金市場ニュース

ニュースレター(2024年3月8日)金価格は全ての主要通貨で史上最高値を更新

週間市場ウォッチ

本日金曜日の午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2171ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)からほぼ6%高で、史上最高値へと上昇しています。この間本日の弊社チャート上の午後12時の銀価格は、前週のLBMA価格(午後12時)から7.8%高のトロイオンスあたり24.50ドルと昨年12月末以来の高値となっています。本日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から5.5%高のトロイオンスあたり920ドルと週間の上昇となっています。本日金曜日の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から12.0%高でトロイオンスあたり1047ドルと1月初旬以来の高値となっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週金価格は主要通貨で史上最高値の更新をすることとなりました。これは、3月1日に発表された米個人消費支出(PCE)コア・デフレーターの数値が予想とほぼ同じであったことがきっかけとなり、上げ基調となった金のために、今週金先物・オプション市場におけるショートカバーが行われる中で、パウエルFRB議長の議会証言がよりタカ派でなかった安堵、米雇用関係データ(雇用動態調査JOLT求人数、ADP全国雇用者数、非農業部門雇用者数と失業率の雇用統計)が予想を下回るか予想と同水準であったことが更なる追い風となっている模様です。

そこで、昨日のFRBによる年末の政策金利予想は4.465と金が大きく上昇を始めた3月1日以来の低さとなっており、ドルインデックスは1月半ば以来の低さ、長期金利は2月初旬の低さとなっています。

ちなみに、今週達した主要通貨のスポット価格の日中取引価格における史上最高値は下記のようになります。

通貨 金価格
米国ドル(トロイオンスあたり) 2195
英国ポンド(トロイオンスあたり) 1708
ユーロ(トロイオンスあたり) 2006
人民元(gあたり)* 505.15
日本円(gあたり) 10,382

*中国人民元建ては上海黄金交易所(SGE)の午後の指標価格

今週のチャートは、過去20年間のドル建て金価格のチャートで高値とその背景を簡単に説明したものをお届けしましょう。

ドル建て金価格の過去20年間のチャート 出典元 ブリオンボールト

なお、今週銀もほぼ金銀比価が90を割る水準で推移しており、金と共に上昇をしています。プラチナは上昇はしているものの、中国経済への懸念などからも上値が抑えられていますが、パラジウムは先物・オプション市場でショートポジションが過去最高の水準へ増加していたことからも、ショートカバー等で上げ幅を広げています。

今週の金相場の動きと背景について

週明け月曜日は、前週後半に続き大きく上昇して、世界指標であるLBMA金価格午前と午後の価格で史上最高値の更新をして、トロイオンスあたり2115ドルで終えていました。

この背景は、前週の米指標でインフレ鈍化と経済悪化が示唆され、FRBの利下げ観測の広がる中、金先物・オプション市場のショートカバー、そして週末から地政学リスクの高まりもあり、急激に金へのセンチメントが変化してきていたことからでした。

火曜日金相場は前日の上げ基調を受け継ぎ、スポット価格でドル建てでは12月4日の史上最高値のトロイオンスあたり2143ドルにわずかに届かず2141ドルまで上昇して若干下げて2126ドルで終えていました。

この間ドルインデックスと10年物米国債利回りはひと月ぶりの低さへ下げ、その背景はFRBによる利下げ観測の広がりと、価格の急騰で金先物市場のポジションに大きな動きが起きていると分析されていました。前週金曜日の金先物・オプションの取引高は、昨年10月半ばのイスラエルとハマスの紛争が激化した時期以来の高さへと上昇し、昨日もその水準を上回る高さとなっていました。

なお、同日日本円建て金相場は前日に続き史上最高値を更新し、スポット価格でgあたり10,340円をつけていました。その他、豪ドル、加ドル、スイスフランくでもスポット価格で史上最高値をつけ、同日の世界指標のLBMA金価格もまた前日に続き史上最高値をつけていました。

水曜日も金相場は上昇し、スポット価格でドル建てでトロイオンスあたり2152ドルをつけて12月4日の2143ドルを超えて史上最高値を更新していました。

同日は市場注目のパウエルFRB議長の議会証言があり、ほぼ想定内の内容でしたが、今年中の利下げについて触れたことを市場は好感されていました。また、同日の米雇用関係データで、雇用動態調査(JOLT)の求人数が886万件と前回の888万件を下回り、ADP全国雇用者数も14万人と予想の15万人を下回ったことも、FRBの利下げ観測を広げ、ドルと長期金利を下げたことも金を押し上げていました。

