ニュースレター(2024年2月2日)金価格は良好な米雇用統計で週間の上げ幅を削る
週間市場ウォッチ
本日金曜日の午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり2034ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から0.8%高の2週ぶりの上昇となっています。この間本日の弊社チャート上の午後12時の銀価格は、前週のLBMA価格(午後12時)から1.4%高のトロイオンスあたり23.25ドルと2週連続の週間の上昇となっています。本日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から0.2%安のトロイオンスあたり905ドルと週間の下落となっています。本日金曜日の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMAのPM価格から1.1%高のトロイオンスあたり956ドルと2週連続の上昇となっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、昨日までのデータがインフレ鈍化と労働市場逼迫が解消へと向かっていることを示唆するものもあり、週末に悪化した中東の地政学リスクや、中国の不動産大手の法的整理開始による中国経済停滞、さらには昨年3月の米地銀破綻に絡む米地域銀行への懸念も高まり、FOMC後のパウエル議長のタカ派的発言後も上昇で推移していました。
しかし、本日発表された米雇用統計が、予想を上回る雇用と平均時給で、雇用市場の逼迫とそれによる賃金インフレによるインフレの高止まり観測も広げ、FRBの利下げ観測がより後退し、上げ幅を削ることとなりました。
そのような中、今週発表された昨年の金需給レポートで、中央銀行の金需要が1037トンと前年の史上最高値のほぼ1082トンを下回ったもの高い水準で継続していること、さらに不動産市場と経済全般が低迷している中国の消費者の金需要の堅固さが確認されています。
そこで、本日新たに史上最高値を付けた中国の人民元建て金価格と今週再び5年ぶりの低値をつけた中国の主要株価指標の推移を示すチャートを下記に添付します。ここで、人民元建て金価格と中国主要株価指数がほぼ逆方向へと向かっていることを見ていただけ、世界最大の金消費国において、不動産や株式などの資産価値が減少する中で、金が逃避先となっていることも見ることができます。
なお、今週工業用途需要の多い銀、プラチナ、パラジウムは、本日の良好な米雇用統計後下げ幅を金以上に広げており、LBMA価格でプラチナ以外は上昇であるものの、週終値では下落で終える傾向です。これは、金よりも小さい市場でよりボラティリティが高く、下げ幅を広げていることもあると思われますが、やはり最大の需要国である中国の不動産市場を起点とする経済低迷懸念は強いように思います。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日は前日のヨルダンで米兵が3人死亡する親イラン勢力による攻撃や同日発表された中国不動産大手、中国恒大集団の法的整理手続きの開始による、地政学リスクと金融システムへのリスクの高まりからも金価格は一時トロイオンスあたり2037ドルへと急騰したものの、上げ幅を削って2033ドルで終えていました。
火曜日金相場は、ロンドン時間午後にトロイオンスあたり2048ドルまで一時上昇したものの、その後発表された米雇用データが強いもので、FRBによる利下げ観測後退から、ドルと長期金利が上昇し、前日終値を上回っているものの、2036ドルへと上げ幅を削って終えていました。
この午後に発表された米データは12月雇用動態調査(Jolts)求人件数で、902.6万件と2か月ぶりの高さで、予想の875万件と前回修正値の892.5万件を上回っていました。 これを受けて、CMEのFEDWatchツールの3月利下げ観測は40%強と前日の50%弱から下げていました。
水曜日金相場は、同日発表の主要経済データが予想を下回るもので一時トロイオンスあたり2055ドルまで上昇して2040ドルで終えていました。
しかし、同夜発表されたFOMC後の米政策金利が予想通り据え置かれたものの、声明およびパウエル議長の記者会見がよりタカ派的内容であったことから、その上げ幅を削ることとなりました。
同日発表されたデータは米ADP全国雇用者数で10.7万人と予想の14.5万人と前回修正値の15.8万人を下回っていました。また、米第4四半期雇用コスト指数も前期比0.9%と予想の1.0%と前回1.1%を下回っていました。
しかし、FOMC後の政策金利発表で「2%の物価目標の達成により確かな自信を得るまで利下げは適切ではない」との表現が追加され、近い将来の利下げ観測が後退したことで金を押し下げることとなりました。
木曜日金相場は、ドルインデックスが1月半ば、米長期金利が12月半ば以来の低さへ下げる中で、トロイオンスあたり2065ドルと1月5日以来の高さへ一時上昇後に2055ドルで終えていました。
この背景は、前夜FOMC後に行われた決算発表で米国商業用不動産向け融資で予想外の赤字決算と減配を受けて、前年破綻したシグナチャーバンクの預金と資産の一部を引き継いだ米持ち株会社のニューヨーク・コミュニティー・バンコープの株が40%近く下げて、地銀の健全性をめぐる懸念が再燃したこと、そして米国が同日午後にイラクとシリア内のイラン関連ターゲットを攻撃することを承認したことが伝えられたこと等となりました。
