金市場ニュース

ニュースレター(2024年3月15日)根強い米インフレデータでFRBの利下げ遅延観測が広がり金価格は史上最高値から下げる

週間市場ウォッチ

本日金曜日の午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2164ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)からほぼ0.3%安で、今週月曜日にこの世界指標で史上最高値を2営業日連続更新して2180ドルを付けた水準からも下げています。この間本日の弊社チャート上の午後12時の銀価格は、前週のLBMA価格(午後12時)から2.9%高のトロイオンスあたり25.21ドルとこの世界指標では昨年5月初旬以来の高値となっています。本日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から3.1%高のトロイオンスあたり946ドルと1月初旬以来の高さで週間の上昇となっています。本日金曜日の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から3.7%高でトロイオンスあたり1082ドルと1月初旬以来の高値となっています。

今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要

今週貴金属相場は、金においては前週から月曜日にかけて史上最高値を更新する上昇を見せた後に、今週の米消費者物価指数と卸売物価指数が共に予想を上回ったことで、米インフレ鎮静化の遅れによるFRBの利下げ遅延観測が進み下げることとなりました。

なお、来週はFOMCが行われ、米政策金利は据え置かれると予想されていますが、同時に四半期に一度のFOMCメンバーによる政策金利予想が発表されます。そこで、本日は前回までのFOMEメンバーによる政策金利の予想、本日までの市場の予想、金価格(反転されたもの)のチャートをお届けします。

反転させた金価格と市場の2024年末米政策金利予想のチャート 出典元 ブリオンボールト

ここで、見られるように、今週に入り米国の引き続き根強いインフレデータ発表後に市場の予想がFOMCメンバーの予想と同水準へ再び上昇し、金価格が下げて(反転された金価格が上昇)いることが分かります。

それに対し、工業用途の需要が高い銀、プラチナ、パラジウムは、最大の消費国である中国の景気懸念で、これまで金のような上昇を見せていなかったことから、また今週世界のほぼ半数の銅の精錬をする中国の精錬会社数社が原料不足に対処するためにこの精錬を減産することを明らかにし、これらの貴金属もすでに供給不足が伝えられていたこともあり、需給のバランスが崩れる懸念が高まり、またプラチナとパラジウムに関しては先物・オプション市場でショートポジションが記録的な水準へ増加していたこともあり、ショートカバーも入った模様で今週は上昇へと転じています。

そこで、今週金銀比価は木曜日に86台と2月初旬以来の低さまで銀の割安水準が改善されています。

今週の金相場の動きと背景について

月曜日金相場は、翌日米消費者物価指数が発表される予定であったことからも狭いレンジでの動きとなり、前週の上昇基調を多少緩めて、前週終値の水準のトロイオンスあたり2180ドルで終えていました。そして、ロンドンの午後3時に値がつけられる世界指標のLBMAのPM価格においては、6営業日連続の史上最高値の2180.45ドルとなっていました。

火曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数(CPI)が予想を上回ったことで、インフレ鎮静化の遅れ、FRB金利引き下げ遅延観測からも、一時トロイオンスあたり2150ドルまで下げて、7営業日連続の上昇基調を崩して前日終値比20ドルほど下げて2159ドルで終えていました。

米CPIは、前年同月比3.2%と前回と予想の3.1%を上回り、コアにおいても3.8%と前回の3.9%は下回ったものの、予想の3.7%を上回っていました。

そこで、FRBのによる年末の金利予想は、前週4.4%まで下げたものの同日は4.5%を超える水準へ戻していました。(12月のFOMCでのドットプロットチャートにおけるFRBの予想は4.6%。)

また、月曜日までの上昇基調は、2020年来の長期に渡る上昇であったことからも、調整の時期でもあった模様です。

水曜日金相場は、前日の下げ幅を緩やかに戻してトロイオンスあたり2176ドルまで上昇して終えていました。

これはドルインデックスが1月半ばの水準へ下げていたことがサポートとなっていたようですが、長期金利は3月4日の水準へと上昇していたことからも、金の頭は重い状態でした。

この長期金利上昇の背景は、同日行われた220億ドル相当の米30年物国債入札があり、前日が不調であったことから警戒感から金利が上昇したようでしたが、堅調なものとなったことでその上げ幅を多少削って推移することとなりました。

木曜日金相場は、ロンドン時間昼過ぎに発表された米卸売物価指数が火曜日の消費者物価指数同様に予想を上回っていたことで、トロイオンスあたり2153ドルまで一時下げ、2162ドルへと若干戻して終えていました。

