ニュースレター(2022年2月11日)40年来の高い米消費者物価指数を経て、金は2週ぶりの高さへ上昇
週間市場ウォッチ
今週金曜日午後3時の弊社チャート上の金価格はトロイオンスあたり1832ドルと、前週金曜日のLBMA価格のPM価格(午後3時)から1.5%高と、2週ぶりの高さへと上昇しています。この間銀価格は、本日12時のチャート上の価格はトロイオンスあたり22.90ドルと、前週のLBMA価格(午後12時)から1.8%高と2週ぶりの高さへ上昇しています。そして、プラチナは本日午後2時の弊社チャート上では1025ドルで0.9%高となっています。
今週の金・銀・プラチナ相場の動きの概要
今週貴金属は、木曜日の米消費者物価指数の発表を待つ中緩やかに上昇し、消費者物価指数が7.5%と予想以上の高さで40年ぶりとなったことで、米長期金利が2019年以来の高さへと上昇する中で、神経質な動きをしたものの週間での上昇で終える傾向となっています。
前週お伝えしたように、貴金属相場は、直近でインフレ、より速いペースのFRBを含む主要中央銀行の利上げ及び量的緩和縮小観測、実質金利の動きなどで動いています。
しかし、今週は米消費者物価が予想を超えた数値で米長期金利と実質金利が上昇したにもかかわらず、2週連続の上昇傾向となっています。
これは、1月末のタカ派的FOMC後、コメックスの資金運用業者のネットロングが半減したように、弱いロング(短期的利益目的の投機家等)ポジションが削ぎ落とされた後に、中央銀行の利上げは価格に織り込まれる中で、高インフレへの懸念、株式市場のボラティリティーが高まっていること、そしてウクライナ情勢は緊張を高めており、リスク分散の需要で金及び銀が購入されていることが背景であるようです。
そこで、前週速いペースの利上げ観測が急激に高まる中で売却されて減少していた金ETF残高が、今週に入り増加に転じるなど、そのセンチメントの変化が見えています。
下記に前週火曜日までのコメックスの資金運用業者のネットロングの動きを示すチャートを添付します。ここで、FOMC前に2ヶ月ぶりの高さへ増加していたネットロングが、FOMC後半減して2021年9月の水準まで減少し、弱いロングが振り落とされていたことが見ることができます。
日々の金相場の動きと背景について
月曜日金相場は、長期金利が先週達した2年ぶりの高さを維持する中で、トロイオンスあたり1820ドルへと、ほぼ昨年末の水準へと上昇していました。
この背景として、実質利回りが2020年6月の水準へ上昇していたものの引き続きマイナスであること、そして株式市場のボラティリティーの高さによるポートフォリオのリスク分散の役割としての需要が高まっていたことが多くのアナリストによって指摘されていました。
火曜日金相場は米長期金利とドル指数が上昇する中で、トロイオンスあたり1825ドルとタカ派的FOMCの内容で急落した際以来の、ほぼ2週間ぶりの高さへ上昇していました。
長期金利の上昇は、今週木曜日に発表される米消費者物価指数が、事前予想のように30年ぶりの高さの7%(前年同月比)となる観測で国債が売られていたことからでした。
水曜日金相場は、米長期金利とドルインデックスがそれぞれ2年半と1年半ぶりの高さから多少ながら下げる中で、トロイオンスあたり1832ドルへと前週終値比1.4%高で2週ぶりの高さへと上昇していました。
同日の動きは、翌日の消費者物価指数発表を前に高い数値の予想からも、今後のよりタカ派的FRBの金融政策を折り込みながら、米長期国債が急激に売られていたことへの調整が入っていたことからでした。
また、前日サンフランシスコ連銀のデーリー総裁が「インフレは良くなる前に一層悪くなる」とCNNのインタビューで答えたことも伝えられていたことで、抑制の効かないインフレ懸念は金をサポートすることとなりました。
木曜日金相場は、市場注目の米消費者物価指数発表後、長期金利が2019年8月以来の高さの2%を超えたことでトロイオンスあたり15ドル下げたものの、その後下げ幅を取り戻し1841ドルへ上昇していました。しかし、ニューヨーク時間に長期金利が2.05%また更に上げたことで押し下げられて1826ドルで終えていました。