なお、同日発表された米新規失業保険申請件数は市場予想を上回り、米第4四半期労働コストも予想を下回っていたことで、今週発表されたデータが全般労働市場の逼迫が解消されつつあることを示唆しており、これも前日のFOMC後FRBによる3月の利下げ観測は後退しているものの、それ以降の利下げ観測を多少広げることとなりました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が予想を上回り、インフレ鈍化に反するものであったことから、発表後トロイオンスあたり30ドル近く大きく下げて、トロイオンスあたり2030ドル前後を推移しています。
米雇用統計の非農業部門雇用者数は35.3万人と前回修正値の33.3万人と予想の18万人を上回っていました。また、失業率は3.7%と前回と同水準で予想の3.8%を下回り、平均時給は、前月比0.6%と前回の0.4%と予想の0.3%を上回り、前年同月比においても4.5%と予想の4.1%と前回修正値の4.3%も上回っていました。
これを受けて、3月のFOMCでの利下げ観測は前日の38%から18.5%まで下げており、前日ひと月ぶりの低さへ下げて本日も下げ基調であったドルインデックスと米長期金利が上昇へ転じて金を押し下げています。
その他の市場のニュ―ス
- 中国の2023年の金需要が、不動産と株価の低迷もあり増加して、宝飾品等の金需要が前年比8%強増、また金の輸入額も重量でコロナ禍であったとはいえ2020年の7倍と急増していたこと。詳しくは「金価格ディリーレポート(2024年1月29日)金価格は中国恒大集団の法的整理手続き開始発表後の上げ幅を削ったものの、地政学と金融システムのリスクで上昇」で。
- 今週金業界団体のワールド・ゴールド・カウンシルが発表した最新の金需給レポートGold Demandによると、2023年の通年の金の需要は、店頭市場と中央銀行の需要にけん引されて約3%拡大し4899トンに達し、2010年までさかのぼるデータでは最高となっていたこと。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に1月23日のデータが発表され、FRBの利下げ観測が後退し、中国政府による中国経済へのサポートが入る前に、全ての貴金属において強気ポジションが減少していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、24%減で238ンと10月半ば以来の低さとなっていたこと。価格は0.75%安でトロイオンスあたり2022.95ドルと12月半ば以来の低さとなっていたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、ネットショートへ昨年10月半ば以来初めて転換し、492トンとなっていたこと。価格は3.43%安のトロイオンスあたり22.26ドルと10月初旬以来の低さへ下げていたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションも12月半ば以来初めてネットショートへ転換して10.6トン。価格は0.22%高でトロイオンスあたり906ドルと前週の昨年11月半ば以来の低さから多少ながら上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは引き続きネットショートで4%増の34.9トンとこの記録が始まった2006年6月以来の高さ。価格は0.34%安で938ドルと2018年8月以来の低さへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに4.3トン(0.5%)減で851.72トンと昨年10月半ば以来の低さで5週連続の週間の減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.3トン(0.08%)減の394.85トンで1月半ば以来の低さで、先週の4週ぶりの週間の増加から一転週間の減少傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までで189.29トン(1.37%)減と13,638.56トンと前週の5週ぶりの週間の増加から一転して週間の減少傾向。
- 金銀比価は、今週88と1月初旬以来の低さで始まり、本日89へと近づいて終える傾向。2023年年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週火曜日に1106ドルまで下げたものの、本日1131ドルと一月半ば以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差であるプラチナディスカウントは37で始まり、64ドルと1月半ば以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年平均は371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924。
