ニュースレター(2024年12月13日)米の根強いインフレで金価格はほぼ2週ぶりの高値から上げ幅を削る
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から0.9%高でトロイオンスあたり2661ドルと2週ぶりの週間の上げとなっています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から1.2%安のトロイオンスあたり30.74ドルと週間の下落となっています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から0.8%安のトロイオンスあたり928ドルと3週連続の週間の下げとなっています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から0.1%安でトロイオンスあたり966ドルとやはり3週連続の下げとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週貴金属相場は、週明けはシリアや韓国の地政学リスクの高まりで安全資産の需要が増加し、中国が来年金融政策を緩和的へと2011年以来初めて転換するというニュースで中国の需要増期待、そして中国の中銀の人民銀行が6か月ぶりに金準備を増加させたことで金投資のセンチメントも改善して上昇で始まっていました。その後、水曜日は米消費者物価指数が予想とほぼ同水準であったことで、FRBの利下げペースが維持されるという観測でさらに上昇したものの、昨日の米卸売物価指数が予想を上回り、粘着性の高いインフレによる来年のFRBの利下げペースが遅れる懸念で、金は今週の上げ幅を削り、工業用途の高い銀、プラチナ、パラジウムは今週の上げ幅を失って下げています。
今週のチャートとしては、1969年からの金(深緑)と銀(水色)の年間平均価格の推移と、ロンドン貴金属市場協会(LBMA)が著名アナリストに行った今年の平均金(菱形)・銀(丸)価格予想のチャートをお届けします。この価格予想は昨年の12月に行われ、銀はトロイオンスあたり24.8ドル、金は2059ドルが予想されていましたが、現段階まで銀は28.2ドル、金は2377ドルと共に上回って推移しています。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、シリアや韓国などの地政学リスクの高まりと中国の2025年の金融政策の転換の発表等からも、トロイオンスあたり2676ドルと2週間ぶりの高さへ上昇後に2664ドルで終えていました。
同日は週末のシリアのアサド政権崩壊による中東の地政学リスクの高まり、韓国の大統領の出国禁止令などの政局の混迷懸念が、安全資産の金の需要を生む中で、中国政府が来年のトランプ次期政権による関税引き上げ等に対することからも、2011年来の金融緩和へ大幅に政策を転換することも発表され、中国の景気回復観測で銀がひと月ぶりの高さへ上昇し、原油も前週までの2週の下げ幅を回復する等のコモディティが上昇する中で金は押上らえていました。
また、週末には中国の中銀の人民銀行が4月以来の金準備の増加をしていた明らかとなったことも、金のセンチメントを回復させていました。
火曜日金相場は、ドルと長期金利が2週ぶりの高さへ上昇する中で、前日の上昇基調を受け継いで、トロイオンスあたり2700ドルと2週ぶりの高さへと上昇していました。
同日は、翌日米消費者物価指数が発表され市場が注目する中で、CMEのFEDWatchツールでは今月のFOMCでの利下げは88%まで上昇していることから、米利下げ観測と前日の中国の金融政策緩和転換による中国の需要の伸び、シリアなどの地政学リスクの高まりによる安全資産の需要等が背景となって上昇をしていました。
水曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数が予想と同水準であったことから、来週のFOMCでの政策金利引き下げ観測が広がり、トロイオンスあたり2700ドルの心理的節目も超えて2724ドルで終えていました。
米消費者物価指数は前月比0.3%、前年同月比2.7%と共に前回の0.2%と2.6%は上回っていたものの予想と同水準となっていました。コアにおいては、前月比0.3%と前年同月比3.3%と予想と前回と一致していました。
そこで、CMEのFEDWatchツールでは来週の0.25%の利下げ観測は94.7%まで上昇し、ドルと長期金利が前日の2週ぶりの高さから若干上昇している中で、金価格が上昇していました。
木曜日金相場は、米卸売物価指数が予想を上回ったことで、ドルと米長期金利が共に2週ぶりの高さからさらに上昇する中で、トロイオンスあたり2679ドルと早朝の高値2725ドルのひと月ぶりの高さから下げて終えていました。
同日発表された米国卸売物価指数は、前月比0.4%と予想の0.2%と前回修正値の0.3%を上回り、前年同月比でも3.0%と予想と前回修正値の2.6%を上回り、コアにおいては、前月比は0.2%と予想と同レベルで前回の0.3%から下げていたものの、前年同月比が3.4%と予想の3.2%を上回り、前回修正値と同レベルになっていました。
そこで、来週のFOMCでの0.25%の利下げの確率は前日から若干下げたものの97%ほどと確実視されていましたが、来年以降の利下げペースが落ちる観測が背景となっていました。
なお、同日の欧州中央銀行の金融政策発表では、予想通り0.25%の利下げが行われ、中銀預金金利は3%と3会合連続で利下げが行われていました。
先もまたユーロが下げて米ドルを相対的に上昇させ、欧州中銀のラガルド総裁が記者会見でそれほどハト派的でなかったことで、ユーロ債国債利回りが上昇したことも米長期金利を上昇させていた模様です。
本日金曜日金相場は、ドルと米長期金利がほぼ3週ぶりの高さへ上昇する中で、トロイオンスあたり2660ドルへと昨日早朝の高値から2.4%安と今週の上げ幅を削っています。
この背景は、本日発表された英国の月次GDPが前月に続きマイナス成長であったことで、英国ポンドが対ドル下げてドルを相対的に上昇させていることや、前日の米卸売物価指数が粘着的なインフレを示唆しており、来週のFOMCでの利下げは確実視されていますが、2025年の利下げペースの遅れが背景でもある模様です。
その他の市場のニュ―ス
