ニュースレター(2022年8月5日)リセッションへの懸念で良好な米雇用統計後も金は3週連続の上昇を記録
週間市場ウォッチ
今週水曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1774ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.2%高と、3週連続の週間の上昇で1月ぶり高さへ上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格は前週のLBMA価格(午後12時)からほぼ横ばいでトロイオンスあたり20.07ドルとなっていました。プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では前週金曜日のLBMAのPM価格から4.7%高のトロイオンスあたり930ドルと3週連続の上昇で5週ぶりの高さとなっています。パラジウム価格は、前週のLBMAパラジウムPM価格と比較して、本日午後2時の弊社チャート上での価格は0.6%高のトロイオンスあたり2105ドルと3週連続の上昇でほぼ3週ぶりの高さとなっています。
今週の金・銀・プラチナ・パラジウム相場の動きの概要
今週金相場は、本日の米雇用統計を待つ中で、主要経済指標の悪化などからも米国の長短金利の逆転が進んでリセッションへの懸念が高まる中でFRBの利上げペースが緩む観測も広がり、ひと月ぶりの高さへ上昇をしていました。
しかし本日の米雇用統計が予想を大きく上回ったことから、利上げペースが緩む観測が一気に後退して長期金利が上昇したことで金は上げ幅を縮めることとなりました。
しかし、速いペースの利上げや高インフレによるリセッションへの懸念は高まって、長短金利の逆転幅は広がっており、金の安全資産としての需要からも、工業用途需要が6割を占める銀とは異なる堅固さも見せています。
ちなみに、今週ドルは対主要通貨で上昇しており、これらの通貨建ての金相場は、円建てでほぼ2%高のgあたり7698円、英国ポンド建てで1.5%高のトロイオンスあたり1473ポンドとドル建て金相場を上回る上げ幅を見せています。
なお、今年に入って先月24年ぶりの円安をつけた背景には、主要中央銀行の政策金利が高インフレに対するために速いペースで上昇する中で、日本銀行が頑なに低金利政策を継続していることがあります。
今週はイングランド銀行が27年ぶりに0.5%という大幅な利上げもしていますので、主要中央銀行の政策金利の動きを今週のチャートとして今週はお届けしましょう。ここで、日銀以外の主要中央銀行の政策金利が今年に入り大きく上昇していることがご覧いただけます。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金価格はドルと長期金利が下げる中で、前週の上昇幅を広げて、4週ぶりの高さのトロイオンスあたり1772ドルをつけて終えていました。
ドルの下げは、イールドカーブの逆転幅が広がっていることからもリセッションへの懸念からFRBの利上げペースが緩む観測が広がっていた模様でした。
また、先週金曜日には金のETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアが6月17日以来初めて少ないながらも増加に転じ、5週連続の週間の下げを止めたことからも、センチメントの変化が若干感じられていました。
火曜日金相場は、ドルと長期金利が4日ぶりに上昇に転じる中で、一時トロイオンスあたり1778ドルとひと月ぶりの高さまで上昇した後に、1756ドルで終えていました。
同日はペロシ米下院議長の台湾訪問で中国軍が台湾周辺で実弾射撃を含む演習を開始するなど米中間の緊張が高まっていた事から、安全資産として金は買われたものの、ニューヨーク時間でFRB高官のタカ派的コメントで米ドル、長期金利が更に上昇する中で、金は押し下げられることとなりました。
このFRBのコメントは、高インフレを懸念し、金融引締めを続ける姿勢を再度明らかとするものであったことで、今年年末に利上げがピークに達し、来年春には利下げがあるという市場観測が後退したことからでした。
水曜日日金相場は、長期金利とドルが上昇する中で、前日終値を多少上回る水準のトロイオンスあたり1763ドルで終えていました。
この背景は主要経済指標の米ISM非製造業景況指数が予想を上回り4ヶ月ぶりの上昇であったこと、そして前日に続きFRB高官(セントルイス連銀ブラード総裁)が「利上げの前倒しを指示している」と高インフレとの闘いからも引き続き大幅な利上げを継続することを支持したことからでした。
しかし、前日にFRB高官の発言で米10年物国債と3ヶ月国債の利回りが一時的に逆転するなど、市場の近い将来のリセンションへの懸念は高まりつつあったこと、そしてリッチモンド連銀のバーキン総裁はインフレ抑制の家庭で景気後退が起こる可能性がある」ともコメントし、金のサポートともなっていたようでした。
