ニュースレター(2024年11月1日)金価格は史上最高値の更新を休止して米大統領選を前に調整が行われる
週間市場ウォッチ
金曜日の弊社チャート上の午後3時の金価格は、前週金曜日のLBMAのPM金価格から0.6%高でトロイオンスあたり2747ドルと、金曜日のLBMA価格としては再び史上最高値をつけて、週間で上昇しています。この間本日の午後12時の弊社チャート上の銀価格は、前週金曜日のLBMA銀価格(午後12時)から1.1%安のトロイオンスあたり32.80ドルと、2週ぶりに下げています。金曜日の弊社チャート上の午後2時のプラチナ価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMプラチナ価格(午後2時)から1.4%安のトロイオンスあたり1004ドルと2週ぶりの下げで前週の7月半ば以来の高値から下げています。また弊社チャート上の午後2時のパラジウム価格は、前週金曜日のLBMA価格のPMパラジウム価格(午後2時)から3.6%安でトロイオンスあたり1133ドルと前週の年初来の高値から下げています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、週初めに3営業日連続で史上最高値をつけた後に、調整もあり上げ幅を削って終える傾向となっています。しかし、世界指標ベースでは金曜日の最高値をつける等、来週の米大統領選の不透明感、またトランプ氏もしくはハリス氏のどちらの候補者が勝利しても米国の公的債務は急増すると予想されており、これらの懸念による安全資産需要は金のサポートとなっています。そこで、本来負の相対関係にある米国ドルと米長期金利が上昇する中で、金が上昇を続けています。そこで、本日のチャートはドルとドル建て金価格のチャートをお届けしましょう。
このチャートで見られるように、2014年から米の量的緩和が縮小されることで、ドルが強含み金が下落をするなど、この2つの資産はほぼ逆方向に動いています。それが、今月に入りほぼ同じ方向に動いていることが見られていますが、この2つの資産の相関関係が正で0.9を超える(正の相関関係が1の場合はほぼ完ぺきに同じ方向に動く)のはこのチャートで表されている2013年以来初の現象が見られています。
この間銀は週初めの上げ幅を削って2週ぶりの低さへ下げ、プラチナも2週ぶり、パラジウムは前週の上げ幅をほぼ5割がた失って下げています。これは、金の安全資産の需要が無い工業用貴金属であることが背景と考えられます。
今週の金相場の動きと背景について
月曜日は市場明けと共にドル高もあり押し下げられた金価格でしたが、その後上昇に転じ、ほぼその下げ幅を取り戻して、ドル建てで世界指標ベースで再び史上最高値を更新し、トロイオンスあたり2746ドルで終えていました。
同日は、日本の選挙結果で連立政権が過半数をとれなかったことで日本円が対ドル下げて相対的にドルが上昇し、また週末のイスラエルによるイランの攻撃はエネルギー施設を避けたことで地政学リスクが若干後退し、中国の金需要が伸びていないデータなどからも金を押し下げていましたが、来週の米大統領選に絡む政治リスク等もあり前週も見られたように下げで買いが入り上昇に転じることとなりました。
火曜日金相場はロンドン昼過ぎに発表された米9月雇用動態調査(JOLTS)求人数が2021年1月以来の低さであったことからも若干一時下げたものの、その後上昇に転じてトロイオンスあたり2779ドルと更なる新高値を付けて終えていました。
この間米実質金利は7月末以来の高さで2%を超えて、本来金利を生まない金がそのような中で堅固な動きをしているのは、来週の米大統領選で、トランプ氏が勝利することによる更なる債務拡大懸念が背景となっていた模様です。
水曜日金相場は、良好な米雇用関連データが発表される中で、取引時間内で再び史上最高値のトロイオンスあたり2789ドルを更新していました。
同日発表されたADP全国雇用者数は、23.3万人と前回修正値の15.9万人と前回の11.4万人を上回っていました。しかし、米第3四半期GDPは2.8%と前回と予想の3.0%を下回り、そして同四半期のインフレ率(コアPCE)は2.2%と予想の2.1%を上回ったものの、前回の2.8%から下げていました。
そこで、FRBによる利下げペースは年内2回とほぼ変わりないものが予想されていましたが、来週の米大統領選でトランプ氏が勝利した場合のさらなる公的債務増加懸念は、引き続き金のサポートとなり、米ドルと米長期金利が高止まりとなる中で、金が堅固に高値更新を続けていました。
なお、同日も日本円(gあたり13746円)を含む主要通貨で最高値が更新されていました。
木曜日金相場は米インフレデータが予想を上回り、新規失業保険申請件数が予想を下回るという、FRBの利下げペースが遅れる内容、そして来週の米大統領選を前に米国債市場のボラティリティが高まっていることからも株価が下げる中で、一時トロイオンスあたり2740ドルと今週の上げ幅を失って2745ドルで終えていました。
同日発表されたFRBがインフレ指標として注目する個人消費支出PCEコア・デフレーターは前月比0.3%と前回修正値の0.2%を上回り、前年同月比は2.7%と前回同様で予想の2.6%を上回っていました。そして、新規失業保険申請件数は21.6万件と予想と前回修正値をともに下回り3週連続で減少と、米国の経済の堅固さを示すものとなっていました。