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に12月3日までのデータが発表されて、FRB高官が前日ハト派的コメントを発したことで価格が上昇する中で、パラジウムを除く貴金属のネットロングポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、1.6%増で626トンと2週連続で増加してひと月ぶりの高さとなっていたこと。価格は0.7%高でトロイオンスあたり2640ドルへ上昇し、建玉は0.3%減と6週連続で3月初旬以来の低さへと減少していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、7.1%増で3671トンと前週の3月初旬以来の低さから増加していたこと。価格は前週比1.2%高で、トロイオンスあたり30.91ドルと上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、9月17日からネットロングで、34.7%増で10.8トンと9月初旬以来の低さから増加していたこと。価格は前週比2.4%高でトロイオンスあたり955ドルと前週の9月初旬以来の低さから上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、先週火曜日までに7.6%増で22.0トンと増加していたこと。価格は2.7%安でトロイオンスあたり993ドルへ下げていたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で3.4トン(0.4%)減で868.50トンと9月11日の週以来の低さへ減少して、2週間連続で減少傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに0.83トン(0.2%)増で393.28トンと2月初旬以来の高さで週間の増加傾向。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに378.39トン(2.6%)減で14,397.24トンと8月初旬以来の低さで週間の減少傾向。週間の減少量は4月半ば以来の大きさ。
- 金銀比価は、今週83台後半で始まって徐々に上げて本日86台半ばと11月末以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週1705ドルで始まり、木曜日に1770ドルと10月末の史上最高値以来の高さへ上昇し、本日1731ドルへと下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、月曜日33ドルで始まり、本日42ドルと11月末以来の高さへ上昇して終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格とのディスカウントは14.9ドルと前週の11.7ドルから幅を広めていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウント。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は43%増で11月末以来の高さ、銀は46%増でやはり11月末以来の高さ、プラチナは44%増で9月下旬以来の高さ、パラジウムは30%増で11月下旬以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は11月13日から負の相関関係で-0.45と週間ではその関係を弱めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金は12月6日から正の関係で、0.48と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は12月9日から正の関係で、0.54と関係を強めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週市場は水曜日の米国の消費者物価指数と木曜日の卸売物価指数に注目し、FRBの利下げペース観測で反応していましたが、来週はいよいよ今年最後のFOMCが火曜日と水曜日に開催され、その結果に注目し、木曜日の日本銀行とイングランド銀行の金融政策発表も重要となります。
詳細は主要経済指標(2024年12月16日~20日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年12月9日~13日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年12月16日~20日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年12月9日)中国の景気刺激策とシリアの政局混迷で金は上昇し銀は急伸
- 【金投資家インデックス】金の購入が14か月連続の利益確定の売却を上回る
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、週末シリアのアサド政権が崩壊と次期政権を率いる反体制派の動きと欧米の対応について、フランスと韓国政局の混乱について、リーブス財務相がユーロ圏財務相会合に出席して関係再構築を呼びかけたことなどが大きく伝えられています。
その様な中、トランプ次期大統領がタイムズ紙の今年の人に選ばれたことやネット上で最も検索された言葉等と年度末独特のニュースも伝えられています。そこで、ここでも毎年ご紹介している著名辞書会社が選んだ今年の言葉を紹介しましょう。
オックスフォード大学出版局は「Brain rot(脳の腐敗)」を選出し、これはソーシャルメディアなどで、低品質なオンラインコンテンツを消費しすぎることの悪影響を表す言葉とのこと。
ケンブリッジ大学は「Manifest(マニフェスト)」を選び、この言葉は古くは「何かをはっきり示す」という意味で使われていたものの、有名なパフォーマーやアスリートや起業家が彼らがゴールに達成し得たのはマニフェストしたからだと使ったことなどが要因となり、ソーシャルメディア上での利用が増えたとのこと。
Merriam-Webster’s辞書が選んだ言葉は「Polarization(分極化)」で、政治的な議論や対話の中で多く耳にする概念で、世界中で広がる社会の分裂の定義として多く使われているからとのこと。
コリンズ辞書は「Brat」を選び、イギリスの歌手Charli XCXがカマラ・ハリス副大統領をBratと呼び、大統領として支持したことは有名ですが、この言葉の定義を自信に満ち、独立心が強く、快楽主義的な態度を特徴とする人とし、これまでの手におえない子供を表す言葉の定義を広げています。
今年もまた、ソーシャルメディアで多く使われた言葉が選ばれ、そして地政学的的リスクの高まりも反映されていた2024年の言葉ですが、2025年は、より明るい世相を反映した言葉であることを祈りたいと思います。