なお、同日金価格は、英国ポンド、ユーロ、加ドル、スイスフラン建て全てで史上最高値をつけていました。

木曜日金相場は、今週の上げ基調を受け継ぎ、スポット価格でトロイオンスあたり2164ドルと史上最高値をつけて、2160ドルで終えていました。

同日は市場注目の欧州中央銀行の金融政策発表が行われ、市場予想通り4会合連続で据え置きました。そこで、対ドルユーロが強含み、さらに日銀の中川順子審議委員が本日2%物価目標の実現に向けて「着実に歩を進めている」と述べたことで、3月の利上げ観測が広がり、円が対ドル強含んでいました。そこで、ドルを相対的に下げたことも金をサポートしていました。

同日の経済指標では新規失業保険申請件数が21.7万件と前回修正値と同水準で予想を0.2万件上回り、パウエル議長の上院での議会証言は、前日とほぼ同じでサプライズがなく、共に市場への影響は限定的となっていました。

本日金曜日金相場は市場注目の米雇用統計がまちまちの内容を受けて、一時トロイオンスあたり2185ドルと再び史上最高値をつけて、その後上げ幅を多少失って2170ドル前後を推移しています。

非農業部門雇用者数は2月に27.5万人と前回修正値22.9万人と予想の20万人を上回っていました。しかし、失業率は3.9%と3か月ぶりに上昇して前回と予想の3.7%を上回り、平均時給も前月比0.1%と予想の0.3%と前回修正値の0.5%を下回り、賃金インフレの鈍化が確認されていました。

ドル建て金価格の過去い週間のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 金の業界団体のワールドゴールドカウンシルは、2月も中国中銀が12トン金準備を積み上げ2257トンと、16か月連続の金購入となっていたことを伝えていたこと。
  • 上海黄金交易所(SGE)は、今週政府の政策に沿って、金の取引手数料を下げることも発表していたこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に2月27日のデータが発表され、FRBが重視するインフレデータの個人消費支出(PCE)コアデフレーターの数値が発表される前に、価格がレンジ内で推移していた際に、金とパラジウムで強気ポジションを増加させていただものの、銀とプラチナでは減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、6%減で212トンと2週連続で増加していたこと。しかし、その規模は昨年の26%減。価格はこの際2.9%高でトロイオンスあたり2035ドルとやはり2週連続で上昇していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、ネットショートへ転換して644トン。価格は1.69%安のトロイオンスあたり22.67ドルと下げていたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは1月23日の週以来ネットショートで、97%増の17トン。価格は1.76%安でトロイオンスあたり893ドル。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートであったものの、4.9%減の36トンと前々週の記録が始まっていら最大の規模から若干減少していたこと。価格は1.83%安でトロイオンスあたり966ドルと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに7.2トン(0.9%)減で816トンと10週連続の週間の減少傾向で2019年7月半ば以来の低さ。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.18トン(0.05%)増で388.41トンと5週連続の週間の減少後に週間の増加傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで309トン(2.31%)減で13,079トンと昨年の米地域銀行破綻後にミニ銀行危機の懸念が高まっていた3月半ば以来最大の週間の減少量で週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週90台前半で始まり、本日ほぼ88台半ばへ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1190ドルで始まり木曜日ほぼ1249ドルへと上昇して、1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週71ドルで始まり、本日127ドルと昨年12月末以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの金価格が5営業日連続で史上最高値を付けたことからも、週間の平均が29ドルと昨年8月初旬以来の低さで、前週の43ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は71%高で昨年の3月半ばの米地区銀行危機時以来の高さ、銀は35%増、プラチナは13%増、パラジウムは8%減となっていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年11月24日に負の相関関係となり、本日-0.90と前週からその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年11月20日から負の相関関係で、本日-0.87と前週より負の関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に3月1日から転換して本日0.68と関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週はパウエル議長の議会証言や本日の米雇用統計など重要イベントと指標が続きました。