木曜日金相場は、長期金利とドルが弱含む中で、トロイオンスあたり1793ドルとひと月ぶりの高さへと上昇して終えていました。
同日はイングランド銀行が政策金利発表を行い、6会合連続で利上げ、しかも27年ぶりの通常の倍の0.5%の引き上げをし、主要中央銀行では初めて量的緩和で買い入れた国債の売却を9月中に行うことも発表し、英国ポンドが多ドル強含んだこともドルを押し下げていました。
そして、同日発表されたインフレ予想と経済先行きは共にこれまでの予想から更に悪化しており、今年第4四半期にはリセッションに入ることを予想するなど、安全資産の需要を高める内容となっていました。
また、同日発表された新規失業保険申請件数は昨年11月以来の高い水準を維持しており、米国債の長短金利の逆転は続いて、2000年以来の幅へと広がっていることも、金の需要を高めていました。
本日金曜日金相場は、市場注目の米雇用統計が予想を上回る良好なものであったことからも、長短金利が急騰し、トロイオンスあたり1773ドル前後まで下げて、前日の上げ幅を削って推移しています。
この米雇用統計では、非農業部門雇用者数は52.8万人と予想の25万人と前月修正値の39.8万人を上回り、失業率も前回と予想の3.6%を下回る3.5%となっていました。
そして、平均時給は前月比0.5%と前回修正値の0.4%と予想の0.3%を上回り、前年同月比は5.2%と前回修正値5.2%と同水準、予想の4.9%を上回り、賃金インフレは続いていることが明らかとなっていました。
そこで、FRBによる大幅利上げの継続観測が一気に高まり、長短金利それぞれ13と15べーシスポイント急騰したことが金の頭を抑えているようですが、そのような中で堅固な動きをしているとも言えるでしょう。
その他の市場のニュ―ス
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スイスがロシア産金地金と金製品の購入、輸入、輸送を禁止したこと。 -
コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、先週26日火曜日に翌日のFOMCでの結果を待つ中で、金と銀は5週連続で弱気ポジションを増加させ、プラチナとパラジウムは弱気ポジションを減少させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションのネットポジションは前週2019年4月23日の週以来のネットショートを継続し、7.8%増の32.6トンとなっていたこと。この間LBMA PM金価格は前々週比0.41%高。建玉においては、前週比8.1%減。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットポジションは、4週連続でネットショートで29.7%増の2,720トンと、2019年6月4日の週以来の大きさとなっていたこと。この間LBMA銀価格は1.9%安と2020年7月以来の低さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、7週連続のネットショートで、そのポジションは5.6%減の25.2トン。LBMA PMプラチナ価格は0.9%高で4週ぶりの高さへ上昇していたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは3月29日の週以来ネットショートで、14.2%減の7.2トンであったこと。この間LBMA PM価格は5.8%高。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までに5.5トン(0.6%)減で1000トンと1月20日以来の低さで、前週週間の減少を止めていたものの、再び週間の減少傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までに2.29トン(0.46%)減で499トンと、2月28日の週以来の低さで、10週連続の残高減少傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに63.92トン(0.42%)増の15,107トンと、12週ぶりに増加傾向となっていること。 -
金銀比価は、今週87を切る一月を超える低い水準で始まり、本日は89台で終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消されたこととなる。) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週847ドルと875ドルの間を推移していること。2021年平均は708.82ドルで5年平均は564.76ドル。 -