米消費者物価指数は7.5%と予想の7.3%を上回って、コアにおいては40年ぶりの速いペースの上昇となっていました。
また、同日セントルイス連銀のブラード総裁が「7月1日までに1.00%の利上げを支持する」と述べたことが伝えられ、FRBによる金利引き上げベース加速観測が更に広がり、米国債が売られ長期金利が上昇することとなりました。
本日金曜日金相場は、トロイオンスあたり1840ドルと前日終値比0.8%高でロンドン時間夕方に推移しています。
これは、前日株とともに国債も大きく売られて2年半ぶりの高さへ上昇していた長期金利が、高止まりながら上昇ペースを緩めていることが背景の模様です。
この要因として、本日「現時点で0.5%の利上げの必要性は感じない」と、バーキン・リッチモンド連銀総裁が述べるなど、金融引き締め加速に慎重な複数のFRB高官の発言が伝わり、行き過ぎた利上げペース加速観測が、多少後退している模様です。
また、昨夜バイデン大統領がウクライナに在住する米国人に退避を求めたことが伝えられており、ウクライナ情勢の緊張が高まっていることも指摘されています。
その他の市場のニュ―ス
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コメックスの貴金属先物・オプションの資金運用業者のポジションは、前週FOMC後の1日火曜日までの週で、金と銀で強気ポジションを減少させ、プラチナとパラジウムで強気ポジションを増加させていたこと。 -
コメックス金の先物・オプションの資金運用業者のネットロングポジションは、47%減の195トンと9月28日の週以来の低さへ下げていたこと。この間、金価格は前々週比2.57%安。建玉においては、前週比11.9%減と10月19日の週以来の低さ。 -
コメックス銀の先物・オプションのネットロングポジションは、FOMC後3.3%価格が下げる中で、57.8%減で1,800トンと6週ぶりの低さとなっていたこと。 -
コメックスのプラチナ先物・オプションは、前週プラチナ価格が2.4%前々週比上昇していた際に、2週連続でネットロングで、22%増の15トンとなっていたこと。 -
コメックスのパラジウム先物・オプションのネットポジションは21週連続でネットショートであったものの、87%減の0.6トンと、9月7日以来の週以来の低さとなっていたこと。この間パラジウム価格は9.7%の上昇を記録。 -
金ETFの最大銘柄のSPDRゴールドシェアの残高は、今週木曜日までの週間で4.4トン(0.43%)増で1,016トンと、週間の増加傾向であること。 -
金ETFの第2の規模のiShare Gold Trustの残高は、今週木曜日までの週間で4.2トン(0.86%)増で493トンと、2週連続の減少後週間の増加傾向であること。 -
銀のETFとして最大銘柄のiShares Silver Trustの残高は、今週木曜日までに167トン(1%)増の16,938トンと、3週連続の増加傾向であること。 -
金銀比価は、79台で始まり78台まで下げたものの、本日79へ戻して終える傾向。2021年平均は71.83で、5年平均は80.35。(数値が高いと銀の割安傾向で、低いと銀割安傾向が解消) -
プラチナの金とのディスカウント(金との差)は、今週797で始まり、800を超えたものの、795台で終える傾向。2021年平均は708.82で5年平均は564.76。 -
上海黄金交易所(SGE)の価格はロンドン価格に対して今週プレミアムで、人民元が対ドル弱含み、人民元建て金価格が6営業日ぶりの高さへ上昇する中で、週間の平均が4.55と春節の休暇の前の5.75ドルから下げていたこと。(ロンドン価格と上海価格の差 - プレミアムは中国での需要の高さ、ディスカウントは需要の低さを示す)昨年平均は4.94ドル。コロナ禍で特殊な動きをした2020年を除く5年平均は9ドルのプレミアム。 -
コメックスの金、銀、プラチナの先物・オプションの取引量は、昨日の米消費者物価指数後の価格のボラティリティーの高さで急増していたことからも、取引量が価格がレンジ内で推移して低かった前週に比べてそれぞれ13%、56%、2%と増加していたこと。
