金市場ニュース

ニュースレター(2024年4月19日)FRBによる利下げ遅延観測が広まる中で地政学リスクからも金価格は史上最高値水準を維持

週間市場ウォッチ

今週金価格は弊社チャート上の金曜日午後3時にトロイオンスあたり2379ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM金価格(午後3時)から0.9%安で若干前週のLBMAのPM価格での史上最高値から下げています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から2.6%安のトロイオンスあたり28.27ドルと前週の2021年1月以来の高い水準から下げています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から6.9%安のトロイオンスあたり930ドルと前週の今年1月初旬以来の高さから下げて、ほぼ2週ぶりの低さとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から6.0%安でトロイオンスあたり1006ドルと下げています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週は、前週末のイランがイスラエルを攻撃したニュースで地政学リスクが高まり金相場は週明け急騰して始まり、落ち着きを取り戻す中で米経済指標の強さとパウエルFRB議長とFRB高官のタカ派的コメントで押し下げられた後に、本日はイスラエルがイランを空爆したというニュースが早朝に入り再び急騰したものの、イスラエルの報復攻撃が限定的にとどまるという観測で、多少落ち着きを取り戻して貴金属価格(LBMA価格ベース)は全般前週比下げ(金と銀は終値ベースで上昇し)て推移しています。

ちなみに、金利を生まない金と実質金利(物価を考慮した金利)は通常負の相関関係(一方が上昇すると他方が下げる)ですが、3月末から正の相関関係となり、今週その関係が強まっています。同様にドル建てで付けられる貴金属価格はドルとの相関関係も通常負であるところが、3月末から正の関係となっており、地政学リスク等で安全資産の需要も入っていることが示唆されています。そこで、今週は金と実質金利のチャートをお届けしましょう。ここで、金と実質金利が今年3月まではほぼ反対の動きをしていたものの、それ以降同じ方向へ動いていることを見ることができます。

ドル建て金価格と実質金利のチャート 出典元 ブリオンボールト

プラチナとパラジウムには安全資産の需要はないために、金利やドル高は価格を抑えることになり、今週の下げの背景となっています。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、前週金曜日の取引時間中の史上最高値から一時トロイオンスあたり100ドル強下げて2325ドルをつけた後に2381ドルで終えていました。

前週は中東の地政学リスクの高まりもあり金価格は急騰していましたが、週末のイランによるイスラエル攻撃後、世界の指導者が紛争の広がりを阻止すべく奔走する中で、前週やはり6か月ぶりの高値へ上昇していた原油同様に下げていました。

ロンドン時間午後の急落は、米小売売上高が予想を大きく上回り、FRBの政策金利引き下げが遅れる観測が背景となりました。

火曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎにトロイオンスあたり2397ドルまで一時上げたものの、ニューヨーク時間に伝えられたパウエルFRB議長のタカ派的発言で中・長金利が上昇しドルが強含んだことで、2382ドルへ戻して終えていました。

前日の米経済指標が強かったこともあり、経済指標へ市場は注目していましたが、同日発表された米住宅着工数は予想を下回り、FRBによる利下げが遅れる観測が一時緩んで金価格は上昇していましたが、ロンドン時間遅くにパウエル議長の「インフレが目標の2%へ回帰する進展が遅れている」、そして「必要な限り現在の制限的な水準を維持できる」というコメントが伝えられ、米2年物国債利回りが一時5%を超えて、金を押し下げることとなりました。

水曜日金相場は、ドルと米長期金利が前日の上げ幅を削る中で、トロイオンスあたり2367ドルと前日終値から下げて終えていました。

同日はロンドン時間夕方に米地区連銀経済報告が発表され、米国経済が3月に多少成長したと記されており、前日のパウエルFRB議長のタカ派的コメントからも、米FRBの利下げ遅延観測が広がり、CMEのFEDWatchツールでは、年内の利下げを市場は前回FOMCでのメンバーによる予想の3回を下回る2回もしくは1回まで下げていました。

そこで、米株価が全般下げ、このところ強い動きをしていた金にも多少調整が入っていました。

木曜日金相場は、米経済指標が堅固でドルと長期金利が再び上昇に転じて長期金利は昨年11月以来の高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり2380ドルと前日終値から上げて終えていました。

同日は米新規失業保険申請件数は予想を若干下回り、米中古住宅販売件数もまたほぼ予想と同水準、そしてフィラデルフィア連銀製造業景気指数は予想を大きく上回っていました。

そして、ジョン・ウィリアム・ニューヨーク連銀総裁が利下げに急ぐ必要はないと述べたことも伝えられ、FRBによる利下げが遅れる観測が広がっていました。

しかし、中東の地政学リスクの高まりもあり、金は前日の下げによる低値での買いも入っていた模様です。

本日金曜日金相場は、ロンドン時間早朝にイスラエルによるイランへの攻撃が伝えられ、トロイオンスあたり2417ドルまで上昇後、上げ幅を戻したものの、過去数週間のパターンで週末を前にショートポジションの手じまいが起こっているようで、ロンドン時間夕方に2399ドル前後へと上昇して推移しています。

市場はイランとイスラエルの欧州が本格的な戦闘に発展するのかを見守っているようですが、この間日経平均が2月以来の安値を付ける等アジア株は大きく下げて、欧州株も下げて始まり、米株価もS&P500とナスダックは下げて推移しています。