卸売物価指数は、前年同月比1.6%と予想の1.1%と前回修正値の1.0%を上回り6か月ぶりの上昇で、コアにおいても2.0%と前回同様で予想の1.9%を上回っていました。

また、新規失業保険申請件数も20.9万件と予想の21.8万件と前回修正値の21.0万件を下回っていたことも先の動きを進めていました。

そして、同時に発表された米小売売上高は前月比0.6%と予想の0.8%を下回ったものの、前回修正値の-1.1%を上回っていたことは米経済の底強さを示すものとなり、FRBによる利下げ観測を後退させた模様です。

そこで、先のデータ発表後のFEDWatchツールによる年末のFRBによる金利予想は、FRBの予想の水準を上回る4.62%へと上昇していました。

本日金曜日金価格は、ドルが2営業日連続、長期金利が5営業日連続で上昇し、長期金利に関しては2月半ば以来の水準へと上げる中で、トロイオンスあたり2161ドルとほぼ前日の終値の水準を推移しています。

本日は発表されたニューヨーク連銀製造業景気指数が-20.9と予想の-7.0と前回の-2.4を大きく下回ったものの、ミシガン大学消費者態度指数のインフレ予想が前回と変わらず2.9%であったことからも、根強いインフレが意識されて、長期金利が上昇して金はロンドン時間午前中の自律的反発の上げ幅を失った模様です。

なお、ロンドン時間午後に円建て金価格は、日本円が対ドル弱含んだことからも、日中取引現物価格でgあたり10389円と史上最高値をつけています。

一週間のドル建て金価格のチャート 出典元 ブリオンボールト

その他の市場のニュ―ス

  • 今週金業界団体のワールドゴールドカウンシルが、2月にトルコ中銀が7トンと金準備を559トンへと積み増し、9か月連続の金購入を行っていたこと、またチェコの中央銀行が1.5トン2月に金準備を増加させて34トンとしていたことも伝えていたこと。これは、12か月連続の金購入で22トン増この期間に積み増しているとのこと。
  • コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に3月5日のデータが発表され、金価格が前日4日から史上最高値を2営業日連続でつけている際に、金と銀で強気ポジションを増加させていたものの、プラチナとパラジウムでは減少させていたこと。
  • コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、93%増で408トンと3週連続で増加して3月4日以前の史上最高値の2167ドルをつけた1月2日以来の高さになっていたこと。価格はこの際4.9%高でトロイオンスあたり2134.40ドルと3週連続で上昇していたこと。
  • コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、ネットショートからネットロングへ転換して2415トン。価格は5.9%高のトロイオンスあたり23.93ドルと上昇していたこと。
  • コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは1月23日の週以来ネットショートで、79%増の31トンと2019年6月25日以来の高さ。価格は0.9%安でトロイオンスあたり885ドル。
  • コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートであったものの、7%増の38トンと2月13日の週の史上最高値以来の高さとなっていたこと。価格は2.6%安でトロイオンスあたり941ドルと下げていたこと。
  • 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに1.7トン(0.2%)像で817トンと10週連続の週間の減少で、パンデミック時の増加分を全て失い2019年7月半ば以来の低さへ下げた後に週間の増加傾向であること。
  • 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.38トン(0.1%)減で388トンと、やはりパンデミック最中の増加分を失って2020年3月末以来の低さで7週連続の週間の減少傾向であること。
  • 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで14トン(0.1%)減で12,997トンと2020年5月初旬以来の低さで、2週連続の週間の減少傾向。
  • 金銀比価は、今週89台半ばで始まり、本日ほぼ86台半ばと1月初旬の低さへ下げて終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
  • プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1251ドルと1990年3月にLBMA価格が公表されて以来の最大の高さで始まり、1233ドルへと下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
  • プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは今週113ドルで始まり、本日160ドルと昨年12月末以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
  • 上海黄金交易所(SGE)の金のプレミアムは、今週SGEの金価格が月曜日に6営業日連続で史上最高値を付けたことからも、週間の平均が19ドルと昨年中国中銀が金の輸入の制限を始めたと思われる7月半ば以来の低さで、前週の29ドルから下げていたこと。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
  • コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は24%減で前週の米地区銀行危機時以来の高さから下げ、銀は15%減、プラチナは4%増、パラジウムは32%減となっていたこと。
  • 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は昨年11月24日に負の相関関係となり、月曜日に-0.90までその相関関係を強めていたものの本日-0.62と弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は昨年11月20日から負の相関関係で、本日-0.89と週半ばに‐0.93まで負の関係を強めた後に、前週とほぼ同じ水準へと下げていたこと。S&P500種と金の相関関係は正の相関関係に3月1日から転換して昨日までに0.77と関係を強めていたこと。