プラチナとパラジウムの差であるディスカウントは、今週火曜日ニ7月半ば以来の高さの1200ドルを超える水準へ上昇した後に1200ドルを割って推移していること。ロシアが世界の4割を供給することからもロシアのウクライナ侵攻で2000ドルを超えてディスカウントが上昇。年初は1000ドルほど。 -
上海黄金交易所(SGE)の週平均は、前週の10ヶ月ぶりの高い水準の9.70ドルのプレミアムから今週は8.59ドルへさげていること。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドル。 -
コメックスの先物・オプションの取引量は、今週は昨日のイングランド銀行の金融政策発表で多少増加したものの、金と銀は夏枯れ市場の水準となって週間で前週比金が27%減、銀が7%減。今週価格が上昇しているプラチナは26%増、価格のボラティリティが出ているパラジウムは42%%増。
来週の主要イベント及び主要経済指標
イングランド銀行の利上げ及び量的緩和縮小のニュースで市場が動き、明日の米雇用統計が注目されますが、来週も主要銀行の金融政策に影響を与える経済指標等が注目されることとなります。
そこで、水曜日の中国の消費者および生産者物価指数、米国の消費者物価指数、木曜日の米卸売物価指数、金曜日の英国GDPと米国ミシガン大学消費者態度指数等となります。
詳細は主要経済指標(2022年8月8日~12日)でご覧ください。
ブリオンボールトニュース
ブリオンボールトは5月20日から大英図書館で行われている「金(Gold)」のエキジビションのスポンサーをさせていただいています。ご興味があれば下記のリンクでご覧ください。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年8月1日~5日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年8月8日~12日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーレポート(2022年8月1日)中央銀行の利上げペース緩和観測の広がりで米ドルが下落し金価格は上げ幅を拡大 -
【金投資家インデックス」価格の急落で金投資が急増
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、前週末のサッカーの欧州選手権女子でイングランドチームが優勝したこと、次期首相を決める保守党党首選について、昨日のイングランド銀行の金融政策関連、そして、イギリス連邦に属する国や地域が参加して行われるスポーツの大会であるコモンウェルスゲームズについて大きく伝えられています。
そこで、今週はこのコモンウェルスゲームについてお伝えしましょう。
コモンウェルスとはイギリス連邦に属する国や地域を意味し、ここの代表が集う大会が4年に一度開催されて、オリンピック競技に加えて、英連邦諸国で盛んなローンボウルズや7人制ラグビー、ネットボールなども含めた20競技280種目が行われています。
本来この大会は南アフリカのダーバンで行われる予定でしたが、治安の悪化からも、イギリスのバーミンガムで開催されることとなっていました。そこでイングランドでの開催は1934年のロンドン、2002年のマンチェスターに続いて3度目とのこと。
英国は北アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランドがそれぞれ独立して参加しており、金メダル授与式で流れる国歌も英国国歌の「God Save the Queen(神よ女王陛下を守り給え)」ではなく、北アイルランドは「ダニーボーイ」として知られている「Londonderry Air」という曲で、スコットランドは「Flower of Scotland」、ウェールズは「Land of My Father」、イングランドは著名な聖歌の「Jerusalem」となっています。
そこで、オリンピック同様にメダル獲得数による国別ランクが日々発表されていますが、週末に閉会する大会の本日までのトップはオーストラリアの133で、イングランドが120と2位、しかしスコットランド、ウェールズ、北アイルランドを加えると182と、明らかに1位になれるのですが、地域別に戦うことが伝統であり、このように地域を代表して戦える機会があることを選手たちも喜んでいるようです。
ちなみにイギリス連邦は正式には56カ国とのことですが、独立した地域も含めて72のチームが今回の大会には参加しています。
そして今大会はこれまで最多の8つのPara-sports(障がい者スポーツ)、陸上、自転車、水泳、トライアスロン、卓球、バスケットボール、ローンボウリング、パワーリフティングも行われ、より包括的な大会となっています。
先週末のイングランド女子サッカーチームも含めて、スポーツ選手が全力を尽くす中で生まれるドラマに感動する日々を過ごしていますが、コモンウェルスゲームズの最終日までの数日間を楽しみたいと思います。