しかし、金価格は月間では米ドル建てで4.0%高、英国ポンド建てで8.0%高、ユーロ建てで6.9%高、日本円建てで10.9%高と強いものとなっていますので、同日は今月の上げの調整も入っていた模様です。
本日金曜日金相場は、米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は予想を大きく下回ったものの、この反応は限定的でトロイオンスあたり2762ドルへ上昇後は2747ドルまで下げて、ほぼ前週終値の水準で推移しています。
非農業部門雇用者数は前月比1.2万人と予想の11.3万人と前回修正値の22.3万人を大きく下回り、コロナ禍最中の2020年12月以来の低い水準でしたが、失業率が4.1%と前回と予想と変わらず、平均時給は前月比は0.4%と前回修正値と予想の0.3%を上回り、前年同月比も4.0%と前回修正値の3.9%を上回っていました。
また、ISM製造業景況指数は46.5と予想の47.6と前回の47.2を下回っていましたが、若干であったことからも、非農業部門雇用者数は先月のハリケーンの影響という理解で、FRBの利下げペース観測を変えるものではないという判断となった模様で、ドルと長期金利が若干上昇していることが金の頭を抑えている模様です。
その他の市場のニュ―ス
- 今週ワールドゴールドカウンシルが第3四半期の金需給レポートを発表し、需要は前年同四半期比5%増で1313トンで、評価額では35%増で、1000億ドルを超えたことが明らかとなっていたこと。需要の詳細は「2024年第3四半期金需給レポート:中央銀行の需要が半減し、報告されていない金需要が価格を記録的水準へ押し上げる」を参照。
- コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週末に10月22日までの一週間のデータが発表され、金価格が地政学リスクと政治リスクもあり5営業日連続で最高値を更新する中で、全ての貴金属でロングポジションが増加していたこと。
- コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットポジションは、3%増で753トンと2週連続で増加して10月1日以来の高さへ増加していたこと。価格は3.3%高でトロイオンスあたり2736ドルと上昇していたこと。建玉は8.7%増と2週連続で増加して9月末以来の高さへ増加していたこと。
- コメックス銀の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、33%増で7365トンと2週連続で増加して3月中旬以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比10.5%高で、トロイオンスあたり34.43ドルと12年ぶりの高さへ上昇していたこと。
- コメックスのプラチナ先物・オプションのネットポジションは、9月17日からネットロングで、49%増で39トンと2021年2月以来の高さへ増加していたこと。価格は前週比3.8%高でトロイオンスあたり1016ドルと5月末以来の高さへ2週連続で上昇していたこと。
- コメックスのパラジウム先物・オプションは2022年10月半ばからネットショートで、22%減で17トンと2週連続で減少して2023年5月末以来の低さへ下げていたこと。価格は6.6%高でトロイオンスあたり1077ドルと1月初旬以来の高さへ上昇していたこと。
- 金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに週間で2.0トン(0.2%)増で891.79トンと昨年8月半ば以来の高い水準で、5週連続の週間の増加傾向。月間においても19.85トン(2.3%)増で4か月連続の増加傾向。
- 金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに週間で全く変化が無いものの379.72トンと8月6日以来の高さで、前週の10週連続の週間の増加を維持していること。
- 銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに99.59トン(0.6%)増で14,966.66トンと昨年2月末以来の高さで4週連続で週間の増加傾向。
- 金銀比価は、今週81台後半で始まり、火曜日に80台半ばに下げたものの、その後上昇して本日金曜日に83台後半で終える傾向。2023年の年間の平均は83.27。5年平均は82.71。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。)
- プラチナの金と差であるプラチナディスカウントは、今週水曜日と木曜日に1990年3月に世界指標が発表されて以来の史上最高値を更新して木曜日に1774ドルまで上昇後に、1757ドルまで下げて終える傾向。2023年の平均は975で、5年平均は787ドル。
