーサフ党首の不信任案が提出されたこと等が大きく伝えられています。

そこで、本日はこのルワンダ法案について簡単まとめてお伝えしましょう。

英国への不法入国者は年々増加し、昨年は3万人弱へ、一昨年の4.5万人から下げたようですが、今月14日には英仏海峡を小型ボートで不法入国を試みた人が534人と今年最多になるなど、すでに昨年の同時期よりも28%、2022年より7%多くなっています。

英仏海峡は最短で34キロほどであることからも、多くの不法入国者は、小さなボートで渡ることを試みますが、過去10年間で200人を超える人々が、ボートが沈没した等の理由で亡くなっています。

そこで、このような危険な方法で英国入国をすることを試みる人々の抑止力とするために、2022年4月に当時首相であったボリス・ジョンソン氏の政権がこの案を発表していましたが、昨年6月には欧州人権裁判所の差し止め判断を受け、 英最高裁も昨年11月にこの政策がルワンダに移送される人々の人権を侵害するとして違法と判断していました。

そこで、スナク首相は英仏海峡を渡る小型ボートを止めるという公約をしていることからも、来年1月までに実施される次期総選挙を前に、ルワンダ移送計画を実現すべく、ルアンダが亡命希望者にとって安全な国だとイギリスの法律で明示する緊急法案を策定して提出していたのでした。

上院は既に5回法案を修正案と共に差し戻していましたが、結果的には上院は下院の選挙で選ばれた優位を尊重するとしてこの修正案を取り下げて、最終的に22日の深夜に法案が可決されたのでした。

スナク首相は10~12週間以内に難民のルワンダ移送を始めることを表明していますが、野党はもちろん、人権擁護団体などから批判が多く出ていることからも、先行きは不透明ではあるようです。

安全と見られている他の欧州諸国を超えても英国へ渡ろうとする不法入国者の動機づけを減らすことも大切かとは思いますが、この問題は英国一国のみで対処できる問題ではないようにも思います。今回の不法入国者のルワンダ移送に限らす、より安全に難民申請ができるための様々な方法等を、近隣諸国と共に模索する方向で英国政府が動いてくれることも希望しています。

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

注意事項: ここで発信される全ての記事は、読者の投資判断に役立てるための情報です。しかし、実際の投資にあたっては、読者自身にてリスクを判断ください。ここで取り扱われる情報及びデータは、すでに他の諸事情により、過去のものとなっている場合があり、この情報を利用する際には、必ず他でも確証する必要があることを理解ください。Gold Newsの利用については、利用規約をご覧ください。

SNSで最新情報を入手

Facebook   TwitterYoutube

 

貴金属市場のファンダメンタルズ