来週の主要イベント及び主要経済指標

今週は火曜日の米消費者物価指数、木曜日の米卸売物価指数がFRBの政策金利予想の上でも重要となり、市場は注目し動くこととなりました。

来週は、火曜日と水曜日にFOMCが行われ、その結果とパウエル議長の記者会見、そしてFRB高官が将来の政策金利を予想するドットチャートの発表が重要となりますが、その他、火曜日の日銀金融政策発表、木曜日のイングランド銀行の金融政策発表と重要イベントが続きます。

詳細は主要経済指標(2024年3月18日~22日)でご覧ください。

ブリオンボールトニュース

今週も前週の史上最高値更新に続き、米消費者物価指数で金相場に動きが出たことから、主要メディアで弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが引用されています。

MarketWatch

今週火曜日に金先物価格が9営業日ぶりに下げたことを伝える米主要経済サイトのMarketWatchの記事で弊社エィドリアン・アッシュのコメントが引用されています。

ここで、エイドリアンは「金は急速に上昇したため、(米連邦準備制度理事会の)利下げが近いうちに行われるのではないかという期待から、買い戻されている」と述べ、「短期的には現物市場は前週欧米の投資家やファンドによる売却分を消化しなければならない」とし、「これは、金先物市場の強気ポジションも同様に利益確定に動いている際にだ」と続けています。

BBCラジオ5

今週火曜日のBBCラジオ5の番組に弊社リサーチダイレクターのエイドリアン・アッシュがゲストとして参加し、金市場、ビットコイン、獣医費用高騰等、様々なトピックについてコメントをしています。

今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。

なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。

ロンドン便り

今週英国では、ガザ地区の食糧不足とそのために行われている海上を通じた補給物資の輸送について、キャサリン妃が英国の母の日(3月2週目の日曜日)に発表した家族の写真を一部加工していたことが指摘されて謝罪したこと、与党保守党へ多額の寄付をした実業家の人種差別的コメントについてのスナク政権の対応などが大きくメディアによって伝えられています。

そのような中、今週月曜日に日経新聞とファイナンシャルタイムズがメインスポンサーとなって今年6月に初開催されるUK駅伝のプレスリリースをファイナンシャルタイムズが発表しているのでお伝えしましょう。

この企画は、箱根駅伝が100周年を迎えたことにちなみ、英国と日本の絆を強める目的で、日本独特のスポーツ種目である駅伝を英国にも紹介するという目的で、日英関連の仕事をしているAnna Digley氏が中心となって始動させていました。

そして、今回英国のロングボトム駐日大使が、毎年ジャパンソサエティで行う年次スピーチが月曜日に行われて「日英関係強化のために若者の交流を続けることが重要だ」と述べて在日英国大使館がサポーターとなっていることからも発表の場とし、多くの日本のメディアでも取り上げられていました。

この駅伝は、6月24日(月曜日)に行われ、オックスフォードからウィンザーまでの72マイル(約116キロ)をテムズ川沿いに走るルートを10名のランナーで襷をつなぐとのこと。

既に多くのランニング関連チームが興味を示す、もしくは申し込んでいるようですが、私が属するランニングクラブは企画の段階から携わったことからも、参加枠を獲得しているとのことで、私もサポートに入る予定です。

まだまだこれからがレース運営詳細の詰めであり、また更なるスポンサーの必要性もあるようですが、英国初の駅伝レースが成功を収めるためにできる限りの応援をしたいと思います。

 

ホワイトハウス佐藤敦子は、オンライン金地金取引・所有サービスを一般投資家へ提供する、世界でも有数の英国企業ブリオンボールトの日本市場の責任者として、セールス、マーケティング及び顧客サポート全般を行うと共に、市場分析ページの記事執筆および編集を担当。 現職以前には、英国大手金融ソフトウェア会社の日本支社で、マーケティングマネージャーとして、金融派生商品取引のためのフロント及びバックオフィスソフトウェアのセールス及びマーケティングを統括。

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