過去1週間のドル建て金相場のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 前週から今週初旬に、金価格の見通しが、多くの金融機関で上方修正されていること。それは、Citi Bankの第2四半期までに2500ドル、ゴールドマンサックスの年末までに2700ドル、バンクオブアメリカの2024年に3000ドル、UBSの2年から3年内に4000ドル。
  • 前週金曜日に米英がロシア産のニッケル、アルミニウム、銅のの新規取り扱いを禁止し、ロンドン金属取引所とシカゴ・マーカンタイル取引所で新規受け入れが禁止され、月曜日これらの価格が高騰していたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に4月9日のデータが発表され、8営業日連続でLBMA価格で金価格が史上最高値をつけていた際に、金と銀とプラチナとパラジウム全ての貴金属のポジションで強気ポジションを増加させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、0.52%増で557トンと引き続き2020年7月半ば以来の高さであったこと。価格はこの際4.05%高でトロイオンスあたり2356.10ドルと再びLBMAのPM価格で史上最高値を更新していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、13%増の5987トンと2022年4月19日以来の高さへ増加していたこと。価格は9.04%高のトロイオンスあたり27.97ドルと2021年6月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、2週連続でネットロングで、19.9トンと1月初旬以来ン高さになっていたこと。価格は6.16%高でトロイオンスあたり982ドルと1月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、11%減の29.7トンと1月初旬以来の低さへ減少していたこと。価格は5.02%高でトロイオンスあたり1067ドルと1月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに、週間としては0.9トン(0.1%)増で827.59トンと2週連続の週間の上昇の傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までで0.42トン(0.11%)減で382.98トンと、前週9週ぶりに週間の増加をしたものの、減少傾向で、再びパンデミック最中の増加分を失って2020年3月末以来の低さへ戻していること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで477.72トン(3.5%)減で13,109トンと2週連続の週間の減少傾向で、週間としては昨年3月の米地銀破綻による危機時の大幅な下げ以来の下げ幅となる傾向であること。
  • 金銀比価は、今週82台半ばで始まり本日84台前半と再び2週ぶりの高さへ上昇して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、1380ドルで始まり、1443ドルと1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さとなっていたこと。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週74ドルで始まり、火曜日に50まで下げたものの、金曜日に78ドルへ戻して終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの価格が本日午前の値決め価格で史上最高値をつける中で、週間の平均が47.52ドルと前週から若干上昇し、引き続き2月半ば以来の高さであったこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までで前週平均比で、金は19%減で4週ぶりの低さ、銀は32%減で前週の2021年2月一週のSNSの投稿によりシルバーショートスクイーズが行われて銀価格が急騰していた際以来の高さから下げ、プラチナは31%減で8週ぶりの低さ、パラジウムは22%減。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年3月28日からの正の相関関係で0.88と週間で関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年3月28日から正の関係として本日は0.72と若干関係を弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は負の相関関係に4月12日から転換して木曜日に‐0.72と今週その関係を弱めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は中東のイスラエルとイランの紛争の激化ニュース、予想を上回る米小売売上高やタカ派的パウエルFRB議長のコメント等で市場は動いていましたが、来週はFRBがインフレデータとして重要視する米個人消費支出コアデフレーターが発表され、重要となります。

その他、火曜日の主要国の製造業とサービス部門のPMI、水曜日の米耐久財受注、木曜日の米第1四半期GDP、金曜日の日銀金融政策決定会合などへも市場は注目することとなります。

詳細は主要経済指標(2024年4月22日~26日)ご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週私は日本貴金属マーケット協会(JBMA)の依頼で、同協会のYouTube番組のプラチナフォーカスのウェビナーにゲストスピーカーとして参加し、欧米投資家の動向についてお話をさせていただきました。そこで、よろしければ下記のリンクでご覧ください。

https://www.youtube.com/watch?v=MaNz0lygI5U

日本貴金属マーケット協会(JBMA)のプラチナフォーカスのウェビナーのイメージ 出典元 JBMA

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、イランとイスラエルの紛争と、主要国による鎮静化への動きがトップニュースで、その他英国関連では、英国下院が2009年以降に生まれた人が生涯にわたってたばこ製品を買えなくする法案を可決したこと、スコットランド国民党の投資金流用疑惑でスタージョン前党首の夫が再び逮捕されたこと等が大きく伝えられています。

そこで、今週はこのたばこ製品を禁止した法案についてご紹介しましょう。

リシ・スナーク首相が主導したとされるこの法案は、383対67の賛成多数で下院で可決され、上院の投票は必要ですが、今年後半に開かれる見通しの総選挙前に法案が成立する可能性があるとのこと。

ちなみに、ニュージーランドの同様な2009年以降に生まれた人への紙巻きたばこの販売を禁止する法案は、2022年に可決されたものの、政権交代で撤廃されています。

賛成した人々の理由は当然健康への害であり、喫煙が原因の疾患が国民保健サービス(NHS)の負担になっており、喫煙は英国で予防可能な死因の最大なものであることからも、ニコチン中毒になる前に若年層の喫煙を止めるためということ。

それに対して反対した人々は、リズ・トラス前首相を含む保守党議員で、人々の選択の自由を重んじる保守派の人々は、この法案が個人の自由を制限するものだからというものです。

毎年8万人が喫煙が原因で死亡している英国で、それを未然に防ごうとする政府の意図は十分に理解できますが、合法に販売されているものを、一定の年齢以下の人々が生涯購入できない法案というのはかつてないもので、今後の法案化までの流れやその取締り方法なども興味深く見ていきたいと思います。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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