- 上海黄金交易所(SGE)は、本日人民元建て金価格が史上最高値をつけたことからも、週平均は47ドルと前週の50ドルから下げていること。2023年平均は29ドルと2022年の平均の11ドルから大きく上昇していたこと。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示すものの、中国中銀の金輸入制限で今年9月に急上昇している)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週前週平均比で、金は17%増で2週ぶりの高さ、銀は11%増で5週ぶりの高さ、プラチナは16%増で前々週以来の高さ、パラジウムは1%減2週ぶりの低さ。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月27日に負の相関関係となり、本日-0.65と前週から弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は11月21日から負の相関関係へ転換して、本日-0.34と8営業日連続で弱めていたこと。S&P500種と金の相関関係は負の相関関係に1月19日に転換し、昨日までに3営業日連続で関係を弱めて-0.21へと下げていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週市場は水曜日のFOMC、中東での地政学リスクの高まり、そして米国商業用不動産向け融資で経営が悪化した米地銀ニューヨーク・コミュニティー・バンコープ株の急落による米地銀への懸念、本日の米雇用統計が市場を動かしていました。
そこで、来週も中東情勢、米地域銀行への懸念、その他経済指標としては前週と今週ほど重要指標は無いものの、月曜日の主要国のサービス部門のPMIと米ISM非製造業景況指数、木曜日の米新規失業保険申請件数等へ市場は注目することとなります。
なお、週末日曜日にCBSの「60 Minutes」という番組で、パウエルFRB議長がインタビューに答えると伝えられており、月曜日に内容次第では市場を動かす可能性はありそうです。
詳細は主要経済指標(2024年2月5日~9日まで)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
昨日のファイナンシャルタイムズの「中国の投資家が不動産と株価が下げる中で金を購入」の記事で、弊社リサーチダイレクターのエィドリアン・アッシュのコメントが取り上げられています。
ここで、人民元建て金価格が上昇しているにもかかわらず、昨年の中国における金需要がコインや地金で28%増の280トン等と急増しているのに対して、昨年中国の主要株価インデックスのCSI300は20%下げていることを伝え、エィドリアンの「世界最大の金消費国の急増する金需要は減る気配すら見せていない。」というコメントを紹介しています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年1月29日~2月2日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年2月5日~9日まで)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年1月29日)金価格は中国恒大集団の法的整理手続き開始発表後の上げ幅を削ったものの、地政学と金融システムのリスクで上昇
- 金と米国債務の相関関係について
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続きイスラエルとハマスの紛争、紅海を含む中東全般における紛争、ウクライナ戦争とEUがウクライナ資金支援で合意したこと等が伝えられていますが、英国国内では、スコットランド自治政府におけるコロナ危機を検証する独立調査について等が大きく伝えられています。
そのような中、今週南ロンドンで発生した事件に、違法に英国に入国して難民申請が認められたアフガニスタン人男性容疑者が起こした事件で難民問題に注目が入っていますので簡単にご紹介しましょう。
この容疑者は、今週水曜日に女性とその二人の幼少の娘にアルカリ性の液体をかけて大怪我をさせて、未だ逃亡中とのことです。
この男性は2016年に大型トラックの荷台に隠れて英国に違法で入り、難民申請を2度棄却され、3度目に認められたとのこと。
ここで問題となっているのは、2度棄却された後の2018年に性犯罪で有罪判決を受けたにもかかわらず、亡命申請が3度目に認められたことからでした。
そして、亡命が認められた背景は、この容疑者がキリスト教に改宗したことから、アフガニスタンに強制送還した場合、現政府下では命の危険があるためとのこと。
しかし、本来内務省の規則では、この容疑者のように性犯罪者登録簿に登録されている場合は、難民申請は拒否されるべきものであるとのこと。
しかし、アフガニスタン国内の政情が2021年のタリバン政権復帰後不安定であることから、たとえ難民申請が認められなくても現在はアフガニスタンへの強制期間は中断されているとのことです。
既に英仏海峡をボートで違法に渡る難民問題はスナク政権の重要課題で、解決策が見いだせない頭の痛いものですが、今回の事件は、政府の難民問題対応の不備にさらにスポットライトが当たってしまったようです。
スナク政権、またはこれまでの政権が内政問題に関して、先週お伝えした郵便局の問題も含めて、後手後手に回っていることが日々明らかになるニュースが多い英国ですが、まずはこの容疑者が1日も早く逮捕されることを望みたいと思います。