来週の主要イベント及び主要経済指標
今週は米消費者物価指数が注目指標でしたが、来週の重要指標は水曜日のFOMC議事録要旨で、今後の利上げを含む量的緩和縮小スケジュール予想のためにも重要となります。
その他、火曜日には米卸売物価指数、水曜日には中国と英国の消費者物価指数が発表され、これらも重要指標となります。
詳細は主要経済指標(2022年2月14日~18日)をご覧ください。
ブリオンボールトニュース
今週金が上昇をしていたことを伝え、解説する米主要経済サイトのMarketWatchの記事で弊社リサーチダィレクターのエイドリアン・アッシュのコメントが取り上げられました。
ここでエィドリアンは「FRBは明らかにインフレ上昇ペースに遅れをとっており、金の上昇は、市場がFRBがインフレを制御できない、もしくはインフレを制御するための政策が経済を冷え込ませることへのリスクヘッジとして購入していることを示唆している」と述べています。
今週の市場分析及び投資ガイドページには下記の記事が掲載されました。
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主要経済指標(2022年2月7日~13日)今週の結果をまとめています。 -
主要経済指標(2022年2月14日~18日)来週の予定をまとめています。 -
金価格ディリーニュース(2022年2月7日)長期金利が更に上げ、株価のボラティリティが増す中で、金価格は上昇 -
金投資需要は2015年の価格低下時以来の弱さへ
なお、弊社のYouTubeチャンネルでは、日々の弊社の金価格ディリーレポート(英文)を音声でもお届けしています。よろしければ、こちらも購読ください。
ロンドン便り
今週英国では、引き続きジョンソン首相のパーティーゲイト(コロナ禍でロックダウン中に禁止されていたパーティを行っていたという疑惑)やそれに絡む失言、ロンドン警視庁のトップのディック警視総監の辞任、ウクライナ情勢、そして北京で行われている冬季オリンピック等が大きく伝えられています。
このところ、政治関連の暗くなるニュースが多いので、北京オリンピックに絡んで、英国の冬季オリンピックの過去のデータや、どのような種目がこちらでは注目されているのか等をお伝えしましょう。
英国は冬季オリンピックでのメダル獲得数は、1924年のシャモニーから2018年の平昌オリンピックまでで、金11個、銀4個、同17個で計32個、獲得メダル数の世界ランキングでは19位と、1896年から2020年までの夏季オリンピックで計918個、世界ランキング3位と比べると大幅に少ないことが分かります。
ちなみに日本は、冬季オリンピックにおいて1924年、1948年は不参加でありながら、金14個、銀22個、同22個で計58個で17位と英国を上回っています。
北京オリンピックでのメダル獲得数は本日金曜日の段階で日本が8個に対し、英国は0と残念な結果となっています。
そこで、自国の選手での盛り上がりはかなり少なく、フィギアスケートの団体のメダル授与式が延期されたこと含む、他の国の選手に関する話題が中心となっています。
なお、注目されている種目は過去数回の冬季オリンピックで英国選手が良い結果を出しているカーリング、頭を前にして腹ばいにそりに乗って滑るスケルトン等、そして英国選手のメダル獲得は期待されていないものの人気があるのはフィギアスケート、スノーボードやフリースタイルスキー、そして冬の陸上競技に近いスピードスケートやダウンヒルスキーなどのようです。
個人的には英国選手はもちろん日本選手の活躍を見たいところですが、時差の関係で夜中の放送であること、また英国で放送される種目が必ずしも日本選手が活躍する種目でないなど、見ることが簡単ではありません。
今回は、ドーピングやスキージャンプの規定違反等が、スポーツの醍醐味以上に大きくニュースで伝えられているのは残念な限りです。
そのような中でも、残り一週間強の20日までの大会で、全ての選手が、このような一生に何度とはない機会を楽しんで自分の力を十分に出せることを心から祈るばかりです。