- プラチナとパラジウムの差は9月10日から再びディスカウントへ転換し、今週182ドルのディスカウントで始まったものの、本日125ドルまで下げて終える傾向。2023年平均ディスカウントは371ドルで、2022年ウクライナ戦争でパラジウム価格が高騰していた前年1153ドルから急落。5年平均は924のディスカウント。
- 上海黄金交易所(SGE)は、週間のロンドン価格とのディスカウントはほぼ16ドルと10月半ば以来の高さへと上げていたこと。上海黄金交易所とロンドン金価格の差は今年8月19日からディスカウント。2023年平均は29ドルのプリミアムと2022年の平均の11ドルから大きく上昇。これは需要増もあるものの、中国中銀による輸入許可が制限されていることも要因。(ロンドン価格と上海価格の差:プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)コロナ禍を含む過去5年間の平均は5.6ドル。
- コメックスの先物・オプションの週間の平均取引量は、今週木曜日までの週の平均は前週比で、金は14%増で9月末以来の高さ、銀は18%減で前週の6月末以来の高さから下げ、プラチナは10%減で前週の9月末以来の高さから下げ、パラジウムは10%増で9月半ば以来の高さとなっていたこと。
- 金と実質金利(米10年物物価連動債)の相関関係は10月7日から正の相関関係で0.87と週間ではその関係を強めていたこと。(負の相関関係は-1の場合二つが全く相反する動きをすることを示す。)ドルインデックスと金も10月7日から正の関係へ転換し、0.92と前週から関係を強めていたこと。S&P500種と金の相関関係は8月6日から正の関係で、前週から0.36と関係を弱めていたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標。
今週貴金属市場は米国の雇用データ関係とFRBが注目するインフレデータに注目する中、来週の米大統領選を前に堅固に動いていましたが、昨日から調整の下げを見ることとなりました。
来週は火曜日が米大統領選、木曜日にFOMCとイングランド銀行の金融政策発表が行われ、重要イベントが続くこととなります。
詳細は主要経済指標(2024年11月4日~8日)ご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
- 主要経済指標(2024年10月28日~11月1日)今週の結果をまとめています。
- 主要経済指標(2024年11月4日~8日)来週の予定をまとめています。
- 金価格ディリーレポート(2024年10月28日)金価格は中国需要減の中でも世界指標ベースで史上最高値を更新
- 2024年第3四半期金需給レポート:中央銀行の需要が半減し、報告されていない金需要が価格を記録的水準へ押し上げる
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、今週水曜日に発表された英国労働党新政権の予算案についてが大きく伝えられ、その後は来週行われる米大統領選、スペインのバレンシアを襲った洪水の被害、そして中東の紛争とウクライナ戦争についてが引き続き伝えられています。
そこで、本日は英国の新政権が発表した予算案について簡単にまとめてみましょう。
今週発表された予算案は、今年7月の総選挙で14年ぶりに政権を奪回した労働党の初予算案であり、事前に内容が意図的に漏れていましたが、英国史上2番目の大きさの400億ポンド(約8兆円)の増税を含んでいたことから、昨日は英長期金利が1年ぶりの高さに急騰するなどと市場が反応していました。
英国初の女性の財務相であるレイチェル・リーヴス氏は、就任当時から投資をすることで経済成長を促進するという労働党の公約を果たすことに言及していましたが、労働党の公約であった、個人所得税と国民保険料(National Insurance)と付加価値税(VAT)と法人税は引き上げないとしていたために、投資の財源をどのように得るのかが注目されていました。
結果的に、財源の大部分の250億ポンドは雇用者負担の国民保険料の引き上げで行うこととなり、公約としていた国民保険料は据え置くことは、従業員負担分が据え置かれたと説明していました。
英国の経済成長を推し進めるための今回の予算案の主に支出増加が見込まれているのは、保健、教育、交通の分野で、特にNHSに対しては、現場に220億ポンド、設備や建物に30億ポンドと、2010年以降で最大の予算がついています。
野党となった保守党はは、今回の予算案が経済成長を生まないどころか「妨害している」と批判していますが、金融監督機関の予算責任局(OBR)も、今回の予算案ではほぼ国民総生産は変わらないとしています。
また、主要な企業団体は今回の予算案は企業にとって厳しいもので、投資能力を損なうものと指摘しています。
世界金融危機、そしてコロナ危機を経て、英国の公的債務は増加を続け、調査開始以来初めて8月にGDP比100%を超えています。
この解決に向けて、これまで緊縮財政を行ってきた保守党とは異なり、新政権は経済成長を促すことで対応するという明確な道のりを今回の予算案で示したようです。
英国のインフラストラクチャーは確かに疲弊しており、これに真剣に着手しようとするスタンスは理解できますが、公的債務が肥大化する観測が引き起こす長期金利の上昇がコントロールできないものとならないことを祈るばかりです。