来週も米消費者物価指数が水曜日と卸売物価指数が木曜日に発表されるなど、主要国の中央銀行の金融政策に影響を与える指標が続きます。

詳細は主要経済指標(2024年3月11日~15日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

ブルームバーグ

昨日の金価格がドル建てで史上最高値に近づいていることを伝えるブルームバーグの記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。

ここで、エィドリアン・アッシュは、ロシアとNATOがウクライナをめぐり衝突リスクが高まっていることからも、中銀の金準備が今後も増加することとなるとし、これらが投資家の利益確定の売却を相殺していると述べています。

テレグラフ

昨日の英国主要日刊紙のテレグラフのゴードン・ブラウン元首相が25年前にいかに英国金準備を安値で売却したのかの記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが紹介されています。

当時財務相であったブラウン氏は、金準備を売却することを事前に発表し、そのために金価格が大きく下げた低値(平均価格トロイオンスあたり276ドル)で英国の金準備395トンを売却しています。

「この発表は爆弾発言で、当時の財務省はこのような騒ぎになるとは思っていなかったようだ。それは、あまりに姑息な対応だった。」というエイドリアンのコメントが引用されています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、水曜日に行われたスナク政権の春季予算について、米大統領予備選挙のスーパーチューズデーについて、そしてバイデン大統領の一般教書演説について等が大きく伝えられています。

そのような中、私は今週水曜日にロンドンの金融街シティーで行われた「日本証券サミット」に参加してきましたので、その様子をお伝えしましょう。

ロンドンでのこのイベントの開催はコロナ危機もあり対面開催は5年ぶりとのことですが、当日は金融関係者が約300人近く集まり、ロンドンメイヤー(市長)の官邸で、市長が主催する晩餐会や財務大臣が英国の経済状況に関する演説を行うマンションハウススピーチ等と多くのビジネスの重要なイベントが開催されるマンションハウスが賑わっていました。

このサミットは、まず岸田首相のビデオメッセージで始まり、日本が成長型経済に移行する過渡期にあり、家計金融資産は2100兆円で、この半数が現預金となっていることからも、これを企業への投資へ向けることで、企業価値上昇、そして消費や投資につながる好循環を実現すると述べ、金融市場改革や1月から刷新された少額投資非課税制度(NISA)の効果についても言及していました。

そして、自民党の木原誠二幹事長代理も日本が長いデフレから脱却し、賃金の上昇などにも触れて、日本銀行がマイナス金利を春にも解除し、今後成長へと向かうことを強調していました。

次に登壇したJPXの山道裕己最高経営責任者(CEO)は、4万円台に乗せた日経平均はバブルではなく日本経済が本質的に変わってきていると強調し、JPXが推進する日本市場の改善策の、上場各社のコーポレート・ガバナンスの向上や会社情報の英語化等について説明していました。

その後、2つのパネルディスカッションがあり、1部ではJPXの山道CEO、大和総研副理事長兼専務取締役の熊谷亮丸氏、Baillie Gifford and Coの日本株責任者でパートナーのDonald Farquharson氏が日本の経済成長とコーポレート価値の向上について議論し、2部では金融庁の国際部門トップの有泉秀金融国債審議官が基調演説をした後、日興アセットマネジメントの代表のStefanie Drews氏、Schroders plcの世界株のポートフォリオマネージャーのJames Gautrey氏、野村證券のマクロストラテジー責任者の池田雄之輔氏が日本株式市場を活性化するための方法について議論し、会場からの質問にも答えていました。

そして、最後に林肇駐英国日本国大使が、より強固な日英のパートナーシップが、「貯蓄から投資へ」のシフトを目指す日本政府の取り組みの後押しとなることを強調していました。

参加者の立食のレセプションでは、日本酒を海外へ紹介するサケサムライの団体による日本酒のティスティングも行われ、日本への投資と共に、日本酒を英国の金融業界の人々をアピールする良い場所となっていたようです。

同日は約半数が日本人以外の参加者で、日経平均が史上最高値をつける中で、未だ他国の株式市場よりも割安感のある日本株市場への興味が感じられましたが、政府関係者の英国を含む国外からの日本市場への投資を求める強いスタンスも感じられるものとなりました。

同日の林在英日本大使の演説時の写真を下記に添付します。

ロンドンで行われた日本証券サミットの写真  出典元 ブリオンボールト

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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